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ミッション10 子ども達の成長

360 あの子は凡人……

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それは堪えていた笑いを噴き出すようだった。

「っ……ふふっ、ふふふっ。ようやくっ! ようやくわたくしだけにっ」

第三王妃のことは邪魔だったが、メルナの方で流した悪評もあり、王も貴族達も見向きもしなくなっていた。

「あはっ。本当に面白いくらい、思った通りに噂になるんだから。ふふふっ」

メルナは若い頃から嫌いな者を排除するため、その人の不名誉な噂を流すのが好きだった。そして、思い通りに家から追放されたり、謹慎させられて社交界から弾き出されるのを知った時の興奮が癖になっていた。

その胸元には、紅い宝石のついたネックレスが輝いている。

「はあ……楽しいっ。本当に愉快だわっ。人が堕ちていくのは本当にステキ……」

うっとりと目を細める様は、清楚で可憐などというイメージからはかけ離れたものだった。しかし、しばらくして表情をガラリと変える。それはとても残念そうなものだった。

「ああ、でもあの女、死んだわけではないのよね」

窓からは少し離れた場所にある小さなテーブルセットに椅子に着き、高く足を上げて組んで、気だるげにテーブルに頬杖をつく。その腕には、小さな宝石が散りばめられてはいるが、上品な二センチ幅の腕輪が煌めく。

「それにやっぱり、実際に見てみたいわ。あの女が泥だらけになって、貧相な孤児達に集られているなんて……っ、ふふっ、ふふふっ。なんて哀れなのかしらっ、是非とも見てみたいわ。陛下にお願いしてみようかしら……」

整った長い指を口元に伸ばし、ニヤつく様を隠す様に、確認する様に触れた。

「ああ、でもダメね……病弱で儚さのある設定だものね。公爵領まで行くのは無理があるわ。面倒な王妃の仕事をさせられることになるのはイヤ。汚らしい孤児院への慰問なんて、今更やりたくないわ」

王妃が担うべき仕事というものがある。メルナは、王妃という立場に執着があるが、王妃の仕事はしたくはない。元々、楽して煌びやかでとうとばれる存在になりたかったのだ。孤児院への慰問などしたくないし、神官達は潔癖過ぎて好きになれない。

後ろ暗いことをしているからこそ、何もかもを見透かしてしまうような神官達と顔を合わせたくないのだが、その事実をメルナはずっと自分の中で偽っている。

「ん~、そういえば、あの子どもが死んだと言っていたわね……それにしては、その報告がない……どうなっているのかしら……」

気になっているのは、第三王子のリュブランのこと。

「あの女も、わたくしの引き立て役として、ユゼリアが王位を継ぐまで置いておくつもりだったのに、運がないわねえ」

誰かが輝くためには、陰を担う者が傍にあるべきだ。第三者王妃は引き立て役であり、メルナよりも劣っていることを広く喧伝することで、影は濃くなり、光であるメルナがより強く輝くことができた。ほんの少し、王妃らしい姿と行動を見せれば、完璧な王妃だと誰もが納得したのだ。

楽で良かったのだが、その第三王妃をそのままにはしておけない理由があった。

「死にに行くとはいえ、あの子どもが騎士団を作って出ていくと聞いて、魔寄せまで融通させたのに、失敗したなんてこと……」

長い爪を噛みながら、メルナは忌々しげにその存在を思い出して目を細める。

「あんな女から生まれたというのに、頭の回転は悪くないなんて誤算だったわね。それも、剣の腕まで……指南役達を代えて、本当に正解だったわ」

メルナが、第三王妃を排除する事を優先したのは、リュブランの存在があったからだ。

たまたま書庫で出会ったリュブランは、歴史の書物を読んでいた。それも、まだ十才になるかならないの時にだ。それを見た時、意地悪くした質問に、的確な答えを返してきたことで戦慄した。リュブランとしては、優しいと評判の第一王妃に、褒めてもらいたい一心だったのだが、それがメルナには警戒するきっかけとなっていた。

リュブランには、才能がある。凡人にはない輝きが見えてしまった。幸い、リュブランが非凡であることは、王にも知られなかった。絶対に知られてはいけないと注意したところだ。

剣術についても、たった数回の稽古でそれなりの素質を見せたと言う。だから、すぐにメルナは自分に忠実な者に、指南役を変更させた。そして、不出来だと噂を流し、稽古も手を抜かせたのだ。

「アレを生かしておけば、ユゼリアの邪魔になる……はあ……あの子は、良くも悪くも愚鈍な妹にそっくりなんだから……」

ユゼリアは素直だ。その気質から、努力すればそれなりの結果を残せるだろう。だが、あくまでも努力すればというものが付く。

「あの子は凡人……それは仕方ないわ」

『わたくしの子ではないし』と小さく呟く。自分の子ならば凡人なはずはないのにとメルナは、最近よく思っていた。

「あの子は、わたくしが正しく導けば良いだけの事……けれど、あの子どもは……」

リュブランを表舞台に立たせれば、陰になるのは、ユゼリアの方だ。それが分かったからこそ、メルナは何よりも先にリュブランを消してしまいたかった。それに伴って、第三王妃が完全に失墜することになってもだ。

実家や自身の伝手を使い、闇ギルドに依頼して排除にかかった。しかし、必ず完了すれば来るはずの報告が未だに来ないのはおかしい。

依頼人との不要な接触は避けるため、中間報告などは行われない。連絡がないということは、まだ完了していないということに他ならなかった。

「状況が分からないのは困るわね……最近は裏の者も人員不足だと言って、お父様も人を寄こさないし……」

数ヶ月前までは、父親である侯爵から送られてきたメルナが使える諜報員が居た。しかし、なぜかその諜報員が行方知れずになったり、使える人員が減っているから、頻繁に送れないと連絡が来たのだ。お陰で、メルナは今回のようにお茶会を開くことで御夫人方から外の情報をもらっていた。

「ああ、そうだわ! 確かカリュエルとリサーナがその教会への慰問をしたと言っていたはず……学園への復学も勝手に決めたようだし……ユゼリアも最近会いに来ていないもの……呼び出してみましょうか」

名案だと手を打ち、メルナは手紙をしたためた。

「たまには良い母親として、子ども達とお話しなくてはねえ」

自分の策にうっとりとするような笑みを浮かべ、メルナは侍女を呼ぶベルを鳴らしてカリュエルとリサーナ、ユゼリアへと手紙を出したのだ。

その子ども達が様々な事実を知ったということに気付かずに、楽しそうにメルナは笑っていた。










**********
読んでくださりありがとうございます◎
来週辺りからコミカライズも始まるようです。
よろしくお願いします。
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