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ミッション10 子ども達の成長

406 これからはご贔屓に

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ファスター王がその呟きを聞きスクリーンの方を見る。かなり片付いたようだが、未だ襲撃の対応に奔走している各領主の屋敷の様子を確認して頷いた。

「確かに、あんなのが来るとなると心配ではあるが、城の地下牢だぞ?」

これに、フィルズは眉根を寄せて呆れたように事実を告げた。

「黒子達なら、あんなの侵入し放題だけど?」
「何?」
「なんですって?」
「「……っ」」

黒子二人が目を向けられて、次の瞬間には、姿を消していた。

「「「「「っ、え!?」」」」」

集まっていた貴族達が目を丸くしたり、周りを忙しなく見回すが、その姿はどこにもなかった。それはラスタリュートも同じだ。

「ちょっ、どこに!? 私でも見えなかった!」
「消えたな……」

ファスター王は感心しており、フィルズは得意げに答える。

「言ったろ? あいつら、鍛えてるから」
「うむ……そうなると……確かに不安だな……」

納得しながら、ファスター王は腕を組む。そして、会議室を見回し、牢に入れることになる面々を確認した。

「罪状が確定しているとはいえ、まだ尋問や審問はせねばならんし……」

他にも情報が手に入る機会だ。二度と顔を見ることがなくなる者も多い。引き出せる情報は全て吐き出したい。

「そうよね……これだけの人数だと時間も日数もかかるのに、吐かせる前に口封じされたら堪らないわ」

ラスタリュートが心底嫌そうに、綺麗な顔を顰めていた。

「だよな。となると、警備も監視もしやすい牢を用意する必要がある」
「フィルの所が一番安全な気がする……」
「私もそう思うわ……」

二人が物欲しそうな顔でフィルズを見た。

「そんな顔されても嫌だからな? ウチのメシとか食わせたくないし」
「「「それはそう」」」

今まで黙っていたリゼンフィアまでも同意した。心からそいつらに食べさせるなんて勿体無いと思っているようだ。

「これだけいるし、何人かでまとめて一緒に入れるしかないが……やっぱ、新しく作るか。まあ、二、三日は地下牢でウチのも使ってガッチガチに警備してもらって……」
「それしかないな……また迷惑をかける……」
「「「「「っ、王!?」」」」」

ファスター王が申し訳なさそうに、フィルズへと少し頭を下げたので、静観するだけだった貴族達までも立ち上がって批難の声を上げる。しかし、それを気にせずフィルズは続けた。

「乗り掛かった船ってやつだしな。任せろ。丁度、大工のじいちゃん達が暇してるし、すげえ牢獄を作ってやるよ。設計図はもうあるんだ」
「一体、何を想定していたのかしら……そっちが気になるわ……」
「『すげえ』『牢獄』か……聞いた事のない組み合わせだな……」
「すぐに大工達用の入城許可証を出そう」

ラスタリュートとファスター王は、まさかのパワーワードに動揺しているが、リゼンフィアは頼られたい、頼りになる父親になりたいという思いが空回り中で、ある意味冷静だった。

「あとは、場所の選定だが……騎士の宿舎に近い所って空いてる?」
「そうねえ。近衛の宿舎との間が、無駄に空いてるわ。使えばいいんじゃない?」
「え? なんでそんな良いとこ空いてんの?」

これに、リゼンフィアがすかさず答える。

「昔は近衛と他の騎士団達との仲が悪かったらしい。それで、離れて建設したと資料にあったな」
「へえ。まあ、なら良さそうだな。ファシーも良いか?」
「ああ。あの辺ならば好きに使ってくれ。搬入口も近いはずだ。やり易かろう」
「おっ、そりゃ最高だ! なら、さっさと計画立てるわ。明日には着工するから、許可証頼むな」
「すぐに用意して私が・・! 持っていこう」
「あ、うん。よろしく宰相」
「ああ」

ファスター王やラスタリュートから呆れたような視線をもらっているが、リゼンフィアは気付いていないようだ。

そうして、話がまとまった所で、貴族の一人が手を上げる。

「あ~、宰相殿。確認したいのだが、彼は本当に貴殿の息子なのか?」
「そうだ。次男になる」
「なぜ王や騎士団長殿と親しげにされているのでしょうか? 何か特別な力でもお待ちで?」
「うむ……」

これは言っても良いのかと、リゼンフィアは少しフィルズの顔色を窺う。ここで失敗すれば、せっかくの好感度がまたマイナスしてしまうと感じているのだ。

そんなリゼンフィアに気付き、フィルズが一歩前に出る。

「失礼。それは俺から。まだ成人前の生意気な子どもだと思ってくれて良い。とはいえ、ここで大きな顔してる理由はある。色々な。一つは、ここまでのやり取りでちょっと冷静に考えれば分かることだ」
「答える気はないと?」

少し厳しい視線をもらうが、フィルズは不敵に笑って見せる。

「ああ。一つはな。あとは、上級の冒険者資格もある。近々三級の昇級試験を受けるところだ」
「「「三級!?」」」
「「「成人前の子どもが!?」」」

驚くのも無理はない。上級に上がれる冒険者は、それなりに体もできた最盛期の者がようやく上がれるところだ。未成年というのは、記録にない。

「証拠のカードはこれな。一応剣の師匠は前騎士団長のヴィランズだ」
「あの戦鬼の!?」
「それならば納得か……?」
「いや、だが未成年が……」

ヴィランズの名は伊達ではない。その実力は、貴族達も相当のものだと認識している。

ざわつく貴族達に、ファスター王が咳払いをしてから告げた。

「充分過ぎるほど戦えるだけではないぞ。フィルは我が国の神殿長も認める幅広い知識を持っている。そのため、神殿長と共に、私の相談役もやっているのだ」
「「「王の相談役!?」」」
「ああ……神殿長は公爵領においでだったな……」
「あの方も認めるほど賢いとは……」
「なんとも末恐ろしい……」
「「「「「……」」」」」

貴族達の目の色が変わった。是非繋がりを待たなければと考えたのだろう。しかし、ここで頼れる父親モードになっているリゼンフィアがそれを察せられないわけがない。

「言っておくが、フィルをどこぞの婿にとか、冒険者としての専属契約をなどとは考えるなよ。フィルは最低限、我が妻以上に可憐で賢く、時に頼りになる素晴らしい人物にしかやれん!」
「我が妻……」
「可憐……?」
「賢い……」
「頼りになる……」

全く想像できないと、貴族達は困惑する者と、これだけリゼンフィアが大事にする息子へのアプローチを考えるのは困難を極めるだろうなと、ため息を吐く者で分かれた。

「あ~、まあ、とりあえず、そういう事だから、よろしく。特に銀の腕輪してる人たち」
「「「「「ん?」」」」」
「これからはご贔屓に」
「「「「「ああ……?」」」」」

意味がわからないと首を捻る貴族達。そんな様子を見て笑いながら、フィルズは会議室を出て行った。

ここでようやく一連の闇ギルドの一件は一応の解決を見たのだ。

一方で翌日以降、セイスフィア商会に家族でやって来た貴族達は、フィルズの最後の言葉の意味を知ることになる。

「まいど~」
「あっ!?」

セイスフィア商会の商会長だと名乗ったフィルズは、適当に挨拶して貴族達を驚かせた。更には、広告塔になっているクラルスが母親だと知り色々と諦めることになる。

「あれは可憐だわ……」
「頼りになってるわ……」
「「「「「あれ以上は難しいな……」」」」」

そうして、自分たちの娘や妻達を残念そうに見た貴族男性達は、事情を知った女性陣に冷たくあしらわれ、その機嫌を取るためにまたセイスフィア商会で散財することになる。

なにはともあれ、セイスフィア商会の王都支店の経営も絶好調だ。









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読んでくださりありがとうございます◎
次回、新章です!

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