趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

文字の大きさ
上 下
150 / 234
ミッション10 子ども達の成長

357 その考え方すげえわ

しおりを挟む
ノックに返事をすれば、屋敷管理クマのガンナがちょこんと顔を覗かせた。

《お客様が到着しました》
「お、早かったな。入ってもらってくれ」
《はい》

そうして入ってきたのは、酒瓶を片手に持ったその辺のおっさんにしか見えない初老の男だった。

「よお。フィル。来てやったぜ」
「悪いなあ、スピじい」
「まあ良い運動になったぜ。それに、ビズ嬢ちゃんと途中で会ってな。乗せてきてもらったのよ」
「あ、ビズが散歩するって言ったのはそのためか」
「なんだ? やっぱビズ嬢ちゃん、迎えに来てくれてたのか」
「だろうな。この前、足怪我してたろ。それで気になったんじゃね?」
「おおっ。気遣いもできるたあ、良い女だぜっ」
「な~」

さり気なく弱っている者に寄り添ったり、困っている者がいれば絶妙な加減で手伝ってくれる。ビズはとても気の利く魔馬だ。

「ってか、酒はもうやめたんじゃねえの?」

彼は酒瓶を手にしているか、側に置いているのが当たり前で、トレードマークのようなものだ。今回もそれを持っており、あまりにも当たり前過ぎてそのまま受け入れる所だったが、フィルズは酒は辞めたというのを以前に聞いていた。

「コレか? これはほれ、フィルが寄越したレルモのジュースだよ」

レルモはこの世界のレモンだ。ということは、中身はフィルズが教えたレモネードだ。披露した時に、かなり気に入った様子だったので、水に適量溶かせば出来る粉末にしたものを渡していたことを思い出す。しかし、入れ物が何とも奇抜だ。

「……なんで酒瓶に入れてんだ……」
「なんか、こう、持ってねえと落ち着かねえんだよ」
「ワキワキすんな……」

指を複雑に動かして、酒瓶を持っていないことの落ち着かなさをアピールする男に、フィルズは呆れた視線を送った。

「それにしても、本当に王と宰相まで普通に居るとはなあ。あ、風呂は入ってきたぞ。あの大浴場、良いな。近くに住みてえわ」
「住みゃあ良いだろ。ってか、ウチに再就職しねえ? 社員寮もあるぜ。食事も出るし」
「ぐっ……何やらせる気だ?」

ギロリと睨め付けるようにフィルズを見る男。それに特に反応せずにフィルズは答えた。

「測量・諜報部の取りまとめ」
「あん? 今は誰がやってんだ?」
「隠密ウサギだけど?」
「人じゃねえんかよ!」
「スピじいの直弟子なんだから、良いじゃん。それに、あいつらやっぱ自分達より実力が上じゃねえと、認められねえし」
「ウサ達に負けてんのかっ」
「仕方なくね?」
「……それもそうか……」

因みに、兎によく似た魔物のラフィットが、古代語ではウサギと呼ばれることを知っている者はそれなりにいる。よって、隠密ウサギと呼ばれていることに周りの者達は納得しているのだが、この男だけは認めていなかった。

『あれをウサギと認めてたまるかっ! ホンモノと一緒には出来ん!』

何やらラフィットに特別な思い入れがあるらしい。よって、彼はフィルズがウサギ達をお披露目した時から『ウサ』と呼んでいる。

「まあ、その話はまた後で。とりあえず座ってくれ。兄さん達は……」
「居ない方がいいの?」
「聞かない方がいいですか?」
「う~ん……」

本当は部屋から出すつもりだった。だが、セルジュもリュブランも何かを察しているのだろう。できればここに居たいと、その目が言っていた。

これに答えたのは一人がけのソファに、遠慮なく腰掛けた男だった。

「いいんじゃね? 立場的に言っても、機密とか守れるようになった方が良いだろうしな」
「まあな……よし、なら兄さんとリュブランも座ってくれ。ファシーと宰相も、こっちにな」

そうして、親と子で分かれて向かいのソファに座った。フィルズだけは男と向かい合うよう、執務机を背にして立っている。

落ち着いた所で男は机の上の物を改めて見た。

「出来たんだな」
「ああ。今二人の前でも検証もした」
「なら、説明するか」

男は酒瓶を机の端に置いて前屈みになって足の上で軽く腕を組んだ。

「まず、俺は元他国の暗部の人間でな。三十年ほど前に引退ってか、処分されるまえにトンズラしてこの国に居着いたじじいだ。かつての名はスピアレイ。これでも、結構貴族達に恐れられたんだぜ。あ、今はスピークって名乗ってる。そっちの名で好きに呼んでくれ」
「っ、スピアレイ!? 当時最強の暗殺者と言われた?」

リゼンフィアが思わず腰を浮かせて叫ぶように口にする。ファスター王も信じられないものを見るような目を向けていた。

「言われたな。俺失敗したことねえし。まあ、ワルイ事した奴だって確信ねえと暗殺の仕事は受けなかったけどな」
「選べんの?」
「それだけの実力見せりゃあな。俺は神様にきちんと顔見せながら死にてえもん」
「その考え方すげえわ」
「まあ、だからトンズラする事になったんだけどなあ」
「そりゃあ、強要される事だってあるもんな」
「おう。だから、仕事断ってトンズラする時に相手に証拠書類放り込んで来た。俺を追いかけてる暇はなかっただろうぜ。そのままやり返されてて後で笑ったわ」
「さすがっ!」
「「……」」
「「……」」

ファスター王とリゼンフィアは気の毒そうな顔をし、セルジュとリュブランは、フィルズと顔を見比べて頷いていた。これはフィルズと気が合いそうだと。

「でだ。まあ、一応は引退してからも方々の情報は集めてんだが……」

そこでファスター王へ真っ直ぐに目を向けた。







**********
読んでくださりありがとうございます◎


しおりを挟む
感想 2,331

あなたにおすすめの小説

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?

藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」 愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう? 私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。 離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。 そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。 愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。