183 / 223
ミッション10 子ども達の成長
390 社交の場になる
しおりを挟む
本当につい口を出してしまった様子だった。
「父や異母妹の話が聞こえてしまって……心から同意したいことでしたので、不躾にもつい聞き耳を立ててしまいました。申し訳ありません」
メルナの異母兄は嫌味なく好感の持てる男だ。メルナとは二つしか違わない。けれど、幼いながらに父親が母を嫌っていることを分かっていたため、早く自立して母の邪魔にならないようにしなければと努力してきた。そうして育った彼は、とても誠実で落ち着いた男性だ。
侯爵家の長男。そうなれば、令嬢達が放っておくはずがない。しかし、父親は野心家だ。どの家との繋がりを持つべきかというのを考えていたようだ。
嫁いでくる女の家に求めるものと、娘が嫁いで行く家に求めるものは違う。だから、時間がかかっていた。母が亡くなった時、彼は父と大喧嘩した。間違いなく、この父が母のことに関わっていると感じたからだ。
そこで大喧嘩の末、母方の祖父に後見をお願いし、婚約者も自分で決めた。父親が謝るはずもなく、そうして成人したと同時に母が持っていた爵位を継いで、さっさと家を独立した。
優しげで大人しげに見えてとても行動派だ。そんな彼は、父親の失脚を常々狙っていたようだ。
今までは一応、あの父親との関係もあるからと、声をかけなかったバルトーラだ。今回のことで、彼が本当に父親である侯爵と決別していることが分かった。
「お話するのは初めてですね」
「はい。ケイル・ラト・セリアートと申します。今後はあの父など気にせずお付き合いしていただければと」
「もちろん。よろしくね。そういえば、近々伯爵に陞爵されるとか?」
「ええ。それに伴い、祖父母の持つ領地をいただくことになりまして。父の妨害もあったのですが……これで早まりそうです」
母親の生家である伯爵家は、母の弟が継ぐことになっていたのだが、まだ祖父母が現役をやれるということで、彼は冒険者として長く活動していた。家を継ぐ気がないことはなんとなく察していたこともあり、それをそのままケイルが継ぐことになっていた。
家名は変わってしまうが、それよりも領地を守ることが重要だ。それをきちんと理解している一族だったのは良かった。
ケイルは改めて視線を細めて前の方を視る。その先には、彼の実の父親がいた。
「あの異母妹の本性を明らかにしてもらえたのも嬉しかったのですが、父のあんな様子を見られるとは思いませんでした。祖父母に見せたかった」
「今日は来られていないので?」
まだ完全に引き継いだわけではないので、当主として彼の祖父も出席するはず。
「最近は体の調子が悪くて……」
心を痛めているのが分かる。それだけ、彼にとって祖父母は大事な存在なのだろう。彼らの代理としての書類も持って今回やって来たらしい。
「おや。それはいけない。よければ、良い医師を紹介しよう。先代国王様と前王妃様が絶賛した方々だ。きっと良くしてくださるでしょう」
「そのような名医が……よろしいのでしょうか」
「構いませんよ。腕輪も銀ですしね」
「これですか?」
チラリとバルトーラは確認していた。ケイルはそれを少し持ち上げて見せる。
「ええ。それで優先的にお願いも効くはず。動けないようなら、車も出してもらえると思うよ」
「え……では、その名医はセイスフィア商会の?」
「公爵領都にある、健康ランド。聞いたことは?」
「いえ……申し訳ない……」
「いやいや。一般の民達も多く利用しているというのもあって、一部の貴族の者は近付き難く思っているようだ。だから、知らなくても無理はない。何より、遠いだろうからね」
一般の民達とも気楽に付き合えるお忍び上手な貴族や、成り上がりと言われるような貴族、それと領民達との交流を厭わない貴族達でなければ、入りずらいだろう。
横暴な者達は、問答無用で追い出されるからというのもある。
そして、離れた領地の者達は、セイスフィア商会の商品は知っていても、施設については知らないのだ。
「まだまだ認知度が低いしね。公爵領周辺で知らない者はいないけど」
「それは気になります……」
「王都にも支店ができたから、明日にでも一緒に行くかい? 奥方も一緒に。そこで治療もお願いしたらいい」
「助かりますが、本当に良いのでしょうか」
「もちろん。あの公爵やメルナ妃が行きたくても行けない場所。気になりませんか?」
父親やメルナには、大いに思うところがあるだろう。そこは正直に答えていた。
「っ……気になります」
「では、そのように。タウンハウスも近かったでしょう。昼を一緒に、あちらのレストランを予約して……十時頃に迎えに行こうか」
「っ、そんなっ、迎えにだなんて」
「いやいや。特別な馬車でね。自慢したいんだよ。クーレもどうだい?」
「え、私も良いのか?」
「こんな事があったんだ。結束を固くしておくのは必要なことだろう。明日はきっと、あそこが一番の社交の場になる。それも、銀の腕輪をした者だけのね」
金の腕輪を嵌められた者は、親族も含めて入れないのだ。
「多分、交流の場所も用意してくれるだろうからね」
「それは、商会が?」
「ああ。商会長はね。王の相談役もやってるんだ。だから、ここは乗っておくべきだよ」
「「……」」
王の相談役をする商会長というのが、ケイルやクーレルトには想像出来なかったようだ。
「おっ、ついに踏み込むみたいだよ」
「え……」
「っ、あれは……」
広場での映像。そこに、ケイルとメルナの実家である侯爵家が映る。
やめろと怒鳴って立ち上がる侯爵は、どこからともなく出て来た黒子姿の者達によって、取り押さえられていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「父や異母妹の話が聞こえてしまって……心から同意したいことでしたので、不躾にもつい聞き耳を立ててしまいました。申し訳ありません」
メルナの異母兄は嫌味なく好感の持てる男だ。メルナとは二つしか違わない。けれど、幼いながらに父親が母を嫌っていることを分かっていたため、早く自立して母の邪魔にならないようにしなければと努力してきた。そうして育った彼は、とても誠実で落ち着いた男性だ。
侯爵家の長男。そうなれば、令嬢達が放っておくはずがない。しかし、父親は野心家だ。どの家との繋がりを持つべきかというのを考えていたようだ。
嫁いでくる女の家に求めるものと、娘が嫁いで行く家に求めるものは違う。だから、時間がかかっていた。母が亡くなった時、彼は父と大喧嘩した。間違いなく、この父が母のことに関わっていると感じたからだ。
そこで大喧嘩の末、母方の祖父に後見をお願いし、婚約者も自分で決めた。父親が謝るはずもなく、そうして成人したと同時に母が持っていた爵位を継いで、さっさと家を独立した。
優しげで大人しげに見えてとても行動派だ。そんな彼は、父親の失脚を常々狙っていたようだ。
今までは一応、あの父親との関係もあるからと、声をかけなかったバルトーラだ。今回のことで、彼が本当に父親である侯爵と決別していることが分かった。
「お話するのは初めてですね」
「はい。ケイル・ラト・セリアートと申します。今後はあの父など気にせずお付き合いしていただければと」
「もちろん。よろしくね。そういえば、近々伯爵に陞爵されるとか?」
「ええ。それに伴い、祖父母の持つ領地をいただくことになりまして。父の妨害もあったのですが……これで早まりそうです」
母親の生家である伯爵家は、母の弟が継ぐことになっていたのだが、まだ祖父母が現役をやれるということで、彼は冒険者として長く活動していた。家を継ぐ気がないことはなんとなく察していたこともあり、それをそのままケイルが継ぐことになっていた。
家名は変わってしまうが、それよりも領地を守ることが重要だ。それをきちんと理解している一族だったのは良かった。
ケイルは改めて視線を細めて前の方を視る。その先には、彼の実の父親がいた。
「あの異母妹の本性を明らかにしてもらえたのも嬉しかったのですが、父のあんな様子を見られるとは思いませんでした。祖父母に見せたかった」
「今日は来られていないので?」
まだ完全に引き継いだわけではないので、当主として彼の祖父も出席するはず。
「最近は体の調子が悪くて……」
心を痛めているのが分かる。それだけ、彼にとって祖父母は大事な存在なのだろう。彼らの代理としての書類も持って今回やって来たらしい。
「おや。それはいけない。よければ、良い医師を紹介しよう。先代国王様と前王妃様が絶賛した方々だ。きっと良くしてくださるでしょう」
「そのような名医が……よろしいのでしょうか」
「構いませんよ。腕輪も銀ですしね」
「これですか?」
チラリとバルトーラは確認していた。ケイルはそれを少し持ち上げて見せる。
「ええ。それで優先的にお願いも効くはず。動けないようなら、車も出してもらえると思うよ」
「え……では、その名医はセイスフィア商会の?」
「公爵領都にある、健康ランド。聞いたことは?」
「いえ……申し訳ない……」
「いやいや。一般の民達も多く利用しているというのもあって、一部の貴族の者は近付き難く思っているようだ。だから、知らなくても無理はない。何より、遠いだろうからね」
一般の民達とも気楽に付き合えるお忍び上手な貴族や、成り上がりと言われるような貴族、それと領民達との交流を厭わない貴族達でなければ、入りずらいだろう。
横暴な者達は、問答無用で追い出されるからというのもある。
そして、離れた領地の者達は、セイスフィア商会の商品は知っていても、施設については知らないのだ。
「まだまだ認知度が低いしね。公爵領周辺で知らない者はいないけど」
「それは気になります……」
「王都にも支店ができたから、明日にでも一緒に行くかい? 奥方も一緒に。そこで治療もお願いしたらいい」
「助かりますが、本当に良いのでしょうか」
「もちろん。あの公爵やメルナ妃が行きたくても行けない場所。気になりませんか?」
父親やメルナには、大いに思うところがあるだろう。そこは正直に答えていた。
「っ……気になります」
「では、そのように。タウンハウスも近かったでしょう。昼を一緒に、あちらのレストランを予約して……十時頃に迎えに行こうか」
「っ、そんなっ、迎えにだなんて」
「いやいや。特別な馬車でね。自慢したいんだよ。クーレもどうだい?」
「え、私も良いのか?」
「こんな事があったんだ。結束を固くしておくのは必要なことだろう。明日はきっと、あそこが一番の社交の場になる。それも、銀の腕輪をした者だけのね」
金の腕輪を嵌められた者は、親族も含めて入れないのだ。
「多分、交流の場所も用意してくれるだろうからね」
「それは、商会が?」
「ああ。商会長はね。王の相談役もやってるんだ。だから、ここは乗っておくべきだよ」
「「……」」
王の相談役をする商会長というのが、ケイルやクーレルトには想像出来なかったようだ。
「おっ、ついに踏み込むみたいだよ」
「え……」
「っ、あれは……」
広場での映像。そこに、ケイルとメルナの実家である侯爵家が映る。
やめろと怒鳴って立ち上がる侯爵は、どこからともなく出て来た黒子姿の者達によって、取り押さえられていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
3,363
お気に入りに追加
14,769
あなたにおすすめの小説

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。


王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。