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ミッション11 昇級試験と野営導具
416 さあ、もう一度!
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中々聞かない経歴に、フィルズは感心する。
「変わった経歴だな。けど、そういう生き方嫌いじゃない」
ヘルダは、くしゃりと表情を崩して笑った。
「ははっ。ありがとう。まあ、そういう経歴もあって、彼女を預かることになったのだよ。だが、ここの所忙しくてね。そのせいで目が届かなくなってこの様だ。すまない」
「あ~、その忙しいのの原因に多少関わってるから俺は文句言うつもりねえよ」
「ほお……」
原因というのが、闇ギルドの一件だ。貴族の処分が始まったことで、そこから王都の冒険者が何人か犯罪に手を貸していたことが明らかになった。
これにより、この国の冒険者ギルドをまとめる立場であるヘルダの所に報告が集まっていたのだ。冒険者の処分は冒険者ギルドの了承も要るため、その対応に追われているのだろう。
これを知っているということから、ヘルダのフィルズを見る目に少し力が入った。興味を持ったようだ。
「うむ……なるほど。ああ、すまない。昇級試験を受けに来たのだったな。コレの事は……」
「うふふ。ヘルダ様? 当然、わたくしにお任せくださるのでしょう? 違いまして?」
「っ……あ、ああ……」
恐らく聖女で間違いないだろう。ただの上品なだけの女性ではなさそうだ。可愛らしい声に似合わない押しの強さを感じた。ヘルダもタジタジとしている。
「ありがとうございます。では……」
「っ、な、何よ……っ」
自分より若く見えたのだろう。少し強く出ようとしているのが感じられた。
「あら、わたくしったら、ご挨拶がまだでしたわね? 当代の聖女、第二席のラナラマと申します。はい! 言ってみてくださいまし!」
「えっ、ら、ららマラ?」
「違いますわ! ラナラマです!」
一歩近づいた。
「らっ、ラララマっ」
「ラが多いですわ! さあ、もう一度!」
今度は大きく一歩だ。ラナラマは距離を詰めてくる。その間、絶対に目を逸らさない。寧ろ瞬きもしていない。
「らっ、い、いやよ! なんでこんな事!」
怖くなって半歩下がる女性。しかし、ラナラマの一歩は大きい。
「ふふふっ。こんな事ではありませんわ! 挨拶ははっきり、言葉は一つ一つはっきり口にしますのよ! 口をしっかり動かして! ラナラマサマまできちんと言いましょう!」
「ああぁぁぁっ、もう!! しつこい! くうっっ! ラナ、ラマ、サマ!!」
圧力に耐えられなかったらしい。目の前、拳一個分まで迫られた女性は、上を向いて叫ぶように言った。すると小さく半歩分身を引くラナラマ。
「よくできましたわね。さあ、わたくしのことは、これからずっと、そう呼ぶのですわ。間違っても、ねえ! とか、あの~、とか言って呼び止めないように。常にラナラマサマですわよ!」
「わ、分かっ……分かりました!」
恐らく、彼女は初めて出会った人種なのだろう。彼女のようなあまり他人に好まれない性格の者に対して、ここまで構おうとする者はいなかった。よって、どう対応して良いか分からない内に色々と決められていた。
「よろしい! では行きましょう。着替えは教会で用意しますわ。あなたは今日、この時から、わたくしの娘ですわ!」
「娘!? あんた、いくつっっ、ら、ラナラマサマはいくつでしょうか……っ」
またラナラマの顔が近付いてきたため、女性は修正した。
「女性の年齢は同性であっても、あまり聞くものではありませんわよ。ですが、お教えしましょう。神に仕えることを誓ったわたくしは、その御心によって長く生かされますわ。今年で六十ですわ」
「……は?」
「六十ですわ。幾つに見えまして?」
「……お、同じくらい……」
「まあっ、随分と若くしてくださいましたのね? 神官は、年齢不詳がほとんどですから、まず相手が年上だと思って対応すべきでしてよ。因みに、そこのヘルダ様はわたくしよりもずっと年上ですわ」
「え……」
「ああ……そのせいで、甘くなり過ぎたかもなあ」
ヘルダにとってみれば、孫か曽孫くらいの子どもに感じていたのだろう。そんな子が、頑張って反抗している様にしか見えなかったのかもしれない。
「副ギルド長が代わりにキレてたっスよ」
心が広過ぎて、下が怒っていたようだ。もう少しキツく言ってくれと思うことはあるだろう。
「すまん……しかし、昇級試験窓口の担当にした覚えはないのだが? 中の仕分け担当にしたと思ったが」
そこで、副ギルド長らしい男がやって来る。見た目としては、少し神経質そうだ。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
新作二本もよろしくお願いします!
「変わった経歴だな。けど、そういう生き方嫌いじゃない」
ヘルダは、くしゃりと表情を崩して笑った。
「ははっ。ありがとう。まあ、そういう経歴もあって、彼女を預かることになったのだよ。だが、ここの所忙しくてね。そのせいで目が届かなくなってこの様だ。すまない」
「あ~、その忙しいのの原因に多少関わってるから俺は文句言うつもりねえよ」
「ほお……」
原因というのが、闇ギルドの一件だ。貴族の処分が始まったことで、そこから王都の冒険者が何人か犯罪に手を貸していたことが明らかになった。
これにより、この国の冒険者ギルドをまとめる立場であるヘルダの所に報告が集まっていたのだ。冒険者の処分は冒険者ギルドの了承も要るため、その対応に追われているのだろう。
これを知っているということから、ヘルダのフィルズを見る目に少し力が入った。興味を持ったようだ。
「うむ……なるほど。ああ、すまない。昇級試験を受けに来たのだったな。コレの事は……」
「うふふ。ヘルダ様? 当然、わたくしにお任せくださるのでしょう? 違いまして?」
「っ……あ、ああ……」
恐らく聖女で間違いないだろう。ただの上品なだけの女性ではなさそうだ。可愛らしい声に似合わない押しの強さを感じた。ヘルダもタジタジとしている。
「ありがとうございます。では……」
「っ、な、何よ……っ」
自分より若く見えたのだろう。少し強く出ようとしているのが感じられた。
「あら、わたくしったら、ご挨拶がまだでしたわね? 当代の聖女、第二席のラナラマと申します。はい! 言ってみてくださいまし!」
「えっ、ら、ららマラ?」
「違いますわ! ラナラマです!」
一歩近づいた。
「らっ、ラララマっ」
「ラが多いですわ! さあ、もう一度!」
今度は大きく一歩だ。ラナラマは距離を詰めてくる。その間、絶対に目を逸らさない。寧ろ瞬きもしていない。
「らっ、い、いやよ! なんでこんな事!」
怖くなって半歩下がる女性。しかし、ラナラマの一歩は大きい。
「ふふふっ。こんな事ではありませんわ! 挨拶ははっきり、言葉は一つ一つはっきり口にしますのよ! 口をしっかり動かして! ラナラマサマまできちんと言いましょう!」
「ああぁぁぁっ、もう!! しつこい! くうっっ! ラナ、ラマ、サマ!!」
圧力に耐えられなかったらしい。目の前、拳一個分まで迫られた女性は、上を向いて叫ぶように言った。すると小さく半歩分身を引くラナラマ。
「よくできましたわね。さあ、わたくしのことは、これからずっと、そう呼ぶのですわ。間違っても、ねえ! とか、あの~、とか言って呼び止めないように。常にラナラマサマですわよ!」
「わ、分かっ……分かりました!」
恐らく、彼女は初めて出会った人種なのだろう。彼女のようなあまり他人に好まれない性格の者に対して、ここまで構おうとする者はいなかった。よって、どう対応して良いか分からない内に色々と決められていた。
「よろしい! では行きましょう。着替えは教会で用意しますわ。あなたは今日、この時から、わたくしの娘ですわ!」
「娘!? あんた、いくつっっ、ら、ラナラマサマはいくつでしょうか……っ」
またラナラマの顔が近付いてきたため、女性は修正した。
「女性の年齢は同性であっても、あまり聞くものではありませんわよ。ですが、お教えしましょう。神に仕えることを誓ったわたくしは、その御心によって長く生かされますわ。今年で六十ですわ」
「……は?」
「六十ですわ。幾つに見えまして?」
「……お、同じくらい……」
「まあっ、随分と若くしてくださいましたのね? 神官は、年齢不詳がほとんどですから、まず相手が年上だと思って対応すべきでしてよ。因みに、そこのヘルダ様はわたくしよりもずっと年上ですわ」
「え……」
「ああ……そのせいで、甘くなり過ぎたかもなあ」
ヘルダにとってみれば、孫か曽孫くらいの子どもに感じていたのだろう。そんな子が、頑張って反抗している様にしか見えなかったのかもしれない。
「副ギルド長が代わりにキレてたっスよ」
心が広過ぎて、下が怒っていたようだ。もう少しキツく言ってくれと思うことはあるだろう。
「すまん……しかし、昇級試験窓口の担当にした覚えはないのだが? 中の仕分け担当にしたと思ったが」
そこで、副ギルド長らしい男がやって来る。見た目としては、少し神経質そうだ。
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