167 / 200
ミッション10 子ども達の成長
374 自国では王宮に?
しおりを挟む
学園長がノリノリで貴族達の前に出た頃。リュブラン達はスクリーンなどの最終チェックを終えた所だった。
「角度も良さそうですね」
リュブランがそう口にして振り返ると、ユリが頷く。
「ええ。あとは、貴族達が席についてから、ファスター王に頼まれたことをやるだけです」
「はい」
用意したスクリーンは二つ。一つは、前方のファスター王とリゼンフィア、そして、大臣達が座る側の壁。高い位置に用意した。今回のここにあるスクリーンは、室内ということもあり、布製の巻き上げることもできるものにしてある。これは、これからも使用するということになっていた。
もう一つは、正面を見て右手側。角度を付けて設置してある。これは、ファスター王達の席から観るものだった。
映像の操作は、今回はリゼンフィアが行うことになっている。よって、操作パネルは宰相の席に設置済みだ。このパネルは持ち運びできるようになっているが、今日のところは必要ないだろう。
今回のこの機材の搬入と設置をする代表はユリ。本日学園が休みということもあり、売店は休みになり、こちらの手伝いに回っていた。機材を運び込んだのは、ペルタ達ペンギン部隊だ。機材の設置については専門であるタヌキ型の魔導人形が行った。しかし、どちらもさすがに王宮内を大きな顔して歩き回らせる訳にはいかないため、早朝から動いていた。
隠密ウサギによって、この時間に人に出会いにくい経路を選定し、そこを通っていたため、面倒な事態にはなっていない。
今は、運搬のために運転してきた魔導車に戻って待機している。魔導車にはモニターがあり、そこでは会議室と学園長の居るホール、そして、クラルス達の居る広場の様子が観えるようになっているので、今頃はのんびりそれを観ているだろう。
貴族の当主達が入って来たのを確認して、部屋の隅に居たリサーナとカリュエル達に合流する。
「朝早くからお疲れ様でした。もう間も無く始まるようですね。彼らが席につくまで、そちらの廊下に出ましょうか」
そっと部屋を抜け出す。こちらも、貴族達が出入りする通路側ではないので、人を避けられる。貴族達はリュブランどころか、リサーナやカリュエルが居ることさえ気付いていないはずだ。
何よりも今回、ユリも含めて、リュブラン達は一流の使用人と同じように存在感を薄くして行動することもできるようになっていた。ここで重要なのは、存在感を薄くするということ。決して消してはいけない。
「ふう……設置が間に合って良かったわ」
ユリが、ひとまずは与えられた仕事を何とか終えることが出来そうだと、ほっと息を吐く。これに、カリュエルは労いの言葉をかける。
「お疲れ様でした。仕方ないとはいえ、前もって準備出来ないというのが、これほど大変だとは思いませんでしたよ」
「王宮内の。それも、国の重鎮達が集う場所だもの。余計に気を遣うわ……王宮なんて、もう二度と縁がないと思っていたのだけれど」
「ユリさんは、自国では王宮に?」
ユリやセラ達、奴隷として使われていた者達は、あまり過去の話はしない。フィルズが、その人が話したくなった時に聞くスタイルのため、周りも無理に聞き出すことはなかった。
だが、話したならば、それをさり気なく聞くようにしている。リサーナも、これに慣れた様子で聞いていた。特に、ユリは売店を任されたことでよく喋るようになったが、最初の頃はほとんど喋らなかったのだ。ようやく自分を出し始めたユリには、こうしたさり気なく聞き出すということも、ある程度必要だろう。
「王宮の騎士の訓練場にね。元婚約者が騎士だったのよ。そんなに強くもない、自意識だけは高い奴でね」
普段からあまり表情が変わらないユリの顔には、はっきりとした嫌悪の色と眉間に深くシワが寄るのが見えた。
「見た目も大したことないのに、訓練中に見に来る令嬢達にきゃあきゃあ言われるのが当たり前だと思ってて。それに嫉妬して欲しかったのか……よく呼ばれたのよ。その上に、差し入れも持ってこいと言われてね」
「……私なら、木刀投げるか、扇子で殴りますわね」
「そうね。今ならヤってるわ」
「「……」」
リサーナとユリは、怖いほど真面目な顔で頷き合っていた。その目には、次出会ったら遠慮なく殺しにかかるという決意が見えたが、リュブランとカリュエルは、そっと目を逸らした。
そこで、リュブランが話題を変える。
「そ、そういえば、会場の方のマグナは大丈夫かな……」
それにすかさずユリが答える。
「あの学園長なら上手くやってるわよ。一週間前くらいから、クー様に特訓してもらっていたし」
「「え!?」」
「そういえば……?」
リュブランは、なぜ学園長が出入りしているかは知らなかったようだ。
「リサ達は知らなかった? 夕食とお風呂目当てでもあったと思うけど、学園が終わってから毎日通っていたわよ」
「「ズルいっ」」
「……学園長の前でも普通に言いそうね……」
抜け駆けしやがってと、学園長に恨めしげな目を遠慮なく向けそうなリサーナとカリュエルに、ユリは呆れたような目を向ける。きっと、この場にセルジュが居れば、二人と同じ事を言っただろう。
「まあ、あちらは大丈夫よ。さあ、そろそろかな?」
そうして、目を向けた廊下の端に、隠密ウサギが現れた。
《全員、席につきましたよ》
「分かりました。では、行きましょう。良いですか。渡す人の名を、必ず確認してください」
《一応、席の間違いはありませんが、確認はお願いします》
「「「はい」」」
《では、こちらを》
「ありがとうございます」
こちらと言われて振り返ると、そこに四台の台車があった。配膳用のカートのようなものだ。台の上には名簿と座席表、それと、籠が二つ。その籠には、金色と銀色の一センチ幅くらいの腕輪が並べられている。
少しドアを開けると、そこから、これから配る腕輪の説明をするリゼンフィアの声が聞こえてきた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「角度も良さそうですね」
リュブランがそう口にして振り返ると、ユリが頷く。
「ええ。あとは、貴族達が席についてから、ファスター王に頼まれたことをやるだけです」
「はい」
用意したスクリーンは二つ。一つは、前方のファスター王とリゼンフィア、そして、大臣達が座る側の壁。高い位置に用意した。今回のここにあるスクリーンは、室内ということもあり、布製の巻き上げることもできるものにしてある。これは、これからも使用するということになっていた。
もう一つは、正面を見て右手側。角度を付けて設置してある。これは、ファスター王達の席から観るものだった。
映像の操作は、今回はリゼンフィアが行うことになっている。よって、操作パネルは宰相の席に設置済みだ。このパネルは持ち運びできるようになっているが、今日のところは必要ないだろう。
今回のこの機材の搬入と設置をする代表はユリ。本日学園が休みということもあり、売店は休みになり、こちらの手伝いに回っていた。機材を運び込んだのは、ペルタ達ペンギン部隊だ。機材の設置については専門であるタヌキ型の魔導人形が行った。しかし、どちらもさすがに王宮内を大きな顔して歩き回らせる訳にはいかないため、早朝から動いていた。
隠密ウサギによって、この時間に人に出会いにくい経路を選定し、そこを通っていたため、面倒な事態にはなっていない。
今は、運搬のために運転してきた魔導車に戻って待機している。魔導車にはモニターがあり、そこでは会議室と学園長の居るホール、そして、クラルス達の居る広場の様子が観えるようになっているので、今頃はのんびりそれを観ているだろう。
貴族の当主達が入って来たのを確認して、部屋の隅に居たリサーナとカリュエル達に合流する。
「朝早くからお疲れ様でした。もう間も無く始まるようですね。彼らが席につくまで、そちらの廊下に出ましょうか」
そっと部屋を抜け出す。こちらも、貴族達が出入りする通路側ではないので、人を避けられる。貴族達はリュブランどころか、リサーナやカリュエルが居ることさえ気付いていないはずだ。
何よりも今回、ユリも含めて、リュブラン達は一流の使用人と同じように存在感を薄くして行動することもできるようになっていた。ここで重要なのは、存在感を薄くするということ。決して消してはいけない。
「ふう……設置が間に合って良かったわ」
ユリが、ひとまずは与えられた仕事を何とか終えることが出来そうだと、ほっと息を吐く。これに、カリュエルは労いの言葉をかける。
「お疲れ様でした。仕方ないとはいえ、前もって準備出来ないというのが、これほど大変だとは思いませんでしたよ」
「王宮内の。それも、国の重鎮達が集う場所だもの。余計に気を遣うわ……王宮なんて、もう二度と縁がないと思っていたのだけれど」
「ユリさんは、自国では王宮に?」
ユリやセラ達、奴隷として使われていた者達は、あまり過去の話はしない。フィルズが、その人が話したくなった時に聞くスタイルのため、周りも無理に聞き出すことはなかった。
だが、話したならば、それをさり気なく聞くようにしている。リサーナも、これに慣れた様子で聞いていた。特に、ユリは売店を任されたことでよく喋るようになったが、最初の頃はほとんど喋らなかったのだ。ようやく自分を出し始めたユリには、こうしたさり気なく聞き出すということも、ある程度必要だろう。
「王宮の騎士の訓練場にね。元婚約者が騎士だったのよ。そんなに強くもない、自意識だけは高い奴でね」
普段からあまり表情が変わらないユリの顔には、はっきりとした嫌悪の色と眉間に深くシワが寄るのが見えた。
「見た目も大したことないのに、訓練中に見に来る令嬢達にきゃあきゃあ言われるのが当たり前だと思ってて。それに嫉妬して欲しかったのか……よく呼ばれたのよ。その上に、差し入れも持ってこいと言われてね」
「……私なら、木刀投げるか、扇子で殴りますわね」
「そうね。今ならヤってるわ」
「「……」」
リサーナとユリは、怖いほど真面目な顔で頷き合っていた。その目には、次出会ったら遠慮なく殺しにかかるという決意が見えたが、リュブランとカリュエルは、そっと目を逸らした。
そこで、リュブランが話題を変える。
「そ、そういえば、会場の方のマグナは大丈夫かな……」
それにすかさずユリが答える。
「あの学園長なら上手くやってるわよ。一週間前くらいから、クー様に特訓してもらっていたし」
「「え!?」」
「そういえば……?」
リュブランは、なぜ学園長が出入りしているかは知らなかったようだ。
「リサ達は知らなかった? 夕食とお風呂目当てでもあったと思うけど、学園が終わってから毎日通っていたわよ」
「「ズルいっ」」
「……学園長の前でも普通に言いそうね……」
抜け駆けしやがってと、学園長に恨めしげな目を遠慮なく向けそうなリサーナとカリュエルに、ユリは呆れたような目を向ける。きっと、この場にセルジュが居れば、二人と同じ事を言っただろう。
「まあ、あちらは大丈夫よ。さあ、そろそろかな?」
そうして、目を向けた廊下の端に、隠密ウサギが現れた。
《全員、席につきましたよ》
「分かりました。では、行きましょう。良いですか。渡す人の名を、必ず確認してください」
《一応、席の間違いはありませんが、確認はお願いします》
「「「はい」」」
《では、こちらを》
「ありがとうございます」
こちらと言われて振り返ると、そこに四台の台車があった。配膳用のカートのようなものだ。台の上には名簿と座席表、それと、籠が二つ。その籠には、金色と銀色の一センチ幅くらいの腕輪が並べられている。
少しドアを開けると、そこから、これから配る腕輪の説明をするリゼンフィアの声が聞こえてきた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
3,164
お気に入りに追加
14,451
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
【完結】ちょっと待ってくれー!!彼女は俺の婚約者だ
山葵
恋愛
「まったくお前はいつも小言ばかり…男の俺を立てる事を知らないのか?俺がミスしそうなら黙ってフォローするのが婚約者のお前の務めだろう!?伯爵令嬢ごときが次期公爵の俺に嫁げるんだぞ!?ああーもう良い、お前との婚約は解消だ!」
「婚約破棄という事で宜しいですか?承りました」
学園の食堂で俺は婚約者シャロン・リバンナに婚約を解消すると言った。
シャロンは、困り俺に許しを請うだろうと思っての発言だった。
まさか了承するなんて…!!
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。