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ミッション9 学園と文具用品

338 はっきり言い過ぎっ

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そこは、食堂と渡り廊下の間にある長く放置されていた空き教室。学園長との話合いを終え、封筒にコピーされた学園長からの手紙を入れて預かってきたフィルズは、その教室へと入った。

真っ先に声をかけて来たのは、もうすぐ二十歳を迎えると聞く女性。彼女は、フィルズが率先して潰した闇ギルドに捕らえられていた一人。本当の名は捨て、セラと名乗っている。あそこで保護された少女達は、教会でのカウンセリングを終えて、行く所はないからとセイスフィア商会に就職を希望してきたのだ。

「セラだけか?」
「はい。丁度ご連絡しようと思っておりました。棚の配置が完了しました」

彼女達は、元令嬢だ。それも高位貴族の令嬢達だった。能力もそれなりにある。冤罪で婚約者から婚約を破棄され、国外追放されたり、親に縁を切られて修道院に送られる所だったらしい。その折に盗賊に襲撃を受けて奴隷となったようだ。短くても一年ほどは奴隷として働いていたという。

教会で全てを話したことで、それまで抱えていた元婚約者や見捨てた友人、家族などの理不尽な態度に対する思いも吹っ切れたらしい。ここは彼女達の故国ではないし、新たな場所で新たなスタートをと心を決めたようだ。

そんな中で、助けてもらったセイスフィア商会に興味を持ち、その目新しさに惹かれて、教会からの推薦を受けて働いてみることになったのだが、これが合ったらしい。リサーナや、リュブラン達とも気が合い、元貴族であっても、気にすることなく今や楽しそうに働いてくれていた。

先日、ようやく本採用となったため、更にここ最近は気合いが入っている。

「おう。なら、明日から商品の搬入だな」
「はい。このペースでしたら、予定日程よりも三日ほど早く済みそうです」
「あ~、それなんだけどさあ」
「はい……?」

フィルズはちょっと申し訳なさそうに言う。

「え~っと、セイルとタクト、それとユリも呼んでちょい相談」
「はい……すぐに呼びます」

ここは、セイルとタクトが配置などの指示を出して作っている。二人の相棒の魔導人形であるサル達が運搬など手早く済ませてくれた。二人とユリと呼んだ少女は、使っていた工具などを外に運び出していたようだ。イヤフィスで呼ばれた三人は、すぐにやってきた。

「お待たせしました」
「参りました」
「何かありましたか?」
「いや。ちょい四人に相談したくてさ。座ろうか」
「「「「はい」」」」

軽く軽食が取れるスペースもあるこの場所。

本来の目的としては、家庭科室なようなものだったらしい。しかし、令嬢や令息達には不要ということになり、長く使われていなかった。教室三部屋分ほどの広さがあるので、飲食スペースも余裕で作れたというわけだ。だだし、個室ではない。イメージとしては、フードコートのようなもの。なので、きちんと使われるかどうかは分からない。

その一つの丸テーブルにフィルズ達は集まった。

「話って言うのは、前に少し話した職業体験についてだ」

これに真っ先に反応したのは、ユリだ。

「ああ、世間知らずで甘ちゃんな坊ちゃんやお嬢様達に、働くことの厳しさと楽しさ、現実を教えようというアレですね?」
「ダメよ、ユリ……」

ユリは今年で十八。よって、ここに通う令息や令嬢達は年下だ。十六の時には、奴隷となっていたため、平和ボケしている令嬢達やのほほんとしている令息達は気に入らないのだろう。はっきりと言うユリに、セラが慌てる。しかし、フィルズは笑って答えた。

「その通りだ。いやあ、話が早くて助かる。けどユリ、俺以外のやつには言い方を気を付けろよ? その物言いで苦労したんだろ?」
「はい。申し訳ありません」
「いや、良いって。そう言う所もユリの長所だって、母さんにも言われてただろ?」
「っ、はい。ありがとうございます……っ」
「おう」

今のユリは恥ずかしそうに耳を赤くしているが、ユリはあまり表情を出さない。というか、出ないようだ。冷たい印象を受け、更にはっきりとした物言いが、これまで誤解を受けてきた。正義感も強いこともあり、可愛げがないと婚約者にも嫌われたようだ。実の母が幼い頃に事故で行方不明になり、家にも後妻が入っていた。そこでも嫌われて、最終的に婚約を破棄され、義母の嫌がらせでかなり年上の貴族に後妻として薦められたことでキレた。はっきりと義母や父親に暴言を吐いた彼女は修道院へ送られることになったのだ。

誰も理解者がいなかった彼女は、心を閉ざし、奴隷として働き、殴られるなどの暴力を受けても、声を上げることもできなくなっていた。

同じ様な境遇のセラ達と一緒に居たことで、少しはマシだったようだが、教会でのカウンセリングは、一番時間がかかったようだ。

しかし、表情の方は変わらず、それを見兼ねたクラルスが指導に入ったというわけだ。あの自由奔放で天真爛漫を絵に描いたようなクラルスが傍にいることによって、ユリはようやく自分というものを理解し始めた所だ。

クラルスはユリにとっての目標で、心を許せるお姉様らしい。母親になれないのがクラルスらしいところだ。そして、そんなクラルスが甘えられるフィルズにも憧れや尊敬の念を抱いている。

「でだ。今日、第一王子の取り巻きの女子にそそのかされて、リサーナ達に喧嘩を売った女達がいるんだが、罰としてここの手伝いと店での職業体験をさせようと思うんだ」
「自国の王女に喧嘩を売るなんておバカがいるんですね……」
「頭に花が植っているのでは?」
「「関わりたくない人種……」」
「あははっ。はっきり言い過ぎっ」
「「「「っ……」」」」

思わず思ったことが全員、口に出たようだ。

「まあ、花も咲いてるだろうし、バカだろうし、できれば関わり合いになりたくない人種だが、教えを乞うって立場といかに自分たちが何も出来ないのかって自覚させる必要があるんだよ。だから、頼むわ」
「……いつからですか?」

セイルが諦めた様子で確認する。他も仕方ないと受け入れたようだ。それに満足げに笑みを浮かべながら答えた。

「明日から」
「っ、手荒くなるかもしれませんよ……」
「構わん。学園長が責任を取る!」
「会長じゃないんですね……分かりました」
「仕方ないですね。サル達も居ますから何とか期日には間に合わせます」
「口で負けたことはありません。文句を言う小娘達も黙らせます」
「この機会に、意味もなく上から使われていることの虚しさを分からせますわ」

ユリやセラには、同じ貴族令嬢という立場から思う所があるのだろう。その目には強い意思が感じられた。

「サル達には経過観察をしてもらおう。じゃあ、頼んだ」
「「「「はいっ」」」」

試験的な職業体験が始まることになった。







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読んでくださりありがとうございます◎



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