119 / 224
ミッション9 学園と文具用品
326 挑発が上手いわ
しおりを挟む
キュラスに『それじゃあ、気を付けて』と言われて、通信は切れている。
フィルズは今まで出て来ていたデクサルヒードルよりも二回りほど大きな個体の前に立っていた。
「ボスを守ろうとすることもしないか。都合は良いけどな。けど、ならそういうことか」
群れのボスを守らないということは、それだけ絶対的な強さを持つということ。間違いなく強い個体だ。
「お前、強いのか? とぼけた顔してんのになあっ」
そう言いながら、作り出した弓でデクサルヒードルの顔を正面から射抜くつもりで矢を放った。
ホォォォォッ!
吠えながら、ボスザルは頭を下げて矢を避ける。避けられるとは想定していたフィルズは笑いながら後ろへ飛び退る。
「鳴き声までとぼけたやつだ」
これを理解したのかどうかは知らないが、ボスザルは上体を低くしたまま、突進してきた。
ポォォォォッ!!
「ぷっ。汽車かよっ」
怒り狂っているのは分かるが、それをバカにするフィルズの態度に、冒険者達の顔は引き攣っていた。
「うわ……相変わらずフィル坊は怖いもの知らずだよな……」
「挑発が上手いわ……」
「キシャが何かは知らんが、バカにしてるのだけは分かるもんなあ」
フィルズとしては、怒らせてこの場から遠ざけ、広い場所までおびき寄せるつもりなのだというのは、冒険者達も理解していた。それが、自分たちを巻き込まないためだというのも分かっている。だが、どんな相手にも怯まず、遠慮なく挑発する所は事情を知らない者達が見れば印象が悪いだろう。
「フィルの奴、王都でもあんなことしてねえだろうな……」
「いや。やってるだろ。それも、人相手に」
「性格悪く見えるから、俺らが居ない所ではやめろって言ってんだけどなあ」
「いやいや。初見の奴らは、あの美人顔から出てくる言葉じゃねえって思って、思考停止すんだろ」
「ほんと、口だけは悪いもんなあ」
「クーちゃんが教えるはずねえし……俺らの影響か?」
「……やっぱそうか……」
「いや、けど、俺らが丁寧な言葉使うとか無理じゃね?」
「「「「「無理」」」」」
「なら仕方ねえよな」
「「「「「だな」」」」」
これは仕方ねえわと冒険者達はうんうんと頷きながら、自分たちの目の前にいるデクサルヒードルへと集中する。
「けど、とりあえず終わったら、王都でやらかしてないか確認しよぜ」
「「「「「そうしよう」」」」」
なんだかんだ言いながら、やはりフィルズの事は大事に思っている。冒険者達にとっても、同業者以前に、息子や弟みたいなものなのだ。
そんな話を冒険者達がしているとは知らないフィルズは、広い場所にボスザルを誘導することに成功していた。
「はんっ。頭はそんな良くねえのか? やっぱ顔がひょっとこ顔だしなあ」
挑発も続けている。
ボォォォォッッ!
吠えながらドラミングをするボスザルを鼻で笑い、フィルズは弓を鞭に変えて地面を打つ。それを持つ手は左手だ。両利きであるフィルズは、剣も普段持つ右ではなく左ででも充分に扱える訓練をしていた。
「その顔じゃ、緊張感も出ねえんだよっ」
飛び掛かろうと高くジャンプしたボスザルを避けながら、フィルズが狙うのは後ろ足だ。そこに、しっかりと、魔力で形作られた鞭を巻きつける。
ポォォォォっ!?
そのまま引っ張って地面に叩きつけた。
「おらよっ!」
それと同時に、剣を抜き放ち、一気に距離を詰めると、先ずはと腹を刺し貫く。
ボゴォォォッ!?
手応えを感じた。剣を抜けば、勢いよく血が噴き出てくるのを見ると、やはり心臓があったようだ。
「当たりだな」
ビクンと一度痙攣しながらも、飛び起きるボスザル。とても心臓を刺されたものとは思えない。その片足には、まだ魔力出て来た淡く光る鞭が巻き付いている。それを忌々しそうに取り除こうとしている様子を、フィルズは冷静に観察する。
「ボスザルの生態についての記述はほとんどなかった……お前、心臓が三つ以上あったりしそうだな」
油断できない。フィルズは鞭を一度消し、マジックバッグから黒い石を取り出す。それを左手で握り、もう一度鞭を新たに作り出すと、飛び掛かろうと足に力を入れたボスザルに向けて鞭の先を伸ばした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
フィルズは今まで出て来ていたデクサルヒードルよりも二回りほど大きな個体の前に立っていた。
「ボスを守ろうとすることもしないか。都合は良いけどな。けど、ならそういうことか」
群れのボスを守らないということは、それだけ絶対的な強さを持つということ。間違いなく強い個体だ。
「お前、強いのか? とぼけた顔してんのになあっ」
そう言いながら、作り出した弓でデクサルヒードルの顔を正面から射抜くつもりで矢を放った。
ホォォォォッ!
吠えながら、ボスザルは頭を下げて矢を避ける。避けられるとは想定していたフィルズは笑いながら後ろへ飛び退る。
「鳴き声までとぼけたやつだ」
これを理解したのかどうかは知らないが、ボスザルは上体を低くしたまま、突進してきた。
ポォォォォッ!!
「ぷっ。汽車かよっ」
怒り狂っているのは分かるが、それをバカにするフィルズの態度に、冒険者達の顔は引き攣っていた。
「うわ……相変わらずフィル坊は怖いもの知らずだよな……」
「挑発が上手いわ……」
「キシャが何かは知らんが、バカにしてるのだけは分かるもんなあ」
フィルズとしては、怒らせてこの場から遠ざけ、広い場所までおびき寄せるつもりなのだというのは、冒険者達も理解していた。それが、自分たちを巻き込まないためだというのも分かっている。だが、どんな相手にも怯まず、遠慮なく挑発する所は事情を知らない者達が見れば印象が悪いだろう。
「フィルの奴、王都でもあんなことしてねえだろうな……」
「いや。やってるだろ。それも、人相手に」
「性格悪く見えるから、俺らが居ない所ではやめろって言ってんだけどなあ」
「いやいや。初見の奴らは、あの美人顔から出てくる言葉じゃねえって思って、思考停止すんだろ」
「ほんと、口だけは悪いもんなあ」
「クーちゃんが教えるはずねえし……俺らの影響か?」
「……やっぱそうか……」
「いや、けど、俺らが丁寧な言葉使うとか無理じゃね?」
「「「「「無理」」」」」
「なら仕方ねえよな」
「「「「「だな」」」」」
これは仕方ねえわと冒険者達はうんうんと頷きながら、自分たちの目の前にいるデクサルヒードルへと集中する。
「けど、とりあえず終わったら、王都でやらかしてないか確認しよぜ」
「「「「「そうしよう」」」」」
なんだかんだ言いながら、やはりフィルズの事は大事に思っている。冒険者達にとっても、同業者以前に、息子や弟みたいなものなのだ。
そんな話を冒険者達がしているとは知らないフィルズは、広い場所にボスザルを誘導することに成功していた。
「はんっ。頭はそんな良くねえのか? やっぱ顔がひょっとこ顔だしなあ」
挑発も続けている。
ボォォォォッッ!
吠えながらドラミングをするボスザルを鼻で笑い、フィルズは弓を鞭に変えて地面を打つ。それを持つ手は左手だ。両利きであるフィルズは、剣も普段持つ右ではなく左ででも充分に扱える訓練をしていた。
「その顔じゃ、緊張感も出ねえんだよっ」
飛び掛かろうと高くジャンプしたボスザルを避けながら、フィルズが狙うのは後ろ足だ。そこに、しっかりと、魔力で形作られた鞭を巻きつける。
ポォォォォっ!?
そのまま引っ張って地面に叩きつけた。
「おらよっ!」
それと同時に、剣を抜き放ち、一気に距離を詰めると、先ずはと腹を刺し貫く。
ボゴォォォッ!?
手応えを感じた。剣を抜けば、勢いよく血が噴き出てくるのを見ると、やはり心臓があったようだ。
「当たりだな」
ビクンと一度痙攣しながらも、飛び起きるボスザル。とても心臓を刺されたものとは思えない。その片足には、まだ魔力出て来た淡く光る鞭が巻き付いている。それを忌々しそうに取り除こうとしている様子を、フィルズは冷静に観察する。
「ボスザルの生態についての記述はほとんどなかった……お前、心臓が三つ以上あったりしそうだな」
油断できない。フィルズは鞭を一度消し、マジックバッグから黒い石を取り出す。それを左手で握り、もう一度鞭を新たに作り出すと、飛び掛かろうと足に力を入れたボスザルに向けて鞭の先を伸ばした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
3,603
お気に入りに追加
14,766
あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~
空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。
どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。
そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。
ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。
スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。
※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。