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ミッション10 子ども達の成長
390 社交の場になる
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本当につい口を出してしまった様子だった。
「父や異母妹の話が聞こえてしまって……心から同意したいことでしたので、不躾にもつい聞き耳を立ててしまいました。申し訳ありません」
メルナの異母兄は嫌味なく好感の持てる男だ。メルナとは二つしか違わない。けれど、幼いながらに父親が母を嫌っていることを分かっていたため、早く自立して母の邪魔にならないようにしなければと努力してきた。そうして育った彼は、とても誠実で落ち着いた男性だ。
侯爵家の長男。そうなれば、令嬢達が放っておくはずがない。しかし、父親は野心家だ。どの家との繋がりを持つべきかというのを考えていたようだ。
嫁いでくる女の家に求めるものと、娘が嫁いで行く家に求めるものは違う。だから、時間がかかっていた。母が亡くなった時、彼は父と大喧嘩した。間違いなく、この父が母のことに関わっていると感じたからだ。
そこで大喧嘩の末、母方の祖父に後見をお願いし、婚約者も自分で決めた。父親が謝るはずもなく、そうして成人したと同時に母が持っていた爵位を継いで、さっさと家を独立した。
優しげで大人しげに見えてとても行動派だ。そんな彼は、父親の失脚を常々狙っていたようだ。
今までは一応、あの父親との関係もあるからと、声をかけなかったバルトーラだ。今回のことで、彼が本当に父親である侯爵と決別していることが分かった。
「お話するのは初めてですね」
「はい。ケイル・ラト・セリアートと申します。今後はあの父など気にせずお付き合いしていただければと」
「もちろん。よろしくね。そういえば、近々伯爵に陞爵されるとか?」
「ええ。それに伴い、祖父母の持つ領地をいただくことになりまして。父の妨害もあったのですが……これで早まりそうです」
母親の生家である伯爵家は、母の弟が継ぐことになっていたのだが、まだ祖父母が現役をやれるということで、彼は冒険者として長く活動していた。家を継ぐ気がないことはなんとなく察していたこともあり、それをそのままケイルが継ぐことになっていた。
家名は変わってしまうが、それよりも領地を守ることが重要だ。それをきちんと理解している一族だったのは良かった。
ケイルは改めて視線を細めて前の方を視る。その先には、彼の実の父親がいた。
「あの異母妹の本性を明らかにしてもらえたのも嬉しかったのですが、父のあんな様子を見られるとは思いませんでした。祖父母に見せたかった」
「今日は来られていないので?」
まだ完全に引き継いだわけではないので、当主として彼の祖父も出席するはず。
「最近は体の調子が悪くて……」
心を痛めているのが分かる。それだけ、彼にとって祖父母は大事な存在なのだろう。彼らの代理としての書類も持って今回やって来たらしい。
「おや。それはいけない。よければ、良い医師を紹介しよう。先代国王様と前王妃様が絶賛した方々だ。きっと良くしてくださるでしょう」
「そのような名医が……よろしいのでしょうか」
「構いませんよ。腕輪も銀ですしね」
「これですか?」
チラリとバルトーラは確認していた。ケイルはそれを少し持ち上げて見せる。
「ええ。それで優先的にお願いも効くはず。動けないようなら、車も出してもらえると思うよ」
「え……では、その名医はセイスフィア商会の?」
「公爵領都にある、健康ランド。聞いたことは?」
「いえ……申し訳ない……」
「いやいや。一般の民達も多く利用しているというのもあって、一部の貴族の者は近付き難く思っているようだ。だから、知らなくても無理はない。何より、遠いだろうからね」
一般の民達とも気楽に付き合えるお忍び上手な貴族や、成り上がりと言われるような貴族、それと領民達との交流を厭わない貴族達でなければ、入りずらいだろう。
横暴な者達は、問答無用で追い出されるからというのもある。
そして、離れた領地の者達は、セイスフィア商会の商品は知っていても、施設については知らないのだ。
「まだまだ認知度が低いしね。公爵領周辺で知らない者はいないけど」
「それは気になります……」
「王都にも支店ができたから、明日にでも一緒に行くかい? 奥方も一緒に。そこで治療もお願いしたらいい」
「助かりますが、本当に良いのでしょうか」
「もちろん。あの公爵やメルナ妃が行きたくても行けない場所。気になりませんか?」
父親やメルナには、大いに思うところがあるだろう。そこは正直に答えていた。
「っ……気になります」
「では、そのように。タウンハウスも近かったでしょう。昼を一緒に、あちらのレストランを予約して……十時頃に迎えに行こうか」
「っ、そんなっ、迎えにだなんて」
「いやいや。特別な馬車でね。自慢したいんだよ。クーレもどうだい?」
「え、私も良いのか?」
「こんな事があったんだ。結束を固くしておくのは必要なことだろう。明日はきっと、あそこが一番の社交の場になる。それも、銀の腕輪をした者だけのね」
金の腕輪を嵌められた者は、親族も含めて入れないのだ。
「多分、交流の場所も用意してくれるだろうからね」
「それは、商会が?」
「ああ。商会長はね。王の相談役もやってるんだ。だから、ここは乗っておくべきだよ」
「「……」」
王の相談役をする商会長というのが、ケイルやクーレルトには想像出来なかったようだ。
「おっ、ついに踏み込むみたいだよ」
「え……」
「っ、あれは……」
広場での映像。そこに、ケイルとメルナの実家である侯爵家が映る。
やめろと怒鳴って立ち上がる侯爵は、どこからともなく出て来た黒子姿の者達によって、取り押さえられていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「父や異母妹の話が聞こえてしまって……心から同意したいことでしたので、不躾にもつい聞き耳を立ててしまいました。申し訳ありません」
メルナの異母兄は嫌味なく好感の持てる男だ。メルナとは二つしか違わない。けれど、幼いながらに父親が母を嫌っていることを分かっていたため、早く自立して母の邪魔にならないようにしなければと努力してきた。そうして育った彼は、とても誠実で落ち着いた男性だ。
侯爵家の長男。そうなれば、令嬢達が放っておくはずがない。しかし、父親は野心家だ。どの家との繋がりを持つべきかというのを考えていたようだ。
嫁いでくる女の家に求めるものと、娘が嫁いで行く家に求めるものは違う。だから、時間がかかっていた。母が亡くなった時、彼は父と大喧嘩した。間違いなく、この父が母のことに関わっていると感じたからだ。
そこで大喧嘩の末、母方の祖父に後見をお願いし、婚約者も自分で決めた。父親が謝るはずもなく、そうして成人したと同時に母が持っていた爵位を継いで、さっさと家を独立した。
優しげで大人しげに見えてとても行動派だ。そんな彼は、父親の失脚を常々狙っていたようだ。
今までは一応、あの父親との関係もあるからと、声をかけなかったバルトーラだ。今回のことで、彼が本当に父親である侯爵と決別していることが分かった。
「お話するのは初めてですね」
「はい。ケイル・ラト・セリアートと申します。今後はあの父など気にせずお付き合いしていただければと」
「もちろん。よろしくね。そういえば、近々伯爵に陞爵されるとか?」
「ええ。それに伴い、祖父母の持つ領地をいただくことになりまして。父の妨害もあったのですが……これで早まりそうです」
母親の生家である伯爵家は、母の弟が継ぐことになっていたのだが、まだ祖父母が現役をやれるということで、彼は冒険者として長く活動していた。家を継ぐ気がないことはなんとなく察していたこともあり、それをそのままケイルが継ぐことになっていた。
家名は変わってしまうが、それよりも領地を守ることが重要だ。それをきちんと理解している一族だったのは良かった。
ケイルは改めて視線を細めて前の方を視る。その先には、彼の実の父親がいた。
「あの異母妹の本性を明らかにしてもらえたのも嬉しかったのですが、父のあんな様子を見られるとは思いませんでした。祖父母に見せたかった」
「今日は来られていないので?」
まだ完全に引き継いだわけではないので、当主として彼の祖父も出席するはず。
「最近は体の調子が悪くて……」
心を痛めているのが分かる。それだけ、彼にとって祖父母は大事な存在なのだろう。彼らの代理としての書類も持って今回やって来たらしい。
「おや。それはいけない。よければ、良い医師を紹介しよう。先代国王様と前王妃様が絶賛した方々だ。きっと良くしてくださるでしょう」
「そのような名医が……よろしいのでしょうか」
「構いませんよ。腕輪も銀ですしね」
「これですか?」
チラリとバルトーラは確認していた。ケイルはそれを少し持ち上げて見せる。
「ええ。それで優先的にお願いも効くはず。動けないようなら、車も出してもらえると思うよ」
「え……では、その名医はセイスフィア商会の?」
「公爵領都にある、健康ランド。聞いたことは?」
「いえ……申し訳ない……」
「いやいや。一般の民達も多く利用しているというのもあって、一部の貴族の者は近付き難く思っているようだ。だから、知らなくても無理はない。何より、遠いだろうからね」
一般の民達とも気楽に付き合えるお忍び上手な貴族や、成り上がりと言われるような貴族、それと領民達との交流を厭わない貴族達でなければ、入りずらいだろう。
横暴な者達は、問答無用で追い出されるからというのもある。
そして、離れた領地の者達は、セイスフィア商会の商品は知っていても、施設については知らないのだ。
「まだまだ認知度が低いしね。公爵領周辺で知らない者はいないけど」
「それは気になります……」
「王都にも支店ができたから、明日にでも一緒に行くかい? 奥方も一緒に。そこで治療もお願いしたらいい」
「助かりますが、本当に良いのでしょうか」
「もちろん。あの公爵やメルナ妃が行きたくても行けない場所。気になりませんか?」
父親やメルナには、大いに思うところがあるだろう。そこは正直に答えていた。
「っ……気になります」
「では、そのように。タウンハウスも近かったでしょう。昼を一緒に、あちらのレストランを予約して……十時頃に迎えに行こうか」
「っ、そんなっ、迎えにだなんて」
「いやいや。特別な馬車でね。自慢したいんだよ。クーレもどうだい?」
「え、私も良いのか?」
「こんな事があったんだ。結束を固くしておくのは必要なことだろう。明日はきっと、あそこが一番の社交の場になる。それも、銀の腕輪をした者だけのね」
金の腕輪を嵌められた者は、親族も含めて入れないのだ。
「多分、交流の場所も用意してくれるだろうからね」
「それは、商会が?」
「ああ。商会長はね。王の相談役もやってるんだ。だから、ここは乗っておくべきだよ」
「「……」」
王の相談役をする商会長というのが、ケイルやクーレルトには想像出来なかったようだ。
「おっ、ついに踏み込むみたいだよ」
「え……」
「っ、あれは……」
広場での映像。そこに、ケイルとメルナの実家である侯爵家が映る。
やめろと怒鳴って立ち上がる侯爵は、どこからともなく出て来た黒子姿の者達によって、取り押さえられていた。
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