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ミッション11 昇級試験と野営導具
423 こんなの知らねえ……
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フィルズは、中を覗く前にと、テントの天辺からこちら側に垂れている布の先を探る。かなり長さがあるようだ。
とはいえ、その角に、二つ真四角の一辺が十センチほどある軽い金属があるので、それを探り当てる。
「おじちゃん。そっちの端にもコレがあるから、探してくれ」
「お、おう……」
テントの大きさに、びっくりしているラウンドに声をかけ、それを探してもらう。
「あった?」
「ああ……」
「じゃあ、調理台の上を通してあっちに引っ張るぞ」
「……わかった」
そして、テントの天辺から屋根に沿って張られた雨除けが出来上がる仕様だ。
「ここだな。そこに魔石あるから【起動】ってして下に置いて」
「お、おお……【起動】っん? 重くなった!?」
「そうそう。これで転がらないし、杭もいらないから」
「……なんつう魔導具だ……こんなの知らねえ……」
「そうなのか? 昔から大工が、雨除けの布を木材にかける時に、風で飛ばされないようにするための重石にかけてた魔法らしいんだけど」
「そんなの知らねえし……これ、すげえな……」
少し前、文鎮を作る時に用意した魔法陣を使っている。応用できるものがあれば試してみるというのがフィルズの考え方。
「杭を打たなくて良いのって良いだろ? アレ、野営地が穴ボコになるじゃん?」
「そうだな……穴埋めろって言っても、サボるやついるし、同じ所に何度か杭を打つと、使えなくなるしな」
土が柔らかくなってしまって、杭がしっかり刺さらなくなるのだ。そのため、冒険者達が多く利用する野営地に限って、定期的に冒険者ギルドで整備をしている。
「そうそう。このテントの底にも固定するために少し重くなるようにしてあるんだ」
高さは低い所でも二メートル強。余裕で歩き回れる高さ。そして、安宿の部屋よりも広い大きさだ。貴族達にも使えるだろうと想定した大きさだった。
「いや、だが、突然の突風や嵐には……」
「ちゃんとそれにも耐えられるように、地面との圧着もかかってるんだぜ」
フィルズに抜かりはない。得意げに答えた。
「それと、テント自体に風除けと水避けの加護がかかってる。ほら、刺繍入ってんの分かる?」
シンプルな薄茶色のテントだが、それに分からないように同じ色の刺繍が細かく施されているのだ。
「加護……加護刺繍!? 貴族が欲しがるやつだろ! なんつうものを……っ」
加護刺繍を施されたものは、とても価値がある。流民が冬を過ごす間の手仕事としているもので、出来る者は少ない。その分の希少価値がある。商業ギルドに持っていけば、破格の値段で買い取ってくれるのだが、流民はその場その場で生活できれば良いという考えしかなく、適当に近場の商家で金額など気にせずに売ってしまう。
よって、正しい価値を知っている流民は少なく、安く買い叩かれている者も多かった。それさえも気にしないのが流民だ。
しかし、買い叩いた方はそうはいかない。後ろめたさがあるため、流民にその技を伝授してくれと頼むこともできず、流民達も長くその場に留まることになるような事は避けたいため、一向にその技術は広まらなかった。
「ん? 加護刺繍なら、教会で出来るようになってるし、コレは俺がしたやつだから」
二年近く前から、公爵領都の教会をはじめとして、加護刺繍をした『お守り』を販売している。お土産や何かをはじめる時、遠くに行く時には、必ずと行っていいほど買い求めるものとなっていた。ここ王都の教会では、一年ほど前から販売しているはずだ。
「っ、そうだった! お前さんは流民のっ……ってか、これを一人で!?」
「そう。全部手作り。そんじゃあ、中見ようぜ。靴のままでいいから」
「こんなのに、靴のまま!?」
「大丈夫だって、入り口の所に、汚れ落とす魔法陣組み込んであるからさ」
「それ……セイルブロードのっ……」
「大丈夫? 顔色悪いけど」
そろそろラウンドは本当に驚き疲れてきたようだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
とはいえ、その角に、二つ真四角の一辺が十センチほどある軽い金属があるので、それを探り当てる。
「おじちゃん。そっちの端にもコレがあるから、探してくれ」
「お、おう……」
テントの大きさに、びっくりしているラウンドに声をかけ、それを探してもらう。
「あった?」
「ああ……」
「じゃあ、調理台の上を通してあっちに引っ張るぞ」
「……わかった」
そして、テントの天辺から屋根に沿って張られた雨除けが出来上がる仕様だ。
「ここだな。そこに魔石あるから【起動】ってして下に置いて」
「お、おお……【起動】っん? 重くなった!?」
「そうそう。これで転がらないし、杭もいらないから」
「……なんつう魔導具だ……こんなの知らねえ……」
「そうなのか? 昔から大工が、雨除けの布を木材にかける時に、風で飛ばされないようにするための重石にかけてた魔法らしいんだけど」
「そんなの知らねえし……これ、すげえな……」
少し前、文鎮を作る時に用意した魔法陣を使っている。応用できるものがあれば試してみるというのがフィルズの考え方。
「杭を打たなくて良いのって良いだろ? アレ、野営地が穴ボコになるじゃん?」
「そうだな……穴埋めろって言っても、サボるやついるし、同じ所に何度か杭を打つと、使えなくなるしな」
土が柔らかくなってしまって、杭がしっかり刺さらなくなるのだ。そのため、冒険者達が多く利用する野営地に限って、定期的に冒険者ギルドで整備をしている。
「そうそう。このテントの底にも固定するために少し重くなるようにしてあるんだ」
高さは低い所でも二メートル強。余裕で歩き回れる高さ。そして、安宿の部屋よりも広い大きさだ。貴族達にも使えるだろうと想定した大きさだった。
「いや、だが、突然の突風や嵐には……」
「ちゃんとそれにも耐えられるように、地面との圧着もかかってるんだぜ」
フィルズに抜かりはない。得意げに答えた。
「それと、テント自体に風除けと水避けの加護がかかってる。ほら、刺繍入ってんの分かる?」
シンプルな薄茶色のテントだが、それに分からないように同じ色の刺繍が細かく施されているのだ。
「加護……加護刺繍!? 貴族が欲しがるやつだろ! なんつうものを……っ」
加護刺繍を施されたものは、とても価値がある。流民が冬を過ごす間の手仕事としているもので、出来る者は少ない。その分の希少価値がある。商業ギルドに持っていけば、破格の値段で買い取ってくれるのだが、流民はその場その場で生活できれば良いという考えしかなく、適当に近場の商家で金額など気にせずに売ってしまう。
よって、正しい価値を知っている流民は少なく、安く買い叩かれている者も多かった。それさえも気にしないのが流民だ。
しかし、買い叩いた方はそうはいかない。後ろめたさがあるため、流民にその技を伝授してくれと頼むこともできず、流民達も長くその場に留まることになるような事は避けたいため、一向にその技術は広まらなかった。
「ん? 加護刺繍なら、教会で出来るようになってるし、コレは俺がしたやつだから」
二年近く前から、公爵領都の教会をはじめとして、加護刺繍をした『お守り』を販売している。お土産や何かをはじめる時、遠くに行く時には、必ずと行っていいほど買い求めるものとなっていた。ここ王都の教会では、一年ほど前から販売しているはずだ。
「っ、そうだった! お前さんは流民のっ……ってか、これを一人で!?」
「そう。全部手作り。そんじゃあ、中見ようぜ。靴のままでいいから」
「こんなのに、靴のまま!?」
「大丈夫だって、入り口の所に、汚れ落とす魔法陣組み込んであるからさ」
「それ……セイルブロードのっ……」
「大丈夫? 顔色悪いけど」
そろそろラウンドは本当に驚き疲れてきたようだ。
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