女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

301 暖かく見守られています

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2015. 12. 13
********************************************

一週間。

それが今回のタイムリミットだ。クレアにはこの後、ヒュースリー伯爵領へ向かってもらう事になる。

「封筒の中に地図もあったでしょ?」
「あぁ、これだね。何だか、普通の村だよ?」

地図に印される場所は、小さな村。長く旅を続けて来たクレアも立ち寄った事はないが、隠れ里としてはお粗末だ。

「そこは、案内人の村だから。審査とかも受ける受け付けみたいな所だって」
「なるほど。それでこの人にコレを見せる……そういうことかい」

チケットの裏には、担当者の名前が書いてあるらしい。

「ママさん達には明日出発してもらって、クレアママは一週間後に私が送り届けるよ。ここから丁度一週間くらいの道のりになるから」

国境を抜けて山を二つ程越えなくなてはならない道のりだ。だが、旅慣れしているクレア達には苦にもならない距離だろう。

「いいのかねぇ。こんな贅沢……」
「いいの。リフレッシュ休暇は人生に必要な要素だよ」
「休みも必要ってやつだね。それじゃぁ、荷物をまとめるよ」
「うん」

クレアは、部屋の片隅で楽しそうにパーティ戦や仲間との付き合い方についてのレクチャーをするメンバーに目を向け、中央で真剣に話を聞くルクスへとその視線を移す。

そんな様子を見ていたティアは、優しい母親の顔を浮かべるクレアと、見守られるルクスを少し羨ましく思ったのだった。

◆◆◆◆◆

クレアが荷物をまとめたり、女達へと今後の予定を話したりと、いつの間にか夕陽へと変わる時間になっていた。

「それじゃぁ、一週間後にね」
「オッケー。待ってるねクレア」
「ダメな男は、しっかりと尻を叩いてやんないとね」
「優しさだけでもダメだって教えてやって」
「あいよ。任せときな」
「「……」 」

話の折、伯爵家の事情を説明したのだが、女達はなぜかフィスタークをダメ夫と認定したようだ。

クレアがそんなフィスタークの教育係になるという話に、彼女達の中ではまとまってしまったらしい。

「……否定できないんだよね……」
「不憫に感じるのは、俺が同じ男だからだろうか……」

ティアとルクスは、フィスタークの姿を思い浮かべ、静かに同情の涙をのんだ。


伯爵家の為に頑張るのも、当主の仕事だよねっ。


クレアを投入する事で事態がどう変わるのかは、ティアにも分からないのだ。

「夫婦って難しいね」
「そうだな」

そんな難しい問題を抱えた女達に見送られ、ティアとルクス、そしてクレアの三人は、宿屋を後にした。

宿の馬小屋の側で待っていたマティとフラムも回収し、街の外へ向かって歩く。

「ルクスはどうすんだい?」
「俺は……」

ルクスはクレアに尋ねられ、ティアを学園に帰るまで見届けたいと思う本心が頭をもたげるのを感じていた。

隣を歩くティアは、まだまだ多い人混みの中、マティを気にして歩いている。

その時、ルクスが見つめているのを感じたのだろう。ティアがふと顔を上げてルクスを見た。

「なぁに?そういえばルクス。宿ってこの辺じゃないの?」
「あぁ……あの角を曲がった所だ……」

ティアはルクスの離れ難い想いに気付く事はなく、まるでさっさと宿へ帰れと言っているようだ。

「食堂の料理が絶品だって噂だよ?良い宿で良かったよね」
「……そうだな……」

複雑な心境のルクスなどお構いなしの笑顔で、ティアは楽しそうに話した。

「早く帰って明日に備えないと。今から食堂でお夕飯をとって、早めに寝なよ」
「……あぁ……」

明日の事を考えて、早く休めと言ってくれているのだと思えば、少々気落ちしていた心が上を向く。

そんな揺れ動くルクスの心情を、クレアは正確に読み取っていた。そして同時にティアの想いも感じていたのだ。

「ティアちゃん。えらく細かい情報まで仕入れて……ルクスを心配してくれてるんだねぇ」
「え?」
「うっ……」

意味が分からなかったルクスとは違い、ティアは気付かれたとドキリとした。

「この時間に食事をすると、さぞ良いこともあるんだろうね」
「っ……うぅ……っ」
「……ティア?」

気まずそうに目を泳がせるティアの様子を見て、ルクスは不審気に眉を寄せる。

クレアの生暖かい視線と、ルクスの追及しようとする視線に我慢できなくなったティアは、ルクスの言う宿へと向かう曲がり角で立ち止まって言った。

「べっ、べつに、心配とかしてないしっ、ちょ、ちょっと情報を小耳に挟んだだけだもんっ。私は別に、あえて情報を集めて欲しいとか言ってないっ、気になるとかでもないんだからねっ」
「……」
「ふふっ」

クレアが思わず笑う声を聞きながら、ティアは夕陽に顔を向ける。

若干どころか、かなり熱くなっている頬を感じているティアは、恥ずかしくてルクス達の方を見る事ができなかったのだ。

立ち止まったティア達を避ける人混みの流れの中で、ようやくルクスはティアの言葉を反芻し、その真意を自覚した。

「っ……ティア……」

ティアは精霊達から、ルクスの行動や情報を聞いていたのだ。

どんな仕事だったのか。宿屋はどこか。明日のルクスのパーティメンバーはどんな人達なのかまで。

同じように赤くなったルクスの様子を見て、クレアは嬉しそうにその背中を乱暴に叩いた。

「ほらっ、さっさと帰りな。今から食堂で夕食をとる。そんで早く寝る。いいね」
「あ、あぁ。ティア……その……」

二人に全部見抜かれた事を知り、ティアは肩の力を抜いて、諦めたように返事をする。

「うん」

もちろん、まだ顔は背けたまま。

そんなティアに、ルクスはそっと近付き距離を縮めた。

「ありがとな」

そう言われ、ふっとティアはルクスへと顔を向ける。そこにあったのは、嬉しそうに微笑むルクスの顔。

見惚れてしまう程、その表情は夕陽の光を横から受けて輝いていた。そして、ルクスは不意に身を屈めると、呆然とするティアの額に口付けたのだった。



************************************************
舞台裏のお話。

サクヤ「まったく、ティアったら思い付いたらすぐなんだからっ……あら?やっぱり何か着いてきてるわね?」

謎の男「失礼いたしました」

サクヤ「あ、確か、学園の警備の……」

謎の男「はい」

サクヤ「どうしてここに?もう、ここは王都ですよ?」

謎の男「ティア様をお迎えに上がりました」

サクヤ「へ?」

謎の男「生徒達を護る身で、あの方が抜け出された事に気付かず申し訳ありません」

サクヤ「あ、いやいや、そんな頭下げる事ではないですっ。あの子が本気で気配を断ったら、ちょっと普通には無理ですから」

謎の男「精進が足りず、面目次第もございません」

サクヤ「あ……はは……勤勉なんですね……」

謎の男「いらっしゃいました」

サクヤ「え?あ、本当だ。あ、あら?」

謎の男「……婚約者の方でありますね」

サクヤ「そうね……あのティアがあんな隙を見せるなんて……やるわね」

謎の男「ティア様はとても美人で、博識でいらっしゃいますし、行動の予想が出来ないので、お側にあれば楽しいでしょう。おモテになられるのも分かります」

サクヤ「いや、うん……あの子の頭の中は、どうなってるんだろうって思う時は多々あるけど、ずっと飽きないわね……」

謎の男「羨ましい限りです」

サクヤ「へ?」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


またも信奉者が……。
サクヤ姐さんのお迎えです。


たまにはルクスから反撃。
ティアちゃんはどんな反応をするのでしょう。
クレアママが居ること、忘れてますね。
さて、シアンママん対策はこれでヨシっ。
あとは……。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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