趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

文字の大きさ
上 下
122 / 225
ミッション9 学園と文具用品

329 喋らないと不安?

しおりを挟む
デクサルヒードルの処理も終わった翌日。冒険者達も引き連れ、フィルズは坑道内を探索していた。

「どうするんだ?」

数人の冒険者と一緒に来たのは、デクサルヒードルが通って来たトンネルの先だ。森を恐々と眼下に見ながら、冒険者達が先ほどから何やら作業をしているフィルズを見た。

「またあんなの来たらやべえぞ?」
「ここまでの穴を完全に塞ぐには、時間がかかるでしょう? どうするの?」
「いくら、あの鉱石が苦手でも、あいつらここを通っては来たしなあ」

森に繋がるトンネルが存在するというのは不安だ。だが、フィルズは気楽な様子で答える。

「通過するくらいなら我慢できるみたいだしなあ」

不快な感じがするなと思いながら通過するようだ。寧ろ、立ち止まるのは嫌だと考えるのだろう。クロス鉱石は、まだこの鉱山内に結構な量があると、ジュエルが感じとっていたので確かだ。

「うへっ。なあに? フィル。もう研究済み?」
「そういうの欠かさねえよなあ」
「フィルは勤勉よね~」

呆れたような視線が冒険者達から送られた。フィルズは、闘った魔獣や魔物の情報を自身でまとめ直す。今までの冒険者ギルドが保有する資料よりも遥かに詳しい情報を得ているというのは、冒険者達の中では有名だった。

その資料も分かりやすくまとめ直して、ギルドに定期的に渡してもいたが、冒険者達の中には、無駄な事をと思う者もいる。しかし、一度でもその資料を見た冒険者ならば、その有用性を理解している。とはいえ、自分たちにはそこまでの事をするのは無理だとも思って、フィルズの行動に呆れてもいた。

「ちゃんと褒めてくれていいんだぜ? なんでそんな目で見んの? そういうの、大事じゃん?」
「「「はいはい」」」
「「「大事、大事~」」」
「ふんっ」

態度に納得はいかないが、この話はここまでだろう。冒険者達が話を変える。

「で? どうすんだ? この穴」
「どうって、塞ぐぜ? 結界の魔導具とゴーレムで」
「「「ああ。ゴーレムか……」」」
「それも謎なのよね~。ゴーレムがなんで、フィルの言うこと聞いてんの?」
「そうだよなあ。こんな近くで大人しくされるとか、あり得ねえんだけど……」
「これだけ近付いたら、ガンガン殴り掛かってくるよなあ」

すぐ側に、ゴーレムが大人しく座り込んでいたのだ。人がいればすぐさま殴り掛かってくるはずのゴーレムが、こちらを見て頷いたり、首を傾げたりする。

「首傾げるの可愛いわ……」
「狭そうなのかわいそう」
「座り込んでも頭が天井に着いてるもんなあ」

昨日から、このゴーレムはここで待機させていたのだ。その少し向こうにも同じサイズのがもう一体控えている。

「この子達で塞ぐって……いいのかしら」
「二人ぼっちでずっと居る事になるってことよね? かわいそう」
「おいおい。完全に情が湧いてるじゃんか」

ここにずっと置いておくのはかわいそうだと、他の冒険者達も頷いていた。

「いや。なんか、フィルが作ったものみたいに思えるもんよ」
「フィルの言う事聞くしなあ」
「「「うん」」」
「作ってねえよ……改造はしたけど」
「「「してんじゃんっ!」」」

思わずツッコむ冒険者達。

そんな彼らを、作業を終えたフィルズは立ち上がってトンネルの向こう側へと少し足を踏み入れて手招く。

「そんなことより、運ぶの手伝ってくれ」
「何をだ?」

フィルズが警戒することなく数歩進んで行くのを見て、危険はなさそうだと冒険者達も一歩踏み出した。

その十メートルほど先に大きな檻があった。

「ん? 人? 犯罪者か?」

檻の中、それも中央に肩を寄せ合いながら固まる十人ほどの人が見えた。それを見て、冒険者達は察した。

「……こんな所で一晩明かしたんか……」
「間違いなくフィルの作った檻だから、安心だろうけど……ここで一晩とかないわ……」
「それも、ウサギ様に見守られながら?」
「尋問されたんじゃない?」
「よく喋りそうね」
「「「だな……」」」

隠密ウサギが、その檻を囲んでいたのだ。その怖さは想像できた。

「えっ。よく分かったなあ。いやあ、今朝からめっちゃよく喋るってさ」
「そりゃあ、喋るだろ……」
「喋るわね……」
「寧ろ、喋らないと不安?」
「「「分かる~」」」

そうして冒険者達が近付いて行くと、檻の中にいた者達が涙を流した。それを見て、冒険者達は今回の騒動の犯人であっても、同情せずにはいられなかったようだ。








**********
読んでくださりありがとうございます◎

しおりを挟む
感想 2,278

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。