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ミッション10 子ども達の成長
354 お忍び下手……
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夕食前に面倒な事は済ませようと、ファスター王も分かっていたのだろう。日が暮れだす随分前にやって来た。呼び出されたのが嬉しかったというのがあるようだが、フィルズにそこは察せられなかった。
執事クマのガンナに案内され、執務室に意気揚々とやって来たファスター王とリゼンフィアに、フィルズは片手を上げて応える。
「お~。早えじゃん。悪りいな。じいちゃん達の方が忙しいだろうに」
「なあに。フィルのお陰で、他の大臣達がよく働いてくれるようになったのでな!」
「今まで、いかに働いていなかったかが分かる……」
ファスター王は満足げに、リゼンフィアは苦々しげにそう告げた。反応が正反対過ぎて笑えるほどだ。
「ん? 俺の?」
どういう事かと問いかける間に、二人は応接ソファーに向かい合わせに座っていた。
「大臣達の休日の楽しみが、ここのゲーム館に来ることらしい。平民達と交じって遊んでいるようだ」
「あ~、そう言われてみると……」
そのような報告はあったなと思い出すフィルズ。
「大浴場にも来ているらしい。貴族の大半が、通っているかもしれん……」
ゲーム館には、ビリヤードやダーツといったものから、スポーツを楽しむ卓球台やバスケットコート、テニスコートもある。
カジノ系のスロット台、カードゲーム系のものもあるが、そちらはあまり大金をかけすぎないように制限をかけている。ギャンブルで破滅する人がいないよう、注意もしていた。
「奥方や、子ども達と買い物を楽しむという者も居ると聞いているが」
「うちは、直接足を運ばないと買えないからな」
セイスフィア商会の商品は、屋敷に呼び寄せて買う事はできない。
「出張サービスや営業は、町や村ごとでの依頼しか受けねえし」
一人だけや一家族のためだけには使えない決まりを作ってあった。よって、出張サービスの依頼は、祭りの時というのが多い。
「近日だと週末にあるじいちゃん達がやる公開審判で出張サービスが決まってるけどな」
「おっ。新作は出るか!?」
「甘い人形焼きと、ポテイモ揚げがな」
「おおっ! 試食会はいつだ!?」
「明後日だけど」
「ではまた来る!」
「……そのためだけに来る気かよ……いいけどな」
相当楽しみにしているらしいので、良い事だとしておく。実際、ファスター王の仕事の効率は上がっているらしい。ここでしっかり息抜きが出来ているということだろう。
「そういえば! 新しく出来た貸し衣装屋が貴族に大人気らしいな!」
「ああ。寧ろ、貴族のために作ったんだよ。ドレスで動き回るの大変だろうし、平民服でも野暮ったいやつじゃない最新のやつを勧めてる」
セイルブロードは広い。そこを外歩き用とはいえ、それなりの重量にはなってしまうドレスを着て歩くというのは、女性達には苦行だろう。もちろん、貴族女性達はそれを苦だと思わないように幼いころから教育されている。だが、それでも疲れることは誤魔化せない。そんな女性たちが純粋に買い物を楽しめるようにと、気軽に着替えられる店を用意したのだ。
「ついでに、最近の流行りのドレスもチェックできるから、こっちも得してんだよ」
「預けられたドレスを見られるからか。なるほど……流行は追うのも大変だと聞くからな……」
普通は、お茶会や舞踏会でしか知らない流行。それを、ドレスを預かることで情報を得ているのだ。お陰で、服飾部が活気付いている。
「新しい流行の傾向も分かる奴が見れば分かるからな。男の方は、それこそ平民達に交じって遊ぶために利用してるよ」
「だから、それほど貴族が客として来ていると感じないのだな……」
「上手く紛れてるだろ? お忍び下手なの多かったが、その辺も指導したからさ」
「「お忍び下手……」」
ファスター王もリゼンフィアも覚えがあるのだろう。装いだけ真似ても、絶対に浮くのだ。まず、色合いが違うのだから、それは仕方ないのかもしれない。だが、それでも平民の事を知らなさ過ぎて浮きまくる者は多かった。
「母さんやじいちゃんが楽しそうに教えてたから、かなり改善されたんだよ。まあ、ちょっと裕福な家の人って程度だけど、そんな悪くねえだろ?」
「ああ……だが、問題は起きるだろう? 咄嗟に出る振る舞いは違う」
リゼンフィアは冷静にそれらを分析していた。しかし、フィルズの方に抜かりはない。
「警備の方では、貴族を把握してるから、安全の確保も問題ねえんだよ。さり気なくフォローできるように、現場の従業員の方にも連絡が入るようになってる」
常に地下にあるモニターで、各所の映像を確認する隠密ウサギや監視担当のクマがいるのでできる事だ。
「それは……大変ではないか?」
「誰もが気持ちよく過ごせる場所ってのはさあ、努力し合わないと生まれないんだよ。だから、貴族の方にも色々と注意事項というか、お願いはしてる。安全は保証するからってさ」
「言う事を聞くのか?」
貴族達の普段の様子から、そうした配慮の出来ない者は目につくのだろう。リゼンフィアからすれば懐疑的だ。いつだって、会議の時に野次を飛ばしたり勝手に意見を言ったり、下位の者を威圧したりとめちゃくちゃにする様子を見ているからだろう。あいつらが協力なんてするのかと信じられないらしい。
「聞かないのは追い出してるもんよ」
「……」
当然、力技だった。
「まあでも、一度そうやって問題を起こさずに平穏に過ごせる心地よさを知れば、何人かは迷惑行動を理解できるようになるんだよ。きっかけってやつ」
「あ……それで、最近会議がスムーズに……」
「自分たちが余計な口出しをしなければ良いって気付いたのがいたんだろうな」
「随分と落ち着いて意見が言えるようになったとは思っていたが、まさかの、これもフィルのお陰か!」
ファスター王が感激する。意味もなく罵り合って時間を使う会議にうんざりしていたのは、リゼンフィアだけではなかったようだ。
そんな話をしているところに、リュブランと学園から駆けつけたセルジュがやって来た。いよいよ、血縁判定機のお披露目だ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
執事クマのガンナに案内され、執務室に意気揚々とやって来たファスター王とリゼンフィアに、フィルズは片手を上げて応える。
「お~。早えじゃん。悪りいな。じいちゃん達の方が忙しいだろうに」
「なあに。フィルのお陰で、他の大臣達がよく働いてくれるようになったのでな!」
「今まで、いかに働いていなかったかが分かる……」
ファスター王は満足げに、リゼンフィアは苦々しげにそう告げた。反応が正反対過ぎて笑えるほどだ。
「ん? 俺の?」
どういう事かと問いかける間に、二人は応接ソファーに向かい合わせに座っていた。
「大臣達の休日の楽しみが、ここのゲーム館に来ることらしい。平民達と交じって遊んでいるようだ」
「あ~、そう言われてみると……」
そのような報告はあったなと思い出すフィルズ。
「大浴場にも来ているらしい。貴族の大半が、通っているかもしれん……」
ゲーム館には、ビリヤードやダーツといったものから、スポーツを楽しむ卓球台やバスケットコート、テニスコートもある。
カジノ系のスロット台、カードゲーム系のものもあるが、そちらはあまり大金をかけすぎないように制限をかけている。ギャンブルで破滅する人がいないよう、注意もしていた。
「奥方や、子ども達と買い物を楽しむという者も居ると聞いているが」
「うちは、直接足を運ばないと買えないからな」
セイスフィア商会の商品は、屋敷に呼び寄せて買う事はできない。
「出張サービスや営業は、町や村ごとでの依頼しか受けねえし」
一人だけや一家族のためだけには使えない決まりを作ってあった。よって、出張サービスの依頼は、祭りの時というのが多い。
「近日だと週末にあるじいちゃん達がやる公開審判で出張サービスが決まってるけどな」
「おっ。新作は出るか!?」
「甘い人形焼きと、ポテイモ揚げがな」
「おおっ! 試食会はいつだ!?」
「明後日だけど」
「ではまた来る!」
「……そのためだけに来る気かよ……いいけどな」
相当楽しみにしているらしいので、良い事だとしておく。実際、ファスター王の仕事の効率は上がっているらしい。ここでしっかり息抜きが出来ているということだろう。
「そういえば! 新しく出来た貸し衣装屋が貴族に大人気らしいな!」
「ああ。寧ろ、貴族のために作ったんだよ。ドレスで動き回るの大変だろうし、平民服でも野暮ったいやつじゃない最新のやつを勧めてる」
セイルブロードは広い。そこを外歩き用とはいえ、それなりの重量にはなってしまうドレスを着て歩くというのは、女性達には苦行だろう。もちろん、貴族女性達はそれを苦だと思わないように幼いころから教育されている。だが、それでも疲れることは誤魔化せない。そんな女性たちが純粋に買い物を楽しめるようにと、気軽に着替えられる店を用意したのだ。
「ついでに、最近の流行りのドレスもチェックできるから、こっちも得してんだよ」
「預けられたドレスを見られるからか。なるほど……流行は追うのも大変だと聞くからな……」
普通は、お茶会や舞踏会でしか知らない流行。それを、ドレスを預かることで情報を得ているのだ。お陰で、服飾部が活気付いている。
「新しい流行の傾向も分かる奴が見れば分かるからな。男の方は、それこそ平民達に交じって遊ぶために利用してるよ」
「だから、それほど貴族が客として来ていると感じないのだな……」
「上手く紛れてるだろ? お忍び下手なの多かったが、その辺も指導したからさ」
「「お忍び下手……」」
ファスター王もリゼンフィアも覚えがあるのだろう。装いだけ真似ても、絶対に浮くのだ。まず、色合いが違うのだから、それは仕方ないのかもしれない。だが、それでも平民の事を知らなさ過ぎて浮きまくる者は多かった。
「母さんやじいちゃんが楽しそうに教えてたから、かなり改善されたんだよ。まあ、ちょっと裕福な家の人って程度だけど、そんな悪くねえだろ?」
「ああ……だが、問題は起きるだろう? 咄嗟に出る振る舞いは違う」
リゼンフィアは冷静にそれらを分析していた。しかし、フィルズの方に抜かりはない。
「警備の方では、貴族を把握してるから、安全の確保も問題ねえんだよ。さり気なくフォローできるように、現場の従業員の方にも連絡が入るようになってる」
常に地下にあるモニターで、各所の映像を確認する隠密ウサギや監視担当のクマがいるのでできる事だ。
「それは……大変ではないか?」
「誰もが気持ちよく過ごせる場所ってのはさあ、努力し合わないと生まれないんだよ。だから、貴族の方にも色々と注意事項というか、お願いはしてる。安全は保証するからってさ」
「言う事を聞くのか?」
貴族達の普段の様子から、そうした配慮の出来ない者は目につくのだろう。リゼンフィアからすれば懐疑的だ。いつだって、会議の時に野次を飛ばしたり勝手に意見を言ったり、下位の者を威圧したりとめちゃくちゃにする様子を見ているからだろう。あいつらが協力なんてするのかと信じられないらしい。
「聞かないのは追い出してるもんよ」
「……」
当然、力技だった。
「まあでも、一度そうやって問題を起こさずに平穏に過ごせる心地よさを知れば、何人かは迷惑行動を理解できるようになるんだよ。きっかけってやつ」
「あ……それで、最近会議がスムーズに……」
「自分たちが余計な口出しをしなければ良いって気付いたのがいたんだろうな」
「随分と落ち着いて意見が言えるようになったとは思っていたが、まさかの、これもフィルのお陰か!」
ファスター王が感激する。意味もなく罵り合って時間を使う会議にうんざりしていたのは、リゼンフィアだけではなかったようだ。
そんな話をしているところに、リュブランと学園から駆けつけたセルジュがやって来た。いよいよ、血縁判定機のお披露目だ。
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