趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション10 子ども達の成長

403 そんな訳あるか!!

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フィルズは、縛られた侍従を会議室に投げ込む。それは丁度、トクラ侯爵の前だった。

「失礼する」
「っ、な、んだ!?」

会議室では、まだ昼休憩中。侯爵もコッペパンに衝撃を受けており、いかに今後これを手に入れていくかを真剣に考えている所だった。

侯爵は、飛んできて転がされたのが人で、自身の侍従だと確認でき、顔を上げる。しかし、その後現れたのがフィルズだ。成人前の子どもが何だと立ち上がった。

「何者だ! ここは子どもの来るところではないぞ!」
「うるせえよ。それよりそいつ、あんたの所の侍従で間違いないよな?」
「っ、だったらなんだと言うのだ!?」
「はあ……おい。お前は、こいつの侍従で間違いないか?」
「っ……」

侍従の方にも尋ねるが、フィルズに向けられる目には恐怖があり、喋りそうになかった。

「貴様! だからなんだと言うのだ!!」
「黙れ。聞かれた事だけ答えろ」
「なんだと、貴様! 私を誰だと思っている!」

唾を飛ばしながら怒鳴る侯爵に、フィルズもキレた。

「あんたが既に罪人だってのは知ってんだよ。あんたには立場なんてものはない。はっきり言ってやろう。罪人と判断が下った時点で、あんたは最底辺の人間に成り下がってんだ」
「なっ! 私が罪人だと!?」
「はあ、クソ面倒くせえ……っ、こっちは急いでんだよ。証拠映像を全部出せ!」

その言葉で、映像が切り替わる。

「っ、なっ、なんっ!?」

そこには、怪しげなる奴らと取り引きしている姿や、メルナ妃と話をしながら、薬を手渡す映像。子ども達を蹴り飛ばしたり、使用人らしき者達を怒鳴る映像、更に、今回金の腕輪を嵌められた者達と密会し、物や金をやり取りする映像など、いくつも切り替わり、声も聞こえていた。

「っ、トクラ侯爵! あれはどういうことですか!」

映像を指差し、貴族達が声を上げる。

「こちらも説明してください! 先ほどの取り引き相手! アレは詐欺師として手配をかけた者です! その詐欺師から金を受け取っているなど! 明らかにおかしいではありませんか!」
「あいつが捕まらなかったわけですっ……あなたが庇っていたのか!」

間違いなく詐欺師の協力者だろうと分かる状況映像だった。

「あの瓶……っ、あの色……っ、アレは毒ではないのですか!!」
「うちで取り押さえた者が持っていた毒薬と同じ瓶、色っ……この国では手に入らない毒のはず! あんな特殊な形の瓶も、薬の色も! 見間違えるはずがない!」

瓶の形状は、丸い部分が三つ。その三つの膨らみある場所の薬の色の濃さが違う。それも薬の色は鮮やかなピンクだ。

「っ、知らん! あんなもの、でたらめだ! あれは私ではない!」
「「「そんな訳あるか!!」」」
「ぐっ」

口答えなどされることがなかった侯爵は、糾弾する貴族達にいつの間にか囲まれていた。

睨み付ける貴族達。孤立無援であることに気付き、侯爵も言い訳が思いつかないのだろう。少しの間、沈黙が下りる。そこをフィルズは逃さない。

「なあ、あんたが取り引きしていたこいつら」

隠密ウサギに指示を出して、いくつかの停止した映像を見せる。薬やなんらかの魔導具らしきものや、お金をやり取りしている相手。

それは行商人に見えた。

「何者だ? コイツに持たせていたこの魔導具……」

コイツと呼んで、侍従に視線を落とす。

「これも、こいつらから受け取っているだろう。こいつらはなんだ? 何だと名乗っていた?」
「なぜ、貴様のような子どもにそんなことを教えねばならんのだ! 大体、どこの誰の子どもだ!」

フィルズのことは、子どもと見て反論する余地があると思ったのだろう。勝てると見込んだようだ。そこで、フィルズが名乗ろうとしたのだが、それより先に、動いた者がいた。

「私の子だ。罪人ごときが、よくも私の息子に楯突いてくれたな!」
《ガルルルルルゥゥゥ》
「「「「「っ、え……」」」」」

リゼンフィアが肩を怒らせながら下りてきていた。その隣りには、成体の姿になったライデンが唸りを上げながらビリビリと周辺の空気を光らせている。

「おいおい……」

ライデンもだが、リゼンフィアもかなりイラついているようだ。まさか、怒って前に出てくるとは思わなかった。

「む、息子……だと?」
「そうだ。さっさと私の息子の質問に答えろっ」
《ガルルルルッ》
「ひっ」
「答えろと言っている」

バチリと、トクラ侯爵の周りで光がいくつか弾ける。詰め寄っていた貴族達は、すぐに距離を取っていた。誰も助けてはくれないと理解している侯爵は、ようやく口を割った。

「っ、ぎ、行商人だ。け、賢者の……い、意志を継ぐ者だと……っ、偉大な賢者の遺物は、貴族が使ってこそ、意味があるからと!」
「賢者の……」

リゼンフィアは眉根を寄せ、フィルズを見る。フィルズは、納得したような顔をしていた。

「はっ、なるほどなあ」
「どういうことだ? フィル」
「ん? ああ。そいつらが、本当に賢者の意志を継ぐ者だってなら、今のこの状況を望んだんだろう。侯爵は、この国の窓口にされたんだ」
「窓口?」

リゼンフィアは顔を顰めてその意味を考える。ここで、ファスター王も下りてきていた。









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