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ミッション10 子ども達の成長

363 庶民が食べる……

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フィルズは、キッチンの方から小さな保冷箱に何かを入れて戻ってきた。メルナの話よりも先に、デザートだと薦める。

「ああ、聞きながら食べてくれ。今回のは芋ようかんと、うちではお馴染みのスイートポテトだ。どっちもスティーモを使ったデザートだ」

スティーモはいわゆる、さつまいもだ。今回の試作のデザートを『芋ようかん』と『スイートポテト』とフィルズが前世の名称そのままにしたのには理由がある。材料にスティーモを使っていると分かりにくくするためだ。

スティーモと聞いて、ワンザが思わず呟いたことが理由だ。

「スティーモ……庶民が食べる……」
「っ、ワンザ」

ユゼリアがワンザの言葉を非難するように小さく告げる。すると、ワンザはビクリと体を震わせ、立ち上がると頭を下げた。

「もっ、申し訳ありませんっ」

ワンザは、つい最近まで父親からユゼリアが勝手な正義感から不正を暴いた件で罵倒され、謹慎処分を受けていたらしい。それまで何を言われても王子の側近としての立ち位置は揺らぐことなく、強気でいられたワンザは、初めて父親に怒鳴られ、ダメ出しされてすっかり大人しくなっていた。

何が怒られるきっかけになるのかが今まで叱られたことのない彼には分からないのだ。だから、必要以上に周りの反応に怯える。

今も怯える様子を見て苦笑しながら、フィルズは大丈夫だと伝えるように手を振る。

「いや、良い。そう。スティーモは庶民が、それもあまり稼ぎのない者達が育てて食べるものと思われている。実際、その通りだ。だから、あまり良い印象がない」
「っ……」

肯定されたことに驚きながらも、トールに促され、ワンザはゆっくりと椅子に腰掛ける。それを確認しながらフィルズも席についた。

「理由としては、育てやすいこと。ポテイモのように連作障害が起き難いこと。数が出来ること。そのお陰で安価で手に入るし、かなり保存が効くことだな。栄養面でも助かるものだ」

育てやすさというのは大きいだろう。

セルジュがリュブランから芋ようかんとスイートポテトの載ったお皿を受け取って、早速一口と小さく切り分けてフォークを刺した。

「それは、助かる作物だね。それがデザートになるんだもん。印象は変わるだろうね。いただきます! んっ……っ、程よい甘さっ。スイートポテトより固さがあるけど、美味しい!」
「よかった。ほれ、ファシー達も」
「ああ。いただこう」

そうして、目を輝かせながら皆がそれに口をつけた。ユゼリアとワンザもだ。エンリアントとトールが何事もなく食べはじめたので、戸惑いながらも小さな一口を食べた。その美味しさに、驚いたように目を何度も瞬かせている。

「そういえばフィル君。連作障害って何?」

そんな中、お茶を淹れながらリュブランがいつものように気になったことを尋ねてくる。

「同じ作物を何度も植えることで、土の栄養が偏るんだ。それで作物が病気になるんだよ。だから、ポテイモやトマトなんかは同じ場所で作らない方が良い」
「そんな事があるの?」
「ああ。小麦なんかも、気を付けるべきでな。農家の一部では、理屈を知らなくてもそれまでの経験でそれを避けてる。ただ……それを領主とかは理解してないからな。休耕地を作るとかなり責められる所があるらしい。それで荒廃してどうにもならなくなった土地とかもある」
「……ありそう」
「だろ? 農家の奴らも、何でなのかってのを説明できねえんだもん。まさか、領主に『勘です』とか『何となく』なんて言えねえしな」

ファスター王とリゼンフィアが気まずそうに目を逸らした。あり得ると思ったようだ。そんな父親達のことなど気にせず、リュブランは思ったことを素直に口にする。

「うん。でも、それしか、きっと言えないよね?」
「そういうこと」

ここに、ふと何かに思い至ったらしいセルジュが口を挟む。

「ん? もしかして、レヴィさんが何人かフィビー農園の人を連れて出かけて行くのって……それを検証するため?」
「そうっ! さすが兄さん」
「すごい、セル君。あそこの人たちが叔母上と出かけてるなんて気付かなかった」
「ふふっ。フィルが世話してる人達のことだからね。気になってたんだ」

フィルズとリュブランに褒められ、セルジュは得意げに答えた。

因みに、フィビー農園とは、元男爵領に作ったセイスフィア商会の農園のこと。農園と言ってはいるが、規模としては大きな村と呼べるものだ。そこでは、隣国から盗賊に身をやつしてやってきた者達が罪を償いながら働いている。とはいえ、嫌々でもなく生き生きと、新天地を与えられたというように日々を過ごしていた。

そこでは、荒廃した土地でも農地として使えるようにする研究や品種改良などがされている。

「それに、あそこの人たちって、一応は罪人でしょう? だから、外に出すのが不思議だったんだ」
「そこは、信用できるかどうかきちんと見極めてるよ。監視役にクルフィ達と同型のウサギも付けてるしな」
「あれ? あの真っ白な子、レヴィさんに付けてるんじゃないんだ?」
「ああ。まあ、レヴィの護衛でもある」
「そうだったんだ」

真っ白なウサギは、警備員のような薄青色の制服を着て、帽子もそれらしいものを着けている。そして、腰には警棒があった。

「レヴィは普通に強いけどな」

フィルズの言葉に、リサーナも同意する。

「叔母様は、公爵領都の騎士団の中でも上位の実力者ですものね。冒険者としても活動をはじめたとお聞きしましたけれど」

これに答えたのはカリュエルだ。

「早くも六級らしいと聞いたな。私もまだ七級なのに」
「まあっ、お兄様! 抜けがけしましたわねっ。わたくしまだ八級ですのにっ」
「うっ……その……リューとマグナ達とな……」
「そういう所っ、ズルいですわっ! 男性ばかりですぐ抜けがけしてっ。そうですわ! フィルさん!」
「なんだ……?」

飛び火してきた。嫌な予感がすると、フィルズは少し身構える。

「フィーリアちゃんで一緒に参りましょう! リニも連れて」
「女として行けと……そういうことか……」
「その通りですわ! わたくしも、女の子達だけで行きたいのです!」
「いや、俺もリニもおとこ……」
「問題ないですわ!」
「……それなら、リュブラン達にも女装させたら……」
「っ、ちょっ、フィルくん!」

巻き込まれるとリュブランは察した。その通りだ。これにリサーナの目がリュブランに向く。

「それですわ! リュブラン!」
「はっ、はい!」
「ブランちゃんに変身して、わたくしとお仕事しますわよ!」

ブランちゃんとは、リュブランが女装した時の名前だ。リーリル直伝のため、どこからどう見ても少女にしか見えない出来になっている。ただ、声変えの方はまだ甘くはある。

「いや、私……お茶会以外でブランになったことは……」
「まあっ、では、冒険者ブランちゃんのデビューですわね! 王都の依頼ならば、公爵領のものよりもランクが低いものが多いですもの。デビュー戦で問題ないですわ!」
「そういう話ではなく……」
「いいですわね!」
「……はい……」
「ふふん ♪ 」
「……」

上機嫌になったリサーナ。それとは逆に、戦いに敗れた者のように、何かを失った様子で肩を落として立ち尽くすリュブラン。姉には敵わないのだと諦めてもいる。しばらくはそのままだろう。

そこで、ユゼリアが何かに気付いた様子で目を丸くしながらリュブランを見た。

「……え……リュブラン?」

その声は信じられないものを見たというように少し震えていた。









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読んでくださりありがとうございます◎


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