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ミッション10 子ども達の成長

352 賢者が裏で言ってたやつ!

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ここ数日、フィルズは王都の屋敷にある工房に時間ができればずっと籠もっていた。そこに魔法を司る神であるアクラスが姿を現す。

「フィル。そちらの進捗はどうだ?」
「ん~、あと少し。転用したクロス鉱石の加工が面倒だっただけで、あとは賢者の資料の通りだし」
「ほお……クロス鉱石か……魔導具にも転用できるとはな……記録媒介として使えると……」
「よかったら、加工が終わってるクロス鉱石、いくつか持っていくか?」
「っ、では五つほど」
「おう。大きさ別で持っていっても良いからな」
「ああ」

どれにしようかとアクラスは真剣に、素材置き場で屈み込んで、そこにあるクロス鉱石を手に取っては吟味しながら選んでいた。

《アクラス様~。ケース使ってください》
「助かる」

この王都の工房に常駐するのは淡い銀色の毛のシラクと言う名のクマだ。

そんなアクラスとシラクのやり取りには目を向けることなく、フィルズは作業に集中していた。それから三十分程たっただろうか。ようやく出来上がった。

「よし! 出来た!」
「ほお……随分と大きくないか?」
「大きくしたんだよ! けど、なんとか、みかん箱サイズくらいには抑えたけどな!」
「みかん箱……ああ、賢者がA式とか言っていたやつだな」

抱えられるギリギリサイズだ。

「だが、普通は小型化を目指すだろうに」

持ち運び易さや収納、使う場所の広さを考えて、魔導具は小型化することが推奨されている。小さいものほど、手がかかり、高価にもなるというのが常識だ。

「これの用途を考えると、立ち会う人が多くなったりするだろ? そうすると、やっぱ見易さが一番じゃん?」
「なるほど……審判の時に使うことが多くなるだろうからな……」
「そうなんだよな~。この賢者の資料でも『断罪の場で使うべし!』ってあるからな」
「書いてあるな」

アクラスとフィルズが覗き込む資料を、シラクもテーブルにぶら下がるようにして見ると、端に書かれたメモ書きを指さす。

《ここに小さく『托卵種に絶望と破滅を!!』と書いてあるのも気になります》
「うん。見なかったことにしなさい」
「見ても口にしてはダメだ」

賢者の資料には、度々こうしたメモ書きがある。日本語で書いてあるため、この世界の人が見てもまず分からないだろう。大抵このメモは、恨み言が書かれているため、目に入っていても気付かないふりで通すのが普通だった。シラクは良い子に言うことを聞き、テーブルから離れて床に着地すると、トコトコと目的の物を取りに行く。

《は~い。収納ケース出来てますよ》
「おう。ありがとな」
「ほお。ファサラが絶賛していた裁縫箱のようだな」

アクラスもフィルズも、賢者の恨み言はきれいに聞かなかったことにした。

「いいだろ? この収納ケース。横に段々に開くのとか、工具箱でもカッコいいよな~。これにドッキングして……よし!」

収納ケースと合わせると、持ち運びも問題なくなる。真ん中に取っ手があり、中に入れたのも左右対称の作りなのでバランスの問題もなさそうだ。

「完成! さてと、テストするか」
「性能に問題はなさそうだがな」
「それが分かってても、テストってのをやるのが良いんじゃねえか」
「まあ……そうだな」

アクラスにかかれば、一目でそれが想定する働きをするかどうかが分かる。しかし、それでもフィルズはテストを欠かさない。

「本当に出来たって感じて良いだろ?」
「ああ。そのテスト、立ち合わせてもらえるか?」
「もちろんだ。ファサラも呼ぶか」
「呼んだか?」

その一言で、ファサラが現れる。本来ならば、神という存在は人とは違うため、神気で人の体に良くない影響を与える。しかし、この屋敷内ではそれが抑えられるため、神々は唐突に現れる。屋敷に部屋のある幹部達は、最近は神々が現れても驚かなくなっていた。

ファサラは出来上がったソレを見て一気にハイテンションになる。

「おっ。出来たのかっ! 『托卵種判定機』!」
「待て待てっ! 違う! それは賢者が裏で言ってたやつ! 正しくは『血縁判定機』だから!」
「そうだったか? 分かりやすくて覚えていた方が相応しい名ではないか? 製品として」
「分かるっ……分かるけど、それはあえて伏せよう」
「そうか? まあ、いいが」

その賢者は、闇堕ちしていたのではないかと思う。かなり恨みは深かった。

「で? あの第一王子、怪しいのか?」
「……ああ……だからテストで、確実で間違いないってのを見せつけねえとダメなんだよな……」
「まだどこでというのは迷い中か」
「子どもは何も知らねえんだ。けど、貴族は特にその後の生き方がガラリと変わっちまうからな。ユゼリアはただでさえ、やらかした後だし」

これを作ったのは良いが、実際に使うということには迷いがあった。ユゼリアは軽率な所はあるが、それは失敗することを学んで来なかった、学ばせてもらえなかったからだ。悪い子ではない。破滅させるのは気が引けた。

「とりあえず、ファシーに相談してからだ」
「作っていることも教えていないんだったか?」
「魅了の魔導具を無効化させるやつを作ることになったじゃん? それならこれもって。完全に思い付きで作り出したし」
「……」
「……そういう子だったね」

なぜか呆れられた。

これにより、王妃断罪への計画が一気に進むことになる。










**********
読んでくださりありがとうございます◎
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