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ミッション10 子ども達の成長

395 楽しみにしている

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上映が終わると、知らず詰めていたのだろう、息を吐き出す音がそこここで聞こえた。それは広場だけでなく、ホールや会議室でもだ。

時間にして四十分ほど。だが、各修道院での暮らしぶりがよく分かった。

『いかがでしたでしょうか。こうした深い所までの実情は、貴族の方が視察を行ったとしても見ることはなかったでしょう』

これに、会議室にいる貴族達は頷いていた。

『罪を犯した者達が、どのような余生を過ごしているのか、気になっていた方も居たでしょう。これで納得していただけましたでしょうか』
「分かったよー」
「分かりやすかった!」
「ちゃんと反省できる場所だって分かったぜ!」

罪人として捕まった者の末路までは知らなかった者達は多い。中には、胸を撫で下ろしている者もいる。

「本当に、あそこに入ったら出られないんだ……っ、よかった……よかった……っ」
「神官様には、もう会うことはないって聞いてたけど、あれなら安心だわ……」
「あんなに働けって脅してきた奴が、あそこでは働かなけりゃ食っていけないなんてな……あいつには良い薬だぜ」
「あの子もあそこから出てきたら……少しはまともになっているのかねえ……」

案外、身近に犯罪者がいたようだ。そんな人たちにとっては、安心できるものだったようだ。

『では、今回審判を受けた者達の行き先を一気にご報告いたします』

クラルスがメガネを少し上げて、手元にある資料をめくって前に出る。

『今回の方達は、ご紹介いたしました四つの修道院のどれかに入ることが決まっております。では、まずサフール修道院……』

スクリーンにサフール修道院が映り、それが右上に小さく表示されると、残った場所に顔写真がスライドしていく。

そうして、全ての者が修道院に割り振られるようにして、行き先が発表された。

これに、人々は納得の表情を浮かべている。当然ではある。神官達が正しく罪を精査し、神にも確認しながら答えを出しているのだから、間違いようがない。

因みに、タルブは教会本部の修道院行きだった。

極めて悪質な部分があったが、今回の審判では、凶悪犯という者は居なかった。最期に魂が消滅するほどの罪深い者はいない。よって、監獄の別名を持つデルト修道院行きの者は居なかった。

それでも誰もが納得したのは、大半がこの先、一生修道院の敷地内から出られず、自由がなくなることが分かったから。数年で出て来られる者達も、今までのような暮らしはできず、苦労することが分かりきっていた。それだけでほとんどの者が溜飲を下げたようだ。

『後日、順次それぞれ出発することになります。この護送には、万全を期すため、教会所属の聖騎士だけでなく、国の騎士、そして、上級冒険者の方々に護衛をお願いすることになっております』
「逃げられる心配もなさそうだね」
「寧ろ贅沢……」
「邪魔しようとする奴らもいないよな……」

安心してくれたようだ。

『最後に、こちらの方々の御言葉をちょうだいいたします』

こちらと言って、リーリルは空へ向かって手を伸ばす。

その先に、光の渦が生まれ、そこから歩いてくる人が一人、その隣に金色のホワイトベアーのような大きなクマに乗った人が一人。

「……え……」
「……っ……うそだろ……」
「……ほ、ほんもの……っ」

空中からゆっくりと舞台に滑り降りてきたのは、主神リザフトと金のクマに乗った第二神の女神リューラだった。

この時、フィルズはジュエルとの約束通り、ビズに乗って、広場の上空に居た。

予定では、もう少し後に来るつもりだったのだが、修道院のドキュメント映像を見始めてすぐの頃に、突然談話室に現れたリザフトに頼まれたのだ。

それも、フェンリル三兄妹のハナだけを抱えて。

「悪いな。ハナ。じゃあ、リザフトとリューラの周りに結界を頼む」
《キュン!》

ハナの結界が、舞台に到着する直前のリザフトとリューラを囲む。不可視にしているので、見た目は全く変わらない。けれど、フィルズやリーリル、神殿長達には、威圧にも似た神気が抑えられたのが分かった。

広場に居る人々は、驚きの衝撃から、それが神気であることも、威圧を受けていると感じることもなかったようだ。

「よし。コントロールもばっちりになったな。えらいぞ、ハナ」
《キュンっ》

よしよしとフィルズはハナを撫で、ビズに移動するように声をかける。

「ビズ。後方の、広場の入り口の辺りまで下がるぞ」
《フシュンっ》

鼻を鳴らし、ビズは後方に移動した。流石にリザフト達を見下ろしていたくない。フィルズ達は今、ハナの結界で少し見えにくくしているので、空を見上げたところで、人々の目には留まらない。そこは安心している。

スピーカーからは、リザフトの声が聞こえていた。

『わたしは主神リザフトだ。最初に、今回の審判に間違いはなかったと伝えておこう』
『わたくしは、生命を司るリューラよ。神々を代表して、断言します。情報にも嘘偽りはなかったわ』
「「「「「わぁぁぁぁっ」」」」」
「「「「「おぉぉぉぉっ」」」」」

地鳴りのように、人々の大きな声が響いた。それは、この審判を開いた商業ギルドや運営側に対する賞賛と、誤解のないようにと、この場を用意してくれたことへの感謝を示す声だった。

『今回は罪のない者達が謂れなき中傷に苦しんでいた。この場は、それを正そうと用意されたものだと聞いている。よくやってくれた』
『冤罪はもちろんですが、誤解であっても、それが正義だと思い込み、それによって本来ならば生まれなかった罪人を作ることにもなります。それを止めようとしてくれたこと、嬉しくお思います。よくやりましたね』

リザフトとリューラは、舞台上で膝を突くリーリルや商業ギルドの代表達、神殿長と大聖女レナを見回し、微笑んで褒めた。

それを受けて、静かに頭を深く下げて応えた。リザフトとリューラは満足げに頷いて、再び観客達の方へと顔を向ける。

『これの礼に、この場で皆が不安に思っていることを一つ教えておこう』

静かに、息も止めるかのようにして、人々はリザフトを見つめた。

『我々が与えた加護は可能性を示している。よって、その可能性が完全に潰えたと我々が判断したのなら、加護は消える』
「「「「「っ……」」」」」

続きを、隣に控えて座っているクマを撫でながら、リューラが告げた。

『けれど、逆に考えてみて。わたくし達は、可能性を見るの。だから、努力の先にその可能性が見えたなら、それに見合う加護を与えることもあるのよ』

これを聞いて、人々は頭の中で何度もその言葉の内容を噛み砕く。そして、誰かが呆然と呟いた。

「……増えることもある……?」
『そうよ。可能性を潰さなければ、加護は確かなものになるし、あなた方が更に新たな可能性を示せば、増えていくの。取り上げるだけではないのよ』
『もちろん、そうそう加護を取り上げたりしない。完全に可能性が消え、我々の期待を裏切った場合にのみ、取り上げる。加護の力は薄くなるが、ただ単にその道から逸れただけならば、そのままだ』
「じゃあ、加護が消えた奴らは……っ」
『我々の期待を裏切ったということだ。だが、間違いを正し、再び可能性を示すのなら……我々とて考え直しても良いと思う』
「「「「「っ!!」」」」」

罪に問われなかった商家の者達は、目を丸くして涙を流した。加護が消えた事を確認し、後悔していた者達だ。中には、取り返しのつかないことではなかったことで、ほっとしてうずくまってしまう者もいたようだ。

『どうか、今一度、自らを見つめ直してみて欲しいわ。わたくし達は、いつでもあなた方を見ているから』
『多くの可能性を示してみてくれ。それを楽しみにしている』

それだけ言って、二人はゆっくりと光を発して姿を消した。








**********
読んでくださりありがとうございます◎
最新第6巻!
いよいよ来週18日に出荷予定です。
早い書店さんでは翌日に入荷すると思います。
また特別にSSが付いている書店さんもあります。
この機会に本屋さんを覗いてみてください◎
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