趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

文字の大きさ
上 下
195 / 226
ミッション10 子ども達の成長

402 もう少し踏ん張れ!

しおりを挟む
リーリルにキヨラを託して正解だったと微笑ましげに見てから、フィルズはラスタリュートに声をかける。

「こいつらの尋問は任せていいか?」
「もちろんよ。けど、いいの? 確認したいこととかあるんじゃない? というか、そんなに大した相手でもなかったわね」

それなりの力量はありそうだが、王宮に忍び込んでまで仕事をしようとする者としては、力不足だったように感じたようだ。

「持ってた魔導具が厄介そうだったからな。それを見込んでの力量だったんだろう」
「そういうこと……」

恐らく、忍ばせていた魔導具が使えれば、かなり厄介な相手になっていた。しかし、それを使えなくしたために、レベルが落ちたのだろう。

「こいつらがどれだけ有益な情報を持っているかは知らんが、特殊な魔導具がありそうだし、どこからどう受け取ったかくらいは吐くだろう。それで今は充分だ。それより……ジュエル。どうした?」
《クキュゥ!》

部屋の外の壁に引っ付いていたはずのジュエルは、トカゲのように動いて部屋の中の壁に移動していた。声をかけたのは、何か言いたそうだったから。どうやら、会議場の方で何かあるようだ。

《キュッ! クキュ!》
「リュブラン達の方だな? 分かった。ジュエルは、とりあえずこのままここで待機してくれ」
《キュウ!》
「ラスタ! 会議場の方に行く。怪しいのが居るらしい。何人か後で寄越してくれ!」
「分かったわ!」

フィルズは、会議室の方へと駆ける。服装は貴族の令息らしいものに見える。知らない騎士達も見咎めないだろう。

そうして、たどり着いた会議室の手前の通路。そこで、リュブランやカリュエル、リサーナが戦っていた。

「リュブラン!」
「フィル君! こいつら突然現れて!」

人数が多い。トラのレッカやウサギの侍従、侍女のトマとユマも戦っているので、それほど苦戦はしていないように見えるが、様子がおかしい。

「なんなの!? 痛みを感じていないのかしら!?」
「そんな感じだねっ!」
「フィル君! これどうなってるか分かる!?」

リサーナやカリュエルも、戦えている。しかし、明らかにもう動けないはずの痛みのありそうな状態にしても、変わらず立ち向かってくるので、気味が悪い。

「これ以上はっ……」

さすがに命を奪いたくはないと、リサーナが苦々しげに顔をしかめる。

そこで、フィルズは物陰に隠れて居る者に気付いた。

「っ、もう少し踏ん張れ!」

それだけ言って、フィルズは、反対側に行くために、リュブラン達を避けるように壁を蹴って飛んだ。そして、物陰に隠れていた男と目が合った。

「っ!?」
「お前か!」

その手には、黒い玉があり、それを叩き落とすようにしてから、男を殴った。

「おら!」
「ぐふっ!」

倒れた男を、どこからともなく現れた黒子が取り押さえにかかる。気絶している内にと、口の中や懐など、全てチェックを終えると、手を後ろで縛る。足もという所で、フィルズは気付いた。

「こいつ、トクラ侯爵家の侍従だな」
「はい。マークしていた侍従で間違いありません」
「なら、ちょい侯爵にも聞いてみるか」

目を細めて黒子によって縛られていく侍従を見下ろす。

「薬は弱めでいい」
「はい」

さすがに、舌を噛まれるのは良くない。しかし、意識がはっきりしなくなるのは困る。そこを見極めて投薬する。もちろん、体調や体質によっても効きは違うが、多少は調整が効くので任せている。

リサーナ達が歩み寄ってくる。

「どうなっているの? あの人たち、突然同時に倒れたわよ?」
「唐突に意識を失ったようだった……」

リサーナとカリュエルは、倒れた者達のいる後ろを気にしながら問いかけてきた。

「こいつが魔導具で操っていたようだ」
「……そんなことができるのか……」

カリュエルは目を丸くして縛られている男を見る。そして、その正体に気付いた。

「ん? こいつ……あの女の……」

忌々しそうに見るカリュエル。それに気付いて、リサーナも目を向ける。そこに、倒れた者達の様子を確認していたリュブランが近付いてくる。

「間違いありませんわ! トクラ侯爵家の侍従! あの女と会っているのを何度か見たことがありますわ。『お父様からの遣いよ』って」
「トクラって、メルナ妃の実家の? なんでそんな人がこんなことを……」

リュブランは話を聞いていたようだ。不思議そうに拘束された侍従を見ている。

「それを確認するんだよ。こんな魔導具は、そうそうないしな。出所をはっきりさせるのに、その侯爵とやらに話を聞けそうだ。そいつ連れて行くぞ」
「こちらはどうされますか?」

黒子の問いかけに、フィルズが答える。

「騎士達が後から来る。一応、軽く拘束して、牢に入れてもらおう。俺は、会議室に行く」
「承知しました」

そうして、侯爵に直接話を聞くため、会議室へと拘束した侍従を引きずって乗り込んだのだ。








**********
読んでくださりありがとうございます◎





しおりを挟む
感想 2,283

あなたにおすすめの小説

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。