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ミッション10 子ども達の成長

405 良いじゃん良いとこどり

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それぞれの屋敷では黒子や騎士達が応戦しており、見たところ制圧できそうではある。しかし、いくつもの場所を同時に襲われているというのは普通ではない。

「窓口であるトクラ侯爵がこれを発動させたということは、危機的状況になった……彼らの存在がバレる可能性があるということだ。だから、魔導具を回収しようとしたんだろう」
「同じように反応する石を彼らが持っていたということか」
「……どれも、あの本のような魔導具があった屋敷だな……」

リゼンフィアは注意深く見て、それに気付いたようだ。

「ああ。アレを回収したいんだろう。けど、奴らの想定外だったのは、その全ての家に騎士が居たことだ」
「確かに、今回のまとめての審判がなければ、彼らは容易く、警備もそれほど気にせず回収できただろうな……」
「闇ギルドが先に落ちるとは思ってなかったんだろうよ」

商業ギルドのタルブにしても、フィルズに売った場所が闇ギルドのものだと知っていた。そこを買い取ったとしても、ノコノコと顔を出したセイスフィア商会の者達を闇ギルドが排除するだけだと思っていたのだ。それで泣きを見れば良いと思っていた。

誰も、あの闇ギルドが潰されるとは考えてもみなかったのだ。賢者の遺物なんてものを持っているような組織が世界中に張り巡らせた情報網でも、潰れるはずがないという先入観で誤魔化された可能性は高い。

仮に本拠地にいなくなっていても、あの闇ギルドの者達ならば、どこかに移り、新たに拠点を作っているだろうと思われただろう。

「向こうはとりあえず心配なさそうだな。捕まえてみないと雇われかどうかも分からないし」
「任せて大丈夫なのか? 確かにあの黒いのは頼りになりそうだが」

ファスター王は映像を少し心配気に見ていた。

「さすがに、賢者の遺物を使われたら負けるかもしれんが、そうそう数もないだろう。それなら、奴らが遅れを取ることはないよ。誰が鍛えてると思ってんだ」
「誰って……まさか……」
「「……」」

侯爵を縛っていた黒子や、色々と情報を喋ったことで反抗することはないだろうと判断された侍従に解毒薬を飲ませている黒子にファスター王が気の毒そうな視線を送る。それを受けた黒子達は、その視線を流すように、そっと顔の向きを変えていた。

「ばあちゃんだけじゃなく、スピじい達も混ざってるから、こいつら相当やるぜ?」
「あ、うん……頑張ってくれ……」
「「……」」

しっかり魔改造されている黒子達。懐に居た鳥達に癒しを求めて撫でている手が見えた。

「まあ、ということで、問題はこっちだ。スイル姐!」

後ろの方に向かって、フィルズは声を張り上げるようにその名を呼ぶ。

「なんだい? フィル」

辺境伯の当主代理として、スイルは女性でありながら許可を得てこちらに出席していた。ドレスではなく、乗馬服のようにも見えるズボン姿。男装の麗人と言っても良いだろう。歩いてくる姿は、誰の視線をも釘付けにする舞台役者のようだ。

因みに、夫である本来は当主であるケトルーアは、いつもは大聖女レナの護衛をしている娘のアルシェと共にホールの方で今回の騒動を見物していた。

「悪いんだけど、メルナ妃の護衛を頼めないか? ちょい色々と調整するのに二、三日欲しくて」
「私は構わないよ」
「助かる! いやあ、女騎士が居たら良かったんだが、中途半端なのしかいなくてさあ」

そこで、会議室に入って来たラスタリュートが怒鳴る。

「ちょっと! フィル君! その中途半端って私のことじゃないでしょうねっ」
「え? そうだけど? ラスタは中間だろ? どっちもの良いとこどり」
「どんな認識よ!」
「なんで? 良いじゃん良いとこどり。どっちつかず。俺は好きだけど? その時々で臨機応変にするんだろ? その方が手が多いってことで、頼りになるし」
「っ、そう言われると……良い気がしてくるわ。それに、フィル君に頼りになるって言われちゃったんだけどっ。上がるわあっ」

ドキドキしちゃうなんて言いながら、目を輝かせるラスタリュート。彼としては、フィルズが自分の生き方、在り方を肯定してくれたのだと思えて心から喜んでいただけなのだが、冗談が通じないのがリゼンフィアだ。

「っ、フィル!? ダメだ! 目を醒ましてくれ!!」
「え? いきなりなんだよ。別に問題ないだろ」
「問題大有りだ! 頼りになるなんてっ……」

リゼンフィアが何を心配しているのかフィルズは察した。

「いや、さすがに母親とか父親みたく思ってるわけじゃねえけど?」
「っ、ち、父親っ!? それの方が大問題だっ」
「うん。だから、違うから問題ねえだろ?」
「………………確かに」
「「……」」

熟考の末、リゼンフィアは落ち着いた。リゼンフィアとしては、『慕われる父親』を目指しているので、その座を脅かされない限り、怒る程ではないと思っている。まだまだそれ以前の問題なのだが、それを指摘するのはラスタリュートもファスター王もやめておいた。

今回はフィルズを自身の息子だと宣言できた事で、かなり興奮気味なのも、気付いていない振りで通す。

「話がズレたな。ってことでスイル姐、ばあちゃんと交代で三日くらいメルナ妃の護衛頼むわ」
「おや。武神殿と一緒とはね。任せてくれ」
「ありがと。代わりに、最速魔導車で帰りは送るし、食事もウチから出す。余裕が出来たら屋敷にも泊まってくれ」
「それは最高の待遇だねえ。甘えさせてもらうよ。今から行こうか?」
「ああ。ホールの方に寄って、ケト兄に会ってから行ってよ。ファシー、トールに案内頼んでも?」
「構わんぞ」

あっさり許可が出る。近衛騎士として戻っていたトールは、スイルが初恋だ。それをずっと拗らせていた。しかし、ようやく吹っ切れて次に行けたのだ。その報告もするには良い機会だろう。

「久しぶりだな。近衛に戻ったのか。アレからどうだったんだい? 彼女は口説き落とせたか?」

スイルへの未練もキッパリ、スッパリ諦めた所で、新たな恋をしたトール。商会の仕事を手伝っていた彼は、辺境伯領に営業に行くこともあり、そこで新たな恋をしたのだと、友人関係となったスイルやケトルーアに恋愛相談をしていたのだ。

「その報告がまだでしたね。歩きながら話しましょう」
「ああ。ではフィル。またな。そうだっ。コッペパンは美味しかったよ。是非早急に、ウチの領の支店でも販売を頼むよ」

ウインクをしてスイルがそう催促をした。これにフィルズは笑顔で返す。

「了~解っ。というか、明日には店に並べるように指示しておいた」
「さすがはフィルだ! 感謝するよ」
「ははっ。こっちは商売だからさ」
「なら、感謝は売り上げに貢献することで示すとしよう」
「姉ちゃんかっこよすぎ。是非よろしく」

そんな会話をして、スイルは一つ手を振りトールと共に会議室を出て行った。それを見送って、フィルズはトクラ侯爵を見る。

「さてと、あんな勢いでくるってことは、コイツらを入れられる外からの干渉を避けられる牢を用意しねえとな……」

そうフィルズはうんざりしたように呟いた。







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読んでくださりありがとうございます◎



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