女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

279 神へと宣戦布告を

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2015. 11. 12
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当時は何の疑問も抱かなかった。だが、最近ふとした瞬間に、もやもやとしたはっきりとしない不安が、この記憶を呼ぶ事があった。

「あの時、レナード兄様が言ったの。『アレはもう処分した』『後世に遺してはいけない物』『私で血も絶えるだろう』って……」

どこか安心したようなそんな表情で告げられた言葉の数々は、地下へと続く扉を見つめて発せられたのだ。

固い扉の奥に、高温の炎がうずまいている気配を、ティアは確かにあの時感じていた。

「だから、確認したかった。あの時、バトラールの継承していた神具は燃えて消えた筈……」

そう言ったティアの表情は、それでもその予感を感じていたのだ。

ティアが予感している事。何を確信し、確認しようとしているのかを、カランタは察していた。

「……それを知って、どうするんだい?」

そう訊ねたカランタの表情は、ティアを思い、痛みを堪えるようなものだった。それに一度目を向けたティアは、すぐに空へと顔を背けて言った。

「ずっと考えてた。ジェルバと消えたあの人……過去の記憶があるって言ったあの男……一瞬感じた気配を、私は知ってるって思った」

その気配は、遠い過去の記憶に触れる感覚がした。城で、何度も感じていた気配。それが神具のものだと確信したのは、青年が持っていた神笛から漏れる力を感じたからだ。

「あの頃、神笛の力は、アスハが完全に制御してた。だから、それが神具の気配だってことに気付けなかった。でも、今回は違う。あの男は、制御出来ていない。力が漏れてた。それも、その中に……ほんの微かに混じってる気がしたの……」

いつも傍に感じていたその気配を、あの青年から感じたように思えた。それは、地下にあった神具の気配だと、最近ようやく気付いたのだ。

「……そうだよ……」
「っ……」

そのカランタの呟きに、ゆっくりとティアは空から視線を下ろす。そこで、泣きそうな表情をしたカランタと目が合った。

カランタは自分の胸を押さえ、吐き出すように続けた。

「バトラールにあった神具は、彼らの手にある……ただの炎で焼かれたりしない。あれは、そういう物だ。神の力でしか、消し去る事はできない……」

きつく自分の胸元を掴むカランタに、ティアは思わずその手を差し出していた。

「っ……ティ……ア……っ」

ティアは、固く握られたカランタの手に触れる。そうしなくてはならないような気がしたのだ。

「……なら、今の私なら出来るんだね」
「っ……それは……」

カランタは、ティアの強い光を宿した瞳を見つめた。そうして欲しいと願っていた。けれど、カランタは言葉にして伝える事はできなかった。それが、天の使いとしての決まり。カランタ自身の願いは、決して口にしてはいけないのだ。

神具は本来、この世界を豊かにする為に神が与えた物。消す事など考えてはいけない物だ。だが、本来の目的を果たせなくなった神具は危険なだけ。害にしかならない。

「神がどうとか、初めから私には関係ない。だから、これはただの確認だよ」

カランタが口ごもる様子と表情を見て、ティアは、それが口に出来ない事なのだと察した。今まで、何度かカランタと会い、話をしてきた。その中でそれらを理解していたのだ。

冷たい手をしているなと思いながら、カランタの手を離したティアは、天を睨み付けるように再び月を見上げて言った。

「私は、あの神具を消す。神が望む、望まないとかじゃない。消そうとした兄様の願いを叶える。何より、バトラールの王家の者としての責任がある」

そう、いわば、神に宣戦布告をしたティアは、不敵な笑みをカランタへと見せ、腰に手を当てると、こちらにも宣言してみせる。

「あんたは大人しく見てなさい。はた迷惑な神具なんて、見つけた端からぶち壊してやるわよ」

その表情は、月をバックに生き生きと輝く。そんなティアを見て、カランタは一筋の涙を零した。

「うん……うんっ……ふふっ、君らしいな……っ」

泣き笑いを浮かべるカランタに、ティアは一層笑みを深める。そこに、シェリスが静かに近付いてきた。

「私のティアが、神に負ける筈もありませんしね。勿論、私もお手伝いいたしますよ」
「ふふっ、シェリーってば、そんな事言われると、俄然やる気が出ちゃうじゃん。もういっその事、神様倒したいなぁなんて思っちゃうよ?」
「それでは先ず、この国を征服しましょうか」
「いいねぇ」
「えぇぇぇっ⁉︎」

神に対抗するなら、世界を手に入れておかなくてはなどと冗談を言い出すティアとシェリスに、カランタが本気で慌てる。

そんな楽しそうな声は、しばらく深夜の静かな広場に、響き渡っていたのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ルッコ「あんた。ちょい、カウンター任せるよ」

謎の強面の男(夫) 「ああ」

サクヤ「……」

ルッコ「ここに居座ってる私らが羨ましいか?」

サクヤ「うっ……そ、そんなんじゃ……」

ルッコ「まぁ、こんな場所は稀だよな。私らは、ひと所に留まるのが苦手だ。それは、多分種族としての性質でもあるんだろうね」

サクヤ「……うん……」

ルッコ「でも、こうやって落ち着いてみて分かった。私らは逃げてただけだ。受け入れられないものだと思ってるのは、本当は私らなのさ」

サクヤ「……でも、やっぱり……」

ルッコ「勿論、種族の壁ってのはある。けど、全員が全員否定したりはしないよ。人の中にだって、長く生きるやつも、早く死んじまうのもいる。そこんとこを理解してくれる奴は、いるもんだ」

サクヤ「……うん……分かってる……分かってるわ。時代が変わったって、昔は一緒に暮らす事も出来てた。出来てた事が、本当に出来なくなるなんて事ないもの。分かってくれる人だって絶対いるって……」

ルッコ「ああ……ふっ、お前も、離れたくないと思える場所が出来たんだろ?」

サクヤ「っ……」

ルッコ「足掻いてみな。一人じゃないんだろ?」

サクヤ「……うん……」

ルッコ「私も、そろそろ気合いを入れてみようか」

サクヤ「え?」

ルッコ「ふふっ。いつか、ここから、また昔みたいな世界にしようって、旦那と話してたのさ。お前と、あの二人を見たら、やっぱ、出来るんじゃないかと思ってね」

サクヤ「ルッコちゃん……そういう所、変わってないのね」

ルッコ「お前も、そんな成りしてても、臆病な所は変わってないようだね」

サクヤ「っ、ふんっ、良いのよ、私はっ」

ルッコ「ははっ」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


サクヤ姐さんは、今の生活を続けたいんじゃないかと思います。
学園に留まる。
出来るでしょうか。


少しだけ過去を垣間見る事ができました。
新たにティアちゃんは決意を表明。
天使も、何やら所縁ある者かもしれませんね。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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