趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション9 学園と文具用品

336 それは嫌だろうね

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売店と言ってもイメージは湧かないだろう。なので、そこはまた後でということにする。先ずは目の前の令嬢達だ。

「反省促すってのは難しいんだよな~。ってことで、とりあえず反省文だな」
「反省文……それで反省する?」
「するかしら……」
「無理では?」

反省文なんて意味ないだろうとセルジュ達は顔をしかめていた。

「いや。反省ってか、先ずは自分が何をしたか、どうしてそうしたかってのを目に見えるものにするのが大事だと思うんだよ。そこから、何が悪かったかを拾い上げるんだ」
「ああ。都合の良い頭をお待ちですものね。考えないと、どこが悪かったのかも分からないのですわね?」
「それはあるだろうね。けど、果たして正しく書けるものかな」

リサーナはうんうんと頷き、カリュエルは首を傾げそうになっている。これにフィルズは笑って答える。

「いいんだよ。きちんと思い出すってのが大事だ。ということで、あんたらには、まずどうしてここに来たのか、もちろん、誰に言われてというのも書くこと。それから、何をここで言ったかを書いて今日の五時までに、食堂と渡り廊下の間にある空き教室に持ってくるように」

フィルズが取り出した紙の束を、クルフィが受け取る。配ってくれるらしい。

「あ、クルフィ。書き損じるかもしれんから、五枚ずつな」
「そんなに要る!?」
《承知しました》

セルジュが声を上げるが、クルフィは気にせず配っていた。ただの白紙の紙ではなく、罫線のあるそれを受け取り、目を瞬かせる。手紙も罫線が書かれている紙はあまり使われていないようだ。

いかに、きちんと横に揃った文字を書けることが、女性としての格を示すものだった。

「上手に書くんだぞ~」
「あ、清書用でもあるんだ」
「おう。で、程度を見たい」
「ん? ああ、文字の? そういえば、母上も出す手紙は、何度も清書すると言っていたっけ……」

セルジュの妹であるエルセリアの文字の練習にミリアリアも付き合っていた。その時にそう言っていたらしい。

「それだよ。やっぱ、仕事として日常的に文字を書く親父達と比べると、リアさんも子どもみたいな文字書くんだよな~。清書でめちゃくちゃ丁寧に時間をかければ綺麗だけどさ」
「そうなんだ? え? でも、母上もこの学園で……まさか……」
「文字の授業があっても、ほぼ意味ねえ可能性がある」
「……」

学園が女生徒が受ける授業の中で特に力を入れて教えていた部分だ。しかし、卒業生であるミリアリアの様子からも、成果が出ているのは怪しいと思っていたのだ。

「まあ、そうだと思いましたわ。やはり、勉学は真剣に自分自身とも向き合える者でなければ、本当の成果は出ませんわ」
「腕を磨くものは、自分自身との戦いが出来ないといけないだろうね」
「自分を甘やかすのに慣れた者には無理かな」

文字一つ取ってもこれが大事だ。それを、リサーナとカリュエル、セルジュは理解していた。

「なんでも、目標を持って、どれだけ突き詰められるかが肝だろうな。あ、クルフィ。この封筒配ってくれるか? ボールペンもな」
《はい》
「封筒……?」
「なに……?」
「これ……書くもの?」

封筒を配られ、羽ペンが一般的な中で、ボールペンは見慣れないだろう。

「インクが入っているから、そのまま書けるぞ。そこにテーブルと椅子を出すから、順番に家の当主への宛名と差出人として裏に自分の名前を書くように」
「「「「「え?」」」」」
「ほれ、練習だと思って」

混乱しているようだが、十二人の令嬢達は黙って従った。あまり頭が回っていなさそうだ。

「よし。なら、今日の五時までに反省文をきちんと書くようにな。提出しなかったら学園の方から催促させるぞ。ウチの隠密も動かすからな」
「おんみつ……?」
「そう。隠密」
「「「「「……っ」」」」」

にっこりと何かを含む笑みを見せれば、危なそうな印象は受けたようだ。

封筒の回収を終えると、令嬢達を部屋から優しく追い出しにかかる。フィルズは手で追い払うように振る。

「ほら、ここでやることは終わった。くれぐれも提出を忘れないように。教室に戻って、書き始めた方が良いぜ~。それじゃあなっ」

クルフィが、やんわりと追い立てて行く。便箋を手に、不安げな様子で振り向きながらも廊下に出て行く令嬢達。それを笑顔で手を振って見送った。

扉が完全に閉まると、セルジュが問いかける。フィルズは手元にある封筒の宛名と令嬢達の名を確認していた。

「で? それ、どうするの?」
「あの反省文を、当主に送り付けるんだよ。学園長からの説明文と一緒にな。『お宅のお嬢さん、王族に喧嘩売るんだけど、どうなってんの?』って一言添えて」
「うわ~。それは嫌だろうね……」

当主である祖父や男親には、令嬢達は本性を見せていない。彼らの前では良い子だ。絶対に良く見えるように装っている。だからこそ、文字から受ける印象や言葉の選び方からも、男達はその本性を知ることになるだろう。印象が悪くなるため、遠慮なく警告や注意が飛んでくるはずだ。リサーナとカリュエルは、結果を察したらしい。

「ざまあないですわ」
「ははっ。それで? その封筒の名を書かせたのはもしかして、学園長の手間を省くため?」
「正解。学園長には、事の顛末を今説明と映像を送っている」
「用意がいいわね」
「さすがだ」
「フィルは本当にすごいね!」

相変わらずの手回しの良さにセルジュ達は感心し、残りの昼休みを楽しく過ごした。セルジュ達の機嫌も完全に良くなったようだ。








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読んでくださりありがとうございます◎



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