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ミッション10 子ども達の成長

372 カメラテストを開始する

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城壁を背にして、その広い舞台は作られていた。舞台と城壁の間は仕切られており、関係者以外が通過出来ないようになっている。仕切りの中では、スタッフ達が忙しなく動き回っていた。

そんな舞台の上に立ち、クラルスは大きく空気を吸い込んで胸を張る。その表情は、キラキラと輝くようだった。

「改めて見ると、本当に立派な舞台ね! ワクワクしちゃう! ねっ、お父さんっ」

隣に立って、舞台からの景色を確認するのは、リーリルだ。今日のリーリルは、いつもは流している髪を頭の高い位置で結い、フィルズから貰った伊達メガネをかけている。そのメガネにも装飾のチェーンが付いていてオシャレだ。そして、服装も今回は違う。

「そうだね。まさか、ここまですごい舞台を二日で作ってしまうなんて、フィル君の手際の良さには脱帽するよ」

大きな投影用のスクリーンが舞台についており、それらに映すカメラのような魔導具も所々に配置されている。

「ふふっ。それにしても……っ、お父さん……っ、かっこいいよ!」
「っ……そう? これ、伸縮性もあるから、動きやすいし、デザインも素敵だよね」

今日のリーリルのコンセプトはフィルズ曰く『かっこいい弁護士』だった。なんて事はない。地球では一般的なスーツだ。とはいえ、若者向けのスタイリッシュな形である。これがまたリーリルに似合っていた。似たような服装はあるが、胸元にひらひらしたものをあしらうのが、この世界では一般的で、今回のネクタイ姿というのは新鮮だろう。

「めちゃくちゃ似合ってるっ。お母さんが真っ赤になってたもんねっ」
「ああ。うんっ。あんな顔……出会った時以来だ」
「え? そうなのっ!?」
「うん。一目惚れしてくれた時の顔だったよ。また惚れてくれるなんてね……ふふっ。可愛かったなあ」
「……お父さんが男の顔してる……」

ここに来て、父親を男だったと再認識する娘。それだけリーリルの女寄りの仕草や美しさに慣れてしまっていたということだろうか。

「そう言うクラルスも、今日はキリッとしていて良いね。メガネも似合っているよ」

クラルスもパンツスーツ姿。髪も頭の後ろで巻いていた。

「えへへ~。私のも伊達メガネだけどね。ちょっと見えにくかったのが治っちゃったし」
「私もだよ」
「補助魔導具としてのメガネが優秀過ぎるって、
フィルが頭を抱えてたわね」
「良い事だけどねえ。シエルがかけ出してから、公爵領では大人気だったみたいじゃない?」

目の視力矯正と治療をする補助魔導具のメガネ。補聴器と共に普及していたのだが、最近はその効果が結果を出していた。視力が上がり、メガネ無しでも大丈夫な人たちが出て来たのだ。

公爵領では、神殿長であるシエルが真っ先に使用しだしたことで、一気に普及したのだが、その第一陣の人たちの視力が回復していた。

「シエル様が似合い過ぎるのよね~。治ったからって、今更外すのは寂しいってシエル様ファンの人たちが言い出して、そこでまたフィルが頭を抱えていたわ」
「もう見慣れてしまったものね」
「そうそう。それで、今度はネックレスとかみたいに、オシャレのために伊達メガネを売り込むってフィルが。だから今回は、これの宣伝にもなるわねっ」
「商機を逃さない所、すごいと思うよ」
「さすがはフィルよね!」

そんな話をしていると、スピーカーから声が聞こえてくる。今回のこの舞台を作り上げた者達の代表の声だ。

『これより、カメラテストを開始する』

各所に点在するカメラの映像を集約して、的確にスクリーンへと映すことが重要な今回の舞台。放送や舞台構成などを専門に担当する魔導人形達を、フィルズは用意していた。その中でも、ハンチング帽がトレードマークになっているのが、リーダーだ。

その魔導人形の姿は、二足歩行する可愛らしいタヌキのぬいぐるみ。

『1カメから順に行くぞー』

リーダーであるタヌキは、『ディレクター』、『Mr.D』、『D様』と呼ばれている。フィルズの命名も『ディード』なので、そう外れてはいない。

「っ……はあ……ディ様っ……声が良いっ……」
「待ってっ、待ってっ……余韻に浸ってるのよ……っ」
「ちょっと力抜けてるけど、吸引力のあるこの声っ……やばいな……っ」

ペルタに引き続き、その声と、どこか気怠そうにしながらも的確に指示を出す様に、惚れる者達が続出中だった。

『4カメー。もう一歩分右に行けるか?』
《行けます! これくらいですか?》
『いいぞ。中央寄り気味の画をくれ……よ~し。次、五カメー』

因みに、カメラマン達は全員ディードと同型のタヌキ。一応、息子や娘設定だ。カメラを担当する者達は、腕に黄色いバンダナを巻いている。

他にも、機材の調整をするのも同じタヌキ型の魔導人形で、ディードも含めて全てのタヌキ達は濃い青のジャンパーを着ている。背中には『スタッフ』と書かれており、前には彼ら『放送・広報部隊』のマイクとカメラのマーク。そして、セイスフィア商会のマークが入っている。

ペンギン部隊と同じようなバッグを持っている者と腰に巻いたバッグと器具などを差しているエプロンをつけている者もいる。これは役割によって違うようだ。

《マイクテストお願いしま~す》
「あ、はいは~い」

また別のタヌキが箱を持って、舞台の袖からクラルスとリーリルの所へ駆けてくる。その中には、ネクタイピンのようなものが入っていた。それをクラルスとリーリルが受け取る。

《こちらを襟につけてください》
「これがマイクなの?」
《はい。ピンマイクです》
「ここに挟めばいい?」
《大丈夫です。後ろ側にある魔石に、魔力を少しお願いします。それで落下防止となります》
「へえ」

リーリルがどこか楽しそうにそれを着けていた。そこで、クラルスが首を傾げる。

「これ、常にオープン?」
《いえ。基本、こちらで操作します。こちらのインカムを耳に着けてください。クラルス様はいつもの。リーリル様、着け方は、イヤフィスと同じです》
「ああ。これだね。クラルスは慣れてるね」
「舞台に立つ時は、いつもこのインカムをつけてるもの。これで、時間とか教えてもらえるの」

広告塔として司会など仕事をする時、クラルスはいつもこれを着けている。もう専用のものが用意されていた。これによって、舞台裏からの指示を聞くことができる。

《インカムから、マイクのオン、オフをお知らせします。クラルス様やリーリル様からこちらに知らせたいことがありましたら、表側にある魔石に触れながら話してください》
「これだね? あ、魔力が少しだけ吸われる?」

リーリルが確認するように触れる。

《はい。小声でも大丈夫です。それに触れている間は、マイクがオフの状態になります》
「なるほど。少し試しても?」
《お願いします。クラルス様も》
「は~い」

舞台の用意は着々と進んでいた。

そんな頃。王宮では、召集された貴族達が会議室に集い、何が始まるのかと落ち着かない様子で王の登場を待っていた。







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読んでくださりありがとうございます◎
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