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ミッション10 子ども達の成長
388 かわいそうに
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広場の様子はしっかりと会議室でもホールの方にも見えていた。中継が繋がると、そちらの映像に切り替わり、いわゆるワイプで画面の右上に舞台上にいる神殿長達を映して見せていた。
よって、小さくて見えないということはなく、どこの領地で、誰の屋敷なのか分かる者が見ればすぐに分かった。
「うわ~……こんなのまで作るとか、さすがは我が甥っ子殿。すごいわ……」
ミリアリアの兄であるバルトーラ・ラト・カールト侯爵は、会議室で一人、呆れていた。フィルズの発明であることを理解しているのは、こちら側では彼だけだろう。他の技術や魔導人形などを実際に見て知っているバルトーラからすれば、感心を通り越してしまったというわけだ。
向かいに見えるリゼンフィアとファスター王に目を向ければ、同じように少し呆れているというか、驚き疲れたように見える。その心情を理解できるのもこの場ではバルトーラだけだろう。
席順など特になかったので、バルトーラは最初から中段辺りのやや端の方に座った。スクリーンが用意されていたので、それが一番見やすい場所だと見たからだ。
だからよく見える。周りを見回せば、口をポカンと開けたままになっている者や、ガタガタと震えていたり、あり得ないほど汗をかいている者が目に入る。
恐らく、本当に今この時にその場所に居て、その場の様子がそのまま見えてしまうことの意味に、今更ながらに気付いたのだろう。何かを隠し通すことが不可能だと理解した者は多いはずだ。
文字としての報告書だけでなら誤魔化しが効いたかもしれない。しかし、これは見たまま、あるがままを見せる。誤魔化しなどできないのだと気付いた者は、まだ良い方なのかもしれない。
何より、今現在、自分たちの屋敷に監査のようなものが本当に入っているのだと知って、震える者は多い。
「かわいそうに」
バルトーラは、もう後は笑うしかないなと苦笑しながら片方の腕で頬杖を突いて、見物に回る決意をした。そして、下ろしている方の腕に嵌められた銀の腕輪を見て、笑みを深める。
「これもヤバいし。ってか……」
貴族達というか、その手首に嵌められた腕輪を眺めてまた呆れる。
「よくこんなに作ったものだな……」
金の腕輪をした者達を密かにチェックする。どれほどの罰を受けるかはわからないが、軽微であったとしても、付き合いを考えなくてはならない。特に、領地が接している領主は要注意だ。しっかりと彼らの手元を確認しておく。
それから視線をゆっくり画面へと向ける。いよいよ、調査の者が執務室に入った所だ。そして、その恐ろしい魔導具の説明が始まった。
『時に術者すら生け贄となるのが禁術書ですわ』
そう大聖女が言うのを聞き、何人かが分かりやすく顔を強張らせたのが確認できた。
「ふ~ん……あいつらも持ってるかもってことかな」
見覚えがあるのだろう。
『洗脳魔法みたいなものです。それの実験で昔、反乱が頻発し、幾つもの国に大混乱を招きました』
そこで、意を決して手を上げ、リゼンフィアへと問いかける者が居た。
「さ、宰相殿っ……その……あの本っ……あの魔導具を所持していた場合の処罰は……どのようなものになるのでしょうか……っ」
消え入りそうになる声だったが、最後まで聞こえた。そして、何人かが真剣にリゼンフィアの方を見た。更に、半数は今映像で屋敷を映されているスーニア伯爵をチラリと様子を窺うように見ている。
しかし、スーニア伯爵はスクリーンを見つめたまま動きを完全に止めていた。
「あれは……気絶してないかな?」
白目を剥いているように見えるのは気のせいだろうかと、衝撃で思わず少し声が大きくなる。
「あ、カールト侯爵もそう思われますか……」
席の間隔は広いため、それまではあまり呟いた声も拾えなかったのだろう。そこで、声を掛けて来たのは、隣に座っていたかつての同級の者だった。子爵ではあるが、領地は穀倉地帯で、先代の時に伯爵へ陞爵する話もあった。だが、領民達と時には共に畑を耕すこともあるという一家は、そうした出世欲などはなかった。人柄に惹かれて、友情を育んだ仲。手紙のやり取りは半年に一度ほどしていたとはいえ、お互い当主を継いでから会うのは初めてだった。
「よせ。クーレ。昔みたいにバルトで良い。ってか、もっと早く話しかけてこいよ~」
クーレルト・ラト・アンダート子爵。優しげな相貌で、薄茶色の髪の彼は、困ったような顔を見せる。
「無理だって。子爵が侯爵様に気軽に話せるわけがないだろう? ものすごく久し振りだし」
「その言葉懐かし~。学園に通ってた時も同じような事言ってたよな」
「覚えてるなら察してくれると嬉しいんだけど」
「はいはい。で? お前から見ても、気絶してそう?」
「してるね。大聖女様の説明聞く前、執務室に入ってすぐくらいに、もうあの状態だったよ」
「マジかっ。ウケるっ」
「……ウケ……」
「ああ、笑えるってこと~」
「なるほど?」
バルトーラは、フィルズと交流を持つ上で、こうした言葉遣いを覚えた。ちょっと陽気な冒険者達が使う言葉が多く、貴族には馴染みがないだろう。いくらクーレルトが領民達との交流もあるとはいえ、古き良きを継いでいる田舎と、多くの人が雑多に交流し合う都会くらいの違いがあれば知らなくても無理はない。
「でも、よく見てたな」
「……スーニア領は隣だからね……」
「そうだったな。え? なに? もしかして、嫌がらせとかある?」
「……最近酷かったんだ……」
「なるほど~。それで見てたんだ? まあ、なら期待しときなよ。あんな地下まであるし、丸裸にされるから」
地下の通路が映され、カメラが会場に戻される所だった。
「あのクロコくんならやってくれるよ。というか、ついでにその嫌がらせについても調べてもらおうか」
「そんなこと……頼むの?」
「うん。あ、リゼンにじゃなくて~、あの辺かな?」
「なにが……」
バルトーラが少し体を伸ばして、後ろの方を見つめてから前を向く。すると、バルトーラは今度は椅子に深く座って机との間を空ける。
「来た来た」
「来た? なに……っ!!」
《お静かに願います》
バルトーラの膝の上に、黒いラフィット、隠密ウサギが居たのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
よって、小さくて見えないということはなく、どこの領地で、誰の屋敷なのか分かる者が見ればすぐに分かった。
「うわ~……こんなのまで作るとか、さすがは我が甥っ子殿。すごいわ……」
ミリアリアの兄であるバルトーラ・ラト・カールト侯爵は、会議室で一人、呆れていた。フィルズの発明であることを理解しているのは、こちら側では彼だけだろう。他の技術や魔導人形などを実際に見て知っているバルトーラからすれば、感心を通り越してしまったというわけだ。
向かいに見えるリゼンフィアとファスター王に目を向ければ、同じように少し呆れているというか、驚き疲れたように見える。その心情を理解できるのもこの場ではバルトーラだけだろう。
席順など特になかったので、バルトーラは最初から中段辺りのやや端の方に座った。スクリーンが用意されていたので、それが一番見やすい場所だと見たからだ。
だからよく見える。周りを見回せば、口をポカンと開けたままになっている者や、ガタガタと震えていたり、あり得ないほど汗をかいている者が目に入る。
恐らく、本当に今この時にその場所に居て、その場の様子がそのまま見えてしまうことの意味に、今更ながらに気付いたのだろう。何かを隠し通すことが不可能だと理解した者は多いはずだ。
文字としての報告書だけでなら誤魔化しが効いたかもしれない。しかし、これは見たまま、あるがままを見せる。誤魔化しなどできないのだと気付いた者は、まだ良い方なのかもしれない。
何より、今現在、自分たちの屋敷に監査のようなものが本当に入っているのだと知って、震える者は多い。
「かわいそうに」
バルトーラは、もう後は笑うしかないなと苦笑しながら片方の腕で頬杖を突いて、見物に回る決意をした。そして、下ろしている方の腕に嵌められた銀の腕輪を見て、笑みを深める。
「これもヤバいし。ってか……」
貴族達というか、その手首に嵌められた腕輪を眺めてまた呆れる。
「よくこんなに作ったものだな……」
金の腕輪をした者達を密かにチェックする。どれほどの罰を受けるかはわからないが、軽微であったとしても、付き合いを考えなくてはならない。特に、領地が接している領主は要注意だ。しっかりと彼らの手元を確認しておく。
それから視線をゆっくり画面へと向ける。いよいよ、調査の者が執務室に入った所だ。そして、その恐ろしい魔導具の説明が始まった。
『時に術者すら生け贄となるのが禁術書ですわ』
そう大聖女が言うのを聞き、何人かが分かりやすく顔を強張らせたのが確認できた。
「ふ~ん……あいつらも持ってるかもってことかな」
見覚えがあるのだろう。
『洗脳魔法みたいなものです。それの実験で昔、反乱が頻発し、幾つもの国に大混乱を招きました』
そこで、意を決して手を上げ、リゼンフィアへと問いかける者が居た。
「さ、宰相殿っ……その……あの本っ……あの魔導具を所持していた場合の処罰は……どのようなものになるのでしょうか……っ」
消え入りそうになる声だったが、最後まで聞こえた。そして、何人かが真剣にリゼンフィアの方を見た。更に、半数は今映像で屋敷を映されているスーニア伯爵をチラリと様子を窺うように見ている。
しかし、スーニア伯爵はスクリーンを見つめたまま動きを完全に止めていた。
「あれは……気絶してないかな?」
白目を剥いているように見えるのは気のせいだろうかと、衝撃で思わず少し声が大きくなる。
「あ、カールト侯爵もそう思われますか……」
席の間隔は広いため、それまではあまり呟いた声も拾えなかったのだろう。そこで、声を掛けて来たのは、隣に座っていたかつての同級の者だった。子爵ではあるが、領地は穀倉地帯で、先代の時に伯爵へ陞爵する話もあった。だが、領民達と時には共に畑を耕すこともあるという一家は、そうした出世欲などはなかった。人柄に惹かれて、友情を育んだ仲。手紙のやり取りは半年に一度ほどしていたとはいえ、お互い当主を継いでから会うのは初めてだった。
「よせ。クーレ。昔みたいにバルトで良い。ってか、もっと早く話しかけてこいよ~」
クーレルト・ラト・アンダート子爵。優しげな相貌で、薄茶色の髪の彼は、困ったような顔を見せる。
「無理だって。子爵が侯爵様に気軽に話せるわけがないだろう? ものすごく久し振りだし」
「その言葉懐かし~。学園に通ってた時も同じような事言ってたよな」
「覚えてるなら察してくれると嬉しいんだけど」
「はいはい。で? お前から見ても、気絶してそう?」
「してるね。大聖女様の説明聞く前、執務室に入ってすぐくらいに、もうあの状態だったよ」
「マジかっ。ウケるっ」
「……ウケ……」
「ああ、笑えるってこと~」
「なるほど?」
バルトーラは、フィルズと交流を持つ上で、こうした言葉遣いを覚えた。ちょっと陽気な冒険者達が使う言葉が多く、貴族には馴染みがないだろう。いくらクーレルトが領民達との交流もあるとはいえ、古き良きを継いでいる田舎と、多くの人が雑多に交流し合う都会くらいの違いがあれば知らなくても無理はない。
「でも、よく見てたな」
「……スーニア領は隣だからね……」
「そうだったな。え? なに? もしかして、嫌がらせとかある?」
「……最近酷かったんだ……」
「なるほど~。それで見てたんだ? まあ、なら期待しときなよ。あんな地下まであるし、丸裸にされるから」
地下の通路が映され、カメラが会場に戻される所だった。
「あのクロコくんならやってくれるよ。というか、ついでにその嫌がらせについても調べてもらおうか」
「そんなこと……頼むの?」
「うん。あ、リゼンにじゃなくて~、あの辺かな?」
「なにが……」
バルトーラが少し体を伸ばして、後ろの方を見つめてから前を向く。すると、バルトーラは今度は椅子に深く座って机との間を空ける。
「来た来た」
「来た? なに……っ!!」
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バルトーラの膝の上に、黒いラフィット、隠密ウサギが居たのだ。
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