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ミッション9 学園と文具用品
326 挑発が上手いわ
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キュラスに『それじゃあ、気を付けて』と言われて、通信は切れている。
フィルズは今まで出て来ていたデクサルヒードルよりも二回りほど大きな個体の前に立っていた。
「ボスを守ろうとすることもしないか。都合は良いけどな。けど、ならそういうことか」
群れのボスを守らないということは、それだけ絶対的な強さを持つということ。間違いなく強い個体だ。
「お前、強いのか? とぼけた顔してんのになあっ」
そう言いながら、作り出した弓でデクサルヒードルの顔を正面から射抜くつもりで矢を放った。
ホォォォォッ!
吠えながら、ボスザルは頭を下げて矢を避ける。避けられるとは想定していたフィルズは笑いながら後ろへ飛び退る。
「鳴き声までとぼけたやつだ」
これを理解したのかどうかは知らないが、ボスザルは上体を低くしたまま、突進してきた。
ポォォォォッ!!
「ぷっ。汽車かよっ」
怒り狂っているのは分かるが、それをバカにするフィルズの態度に、冒険者達の顔は引き攣っていた。
「うわ……相変わらずフィル坊は怖いもの知らずだよな……」
「挑発が上手いわ……」
「キシャが何かは知らんが、バカにしてるのだけは分かるもんなあ」
フィルズとしては、怒らせてこの場から遠ざけ、広い場所までおびき寄せるつもりなのだというのは、冒険者達も理解していた。それが、自分たちを巻き込まないためだというのも分かっている。だが、どんな相手にも怯まず、遠慮なく挑発する所は事情を知らない者達が見れば印象が悪いだろう。
「フィルの奴、王都でもあんなことしてねえだろうな……」
「いや。やってるだろ。それも、人相手に」
「性格悪く見えるから、俺らが居ない所ではやめろって言ってんだけどなあ」
「いやいや。初見の奴らは、あの美人顔から出てくる言葉じゃねえって思って、思考停止すんだろ」
「ほんと、口だけは悪いもんなあ」
「クーちゃんが教えるはずねえし……俺らの影響か?」
「……やっぱそうか……」
「いや、けど、俺らが丁寧な言葉使うとか無理じゃね?」
「「「「「無理」」」」」
「なら仕方ねえよな」
「「「「「だな」」」」」
これは仕方ねえわと冒険者達はうんうんと頷きながら、自分たちの目の前にいるデクサルヒードルへと集中する。
「けど、とりあえず終わったら、王都でやらかしてないか確認しよぜ」
「「「「「そうしよう」」」」」
なんだかんだ言いながら、やはりフィルズの事は大事に思っている。冒険者達にとっても、同業者以前に、息子や弟みたいなものなのだ。
そんな話を冒険者達がしているとは知らないフィルズは、広い場所にボスザルを誘導することに成功していた。
「はんっ。頭はそんな良くねえのか? やっぱ顔がひょっとこ顔だしなあ」
挑発も続けている。
ボォォォォッッ!
吠えながらドラミングをするボスザルを鼻で笑い、フィルズは弓を鞭に変えて地面を打つ。それを持つ手は左手だ。両利きであるフィルズは、剣も普段持つ右ではなく左ででも充分に扱える訓練をしていた。
「その顔じゃ、緊張感も出ねえんだよっ」
飛び掛かろうと高くジャンプしたボスザルを避けながら、フィルズが狙うのは後ろ足だ。そこに、しっかりと、魔力で形作られた鞭を巻きつける。
ポォォォォっ!?
そのまま引っ張って地面に叩きつけた。
「おらよっ!」
それと同時に、剣を抜き放ち、一気に距離を詰めると、先ずはと腹を刺し貫く。
ボゴォォォッ!?
手応えを感じた。剣を抜けば、勢いよく血が噴き出てくるのを見ると、やはり心臓があったようだ。
「当たりだな」
ビクンと一度痙攣しながらも、飛び起きるボスザル。とても心臓を刺されたものとは思えない。その片足には、まだ魔力出て来た淡く光る鞭が巻き付いている。それを忌々しそうに取り除こうとしている様子を、フィルズは冷静に観察する。
「ボスザルの生態についての記述はほとんどなかった……お前、心臓が三つ以上あったりしそうだな」
油断できない。フィルズは鞭を一度消し、マジックバッグから黒い石を取り出す。それを左手で握り、もう一度鞭を新たに作り出すと、飛び掛かろうと足に力を入れたボスザルに向けて鞭の先を伸ばした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
フィルズは今まで出て来ていたデクサルヒードルよりも二回りほど大きな個体の前に立っていた。
「ボスを守ろうとすることもしないか。都合は良いけどな。けど、ならそういうことか」
群れのボスを守らないということは、それだけ絶対的な強さを持つということ。間違いなく強い個体だ。
「お前、強いのか? とぼけた顔してんのになあっ」
そう言いながら、作り出した弓でデクサルヒードルの顔を正面から射抜くつもりで矢を放った。
ホォォォォッ!
吠えながら、ボスザルは頭を下げて矢を避ける。避けられるとは想定していたフィルズは笑いながら後ろへ飛び退る。
「鳴き声までとぼけたやつだ」
これを理解したのかどうかは知らないが、ボスザルは上体を低くしたまま、突進してきた。
ポォォォォッ!!
「ぷっ。汽車かよっ」
怒り狂っているのは分かるが、それをバカにするフィルズの態度に、冒険者達の顔は引き攣っていた。
「うわ……相変わらずフィル坊は怖いもの知らずだよな……」
「挑発が上手いわ……」
「キシャが何かは知らんが、バカにしてるのだけは分かるもんなあ」
フィルズとしては、怒らせてこの場から遠ざけ、広い場所までおびき寄せるつもりなのだというのは、冒険者達も理解していた。それが、自分たちを巻き込まないためだというのも分かっている。だが、どんな相手にも怯まず、遠慮なく挑発する所は事情を知らない者達が見れば印象が悪いだろう。
「フィルの奴、王都でもあんなことしてねえだろうな……」
「いや。やってるだろ。それも、人相手に」
「性格悪く見えるから、俺らが居ない所ではやめろって言ってんだけどなあ」
「いやいや。初見の奴らは、あの美人顔から出てくる言葉じゃねえって思って、思考停止すんだろ」
「ほんと、口だけは悪いもんなあ」
「クーちゃんが教えるはずねえし……俺らの影響か?」
「……やっぱそうか……」
「いや、けど、俺らが丁寧な言葉使うとか無理じゃね?」
「「「「「無理」」」」」
「なら仕方ねえよな」
「「「「「だな」」」」」
これは仕方ねえわと冒険者達はうんうんと頷きながら、自分たちの目の前にいるデクサルヒードルへと集中する。
「けど、とりあえず終わったら、王都でやらかしてないか確認しよぜ」
「「「「「そうしよう」」」」」
なんだかんだ言いながら、やはりフィルズの事は大事に思っている。冒険者達にとっても、同業者以前に、息子や弟みたいなものなのだ。
そんな話を冒険者達がしているとは知らないフィルズは、広い場所にボスザルを誘導することに成功していた。
「はんっ。頭はそんな良くねえのか? やっぱ顔がひょっとこ顔だしなあ」
挑発も続けている。
ボォォォォッッ!
吠えながらドラミングをするボスザルを鼻で笑い、フィルズは弓を鞭に変えて地面を打つ。それを持つ手は左手だ。両利きであるフィルズは、剣も普段持つ右ではなく左ででも充分に扱える訓練をしていた。
「その顔じゃ、緊張感も出ねえんだよっ」
飛び掛かろうと高くジャンプしたボスザルを避けながら、フィルズが狙うのは後ろ足だ。そこに、しっかりと、魔力で形作られた鞭を巻きつける。
ポォォォォっ!?
そのまま引っ張って地面に叩きつけた。
「おらよっ!」
それと同時に、剣を抜き放ち、一気に距離を詰めると、先ずはと腹を刺し貫く。
ボゴォォォッ!?
手応えを感じた。剣を抜けば、勢いよく血が噴き出てくるのを見ると、やはり心臓があったようだ。
「当たりだな」
ビクンと一度痙攣しながらも、飛び起きるボスザル。とても心臓を刺されたものとは思えない。その片足には、まだ魔力出て来た淡く光る鞭が巻き付いている。それを忌々しそうに取り除こうとしている様子を、フィルズは冷静に観察する。
「ボスザルの生態についての記述はほとんどなかった……お前、心臓が三つ以上あったりしそうだな」
油断できない。フィルズは鞭を一度消し、マジックバッグから黒い石を取り出す。それを左手で握り、もう一度鞭を新たに作り出すと、飛び掛かろうと足に力を入れたボスザルに向けて鞭の先を伸ばした。
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