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ミッション10 子ども達の成長
392 誰だったの?
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フィルズの指示は、この部屋を担当するクマがすぐに現場の黒子のいっちゃんの肩にとまっている鳥に伝えている。
「ジュンナ! 救急車と魔導車の手配を。出せるならすぐに出してくれ」
この談話室の担当のクマの名はジュンナ。白色の毛で、ジャケットも白。銀色のキラキラとした小さな髪飾りのようなシルクハットをつけている。そして、腰で縛る白いエプロンをしている。
《了解でありま~す! お伝えしました……配車手配完了です。ゼセラ様が同道されるとのこと、三分後に発車しま~す》
「よし」
「え、早っ」
救急車を知るセルジュが思わず声を上げていた。
「え? え?」
「いったい何が……」
「……っ……すごい……っ」
事情がまったく分からないユゼリアとワンザは戸惑うだけ。しかし、エンリアントは、キラキラと目を輝かせていた。
「奴隷の移送となると……ジュンナ、隠密ウサギのブランドに、ファシーへの伝言を頼む。うちで手を出すことの許可を……一筆書いてもらってくれ」
保護は国がすることになる。そうなると、支援さえ難しくなるものだ。連れ出すなんてことはもっと無理だろう。こちらが自由に動く許可はもらっておきたい。
《お伝えしま~す! ん~……書いてもらったものは、シャルテちゃんが、外まで運びま~す! 伝書便を待機させま~す》
「ああ、最速で届けてくれ」
《頑張ってもらいま~す》
「頼んだ。それと、無理をしても今回保護された奴らは、早急に一箇所に集める。そうだな……距離と、設備を考えると……カールト侯爵領が良いか」
《ファスター様とバルトーラ様にお伝えしま~す》
言わなくても理解してくれたようだ。
カールト侯爵領には、前当主のトランダや当主のバルトーラが早くからセイスフィア商会に出入りしていたこともあり、領地にゼセラとフーマから指導を受けた医療施設や広い公園の整備などにいち早く取り組んでいた。これにより、臨時のキャンプ地をすぐに用意できる。そこでの医療活動も可能だろう。
《魔導車もこちらから出しますが良いですか?》
「もちろんだ。移送のためペルタに出てもらってくれ」
《了解でありま~す》
面倒見の良いペルタ達ペンギン部隊が行けば、スムーズに医療活動も進むだろう。何より、警備も強化できる。いくら関係していたであろう闇ギルドが潰れたとはいえ、どこに何が潜んでいるか分からない。保護した者達に何かあるのが一番よくない。
「黒子達も、調査が終わり次第、カールト侯爵領に移動。警護に加わるように」
《……お伝えしました~。了解とのことで~す》
「よし。あとは……そうだ。セクラ伯爵家の方はどうなってる」
《ん~……救出成功。ですが、状態が悪そうです。今は教会の方に保護してもらっていま~す》
「なら……広場でのアレが終わり次第、神殿長に一筆書いてもらってくれ。こっちも、カールト侯爵領に移送する。セラばあがいるならその方が良い」
《了解しました~》
フィルズはようやく落ち着いて椅子に座り、通達と同時進行でお茶を淹れ直してくれていたジュンナからそれを受け取り、息を吐く。
「はあ……焦った」
「誰だったの?」
今はもう、映像は切り替わっており、広場では今回のトリ、王都の商業ギルド長であったタルブが一人、舞台の中央に立たされていた。
震えているのが分かる。タルブの様子を何となく見ていたフィルズは、チラリとユゼリアを見てから机の隅にあるファイルの一つを引き寄せる。それから、ユゼリア達を呼んだ。
「ユゼリア、ワンザとエンリアントも、こっちで一緒に見るといい」
「あ、うんっ」
「はい……?」
「はい!」
ユゼリアはソワソワと気になる様子を見せていた。彼は知る必要があるものだ。
三人が集まってきたので、隣の空いているテーブルにセルジュがフィルズから受け取ったファイルを持って移動した。
「こっちで見ましょう。えっと……調査報告書? あっ、え!? ユゼリア殿下の実の両親の報告書!?」
「っ、私の……っ」
「っ……」
「っ……見つかっていたのですか……」
そうして、それぞれが驚いた後、ゆっくりとそれを読み込んでいった。そこで、最初に察したのは、エンリアントだった。
「……先ほどの、牢にいた女性が殿下の母親……メルナ妃の異母妹なのですね?」
「そうだ。さすがにスーニア伯爵家の方はノーマークだった。あそこまでは、こっちの調査もまだ入っていなかったんだ。探させてはいたんだがな」
居るとすれば、父親である侯爵が関係する場所だと思って、その周辺を探らせていたのだ。よって、発見できなかった。
「では……教会の方に保護してもらったというのは、父親の方ですか」
「っ!!」
「そうだ。こっちは、生家での監禁だった。これはかなり前から分かっていて、どのタイミングで接触するかという所だった。今回の当主を連れ出せる時の方が、色々と面倒がないと思って、ここに合わせたんだ」
「そうでしたか……」
エンリアントは、納得したと言うように、何度か頷いた。セルジュとワンザは、資料に目を落としたままになったユゼリアを心配そうに見つめる。そして、しばらくして、ユゼリアは口を開いた。
「あの……二人の所に……カールト侯爵領に行けないでしょうか……」
顔を上げ、ユゼリアは真っ直ぐにフィルズを見て答えを待った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
お待たせいたしました!
今月、第6巻が発売されます。
今回は番外編を書き下ろさせていただいています!
楽しんでいただけたらと思います。
来週頭くらいから書店での予約も始まりますので
確実に手に入れたいという方はご予約お願いいたします!
コミカライズも先日最新話が公開されています。
そちらもお楽しみください。
では、今回は書影を公開いたします。
「ジュンナ! 救急車と魔導車の手配を。出せるならすぐに出してくれ」
この談話室の担当のクマの名はジュンナ。白色の毛で、ジャケットも白。銀色のキラキラとした小さな髪飾りのようなシルクハットをつけている。そして、腰で縛る白いエプロンをしている。
《了解でありま~す! お伝えしました……配車手配完了です。ゼセラ様が同道されるとのこと、三分後に発車しま~す》
「よし」
「え、早っ」
救急車を知るセルジュが思わず声を上げていた。
「え? え?」
「いったい何が……」
「……っ……すごい……っ」
事情がまったく分からないユゼリアとワンザは戸惑うだけ。しかし、エンリアントは、キラキラと目を輝かせていた。
「奴隷の移送となると……ジュンナ、隠密ウサギのブランドに、ファシーへの伝言を頼む。うちで手を出すことの許可を……一筆書いてもらってくれ」
保護は国がすることになる。そうなると、支援さえ難しくなるものだ。連れ出すなんてことはもっと無理だろう。こちらが自由に動く許可はもらっておきたい。
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「ああ、最速で届けてくれ」
《頑張ってもらいま~す》
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カールト侯爵領には、前当主のトランダや当主のバルトーラが早くからセイスフィア商会に出入りしていたこともあり、領地にゼセラとフーマから指導を受けた医療施設や広い公園の整備などにいち早く取り組んでいた。これにより、臨時のキャンプ地をすぐに用意できる。そこでの医療活動も可能だろう。
《魔導車もこちらから出しますが良いですか?》
「もちろんだ。移送のためペルタに出てもらってくれ」
《了解でありま~す》
面倒見の良いペルタ達ペンギン部隊が行けば、スムーズに医療活動も進むだろう。何より、警備も強化できる。いくら関係していたであろう闇ギルドが潰れたとはいえ、どこに何が潜んでいるか分からない。保護した者達に何かあるのが一番よくない。
「黒子達も、調査が終わり次第、カールト侯爵領に移動。警護に加わるように」
《……お伝えしました~。了解とのことで~す》
「よし。あとは……そうだ。セクラ伯爵家の方はどうなってる」
《ん~……救出成功。ですが、状態が悪そうです。今は教会の方に保護してもらっていま~す》
「なら……広場でのアレが終わり次第、神殿長に一筆書いてもらってくれ。こっちも、カールト侯爵領に移送する。セラばあがいるならその方が良い」
《了解しました~》
フィルズはようやく落ち着いて椅子に座り、通達と同時進行でお茶を淹れ直してくれていたジュンナからそれを受け取り、息を吐く。
「はあ……焦った」
「誰だったの?」
今はもう、映像は切り替わっており、広場では今回のトリ、王都の商業ギルド長であったタルブが一人、舞台の中央に立たされていた。
震えているのが分かる。タルブの様子を何となく見ていたフィルズは、チラリとユゼリアを見てから机の隅にあるファイルの一つを引き寄せる。それから、ユゼリア達を呼んだ。
「ユゼリア、ワンザとエンリアントも、こっちで一緒に見るといい」
「あ、うんっ」
「はい……?」
「はい!」
ユゼリアはソワソワと気になる様子を見せていた。彼は知る必要があるものだ。
三人が集まってきたので、隣の空いているテーブルにセルジュがフィルズから受け取ったファイルを持って移動した。
「こっちで見ましょう。えっと……調査報告書? あっ、え!? ユゼリア殿下の実の両親の報告書!?」
「っ、私の……っ」
「っ……」
「っ……見つかっていたのですか……」
そうして、それぞれが驚いた後、ゆっくりとそれを読み込んでいった。そこで、最初に察したのは、エンリアントだった。
「……先ほどの、牢にいた女性が殿下の母親……メルナ妃の異母妹なのですね?」
「そうだ。さすがにスーニア伯爵家の方はノーマークだった。あそこまでは、こっちの調査もまだ入っていなかったんだ。探させてはいたんだがな」
居るとすれば、父親である侯爵が関係する場所だと思って、その周辺を探らせていたのだ。よって、発見できなかった。
「では……教会の方に保護してもらったというのは、父親の方ですか」
「っ!!」
「そうだ。こっちは、生家での監禁だった。これはかなり前から分かっていて、どのタイミングで接触するかという所だった。今回の当主を連れ出せる時の方が、色々と面倒がないと思って、ここに合わせたんだ」
「そうでしたか……」
エンリアントは、納得したと言うように、何度か頷いた。セルジュとワンザは、資料に目を落としたままになったユゼリアを心配そうに見つめる。そして、しばらくして、ユゼリアは口を開いた。
「あの……二人の所に……カールト侯爵領に行けないでしょうか……」
顔を上げ、ユゼリアは真っ直ぐにフィルズを見て答えを待った。
**********
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今月、第6巻が発売されます。
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