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ミッション10 子ども達の成長
377 本当に外れないっ
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リゼンフィアはスッと息を吸って告げた。
『先ず、どちらの腕輪も、特定の魔導具でしか外す事はできません』
それを聞いて、一同はそんなことがあるはずがないだろうと、腕輪を外そうとする。
「っ、本当に外れないっ」
「なっ、何故だ!?」
「痛くはないし、利き手ではない……なら問題はない……? のか?」
絶対に外れない訳ではなく、その特定の魔導具は用意されているならば別にと、楽観的に考える者もいる。問題はこの後の話ではないかと、冷静に続きを待つ者もいて、比較的すぐに混乱は収まった。
ここからだ。
『銀の腕輪は、番号が彫られているはずです。そして、見たことのあるマークもあるでしょう』
「あ、これは……セイスフィア商会の?」
「銀の方だけか?」
「同じではない?」
銀の腕輪には、数字が刻印されている。因みに、この世界の数字は賢者達の使っていた数字が元になっているようで、若干丸みがないがそれに近いものだ。その後ろに小さくセイスフィア商会のマークが入っていた。品も良く、とても軽い。これならば取れなくても良いなと思う者も多い。
『そちらは、本日より一年間。セイスフィア商会で割引きサービスが受けられ、更に、くっ……クーちゃんや商会員、スポーツ大会などの特別舞台やゲーム観戦の予約が可能になる……っ、プレミアリングです!!』
「「「「「……………っ、うっ、うおおぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
この場がどこかも忘れて、ガッツポーズを決めるおじさまや、神に感謝を述べて祈るという奇行が見られた。
そして、それならば金はなんだと、銀よりも上の待遇が約束されるはずだと、期待を込める者達。そんな者達へと、リゼンフィアははっきりと告げた。
『そして! 金の腕輪を嵌めた者は、教会でそれを外す許可が神殿長からもらえるまで、この魔導具がある場所では嘘が吐けなくなっています』
この魔導具と言って手で示したのは、可愛らしいぼんぼりだ。その灯りの美しさに目を奪われた後、ゆっくりと言われたことを反芻する。
「「「「「…………は?」」」」」
リゼンフィアは、質問を受け付けないと言うように、即続ける。
『こちらも更にっ! セイスフィア商会、セイルブロードへの立ち入り禁止と、屋台等の外での販売物については、商品購入の際、罰金が発生しまして、割り高となります。ご注意ください』
「「「「「……え………………」」」」」
『ああ、因みに、セイスフィア商会に関しては、三親等内の方も対象です。他人に頼んだとしてもバレます。そして、そんな者がセイルブロードに一歩でも足を踏み入れた場合、問答無用で町の外まで放り出されます』
「ま、町の……外……?」
「一歩でも……」
「身内も……」
金の腕輪をした者達は、再び数秒頭の整理をした後、真っ青になって叫んだ。それも、必死で腕輪を外そうとしながらだ。
「「「「「ぎゃぁぁぁぁっ!!」」」」」
気が狂ったように、机に打ちつけて壊そうとする者。頭を抱えてブツブツと言いながら一点を見つめる者。燃え尽きたように呆然として椅子からずり落ちそうになっている者。などなど、酷い状態になった。
いつもは澄ました顔をしている者達も同様だ。そんな彼らは、セイスフィア商会に未だ足を踏み入れてはいなかった者が多い。そうした者達は、嘘を吐けないという事実を何度か確認し、震えていた。
「ほ、本当に……」
「嘘が……偽りも……」
「そんなことが……可能なのか……っ」
これを見ていたファスター王は、ニヤつきそうになっていた。
「ヤバいな……っ、あいつら、見たこともない顔をしているぞ」
「っ……い、言わないでください……っ、ふっ、ふふっ」
リゼンフィアは堪えきれずに、噴き出していた。もちろん、少し後ろを向いて口元を押さえてだ。
この場と同じように、ホールでも多くの者が騒いでいた。夫や父親に内緒でセイルブロードに行っていた者達もいたらしい。自分の父親や夫が金の腕輪をしていることを確認した者達が、汚れるのも気にせず床に座り込む。泣き出す。夫や父親を画面越しに、射殺さんとばかりに睨み付ける。持っていた扇子をへし折る。
絶縁状を手に入れて来ると、ホールを飛び出す者までいた。
それを現場で見ていた学園長は、思わず『うわ~』と言って笑う。
「容赦ないねえ。素晴らしい!」
傍にいたマグナは、同じように声を上げるが、同情するような目で見る。
「うわ~……何人かはこの後に修羅場になりそう……」
「これは、大人しく当主に従っていたご夫人や子息子女が下剋上する予感!」
子どものように、キラキラとした目で、このショーを楽しもうとしている学園長に、マグナは少し引いていた。だが、自分しか止める人はいないよなと諦めながら一言告げる。
「……落ち着いてください……王宮で乱闘騒ぎとか、普通に大問題ですからね?」
「あ、うん。そうだねっ。というか君……」
「っ、なんでしょうか……」
「うちで補佐やらない?」
「やりません」
「え~」
「……」
突然のスカウトに驚きながらも、マグナは冷静に対処していた。こういう時は、話を変えるに限ると、マグナはこれまでの経験で知っていた。
「ところで、これ、どうするのが正解なのでしょうか。この後、ここで食事やダンスとかもするんですよね?」
「そうだね。一瞬で色々とゴミが散らばったね」
「あそこ……机がひっくり返されましたけど……」
錯乱と怒りで、いわゆる、ちゃぶ台返しをする女性数人。机を蹴り飛ばす男性数人。
「物に当たる人はやだねー。扇もいっぱい落ちてるし? ハンカチ引き裂いたりして、あれはもう、拾わないよね~」
「……落ち着くのを待って、メイドに頼みましょうか」
「それがいいね。そろそろ広場の方のも始まりそうだし、そうしたら動いてもらおうか。今入ってきても、八つ当たりされそうだしね」
そう言って、学園長は会場を見回してから、この会場のセッティングなど任された者を探し、そちらへと向かう。マグナも一緒にだ。ちょっとこの場に居たくなかったというのもある。
親しい者であれば、暴れたりする者を宥めたり出来るだろうが、当然というか、残念なことに、そうして暴れる者達同士の縁はあっても、そうでない者達とは全く縁がなかった。
金の腕輪と銀の腕輪は、それぞれ派閥で分かれているようなものだ。よって、このホールでの混乱はしばらく続いた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
『先ず、どちらの腕輪も、特定の魔導具でしか外す事はできません』
それを聞いて、一同はそんなことがあるはずがないだろうと、腕輪を外そうとする。
「っ、本当に外れないっ」
「なっ、何故だ!?」
「痛くはないし、利き手ではない……なら問題はない……? のか?」
絶対に外れない訳ではなく、その特定の魔導具は用意されているならば別にと、楽観的に考える者もいる。問題はこの後の話ではないかと、冷静に続きを待つ者もいて、比較的すぐに混乱は収まった。
ここからだ。
『銀の腕輪は、番号が彫られているはずです。そして、見たことのあるマークもあるでしょう』
「あ、これは……セイスフィア商会の?」
「銀の方だけか?」
「同じではない?」
銀の腕輪には、数字が刻印されている。因みに、この世界の数字は賢者達の使っていた数字が元になっているようで、若干丸みがないがそれに近いものだ。その後ろに小さくセイスフィア商会のマークが入っていた。品も良く、とても軽い。これならば取れなくても良いなと思う者も多い。
『そちらは、本日より一年間。セイスフィア商会で割引きサービスが受けられ、更に、くっ……クーちゃんや商会員、スポーツ大会などの特別舞台やゲーム観戦の予約が可能になる……っ、プレミアリングです!!』
「「「「「……………っ、うっ、うおおぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
この場がどこかも忘れて、ガッツポーズを決めるおじさまや、神に感謝を述べて祈るという奇行が見られた。
そして、それならば金はなんだと、銀よりも上の待遇が約束されるはずだと、期待を込める者達。そんな者達へと、リゼンフィアははっきりと告げた。
『そして! 金の腕輪を嵌めた者は、教会でそれを外す許可が神殿長からもらえるまで、この魔導具がある場所では嘘が吐けなくなっています』
この魔導具と言って手で示したのは、可愛らしいぼんぼりだ。その灯りの美しさに目を奪われた後、ゆっくりと言われたことを反芻する。
「「「「「…………は?」」」」」
リゼンフィアは、質問を受け付けないと言うように、即続ける。
『こちらも更にっ! セイスフィア商会、セイルブロードへの立ち入り禁止と、屋台等の外での販売物については、商品購入の際、罰金が発生しまして、割り高となります。ご注意ください』
「「「「「……え………………」」」」」
『ああ、因みに、セイスフィア商会に関しては、三親等内の方も対象です。他人に頼んだとしてもバレます。そして、そんな者がセイルブロードに一歩でも足を踏み入れた場合、問答無用で町の外まで放り出されます』
「ま、町の……外……?」
「一歩でも……」
「身内も……」
金の腕輪をした者達は、再び数秒頭の整理をした後、真っ青になって叫んだ。それも、必死で腕輪を外そうとしながらだ。
「「「「「ぎゃぁぁぁぁっ!!」」」」」
気が狂ったように、机に打ちつけて壊そうとする者。頭を抱えてブツブツと言いながら一点を見つめる者。燃え尽きたように呆然として椅子からずり落ちそうになっている者。などなど、酷い状態になった。
いつもは澄ました顔をしている者達も同様だ。そんな彼らは、セイスフィア商会に未だ足を踏み入れてはいなかった者が多い。そうした者達は、嘘を吐けないという事実を何度か確認し、震えていた。
「ほ、本当に……」
「嘘が……偽りも……」
「そんなことが……可能なのか……っ」
これを見ていたファスター王は、ニヤつきそうになっていた。
「ヤバいな……っ、あいつら、見たこともない顔をしているぞ」
「っ……い、言わないでください……っ、ふっ、ふふっ」
リゼンフィアは堪えきれずに、噴き出していた。もちろん、少し後ろを向いて口元を押さえてだ。
この場と同じように、ホールでも多くの者が騒いでいた。夫や父親に内緒でセイルブロードに行っていた者達もいたらしい。自分の父親や夫が金の腕輪をしていることを確認した者達が、汚れるのも気にせず床に座り込む。泣き出す。夫や父親を画面越しに、射殺さんとばかりに睨み付ける。持っていた扇子をへし折る。
絶縁状を手に入れて来ると、ホールを飛び出す者までいた。
それを現場で見ていた学園長は、思わず『うわ~』と言って笑う。
「容赦ないねえ。素晴らしい!」
傍にいたマグナは、同じように声を上げるが、同情するような目で見る。
「うわ~……何人かはこの後に修羅場になりそう……」
「これは、大人しく当主に従っていたご夫人や子息子女が下剋上する予感!」
子どものように、キラキラとした目で、このショーを楽しもうとしている学園長に、マグナは少し引いていた。だが、自分しか止める人はいないよなと諦めながら一言告げる。
「……落ち着いてください……王宮で乱闘騒ぎとか、普通に大問題ですからね?」
「あ、うん。そうだねっ。というか君……」
「っ、なんでしょうか……」
「うちで補佐やらない?」
「やりません」
「え~」
「……」
突然のスカウトに驚きながらも、マグナは冷静に対処していた。こういう時は、話を変えるに限ると、マグナはこれまでの経験で知っていた。
「ところで、これ、どうするのが正解なのでしょうか。この後、ここで食事やダンスとかもするんですよね?」
「そうだね。一瞬で色々とゴミが散らばったね」
「あそこ……机がひっくり返されましたけど……」
錯乱と怒りで、いわゆる、ちゃぶ台返しをする女性数人。机を蹴り飛ばす男性数人。
「物に当たる人はやだねー。扇もいっぱい落ちてるし? ハンカチ引き裂いたりして、あれはもう、拾わないよね~」
「……落ち着くのを待って、メイドに頼みましょうか」
「それがいいね。そろそろ広場の方のも始まりそうだし、そうしたら動いてもらおうか。今入ってきても、八つ当たりされそうだしね」
そう言って、学園長は会場を見回してから、この会場のセッティングなど任された者を探し、そちらへと向かう。マグナも一緒にだ。ちょっとこの場に居たくなかったというのもある。
親しい者であれば、暴れたりする者を宥めたり出来るだろうが、当然というか、残念なことに、そうして暴れる者達同士の縁はあっても、そうでない者達とは全く縁がなかった。
金の腕輪と銀の腕輪は、それぞれ派閥で分かれているようなものだ。よって、このホールでの混乱はしばらく続いた。
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