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ミッション9 学園と文具用品
347 冥福を祈っている
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その日、フィルズは王都支部で仕事をしていた。学園の売店は明日にも開店となる。
今日は最終チェックをするために昼食後、学園にやって来た。予定と違ったのは、同行者が居た事だ。
「ファシー……良いのか? 仕事は?」
「宰相に任せて来た! 開店してからでは、フィルの店が見えないだろ」
「いや、学園の視察とか言って来れば良いだろ」
「はっ! その手があったか!」
「わざとらしい」
他に何か意図があるだろうと横目で、馬車から降りて振り返りながら睨み付ける。すると、すぐに白状した。ファスター王は馬車から降りながら笑う。
「ふはっ。いやぁ、今日は生徒総会があるらしいじゃないか。何やら面白いものが見えると、ウサギ殿から聞いたのでなっ」
「あいつら……」
「いやいや。叱るでないぞ。シャルテとたまに遊んでくれるのでな」
シャルテとは、ファスター王の相棒であり、護衛である猫の魔導人形だ。両手に乗るくらいの子猫の姿と、子どもくらいなら背に乗せられるくらいの大きな豹や虎のようなサイズに変えられる。そして、シャルテは闇属性の魔法を使えた。だからだろうか、隠密ウサギも遊び相手として認めているようだ。シャルテを心から可愛がっているファスター王からすれば、執務中に構ってやれないことが気になっていたのだろう。そこで隠密ウサギ達が遊び相手となっていることを知り、有り難く思っているらしい。
「礼を伝えたら、今回のことを教えてくれたのだ」
今回の生徒総会のことを知ったのは、偶然だったようだ。隠密ウサギが御礼に照れた結果ともいえる。たまにデレるらしい。そんな設定してないんだけどなとフィルズ的には思っていた。因みに、今日もシャルテはファスター王と一緒に来ている。今は子猫サイズでファスター王が抱えていた。
「っ、たく……まあいい。さすがに生徒総会を直接覗くのは……」
そう口にしながら売店の裏口を開けると、そこでセラが出迎えて言う。
「お疲れ様です。会長。いらっしゃいませ、ファスター様。良い所に来られました。只今より、生徒総会の上映会です」
「うわ……マジか」
「おおっ! 【スクリーン】がある! ん? 生徒総会? 観えるのか!?」
「はい。録画もします。どうぞお入りください」
「素晴らしい!!」
「……おいおい……確かに、記録するのは頼んだし、商品紹介のCMは流せるようにスクリーンの用意もさせていたが……」
まさか、上映するとは思わなかった。
「学園を、顧客を知るには良い機会かと思いまして」
「まあ、そうだな……いや、セラ。お前……半分くらい面白がってるだろ」
「あら。うふふ。良くお分かりですわね。因みに、残り半分の内訳は、八割がブラーナさんの勇姿を見たいというもので、二割が学園の程度を見るためですわ」
「最初の理由が消えたぞ」
「二割の中に含まれております」
「……そうかよ……」
微妙にセラの機嫌が悪いようだ。恐らく、この学園の程度が問題だろう。
スクリーンに映し出された映像では、生徒総会が始まっている所だった。ファスター王はウキウキと、目を輝かせながら、スクリーンの前のフードコートの席に座る。スクリーンは、フードコートスペースで見てもらえるよう、壁に用意されている。
フィルズは座らず、表情に笑みを貼り付けた状態の機嫌の悪そうなセラの隣に立って、腕を組みながらスクリーンを見る。
しばらくして、セラに小声で尋ねた。
「第一王子が何かやらかすのか?」
「っ……お聞きになったのですか?」
「いや。あの王子の事は、隠密ウサギとエンリに任せている。とりあえず、謹慎させられるくらいの致命的な記録を持って来いってな」
第一王子のダメさ加減は、学園長から提出された試験結果や、隠密ウサギからの報告で既に分かっていた。試験結果は、表に出す記録としては不正に点数を水増しされていたが、きちんと現物が学園に保管されていた。採点されたテスト用紙は、希望者以外は返さないらしい。
悪い点数のものを返して、それを他人に知られるのは恥だし、処分に困る。そして、かつて位の低い者の点数が良い事を妬んで、高位貴族の令息が問題を起こしたことがあったらしい。そこから、良い点数だったと誰かに見せることも憚れるようになった。結果、それならば最初から返さず、気になる人だけ教師の下へ行って確認するということになったようだ。
フィルズとしては、点数が低くて恥ずかしいと思える事、良い点数を取った誰かを羨む事によって、向上心が生まれるのではないかと考えている。そうではない今は、はっきり言って、授業もおざなりになっているのだ。過去の記録から確認してみれば、学力もかなり落ちているようだった。それを学園長が知り、愕然としていた。
次回のテストからは、回答用紙を家に直接送り付けようかと考えているようだった。現状を知らせるには良いかもしれない。
王妃が第一王子の今の実態をどう思うのか知れるのは良いと思っていた。それにより、王妃の本性が少しでも垣間見ることが出来れば御の字だ。
「なるほど。それが今日のようです」
「へえ。ラナ……ブラーナが傷付かなきゃ良いんだが……」
ブラーナは身分を隠し、一般市民『ラナ』としてセイスフィア商会に籍を置いている。従業員となる者は、隠密ウサギや測量部隊による調査が入る。そのため、ラナの正体もすぐに分かったのだが、あまりにも自然に、興味があったからという純粋な思いで就職しに来たブラーナを追い返すことはできなかった。
「彼女は弱くありませんわ。証拠映像ならば、体面にも傷をつけませんでしょう。貴族が最も傷付くのは、噂話として第三者の見解が入った言葉です。貴族は冤罪を平気で正当化するのですから」
セラは、冤罪によって傷つけられ、国を追われた者だ。自分の立場を守るためであったり、自身の価値を高め、興味を引く情報を提示するためだったりと、そんな自分勝手な理由で貶められる人を見るのは、セラにとって辛く、腹の立つことだった。
その後も、議題が進んでいく様子を観ていれば、ついに第一王子ユゼリアが動いた。そして、しっかりやらかした。
「……ここまでバカだったのかっ」
ファスター王は頭を抱えていた。
「いやぁ、これは……あれだな。下の奴を信用し過ぎだな。貶められたことねえんだろ。全部王妃が守っていただろうし」
部下が調べたこと、明らかにしたことが、自分に悪い結果を出す事だとは思いもしなかったのだろう。当然だ。都合の悪いものは、ユゼリアの目に触れることさえなかった。耳障りの良いものしか届かなかったのだから。
「ふふっ。ははっ。本人がっ、本人が一番ポカンとしていますわっ。ふふふっ」
「やらかした事ないんだろうな~。自分で自分の首を絞めるとか、セルフサービスに感謝」
フィルズは思わず手を合わせた。それを見て、セラは吹き出す。
「ぷふっ! それでは、冥福を祈っているみたいですわっ」
「あ、違ったか。思わず。お~い。ファシー。アレどうするよ」
「ううっ。アホ過ぎる! どれだけ過保護に育てたんだっ。あんなもの、王に出来んだろ!」
「いや、王妃はあれじゃん? きっと、自分の言う事を聞く見た目だけの王が欲しいんじゃね?」
「そうですわねえ。史実に悪の王妃と呼ばれる者の息子の多くは、傀儡ですわ。お人形さんですもの。女の子は好きですよ? お人形遊び」
「うううっ。早急に! 早急に、王妃の悪行を暴かねばっ。そうしたらあのバカごと……」
「こらこら。アレは何にも知らねえお坊ちゃんなんだぜ? 俺はその人を形成するものは環境で変わると思ってるんだ。成人前だし、王妃から離せば、まだ更生の余地はあるだろ」
「っ……フィル……っ、とりあえず、アレは説教だ!」
「そうしろ」
ファスター王は鼻息荒くシャルテと共に売店を飛び出して行った。かつてはここで学んだこともあるので、講堂への道を迷うことはないだろう。
会場では、学園長がこの不正を受け、今後の学園での対応を話していた。
『評価が人によって異なっても不思議ではない、実技試験における点数についても、今後は基準を細かく設けていくことになります』
点数の水増しは、主に実技試験の点数でされていた。それをまずは潰していく。
『そして、これまでは実技と筆記の点数を合わせたものでテスト結果を発表していましたが、今後は、別にして発表いたします』
これにより、不正をよりやり難くしていく。
『更に、テスト結果と採点された回答用紙は、各家に直接送り届けることを検討中です。自分たちで点数や間違いを認められないのならば、家の方でゆっくりと見つめ直してください ♪ 』
「あら、意外。自覚のある者は多かったみたいですね」
「そうだな……」
生徒達の大半は頭を抱え、膝をついてしまっている者も居た。点数が悪いことは問題だと理解はしていたらしい。
「親の方もファシーの方から自覚させるか」
お説教をしてもらうには、悪い点数=頭の出来が悪い、勉強していない、向上心がないということを親の方も認知してもらう必要がありそうだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
今日は最終チェックをするために昼食後、学園にやって来た。予定と違ったのは、同行者が居た事だ。
「ファシー……良いのか? 仕事は?」
「宰相に任せて来た! 開店してからでは、フィルの店が見えないだろ」
「いや、学園の視察とか言って来れば良いだろ」
「はっ! その手があったか!」
「わざとらしい」
他に何か意図があるだろうと横目で、馬車から降りて振り返りながら睨み付ける。すると、すぐに白状した。ファスター王は馬車から降りながら笑う。
「ふはっ。いやぁ、今日は生徒総会があるらしいじゃないか。何やら面白いものが見えると、ウサギ殿から聞いたのでなっ」
「あいつら……」
「いやいや。叱るでないぞ。シャルテとたまに遊んでくれるのでな」
シャルテとは、ファスター王の相棒であり、護衛である猫の魔導人形だ。両手に乗るくらいの子猫の姿と、子どもくらいなら背に乗せられるくらいの大きな豹や虎のようなサイズに変えられる。そして、シャルテは闇属性の魔法を使えた。だからだろうか、隠密ウサギも遊び相手として認めているようだ。シャルテを心から可愛がっているファスター王からすれば、執務中に構ってやれないことが気になっていたのだろう。そこで隠密ウサギ達が遊び相手となっていることを知り、有り難く思っているらしい。
「礼を伝えたら、今回のことを教えてくれたのだ」
今回の生徒総会のことを知ったのは、偶然だったようだ。隠密ウサギが御礼に照れた結果ともいえる。たまにデレるらしい。そんな設定してないんだけどなとフィルズ的には思っていた。因みに、今日もシャルテはファスター王と一緒に来ている。今は子猫サイズでファスター王が抱えていた。
「っ、たく……まあいい。さすがに生徒総会を直接覗くのは……」
そう口にしながら売店の裏口を開けると、そこでセラが出迎えて言う。
「お疲れ様です。会長。いらっしゃいませ、ファスター様。良い所に来られました。只今より、生徒総会の上映会です」
「うわ……マジか」
「おおっ! 【スクリーン】がある! ん? 生徒総会? 観えるのか!?」
「はい。録画もします。どうぞお入りください」
「素晴らしい!!」
「……おいおい……確かに、記録するのは頼んだし、商品紹介のCMは流せるようにスクリーンの用意もさせていたが……」
まさか、上映するとは思わなかった。
「学園を、顧客を知るには良い機会かと思いまして」
「まあ、そうだな……いや、セラ。お前……半分くらい面白がってるだろ」
「あら。うふふ。良くお分かりですわね。因みに、残り半分の内訳は、八割がブラーナさんの勇姿を見たいというもので、二割が学園の程度を見るためですわ」
「最初の理由が消えたぞ」
「二割の中に含まれております」
「……そうかよ……」
微妙にセラの機嫌が悪いようだ。恐らく、この学園の程度が問題だろう。
スクリーンに映し出された映像では、生徒総会が始まっている所だった。ファスター王はウキウキと、目を輝かせながら、スクリーンの前のフードコートの席に座る。スクリーンは、フードコートスペースで見てもらえるよう、壁に用意されている。
フィルズは座らず、表情に笑みを貼り付けた状態の機嫌の悪そうなセラの隣に立って、腕を組みながらスクリーンを見る。
しばらくして、セラに小声で尋ねた。
「第一王子が何かやらかすのか?」
「っ……お聞きになったのですか?」
「いや。あの王子の事は、隠密ウサギとエンリに任せている。とりあえず、謹慎させられるくらいの致命的な記録を持って来いってな」
第一王子のダメさ加減は、学園長から提出された試験結果や、隠密ウサギからの報告で既に分かっていた。試験結果は、表に出す記録としては不正に点数を水増しされていたが、きちんと現物が学園に保管されていた。採点されたテスト用紙は、希望者以外は返さないらしい。
悪い点数のものを返して、それを他人に知られるのは恥だし、処分に困る。そして、かつて位の低い者の点数が良い事を妬んで、高位貴族の令息が問題を起こしたことがあったらしい。そこから、良い点数だったと誰かに見せることも憚れるようになった。結果、それならば最初から返さず、気になる人だけ教師の下へ行って確認するということになったようだ。
フィルズとしては、点数が低くて恥ずかしいと思える事、良い点数を取った誰かを羨む事によって、向上心が生まれるのではないかと考えている。そうではない今は、はっきり言って、授業もおざなりになっているのだ。過去の記録から確認してみれば、学力もかなり落ちているようだった。それを学園長が知り、愕然としていた。
次回のテストからは、回答用紙を家に直接送り付けようかと考えているようだった。現状を知らせるには良いかもしれない。
王妃が第一王子の今の実態をどう思うのか知れるのは良いと思っていた。それにより、王妃の本性が少しでも垣間見ることが出来れば御の字だ。
「なるほど。それが今日のようです」
「へえ。ラナ……ブラーナが傷付かなきゃ良いんだが……」
ブラーナは身分を隠し、一般市民『ラナ』としてセイスフィア商会に籍を置いている。従業員となる者は、隠密ウサギや測量部隊による調査が入る。そのため、ラナの正体もすぐに分かったのだが、あまりにも自然に、興味があったからという純粋な思いで就職しに来たブラーナを追い返すことはできなかった。
「彼女は弱くありませんわ。証拠映像ならば、体面にも傷をつけませんでしょう。貴族が最も傷付くのは、噂話として第三者の見解が入った言葉です。貴族は冤罪を平気で正当化するのですから」
セラは、冤罪によって傷つけられ、国を追われた者だ。自分の立場を守るためであったり、自身の価値を高め、興味を引く情報を提示するためだったりと、そんな自分勝手な理由で貶められる人を見るのは、セラにとって辛く、腹の立つことだった。
その後も、議題が進んでいく様子を観ていれば、ついに第一王子ユゼリアが動いた。そして、しっかりやらかした。
「……ここまでバカだったのかっ」
ファスター王は頭を抱えていた。
「いやぁ、これは……あれだな。下の奴を信用し過ぎだな。貶められたことねえんだろ。全部王妃が守っていただろうし」
部下が調べたこと、明らかにしたことが、自分に悪い結果を出す事だとは思いもしなかったのだろう。当然だ。都合の悪いものは、ユゼリアの目に触れることさえなかった。耳障りの良いものしか届かなかったのだから。
「ふふっ。ははっ。本人がっ、本人が一番ポカンとしていますわっ。ふふふっ」
「やらかした事ないんだろうな~。自分で自分の首を絞めるとか、セルフサービスに感謝」
フィルズは思わず手を合わせた。それを見て、セラは吹き出す。
「ぷふっ! それでは、冥福を祈っているみたいですわっ」
「あ、違ったか。思わず。お~い。ファシー。アレどうするよ」
「ううっ。アホ過ぎる! どれだけ過保護に育てたんだっ。あんなもの、王に出来んだろ!」
「いや、王妃はあれじゃん? きっと、自分の言う事を聞く見た目だけの王が欲しいんじゃね?」
「そうですわねえ。史実に悪の王妃と呼ばれる者の息子の多くは、傀儡ですわ。お人形さんですもの。女の子は好きですよ? お人形遊び」
「うううっ。早急に! 早急に、王妃の悪行を暴かねばっ。そうしたらあのバカごと……」
「こらこら。アレは何にも知らねえお坊ちゃんなんだぜ? 俺はその人を形成するものは環境で変わると思ってるんだ。成人前だし、王妃から離せば、まだ更生の余地はあるだろ」
「っ……フィル……っ、とりあえず、アレは説教だ!」
「そうしろ」
ファスター王は鼻息荒くシャルテと共に売店を飛び出して行った。かつてはここで学んだこともあるので、講堂への道を迷うことはないだろう。
会場では、学園長がこの不正を受け、今後の学園での対応を話していた。
『評価が人によって異なっても不思議ではない、実技試験における点数についても、今後は基準を細かく設けていくことになります』
点数の水増しは、主に実技試験の点数でされていた。それをまずは潰していく。
『そして、これまでは実技と筆記の点数を合わせたものでテスト結果を発表していましたが、今後は、別にして発表いたします』
これにより、不正をよりやり難くしていく。
『更に、テスト結果と採点された回答用紙は、各家に直接送り届けることを検討中です。自分たちで点数や間違いを認められないのならば、家の方でゆっくりと見つめ直してください ♪ 』
「あら、意外。自覚のある者は多かったみたいですね」
「そうだな……」
生徒達の大半は頭を抱え、膝をついてしまっている者も居た。点数が悪いことは問題だと理解はしていたらしい。
「親の方もファシーの方から自覚させるか」
お説教をしてもらうには、悪い点数=頭の出来が悪い、勉強していない、向上心がないということを親の方も認知してもらう必要がありそうだ。
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