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ミッション9 学園と文具用品

343 ほぼ願望だな

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色々と今後に思いを馳せていたセラは、不意に意識を戻す。

「はっ、失礼しました。話が逸れました。報告を続けます」
「お、おう……」

セラのすごい所は、こうして話が逸れても、きちんと話を戻せる所だろう。

「見習いと同額ですが、数時間ほど実際に働いてお給金をもらったことで、労働の大変さを少なからず理解したようでした」
「やっぱ、実際に給料貰うと実感もするだろ」
「はい……会長が仰りたかったことが分かりました。彼女達……本当に何も知らないのですね……」
「な~んも考えて来てねえからな。セラは、市井の物価とか勉強する上で知っていっただろうが、普通の貴族の子どもらは、あんなもんだぞ」

セラは、王妃教育も受けていたらしいので、次期王を支えるための知識や情報を持っていた。そんな彼女の敗因は、民達のことを考え、王妃になることを考え過ぎたため、背後や足下に居た頭の足りない奴らの笑みが歪んでいたことに気付かなかったことだ。そんな人たちのためにもと頑張っていたが、それを察せられるほどの頭を相手は持ち合わせていなかったのだ。

「……いいのですか?」

自身の失敗からも、頭の足りないやつらが上のまともな人たちの足を引っ張ることは分かりきっている。セラは不安そうに顔を顰めた。それにフィルズは苦笑を返す。

「いや。よくねえ。女はあのまま成長するから、あれだ……」

喉の調子を整え、姿勢を正すと、女性の声音と完璧な表情、仕草で言った。

「『そうねえ。ここからここまでいただくわっ』……これ、やったことは?」
「っ、はっ! ご令嬢が見えました! ではなくっ、ありません! いくら家が裕福でもやりませんよ! 本当に良い物で、迷った場合や、経済を回すためなんかにはやっても良いとは思いますが……もちろん! きちんと経済効果やその物の価値などを理解した上で、です!」

やってみたいとは思うという様子で目を泳がせていた。そんなセラに笑いかけながらフィルズは告げた。

「この国の令嬢達は、これを一度はして、父親に大目玉をくらうんだよ」
「……やるんですか……あの状態で?」
「そうそう。あれだけの頭でやっちまうんだよな~。そんで、本気で怒った父親に恐怖して、更に距離ができる。父親も向き合うことを恐れる。完全に切り離されることで、見事に母親と同じ思考を持った令嬢が出来上がるって寸法だ!」
「なるほど、令嬢の製造工程が見えました。大問題ですねっ。少しは今回のことで踏みとどまってくれると良いんですけど……」

セラは令嬢達の様子を思い出しながら、それを純粋に願っているようだ。

「その後、買い物もできたか?」
「っ、あ、はいっ。クラルス様が、そのお給金でどれだけのパンが買えるかを熱く語っておりました!」
「……はあ……母さんのパン狂いが治らねえんだよな……」
「それが良かったのではありませんか? 令嬢達は、そこでようやく自身でどれだけの事をすれば、どれだけの物を買えるのかを知れたようですし」

自分たちが稼いだ金額で、何を買えるのか、それを商会の店を回りながらクラルスと学んだようだ。クラルスにとっては、商家の公開断罪審判の準備の息抜きにはなったようだった。

「ああ、クラルス様で思い出しました! 令嬢達の心をしっかり掴まれておりまして、そこで今度行われる商家の公開審判を、令嬢達も是非見学したいとのことでした」
「見るの? あいつら?」
「はいっ! 更に現実を見れることになると思いますよ?」
「あ~、まあ、そうかも?」
「そうだったらいいな~との希望が90%ほどですが!」
「ほぼ願望だな。気持ちは分かるけど」

現実を見て欲しいと思うのは当然だろう。

「ですよね!! 理解してない奴らに分からせるのは、相当苦労しますがっ! 同じ世界を見ていない者に反省させるためには必要なのです!」
「そうだな~ってか、今日はちょい興奮し過ぎじゃね?」
「はっ! 失礼しました……どうにも、あの頃の事を思い出しまして……」
「……悪い。そうだよな……あいつらくらいの年齢の時に……」

セラは令嬢達の年齢の頃に、同じ年頃の者達に裏切られたのだ。思い出すに決まっている。これは無神経だったなとフィルズは反省した。しかし、セラもユリももうその頃の想いの痛みなど、昇華済みだ。だが、忘れた訳ではないはずだ。

「いいえ。お気遣いなく! 今ならばどう言い負かしてやろうかとか、強くなった今ならば一発、顔にはっきりとした痣を残せるくらい殴れるのにとか思っているくらいですから!」
「……そうか……それは止めねえから」
「ありがとうございます! 必ずや! 死ぬまでに一発入れてご覧に入れます!」
「……おう……」

復讐は自分でするとの決意が見て取れた。

「令嬢達のことは分かった。悪い感じにはなっていないみたいだな。それで、もう一つ調べて欲しいと言っていた案件だが……」
「はい。セクラ伯爵家のご令嬢から、話を聞くことができました。父親に、他国の友人だという人物が、二、三ヶ月に一度、屋敷を訪ねて来ていたとのことです。時期からして、そろそろ訪ねて来る頃ではないかと」
「チャンスだな」
《屋敷の周りを固めます》

そう伝えてきたのは、部屋の隅から姿を現したセクターだった。

「ヴィランズにも連絡を。あと、ギルド長にも頼む」
《承知しました。私も現場に向かいます》
「頼んだ」
「令嬢の方はどうされますか?」
「学園長に連絡をして、保護だな。あの令嬢なら、関わってねえだろ」
「はい。あのような子には無理です」
「頭足りねえのも良いことなのかもな」
「ちゃらんぽらんは保護するのも大変ですよ?」
「……そこまでじゃねえのを祈る……」

これ以上の面倒は遠慮したいと切実に祈った。








**********
読んでくださりありがとうございます◎

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