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ミッション10 子ども達の成長
371 過剰です
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この会議の場に王妃を招くかどうか、それをつい最近まで、ファスター王は決めかねていた。会議の場に王妃は出ないのが普通だ。それに、残念なことに、闇ギルドと繋がりを持っていたのは、メルナ妃の父親と母親だった。彼女から頼んでいるかもしれないが、闇ギルドにあった資料などからは、その確たる証拠は出ていない。だから、今回の事で罰せられるのは彼女の家族だけだ。
しかし、ファスター王ももう迷う気はないらしい。昨日の夜言われたのだ。
『あの部屋での様子を映した映像だが……その……貸してもらえないか?』
『どうぞ?』
『っ、よし! これでとりあえず、あの見た目に騙されていた者達が引くはずだ!』
メルナ妃は、儚げな様子で令嬢時代から人気があったらしい。それで味方になる男も多かった。そんな男達は今、揃って当主として会議に参加する立場にいる。そんな彼らの前であの映像を見せるらしい。
『あ~、みんなドン引きするよな~。父親と母親は闇ギルドの一件で退場だし?』
『そうだ。あとは、母上とレヴィがこちらに戻ってきて、母上の快気祝いのお茶会をすると言っていたから……そこで』
『おっ。あんな本性見たら、女の方の味方もいなくなるなあ』
『うむ。フラメラとリサーナが言っていたな。女の方がこれを見たら、速攻で離れると』
『同性の方が判断は早いだろうからな』
いくら王妃であっても、これは避けられないだろう。その上、舞踏会などの集まる場所でも、病弱を理由に早めに退席したりするのだから、いなくなってから色々と言われそうだ。
それはともかく、この映像の機材を設置するために、ペルタ達ペンギン部隊と共にリュブランとフラメラ、カリュエル、リサーナがついて行っていた。四人は陰から会議の様子を見たいらしい。
「はい。護衛兼補佐としてユリがついておりますし、レッカ達もおりますので、ご心配はないかと思います」
「まあ……そうだなっ。リュブランが行くって言ったしなっ」
心配なのは、リュブランの心だ。まだ教会からの保護は適用されているので、本来ならばリュブランを知る貴族達が居る王宮に行かせるつもりはなかった。しかし、リュブラン自身が希望している。そして、今は心から弟として心配もするカリュエルとリサーナ、フラメラが傍にいるのだ。傷付いて帰ってくることはないと信じたい。
「はい。寧ろ過剰戦力ですよ。ペルタさん達とシロクマさんまでついていますから……ファスター様から『城を落とすつもりか!?』とのお言葉もいただいております」
護衛としては過剰過ぎる。とはいえ、これはフィルズの考え方からすれば正解だ。
「会長が『心を守るには、物理で守れる力を特盛りで待つべし!』なんておっしゃるからですよ?」
若干呆れた様子でその時のフィルズの口真似をするセラだ。確かに言ったなと、フィルズは気まずげに頬を掻く。
「いや、だって、物理的な力があれば、多少は心強さでガードできると思わねえ?」
「確かに、心強くはありますが、過剰です」
「あ、うん……その上更にジュエルまで心配してついて行く所だったもんな……うん。きっとリュブランは大丈夫だ。信じよう」
「そうしてください」
「だな。おーい。ジュエル。いつまで拗ねてるんだ?」
その声を聞いたからか、留守番することに拗ねて可動式のアーケードの屋根の上に転がって居たジュエルが、そこからゆっくり降りて来る。
そして、フィルズの頭に掴まった。顔の側にへばりつき、若干爪を立てるのは機嫌が悪い証拠だ。
《クキュゥゥゥ》
「痛い痛い。怒るなよ。リュブラン達を心配してくれるのは嬉しいんだが、貴族に姿を見せるのはダメだって言ったろ?」
《クキュゥ!》
ジュエルは、首に付けている宝石付きのV字型の首輪のような魔導具【撃退する輪くん】を指で差して、これもあるから大丈夫と主張しているようだ。しかし、フィルズは納得しない。
「その魔導具があっても、貴族ばっかりの……魔物の巣穴に行くようなもんなんだぞ? 俺や母さん達も心配になるからダメだ」
《クキュゥ……》
ジュエルは、ペタリと顔をフィルズの頭に擦り付けて落ち着いた。
「大人しく、母さん達の勇姿を見学しようぜ? 王宮の方の様子も見えるようにするつもりだし。談話室の方に行くぞ。兄さんも来るからな」
《キュゥ~》
ちょっとまだ不満という声を聞いて提案する。
「そうだなあ。なら、途中でビズに乗って、上空から広場を見に行くか?」
《キュゥ!! クキュゥっ》
行く行くと、ペタペタとフィルズの頭を軽く叩いて答えるジュエル。これで機嫌は直ったようだ。
フィルズは機嫌良く尻尾を振り出したジュエルを頭に張り付けたまま、屋敷へと向かう。
そして広場では、クラルスとリーリルが、この日の協力者達と共に気合いを入れていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
しかし、ファスター王ももう迷う気はないらしい。昨日の夜言われたのだ。
『あの部屋での様子を映した映像だが……その……貸してもらえないか?』
『どうぞ?』
『っ、よし! これでとりあえず、あの見た目に騙されていた者達が引くはずだ!』
メルナ妃は、儚げな様子で令嬢時代から人気があったらしい。それで味方になる男も多かった。そんな男達は今、揃って当主として会議に参加する立場にいる。そんな彼らの前であの映像を見せるらしい。
『あ~、みんなドン引きするよな~。父親と母親は闇ギルドの一件で退場だし?』
『そうだ。あとは、母上とレヴィがこちらに戻ってきて、母上の快気祝いのお茶会をすると言っていたから……そこで』
『おっ。あんな本性見たら、女の方の味方もいなくなるなあ』
『うむ。フラメラとリサーナが言っていたな。女の方がこれを見たら、速攻で離れると』
『同性の方が判断は早いだろうからな』
いくら王妃であっても、これは避けられないだろう。その上、舞踏会などの集まる場所でも、病弱を理由に早めに退席したりするのだから、いなくなってから色々と言われそうだ。
それはともかく、この映像の機材を設置するために、ペルタ達ペンギン部隊と共にリュブランとフラメラ、カリュエル、リサーナがついて行っていた。四人は陰から会議の様子を見たいらしい。
「はい。護衛兼補佐としてユリがついておりますし、レッカ達もおりますので、ご心配はないかと思います」
「まあ……そうだなっ。リュブランが行くって言ったしなっ」
心配なのは、リュブランの心だ。まだ教会からの保護は適用されているので、本来ならばリュブランを知る貴族達が居る王宮に行かせるつもりはなかった。しかし、リュブラン自身が希望している。そして、今は心から弟として心配もするカリュエルとリサーナ、フラメラが傍にいるのだ。傷付いて帰ってくることはないと信じたい。
「はい。寧ろ過剰戦力ですよ。ペルタさん達とシロクマさんまでついていますから……ファスター様から『城を落とすつもりか!?』とのお言葉もいただいております」
護衛としては過剰過ぎる。とはいえ、これはフィルズの考え方からすれば正解だ。
「会長が『心を守るには、物理で守れる力を特盛りで待つべし!』なんておっしゃるからですよ?」
若干呆れた様子でその時のフィルズの口真似をするセラだ。確かに言ったなと、フィルズは気まずげに頬を掻く。
「いや、だって、物理的な力があれば、多少は心強さでガードできると思わねえ?」
「確かに、心強くはありますが、過剰です」
「あ、うん……その上更にジュエルまで心配してついて行く所だったもんな……うん。きっとリュブランは大丈夫だ。信じよう」
「そうしてください」
「だな。おーい。ジュエル。いつまで拗ねてるんだ?」
その声を聞いたからか、留守番することに拗ねて可動式のアーケードの屋根の上に転がって居たジュエルが、そこからゆっくり降りて来る。
そして、フィルズの頭に掴まった。顔の側にへばりつき、若干爪を立てるのは機嫌が悪い証拠だ。
《クキュゥゥゥ》
「痛い痛い。怒るなよ。リュブラン達を心配してくれるのは嬉しいんだが、貴族に姿を見せるのはダメだって言ったろ?」
《クキュゥ!》
ジュエルは、首に付けている宝石付きのV字型の首輪のような魔導具【撃退する輪くん】を指で差して、これもあるから大丈夫と主張しているようだ。しかし、フィルズは納得しない。
「その魔導具があっても、貴族ばっかりの……魔物の巣穴に行くようなもんなんだぞ? 俺や母さん達も心配になるからダメだ」
《クキュゥ……》
ジュエルは、ペタリと顔をフィルズの頭に擦り付けて落ち着いた。
「大人しく、母さん達の勇姿を見学しようぜ? 王宮の方の様子も見えるようにするつもりだし。談話室の方に行くぞ。兄さんも来るからな」
《キュゥ~》
ちょっとまだ不満という声を聞いて提案する。
「そうだなあ。なら、途中でビズに乗って、上空から広場を見に行くか?」
《キュゥ!! クキュゥっ》
行く行くと、ペタペタとフィルズの頭を軽く叩いて答えるジュエル。これで機嫌は直ったようだ。
フィルズは機嫌良く尻尾を振り出したジュエルを頭に張り付けたまま、屋敷へと向かう。
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