165 / 205
ミッション9 学園と文具用品
345 バカな質問をするな
しおりを挟む
ブラーナはずっと、ユゼリアから自分に向けられている視線の意味に気付いていた。
「今日は強めですわね……」
マイクから二歩ほど離れている。今は演説台の前にいる生徒会長が話していた。今年度の生徒会長は、男爵家の令息だ。副会長も男爵家の令嬢、しかし、二人とも今回のテストでは学年一位だった。テスト結果は、男女別になるので、この場合はわかりやすい。
下位の爵位の家の子ほど、現実を見て真面目に勉強をする。初年度は素地のある者達に追いつけないが、二年、三年ともなれば、しっかりと実力が付き、上位の成績を取れるようになるという訳だ。
彼らが一位になったのは、今年が初めてだ。今まで、結果が正しく発表されずにいた不正の被害者だった。だからこそ、これははっきりとさせたいと願っていた。
『今回のテストの結果について、多くの方々が今までとは違うことに気付き、学園の方へ抗議があったようです。それについて……』
そこで、ユゼリアが声を上げた。
「それについて、私の方からも報告がある!」
『……なんでしょうか』
「不正の当事者が説明するのは辛かろう。私がそれについて説明しよう」
そう言って、ユゼリアは当然のようにワンザと共に壇上へ上がった。しかし、そこで、ブラーナがその前に立つ。
「殿下。勝手な発言は困ります。質問や意見については、総会の最後に時間を取るものです。今はお戻りください」
進行上そうなっている。何より、そうなっている理由としては、内容を理解せず、野次を飛ばして進行をめちゃくちゃにされたことがあったからだ。王族が学園に居ない時期もある。そうなれば、位を気にして口を噤むことがなく、思い通りにならないからと癇癪を起こして文句を言う者も出る。そうして、ただの口汚く罵り合う場になることもあったのだ。
「不敬だぞ。私の婚約者としての立場を傘に着るなど、浅ましい奴だ」
「っ……」
「なにか文句があるのか? はっきり言ってみるがいい」
「……ご自分の言動に責任を持ってくださるなら構いません。これより、全てのお言葉を記録いたします」
「好きにするがいい」
ふんと鼻を鳴らして、ブラーナの前を通って行った。そして、生徒会長とその後ろに控えていた副会長へ告げる。
「お前達はそこに居れ。反省してもらわねばならんからな」
「……」
「……」
二人は目配せ合い、静かに数歩下がって堂々と背筋を伸ばす。そして、ブラーナへと視線を向け、頷いて見せた。
自分にこの場の全ての視線が集まっていることに気をよくしたユゼリアは、演説台のマイクに向かい、口を開いた。
『今回からのテストの結果について、不審な点が多くあった。私は、不正があったのではないかと考え、今日まで調査してきた。その結果をこの場で公開しよう!』
喜んだ顔をしているのは、不正をしていた者達だろう。大変わかりやすいというのが、ブラーナや生徒会長達の感想だ。
そんな中で、戸惑うように周りを見回す女生徒達は多かった。彼女達は、昨日までセイスフィア商会で社会科見学をしていた者達だ。
「これは……さすがは会長……効果はしっかりとあったようですね」
ブラーナは嬉しくて笑ってしまいそうになる表情を引き締め、自身がやるべきことを理解した。
『お待ちください』
『……なんだ』
ユゼリアがはっきりと不快だという顔を向けてくるが、ブラーナは気にしなかった。今回の事は、予めエンリアントから報告を受けていた。だから、生徒会長と副会長も、取り乱す事なく言うことを聞いている。
こんな機会は早々ないのだ。できれば致命傷になるほど、トラウマになるほどのものにしたい。そのためには、言質は必要だ。
『これは、ご自身のためですか? それとも……』
『不正に苦しむ者達のためだ! 当然だろう! 私は悪者になってでも、正しい方に導かねばならない! それが王族として生まれた者の責務だ!』
『……そうですか……』
『それ以外になにがあると言うのか。頭の足りない女が、バカな質問をするな』
『……』
ここで、大半の女生徒達の目の色が変わったことに、ユゼリアは気付かなかった。つい先日まで、媚びるように、憧れの人を見るようにキラキラと輝いていた瞳には、今や侮蔑の色が浮かんでいた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「今日は強めですわね……」
マイクから二歩ほど離れている。今は演説台の前にいる生徒会長が話していた。今年度の生徒会長は、男爵家の令息だ。副会長も男爵家の令嬢、しかし、二人とも今回のテストでは学年一位だった。テスト結果は、男女別になるので、この場合はわかりやすい。
下位の爵位の家の子ほど、現実を見て真面目に勉強をする。初年度は素地のある者達に追いつけないが、二年、三年ともなれば、しっかりと実力が付き、上位の成績を取れるようになるという訳だ。
彼らが一位になったのは、今年が初めてだ。今まで、結果が正しく発表されずにいた不正の被害者だった。だからこそ、これははっきりとさせたいと願っていた。
『今回のテストの結果について、多くの方々が今までとは違うことに気付き、学園の方へ抗議があったようです。それについて……』
そこで、ユゼリアが声を上げた。
「それについて、私の方からも報告がある!」
『……なんでしょうか』
「不正の当事者が説明するのは辛かろう。私がそれについて説明しよう」
そう言って、ユゼリアは当然のようにワンザと共に壇上へ上がった。しかし、そこで、ブラーナがその前に立つ。
「殿下。勝手な発言は困ります。質問や意見については、総会の最後に時間を取るものです。今はお戻りください」
進行上そうなっている。何より、そうなっている理由としては、内容を理解せず、野次を飛ばして進行をめちゃくちゃにされたことがあったからだ。王族が学園に居ない時期もある。そうなれば、位を気にして口を噤むことがなく、思い通りにならないからと癇癪を起こして文句を言う者も出る。そうして、ただの口汚く罵り合う場になることもあったのだ。
「不敬だぞ。私の婚約者としての立場を傘に着るなど、浅ましい奴だ」
「っ……」
「なにか文句があるのか? はっきり言ってみるがいい」
「……ご自分の言動に責任を持ってくださるなら構いません。これより、全てのお言葉を記録いたします」
「好きにするがいい」
ふんと鼻を鳴らして、ブラーナの前を通って行った。そして、生徒会長とその後ろに控えていた副会長へ告げる。
「お前達はそこに居れ。反省してもらわねばならんからな」
「……」
「……」
二人は目配せ合い、静かに数歩下がって堂々と背筋を伸ばす。そして、ブラーナへと視線を向け、頷いて見せた。
自分にこの場の全ての視線が集まっていることに気をよくしたユゼリアは、演説台のマイクに向かい、口を開いた。
『今回からのテストの結果について、不審な点が多くあった。私は、不正があったのではないかと考え、今日まで調査してきた。その結果をこの場で公開しよう!』
喜んだ顔をしているのは、不正をしていた者達だろう。大変わかりやすいというのが、ブラーナや生徒会長達の感想だ。
そんな中で、戸惑うように周りを見回す女生徒達は多かった。彼女達は、昨日までセイスフィア商会で社会科見学をしていた者達だ。
「これは……さすがは会長……効果はしっかりとあったようですね」
ブラーナは嬉しくて笑ってしまいそうになる表情を引き締め、自身がやるべきことを理解した。
『お待ちください』
『……なんだ』
ユゼリアがはっきりと不快だという顔を向けてくるが、ブラーナは気にしなかった。今回の事は、予めエンリアントから報告を受けていた。だから、生徒会長と副会長も、取り乱す事なく言うことを聞いている。
こんな機会は早々ないのだ。できれば致命傷になるほど、トラウマになるほどのものにしたい。そのためには、言質は必要だ。
『これは、ご自身のためですか? それとも……』
『不正に苦しむ者達のためだ! 当然だろう! 私は悪者になってでも、正しい方に導かねばならない! それが王族として生まれた者の責務だ!』
『……そうですか……』
『それ以外になにがあると言うのか。頭の足りない女が、バカな質問をするな』
『……』
ここで、大半の女生徒達の目の色が変わったことに、ユゼリアは気付かなかった。つい先日まで、媚びるように、憧れの人を見るようにキラキラと輝いていた瞳には、今や侮蔑の色が浮かんでいた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
3,241
お気に入りに追加
14,198
あなたにおすすめの小説
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を
紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※
3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。
2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)
いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。
いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。
いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様
いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。
私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?
妹とそんなに比べるのでしたら、婚約を交代したらどうですか?
慶光
ファンタジー
ローラはいつも婚約者のホルムズから、妹のレイラと比較されて来た。婚約してからずっとだ。
頭にきたローラは、そんなに妹のことが好きなら、そちらと婚約したらどうかと彼に告げる。
画してローラは自由の身になった。
ただし……ホルムズと妹レイラとの婚約が上手くいくわけはなかったのだが……。
あなたが私をいらないと言ったから。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。