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ミッション10 子ども達の成長
358 似てる
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スピークの真剣な顔を見て、ファスター王は何かただならぬ事情がありそうだと姿勢を正す。それを確認したスピークは、肩の力を抜き、ふうと息を吐いてからゆっくりと改めて口を開いた。
「俺んとこには、かつての同業の奴や、その弟子なんかが愚痴やらなんやら吐き出しに来んだよ。一応、まあ名も通ってたし、それなりに慕われててな。そん時に、土産話として色んな情報をくれる」
暗殺者や諜報員が必ずしも無口とは限らない。もちろん、感情を殺して裏の仕事一色にしている者もいるが、仕事の時以外は普通に町で過ごしている者は多かった。諜報員などは、町に溶け込む術が重要だったりするのだ。そして、人はずっと気を張って仕事モードでいられるものではない。
だから、たまには息抜きが必要だ。多くの秘密を見聞きする彼らだとて、喋りたい時はある。だが、それを一般人に話せばどう広がるか分からない。仕事にも支障が出る。そこで都合が良いのが裏の事情も知っているスピークだ。
「情報や秘密ってのは、誰かは知っているもんだ。だから、いつどこから漏れても不思議じゃねえ。口を閉ざそうとそいつを消しても、消されたことは残る」
どこにでも目はあるし、耳もある。
「見つけられねえ真実は、ただ知ってる奴を見つけられてねえだけだ。知ってても、そいつにとっては大したことではなくて、記憶の隅の隅に追いやられてるだけ。完全に何もかもを消すことなんて、まずできねえんだからな」
誰も知らないなんてことは、ほぼないのだとスピークは思っているのだ。
「俺は、そんなのを聞き出したり拾い集めるのが趣味なのさ。秘密にされた事を察知するのがちょっと他のやつらよりも敏感なだけだが、だから、今回のも別に故意に暴こうとしたわけじゃねえってのを一応、頭に入れといてくれや」
「あ、ああ……」
これが言いたかった。別に知りたくて知ったわけではないのだと。
「結論から言うと、第一王子な。あれ、王妃の子じゃねえぞ」
「……っ、はあ!?」
「王妃の子ではない? そ、それはどういう……っ」
ファスター王もリゼンフィアも、まさかの答えに動揺を隠せなかった。
「待ってくれっ。わ、私の子ではないと言われるかと思ったのだが? 王妃の子でもない? なら、誰の子だ!?」
「ああ。あんたの子でもなくてな。第一王妃には、腹違いの妹が居てな。そいつと、セクラ伯爵家の現当主の弟との子だ」
「なぜそんなことに……」
王家に縁のない伯爵家の、それも現当主の弟の子というのは、予想できるものではない。
「第一王子が生まれる少し前から体調を崩してただろ。子どもがダメだったようでな。まあ、自業自得だ。第二王妃に盛ろうとした毒物に触れたようでな。それでってことらしい」
「それは間違いなく自業自得ですね」
「セルジュ……うん。でも、私もそう思うよ……」
セルジュは真顔で自業自得だと言い切る。それに、リュブランも、ゆっくりだが頷いた。
一方、ファスター王とリゼンフィアは衝撃から立ち直れずにいた。よって、スピークはセルジュとリュブランに話すようにして続ける。
「だよなっ。っても、第一王妃付きの侍女が凶行を止めようとして、わざと毒薬の瓶を割ったんだよ。そん時にその侍女は解雇されて、その毒の影響もあってその後数年で亡くなったけどな」
「その証拠書類とかは?」
フィルズがスピークに尋ねると、彼はニヤリと笑って懐から折り畳まれた紙を差し出した。
「きちんとその侍女から預かってるよ」
「だと思ったぜ」
罪の告白ではないが、せめてもの意趣返しにと、そうしたものを情報屋などに売る者はいるらしい。
「ファシー。持っとくか?」
「っ、い、いや……フィルが預かっておいてくれ。ここが一番安全だろう」
「まあな」
どこよりもセキュリティは万全だ。
そこで、しばらく考え込んでいたリゼンフィアが顔を上げる。
「その……もしや、その時に子がダメになったのを隠すために、妹の子を?」
「だな。ひと月ほど生まれにズレがあったが、上手く誤魔化したんだろう」
「そう言われてみれば……状態が良くないからと中々会えずに、初めて会ったのが生まれて二ヶ月ほどだったが、二ヶ月にしては、かなりしっかりしていた気がする……」
ファスター王が記憶を探りながらそう呟く。最近は孤児院で生まれて間もない子や二、三ヶ月の子を見ていたため、違和感に気付いたようだ。そろばん教室に通いながら、神官に交じって、孤児院の子ども達を見ていたりする。オツムを替えた子も何人か居たほどだ。
「王妃の出産予定より、妹の子の方がひと月は生まれが早かったようだからな」
「だ、だが、それならばその妹はどうした? あれに妹が居たというのは聞いていないのだが」
「小さい時に、顔に酷い火傷を負って、社交デビューもしてなかった。結婚後は行方知れずだ。相手の伯爵家の弟の方も、足が悪くてほぼ外に出てねえ。今でも、本邸の離れで閉じ込められてるらしいが……そこは、フィルが確認したんだろ?」
「ああ」
フィルズは執務机の引き出しから一冊の本を取り出して持ってくる。
「そもそも、スピじいにこの情報をもらうことにしたきっかけがコレだ」
それはスクラップブックで、写真が貼られている。そのページには、痩せて弱った様子の男が窓の所に立って外を見ている姿があった。その姿を見て、一同は目を丸くした。
「こっ、これは……っ」
「似てる」
「うん……兄上にそっくり……」
「まさかこんな……」
ファスター王は、ユゼリアをそのまま年を取らせたような姿の男に息を呑み、セルジュとリュブランは冷静に頷く。そして、リゼンフィアはまさかという思いをそのまま口にしていた。
「鉱山の件で、伯爵家を調べるのに、隠密ウサギを送ったんだが、そこで撮ってきたのがコレだ。あまりにも似てるもんだから、まさかなと思って、スピじいに確認したら、こんな答えが返ってきちまったんだよ」
フィルズはユゼリアや第一王妃の事を調べようと思っていたわけではない。たまたま、これにぶち当たったのだ。そして、まさかの真実に辿り着いてしまった。
「これを知ったから、途中になってたこの血縁判定機を急いで完成させたってわけ」
「そういうことか……」
ファスター王は平民夫婦のためと言いながらも、わざわざこれを自分に見せた理由を正しく察したようだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「俺んとこには、かつての同業の奴や、その弟子なんかが愚痴やらなんやら吐き出しに来んだよ。一応、まあ名も通ってたし、それなりに慕われててな。そん時に、土産話として色んな情報をくれる」
暗殺者や諜報員が必ずしも無口とは限らない。もちろん、感情を殺して裏の仕事一色にしている者もいるが、仕事の時以外は普通に町で過ごしている者は多かった。諜報員などは、町に溶け込む術が重要だったりするのだ。そして、人はずっと気を張って仕事モードでいられるものではない。
だから、たまには息抜きが必要だ。多くの秘密を見聞きする彼らだとて、喋りたい時はある。だが、それを一般人に話せばどう広がるか分からない。仕事にも支障が出る。そこで都合が良いのが裏の事情も知っているスピークだ。
「情報や秘密ってのは、誰かは知っているもんだ。だから、いつどこから漏れても不思議じゃねえ。口を閉ざそうとそいつを消しても、消されたことは残る」
どこにでも目はあるし、耳もある。
「見つけられねえ真実は、ただ知ってる奴を見つけられてねえだけだ。知ってても、そいつにとっては大したことではなくて、記憶の隅の隅に追いやられてるだけ。完全に何もかもを消すことなんて、まずできねえんだからな」
誰も知らないなんてことは、ほぼないのだとスピークは思っているのだ。
「俺は、そんなのを聞き出したり拾い集めるのが趣味なのさ。秘密にされた事を察知するのがちょっと他のやつらよりも敏感なだけだが、だから、今回のも別に故意に暴こうとしたわけじゃねえってのを一応、頭に入れといてくれや」
「あ、ああ……」
これが言いたかった。別に知りたくて知ったわけではないのだと。
「結論から言うと、第一王子な。あれ、王妃の子じゃねえぞ」
「……っ、はあ!?」
「王妃の子ではない? そ、それはどういう……っ」
ファスター王もリゼンフィアも、まさかの答えに動揺を隠せなかった。
「待ってくれっ。わ、私の子ではないと言われるかと思ったのだが? 王妃の子でもない? なら、誰の子だ!?」
「ああ。あんたの子でもなくてな。第一王妃には、腹違いの妹が居てな。そいつと、セクラ伯爵家の現当主の弟との子だ」
「なぜそんなことに……」
王家に縁のない伯爵家の、それも現当主の弟の子というのは、予想できるものではない。
「第一王子が生まれる少し前から体調を崩してただろ。子どもがダメだったようでな。まあ、自業自得だ。第二王妃に盛ろうとした毒物に触れたようでな。それでってことらしい」
「それは間違いなく自業自得ですね」
「セルジュ……うん。でも、私もそう思うよ……」
セルジュは真顔で自業自得だと言い切る。それに、リュブランも、ゆっくりだが頷いた。
一方、ファスター王とリゼンフィアは衝撃から立ち直れずにいた。よって、スピークはセルジュとリュブランに話すようにして続ける。
「だよなっ。っても、第一王妃付きの侍女が凶行を止めようとして、わざと毒薬の瓶を割ったんだよ。そん時にその侍女は解雇されて、その毒の影響もあってその後数年で亡くなったけどな」
「その証拠書類とかは?」
フィルズがスピークに尋ねると、彼はニヤリと笑って懐から折り畳まれた紙を差し出した。
「きちんとその侍女から預かってるよ」
「だと思ったぜ」
罪の告白ではないが、せめてもの意趣返しにと、そうしたものを情報屋などに売る者はいるらしい。
「ファシー。持っとくか?」
「っ、い、いや……フィルが預かっておいてくれ。ここが一番安全だろう」
「まあな」
どこよりもセキュリティは万全だ。
そこで、しばらく考え込んでいたリゼンフィアが顔を上げる。
「その……もしや、その時に子がダメになったのを隠すために、妹の子を?」
「だな。ひと月ほど生まれにズレがあったが、上手く誤魔化したんだろう」
「そう言われてみれば……状態が良くないからと中々会えずに、初めて会ったのが生まれて二ヶ月ほどだったが、二ヶ月にしては、かなりしっかりしていた気がする……」
ファスター王が記憶を探りながらそう呟く。最近は孤児院で生まれて間もない子や二、三ヶ月の子を見ていたため、違和感に気付いたようだ。そろばん教室に通いながら、神官に交じって、孤児院の子ども達を見ていたりする。オツムを替えた子も何人か居たほどだ。
「王妃の出産予定より、妹の子の方がひと月は生まれが早かったようだからな」
「だ、だが、それならばその妹はどうした? あれに妹が居たというのは聞いていないのだが」
「小さい時に、顔に酷い火傷を負って、社交デビューもしてなかった。結婚後は行方知れずだ。相手の伯爵家の弟の方も、足が悪くてほぼ外に出てねえ。今でも、本邸の離れで閉じ込められてるらしいが……そこは、フィルが確認したんだろ?」
「ああ」
フィルズは執務机の引き出しから一冊の本を取り出して持ってくる。
「そもそも、スピじいにこの情報をもらうことにしたきっかけがコレだ」
それはスクラップブックで、写真が貼られている。そのページには、痩せて弱った様子の男が窓の所に立って外を見ている姿があった。その姿を見て、一同は目を丸くした。
「こっ、これは……っ」
「似てる」
「うん……兄上にそっくり……」
「まさかこんな……」
ファスター王は、ユゼリアをそのまま年を取らせたような姿の男に息を呑み、セルジュとリュブランは冷静に頷く。そして、リゼンフィアはまさかという思いをそのまま口にしていた。
「鉱山の件で、伯爵家を調べるのに、隠密ウサギを送ったんだが、そこで撮ってきたのがコレだ。あまりにも似てるもんだから、まさかなと思って、スピじいに確認したら、こんな答えが返ってきちまったんだよ」
フィルズはユゼリアや第一王妃の事を調べようと思っていたわけではない。たまたま、これにぶち当たったのだ。そして、まさかの真実に辿り着いてしまった。
「これを知ったから、途中になってたこの血縁判定機を急いで完成させたってわけ」
「そういうことか……」
ファスター王は平民夫婦のためと言いながらも、わざわざこれを自分に見せた理由を正しく察したようだ。
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