女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
187 / 457
連載

291 騎士への意識

しおりを挟む
2015. 11. 29
********************************************

王都での騎士達の素行調査は、学園街よりもより分かりやすく進んだ。

騎士であるという権威を振りかざしている者しかいないのではないかと思える程、呆れた状況がそこにはあった。

ティアは先ず、裏通りに一歩入ったのだが、昼時だった事もあり、適当な飲食店へと向かった。そこで、まさに騎士達数人が、散々、食事にケチを付けながらも飲食をした後、殆どお代を払わないという、その現場に出くわしたのだ。

「これがこの料理とも言えん物の対価だ。まったく、国の為に働く我らにこんな物を出すとはな」
「店も汚ないし、我らには相応しくない」
「この王都にも相応しくないと思うがな」
「まったくだな」

そう言って、正規の代金には程遠い量の貨幣を、半ば床にばら撒いて、店を出て行ったのだ。

「……チンピラ……?」

思わずティアは、彼らの服装を二度見どころか、五度見して確認した。

「ぶっ、お、お嬢ちゃんっ……チンピラって……くっ、フハハハハ」

ティアのその呟きが聞こえたのだろう。店にいた男の一人が爆笑しだした。

「くっ、確かにっ。ありゃぁ、チンピラにしか見えんよなぁっ」
「それも、出来損ないのなっ」
「そっかぁ~……チンピラなら、代金がこんだけ貰えただけでも御の字だよなぁ」

次第に店にいた全員が笑い出し、最後には店の店主さえもが笑って、納得だと頷いていた。


あれ?


これは珍しい状況だ。騎士への刷り込み的な敬いの意識はどこへいったのか。

「この辺って、騎士の評判、良くないの?」

ここは王都だ。何処よりも騎士が集う場所だ。貴族と同じくらい、騎士を高位の存在と認識している民達にとって、この騎士の姿を日常的に見る事が出来る王都では、より騎士へ対する態度や意識は、強い尊敬の念を持って向けられる。少なくとも、過去ではそうだった。

「ははっ。そりゃぁ、表立って言う奴はいねぇよ。それに、騎士様ってぇのは、やっぱ、偉い奴らだってな。けどよぉ……」

そう言って、男は声をひそめる。面白くなってきたと思っていたティアは、嬉しそうに男の方へと耳に手をやり、聞きますよと態度で示す。

これに、男も口へと手をやり、ティアへと小さな声で言った。

「紅翼の騎士様達を知っちまうとな。ダメな騎士様ってぇのが分かっちまったんだよ」
「あ~……」

あいつらかと思わず言いそうになったティアだ。

そんなティアの様子が、同意を示すものだと感じた男は、それから声を元の大きさに戻し、得意気に続けた。

「あの騎士様達こそ、本物だなっ。マジで尊敬するよ」

ティアはドキリとした。それは、彼らを変えるきっかけを作った事による、気まずいものではない。『本物の騎士』を知ってもらえた事への喜びによるものだ。

「そうなんだ……あ、でもそれなら、アイツっ……紅翼の騎士様達が、注意したりしないの?」

紅翼の騎士達には、騎士とは何か。どうあるべきかを叩き込んだつもりだ。ティアが知る彼らが他の騎士達の行いを見れば、黙ってはいない筈だと思った。

この問いかけに、店にいた者達は、苦笑する。そして、言いにくそうに一人が口を開いた。

「そうだなぁ……その……騎士様達にも、上下関係とかがあるんだろうな……」
「紅翼の騎士ってぇ名前を聞くようになったすぐくらいは良かったんだけどなぁ……」

互いに顔を見合わせ、確認し合う客達の様子に、ティアも少し察しがついた。

「もしかして、他の騎士様達にハブられてる……とか……」

これに、全員がすかさず声を発する事なく頷いた。

「……そんな……子どもじゃないんだから……」

確かに、いくら紅翼の騎士達の姿や行いが正しいものだとしても、たった十数人と少人数だ。それより何倍もいる騎士達が否定すれば、異質なものでしかない。

「だよなぁ……」
「お陰で、紅翼の騎士様達は、学園街の方に拠点を持って行ってるって話だ」

自分達の今までの行いや態度が正しいと思いたい騎士達は、紅翼の騎士達を学園街へと追いやったらしい。

そうされても、国王が認めた騎士団であり、民達からの信頼もある。表向きは、将来を担う子ども達が多く集う学園街の重要性を示唆し、警備の必要性を示すことで、紅翼の騎士団が王都から退く理由としたのだ。

「……どおりで……出くわす確率が高い訳だ……」

ティアは、常日頃から王都に常駐する筈の彼らによく出会うなと思って、気になっていたのだ。単に、ティアの気配を察したから出会う訳ではないと知ると、少しほっとした。


だよね……いくらなんでも、そこまで気配察知されたら困るわ……。


これによりティアは、紅翼の騎士団に対する警戒意識を、ほんの少しだけ緩める事ができたのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

街人A「どうされました?紅翼の騎士様」

紅翼の騎士A「あ、いいえ。何やら呼ばれたような気がしたのです」

街人B「あちらは王都ですからなぁ。紅翼の騎士様の助けを待つ者がいるのでは?」

紅翼の騎士B「ははっ。王都には他の騎士団がおります」

街人B「いやいや、きっと、紅翼の騎士様を求めているのですよ」

街人A「そうそう」

紅翼の騎士A「それは、光栄だ。では、我らはこれで。またお困りの際は、お呼びください」

街人B「紅翼の騎士様達は、呼ばなくても駆け付けてくださるじゃありませんか」

街人A「本当に、ありがとうございます」

紅翼の騎士B「いえ。我らは、あなた方の為にいるのですからね」

街人A・B「「ありがたや~」」

紅翼の騎士A・B「「では、良い一日を…………なぁ……っ」」

紅翼の騎士A「すまん。なんだ?」

紅翼の騎士B「いや、お前から言ってくれ」

紅翼の騎士A「あぁ……どうも、やはり王都の方が気になるなと思ってな」

紅翼の騎士B「私もだ……まさか……いや、まさかな」

紅翼の騎士A「だよなぁ……あ、アイツも……」

紅翼の騎士C「……」

紅翼の騎士B「おい。大丈夫か?」

紅翼の騎士C「ん?お、おお。呆っとしてたか……なんでかな……なんかあっちから呼ばれてるような気が……」

紅翼の騎士A・B「「お前もかっ」」

紅翼の騎士C「お前達も?なら、王都でまさか……」

紅翼の騎士A・B「「まさかな……」」

街人C「おい。紅翼の騎士様達はどうされたんだろうな?」

街人D「あぁ……あっちにいた紅翼の騎士様達もあんな感じに、同じ方を見てたな……」

街人「「わからん……」」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ミステリーです。
超常現象の前触れでしょうか……。


ちょっと中途半端ですね……申し訳ない。
王都には、もはやダメ騎士しかいないようです。
あの変態に足を突っ込んでいる紅翼の騎士達が尊敬されています。
良い方を知ってしまったら、その下を見てがっかりしてしまいますよね。
騎士の更生……解決策はあるのか。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。