趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション10 子ども達の成長

386 何か感じますか

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屋敷に入り込む黒子。気配を消しているのか、必死で騎士を止めようとしている使用人達の目はこちらには向かなかった。そんな騎士達の間には、守られるようにして商業ギルドの制服を着た男女が居るのが見えた。

玄関ホールを抜けるというところで、黒子はカメラの隣に並ぶ。

《良い場所に来るまでに、ちょっと説明をしましょう》

一つ頷きながら、拳を握って見せる黒子。

因みに、フィルズが設定した黒子達は、どちらかといえば、中身はピエロ的な、ちょっとお茶目な所を目指してもらっている。これならば、彼らが素顔で普通に生活するのに、はっきりと区別が出来るだろうという狙いだ。

お茶目なというものから程遠い生き方をしてきた測量・諜報部隊の者達は、その全く自分の性格とは違うキャラにハマっていくのだが、自覚するのはあと数ヶ月先のことになる。

《今回、様々な疑惑のある国内の貴族の家に、こうして、抜き打ちの査察が入っています》

腕を組んでうんうんと頷いて見せる黒子。

《先ごろ、壊滅させた闇ギルド。そこから押収した依頼の証拠書類を元に嫌疑の調査を行ってきました》

どこからともなく取り出した書類をピラピラと振って見せる黒子。小道具も沢山持っている。

《その間、各領地で秘密裏に、今回の監査に協力してくれる者を選定し、この場に集まったというわけです。国から派遣する騎士達だけでは手が足りませんからね》

また腕を組んで少し俯き気味にし、首を横に振って見せた。

どうやら、黒子が執務室に着いたようだ。

こっちこっちと少し先に行って手招き、ここだとドアの開いた部屋の中を指差す。

《では、中に入ってみましょう。あ、この監査には、もちろん文官が不可欠です。騎士はあまり書類を読み込んだり、違和感を見つけることは不得意な者が多いですからね~》

騎士達をバックに、両手を広げて見せて、首を横に振った。

《商業ギルドから応援が来ておりますので、何とか見つけてくれるでしょう。その間に……いっちゃんは、少しこの部屋を探りますね》

キョロキョロとするところを見せ、姿勢を低くして部屋を見て回る。騎士や文官達は、その怪しい動きにも目を向けなかった。

《みなさんも、何か気になる物があったら教えてくださいね~》

うんうんと小さく頷いて見せて部屋を見て回る。

観客達は、息を呑んで真剣に映像を見つめていた。

「ん?」
「あら?」

しばらくした所で、神殿長と大聖女が声を上げた。そして、目を凝らした後に手を上げて声をかける。

「すみません。そこ、その本棚の右から二つ目の棚を見せてください」
《はいはいっ。神殿長様からのリクエストっ。お応えしましょう!》

本棚を指差し、二つ目と数えて見せる。

「その上から二段目の……緑の背表紙のものから右に三つ目」
《はい! コレ……これは……っ》

本棚なら引き抜いた途端、小鳥が警告した。

《っ、手袋してっ》
『っ!?』

黒子は、ビクリと体を震わせてから視線を小鳥と本の間を行き来させる。だが、危ないというのは分かったのだろう。咄嗟に床に置いて少し距離を取った。

そして、腰にある小さな黒いマジックバッグから黒い手袋を出して着け、小鳥を見ながら、さながら手術前の医者のように手を上げて待った。

「何か感じますか」

神殿長が立ち上がって画面に向かって尋ねる。

《魔力を吸い取られるような感覚がありました。恐らく禁術書でしょう》

黒子は驚いたように少し体を後ろに引いて見せてから、ゆっくりと本の方を向いた。

「やはり、間違いないですね。あの表紙の紋様に見覚えがあります。十五年程前に盗まれたものの一つでしょう」
「そういえば、ありましたわね。それがこんな所にあるなんて……確か、禁術書の多くが、人を呪う呪術関係のもの、あの本自体が魔導具なのでしたかしら」

大聖女も厳しい視線を画面に向けていた。禁術書って何なのかと不思議そうにする観客達のための説明だ。

「ええ。魔力の多い方でしたら、触れても少し体調を崩すくらいですが、少ない方が触れれば、しばらくすると昏倒し下手をすればそのまま助からない可能性さえある危険なものです」
「時に術者すら生け贄となるのが禁術書ですわ。え~、カメラさん? その禁術書の背表紙とその反対側を見せてくださる?」

大聖女の言葉通り、カメラが動く。

《こちらが背表紙……そして、こちらがその反対側ですが……両方背表紙?》

どちらもなぜか背表紙にしか見えなかった。










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読んでくださりありがとうございます◎

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