女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
171 / 457
連載

275 その可能性を

しおりを挟む
2015. 11. 6
********************************************

エルヴァストはその事実の予感を頭から消し去ろうとしていた。それは、あまりにも嫌な予感だ。だが、ティアはその受け入れ難い事実を、はっきりとさせておくべきだと思った。

「そうだよ。今のこの国の多くの貴族達は、奴らと繋がってるんだ」
「っ、そんなっ」

エルヴァストは、正しく彼らの危険性を理解していた。だからこそ、この国の中に、既に手が回されていることに恐怖したのだ。

「まさか……父上も……っ」

そして、キルシュもこの問題に気付いたようだ。

前々から侯爵は、ヒュースリー伯爵について、良く思っていない発言をしていた。それは、異種族であるシェリスに、上手く取り入っているというものだ。ティアは、キルシュからそれを聞いた覚えもある。

「確かに、お父様を気に入らないって節はあるみたいだけど、だからって、イコール『人族至上主義』って訳じゃないよ」

彼らならば、自分の治める領に、異種族であるシェリスを住まわせる事はしない。それを許したとしたなら、シェリスの知識や能力を利用する為だろう。

「まぁ、あなたが勘違いしてしまうのも仕方がありません。ヒュースリーの家の者は昔から変わっているのです。実際、この国……いえ、世界中で見ても、本当の意味で私に取り入ろうとしなかった人族の権力者は、あの家の者だけでしょうね」
「うん。シェリーは素振りだけでも気付くからね。直接手を出そうもんなら、家ごと消えててもおかしくないもん。ここに何事もなく留まってるのは奇跡だよ」

昔から、シェリスは下心を持って近付いてくる者に敏感だ。ただでさえ他人嫌い。何かを得ようと近付いてくる貴族達など論外だった。

「奥方の体を治す薬さえ、求めては来ませんでしたからね。単純に私を頼るという頭がなかったとも言えますが」

シェリスとしては、フィスタークの何代も前から、何かの折に頼られる事があれば、無条件で手を貸してやろうと決めていたのだ。シアンの体の問題も、実は相談されたなら何とかしてやろうと思っていた。

「伯爵らしい……」

エルヴァストは、フィスタークの姿を思い浮かべる。貴族らしさの感じられないその印象に、強張っていた表情から思わず笑みが零れた。

「ふふっ、そんな危なっかしいお父様だもん。私がしっかり気を付けてるの。だから、侯爵の事も全部調査済みだよ」

そう言ってウィンクを送るティアに、キルシュは呆然としてしまった。

「父上の事を……?なら……」
「うん。侯爵に繋がりはなし。立場上、どっちつかずな話し方で、周りの貴族達と上手く付き合ってるんだね。認めるべきは認めるって事が、ちゃんと出来る人なんだよ」

唯一の例外が、冒険者に対する感情だった。それにも理由がちゃんとあった事も、ティアは調査出来ていたので、かろうじてプラスの評価を出していた。

「侯爵の父親。キルシュのお祖父様は、結構な分からずやだったみたいで、異種族にも否定的だったんだけどね。それに染まってたら、危なかったかもしれないよ?セーフだったね」
「ああ……良かった……」
「うん。危うく潰しちゃう所だった」
「……それは、ティアがか……?」

これは一応、確認しておくべきだろう。これにティアは、とんでもない一言も添えて笑顔で答えた。

「うんっ。そんな侯爵を許してる国王も危なかったかも」

これには、エルヴァストが身を震わせて聞き返した。

「……ティア……今、何やらヒヤリとする言葉を聞いたように思ったのだが……」
「うん?別に変な事言ってないから、気の所為じゃない?」
「そ、そうか。そうだなっ」

こんな時は、これ以上聞き返してはいけないとエルヴァストはちゃんと分かっている。これは、ティアと付き合っていく上で、心の平穏を保つ為に必要な対処法なのだ。

これらの話を、静かに口を閉ざして聞いていたルクスが、ここでようやく口を開いた。

「ティアは、また奴らが手を出してくると思うのか?」

ルクスが最も心配しているのは、もちろん、首を突っ込むだろうティアの事だ。だから確認しなくてはならない。

「うん。それも、かなり警戒しなくちゃならない事がある」

ティアはそう言って、シェリスへ合図を送った。すると、シェリスは一つ頷くと、立ち上がって机の引き出しにしまいこまれていた小さな箱を持ってきた。

「これは、神具の適応者を見つける為に開発された魔導具です」
「なっ……」

箱の中には、真っ二つに割れた水晶玉のような物があった。

「壊れちゃってるけど、付与されてた術式とかを、カル姐に分析してもらったの」

壊れてしまった魔導具に、どんな術式が付与されていたのかを調べるにはとても時間が掛かる。更に、魔工師でなくては出来ない。この魔導具の解析も、魔族の国で、実に二年という時間が掛かっていた。

「こんな物……一体、どこで手に入れた?」

ルクスは、まさかティアがまた、自分の知らないうちに危ない接触をしていたのではないかと思い、鋭く問い詰めた。

「うっ、ルクスもその場にいたよ」
「なに?」

そんな記憶はとんとないルクスだ。ルクスの記憶では『神の王国』と接触したのは、今回が初めてだ。だから、盛大に顔をしかめ、答えを求めるべく、ティアを見つめた。

それは、エルヴァストとキルシュも同じで、静かにティアの次の言葉を待ったのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

サクヤ「久しぶり~☆」

ルッコ「サクヤ?お前、生きてたのか」

サクヤ「やだ、ヒドイっ。大親友に向かってソレ?」

ルッコ「友なら、十年に一度ぐらい、手紙の一つでも送るもんだろ」

サクヤ「うっ……」

ルッコ「お前はマメに見えて、そうゆう気遣いは出来ん奴だと分かっているが、さすがに何百年と音沙汰がないと、どこぞで死んだかと思ったぞ」

サクヤ「ルッコちゃん、心配してくれてたのっ?」

ルッコ「とっくに、死んだと思って、送りの祈りまでして終わった話になっていた」

サクヤ「ひ、ヒドイ~★」

ビアン「だ、男性……いや、女性にしか見えませんよね?」

ウル「ええ……それも、とても気の強そうな姐さん……っ」

街人A「姐さんっ、西地区で乱闘ですっ」

ルッコ「知るか。まだ明るいんだ。お前らで何とかしな」

街人B「いやいや、兵も混じって、もうどうにもらんですよっ」

謎の強面の男「俺が」

ルッコ「あぁ、あんた。仕方ないね……そうだ、サクヤ。お前、手伝いな」

サクヤ「へ?」

ルッコ「あんた。サクヤを連れてっておくれ。頼んだよ」

謎の強面の男「わかった」

サクヤ「えぇっ⁉︎」

ビアン・ウル「「……」」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


なにやら巻き込まれたサクヤ姐さんです。


ちょっと会議が長引いています。
もう少しお付き合いしてください。
エル兄ちゃんとキルシュは、一応は跡取りではありませんが、しっかりと考えているようです。
ルクスは、ティアちゃんの行動が心配なようですね。
さて、どこで手に入れた魔導具だったのか。


では次回、一日空けて8日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。