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ミッション10 子ども達の成長

364 アホだなあ

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今更ながらにリュブランの存在に気付いたらしい。ユゼリアがこの王都支部の屋敷やセイルブロードに来たのは今日が初めてだったりする。

やらかした翌日から、ユゼリアは学園の寮に軟禁されており、外出禁止だったのだ。

リュブランは学園に顔を出すこともなかったので、王宮を出てからユゼリアと会うのも初めてだった。

「ああ……お久しぶりですね、ユゼリア兄上……」
「あ、ああ……本当に……久しぶりだ……そんなに喋って……いや、お前は死んだと……」

リュブランは疲れたような目でユゼリアを見て答える。特に驚いた様子や、気まずげなものもない。そこにはユゼリアに対する感情がなかった。

ユゼリアに声をかけられたお陰で、リュブランもゆっくりと正気に戻っていく。

「ちゃんと生きておりますよ。あと、兄上の前で喋らなかっただけで、喋れます。因みに、母上のことも認識されてなさそうなので言っておきます」
「……母上……?」

リュブランが顔を向けた先。そこでは、フィルズから保冷箱を受け取ったフラメラが中から絞り袋に入った生クリームを手にテーブルを回っていた。それを芋ようかんの隣にくるりと絞り出す。

「生クリームです。付けて食べてみてください」
「まあっ。生クリームっ。合いそうだわ」

優雅に美味しそうに芋ようかんを食べていたリサーナは、それに感激したように目を細めた。

「メル姉様はいつの間にかとても綺麗に絞れるようになりましたのね。わたくしもやってみましたけれど、こんな可愛らしくは無理でしたわ。何より、お菓子が作れるなんて、羨ましい」
「ふふっ。沢山練習しましたもの。レヴィ様にもこの前褒められましたわ」

リサーナとフラメラとの関係もガラリと変わり、今や『リサ』『メル姉様』と呼んで、一緒にお茶をする仲だ。

呼び名は最初、メルナの名に似ているからと嫌がったのだが、リサーナが『あの人の名はもう呼ばないから良いではないですか』との言葉で『それならば』となった。

「ですからわたくし、いつかパティシエ試験を受けますの」

このセイスフィア商会では、ケーキ屋を作ったことと並行して専門性を持ったパティシエを育てることに力を入れていた。そこで出来たのがパティシエ試験だ。お菓子作りの基本的なことはもちろん、食品衛生に関する知識や、店舗経営に関する基本的なもの、それと何よりも発想力を試される。

「まあっ。この前のフルーツのパウンドケーキも美味しかったですし、講座の発表会であった飴細工で作られた薔薇は見事でしたものっ。きっと受かりますわっ」
「っ、この王都にいる間にまたケーキを作りますわっ。是非、学園のお友達とのお茶会に持って行って」
「ふふっ。楽しみにしていますわ。でも……一緒に作りたかったりもするのですけれど」
「まあっ。是非! 是非一緒に!」
「はいっ」

仲の良い姉妹、母娘にしか見えなかった。それを見て、ユゼリアはポカンと口を開ける。

「……え? 第三……王妃? 顔が……装いが……」
「あれが本来の母上ですよ。童顔なことを色々と言われたらしくて、頑張ってケバっ……いえ、濃く化粧を塗りたくって作り上げていたみたいです」

これが聞こえたフラメラは、リュブランの方を素早く振り返った。

「リュブラン! 今ケバいって言いました!?」
「言い切っていませんのでセーフです」
「っ、目を逸らさないなんて……やるわね」
「本当のことなので……」
「ここで目を逸らすなんてっ……やるわね」
「何に感心してんだ?」

フィルズが思わず突っ込んだ。

「ほれ、遊んでないで、リュブラン。モンブランを出してくれ。フラメラはその調子で生クリームを」
「は~い」
「はいっ」

親子漫才ではないが、リュブランとフラメラはこんな言い合いも出来るほど仲良くなっていた。それにまたユゼリアは驚いているようだ。

これにはファスター王も目を丸くしていた。フラメラがこれだけリサーナとも仲良くしていることを知らなかったらしい。

「別人だ……」
「ファシー。それ、女には時に禁句だ。もうちょっと声抑えろ」
「っ、す、すまん」

しかし、フラメラには聞こえたようだ。

「ふふっ。別人? 別人ですか? さすがにわたくし、寝室では化粧を落としていたこともありますけれど?」
「っ、くっ、暗かったんだろう」
「あら? お酒もご一緒したことありましたわよ?」
「っ……ごめんなさい」
「まったく。王宮に居た頃は、わたくしとあまり目も合わせませんでしたものねえ。それで顔をなんて見ませんわよね」
「本当にごめんなさい……」
「いいですわ。分かってましたもの。ふんっ。生クリーム、一つしかあげませんわ」
「そんなっ。私が好きなのを知っているだろうっ」
「知りませんわ」
「うぐぐっ……そこをなんとかっ。許してくれっ」
「嫌ですわ。反省なさいませ」
「ううっ……生クリーム……」

他の人には三回絞るところ、一回しか絞ってもらえなかったファスター王は、ちょっと泣いた。生クリームは好きらしい。

「夫婦喧嘩もほどほどにしろよ? 内容が微笑ましすぎだろ」
「フィルっ。仲直りするにはどうすればいいのだ!?」
「そんなに生クリームが欲しいのか……俺に聞くなよ……そこに日頃から頑張ってるのがいるだろ。そっちに聞け」

顎をしゃくって示したのは、リゼンフィアだ。彼は今、ミリアリアとの仲も頑張って修復というか、やり直し中なのだ。そして、日々クラルスの機嫌を取ろうと必死だ。

「っ……」
「おおっ。リゼンっ。どうすればいいっ」
「そ、その……フラメラ様は、クラルスのファンなので……何か最新のグッズとか、クラルスとお揃いのものとか……」
「っ、お前は……っ、天才か!? よし、クーちゃんとペアの何かを贈ろう!」
「……クラルスにプレゼント……っ、王にプレゼントされたものを身につける……っ、うぐぐ……っ」

勧めたは良いが、自分ではない男が贈ったものを妻であるクラルスが身につけると考えた時、とても複雑な心情のようだ。

「アホだなあ」

そういう所が笑えて良いと、フィルズは父親であるリゼンフィアを微笑ましく思った。

新たに芋で作ったモンブランのケーキが配られ、絶賛された。そして、お茶を飲みながら落ち着いた所で、カリュエルがフィルズへ声をかけた。

「それで? あの女からの招待だけど、どうすればいいだろうか」
「ああ。行って来て欲しい。それで、三人には……ガンナ」
《は~い。こちらをお一つずつどうぞ》

ガンナがトレーに持って来たのは、指輪だった。








**********
読んでくださりありがとうございます◎

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