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ミッション9 学園と文具用品
325 山を登れるはず
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デクサルヒードルは、フィルズがやって来るだろうと想定していた魔獣とは違った。隠密ウサギからの報告を受けていたにも関わらずだ。
フィルズは隠密ウサギのフラットへ確認する。
「ウルフ系が来るんじゃなかったのか?」
《全部デクサルに持っていかれました》
「……は? 全部?」
先に出てくるはずだったウルフ系の魔獣は、デクサルヒードルにより倒され、巣にお持ち帰りされたようだ。
《はい。あの森……ほぼデクサルの巣です。他の魔獣や魔物は、生かされているのだと思います》
「……」
山に囲まれたその森の頂点に居るのが、このデクサルヒードルだったようだ。
フィルズは、エン達が叩き落としたり、吹き飛ばしたりしたデクサルヒードルに剣を向けながらも、過去に調べた時の情報を引き出す。
「そういや、何かの本で読んだな……ヒードル種は、群れの数の調整もして、縄張り内での生活の安定を図る傾向があるって……」
《共食いをするということですね》
「普通にするらしい」
《とぼけた顔をして、やりますね》
「顔については同意するが、感心すんな」
とはいえ、増え過ぎないように、種として存続し続けるために、数を自分たちで調整するというのはすごいとフィルズも思ったものだ。
「簡単に死なねえからな……それも、奴らの繁殖期は年に二回。放っておけば、増え過ぎる」
《外敵も少ない上に、冒険者達にも倒しにくい生態……心臓が三つというのは厄介です》
「ああ。奴らで数を調整しなかったら、その辺の森は全部ヒードル種の巣になっちまうからな。よく出来てる」
神の采配とも言えそうな、バランスの取り方だ。
「待てよ? まさか、ウルフとか他の魔獣達は、魔寄せの効果じゃなく、デクサルから逃げて来た?」
《あり得ますね。ウルフ系のものもバカではありません。デクサルに半ば飼われているという認識があった可能性は高いです》
森が全部巣になるというのは、そういう意味だ。森にいる魔獣や魔物は、ヒードルにとっては家畜のようなものと言っても過言ではない。だから、ヒードル種のボスがその森のボスになる。
ヒードル種はとにかく頭が良い。他の魔獣達がきちんと成長できるよう、わざと人を森に入れたり、餌になりそうな小動物をきちんと育てたりすると言われていた。
そんな中で、ウルフ系の魔獣は、それなりに知能が高いため、自分たちが飼われているのだと認識している場合があった。今回もそうだろう。餌として保護されているのだと察していた可能性が高い。
「けど、なんでこいつら、自分たちで山を越えて来なかったんだろうなあ」
《そうですね……ですが、坑道内を掘ろうとする様子は全くありません》
「どうなってんだ? 充分掘れる技も持ってそうだし、何より、山を登れるはず……」
そこで、通信のベルが鳴る。小さなコール音だ。
「悪い。他の通信だ。お前達は、引き続き坑道内の監視と、向こう側にいた人の追跡を頼むぞ」
《承知しました》
イヤフィスに付いている魔石に触れて、魔力を切り替える。自身の魔力を操作して、相手の魔力波動に繋ぎ直す必要があるので、少々コツが必要だ。それを難なくやり、繋げると予想外の者からの通信だった。カードサイズの端末を見れば相手が誰か分かるが、今回はそれを出している余裕はないので、その声を聞くまで分からなかった。とはいえ、端末を見ていても、今回は分からなかっただろう。どうやら屋敷の、それも執務室の固定通信機からのものだった。
「キュラス?」
《ええ。そちらはハナちゃんが忙しそうだから》
ハナが結界を張っているが、今回のは強度を重視したもののはずなので、神気を漏らさないようにする作用は込めていないはずだ。この乱戦の最中にキュラスが直接来ていては話などまともに聞けなかっただろう。
「こいつらのことで何かあるのか?」
知恵の女神であるキュラスが、今この時に無駄話をするはずがない。フィルズはデクサルヒードルを倒しながらも、耳を澄ませた。
《デクサルヒードルよね。その子達が山を越えなかった理由が知りたいでしょう?》
「知りたい」
今でなくても良いかもしれない。だが、キュラスがわざわざこのタイミングで教えて来たのには意味があるはずだ。
《原因はクロス鉱石よ。鉱石の中には、特定の魔石と共鳴するものがあるの。クロス鉱石は、ヒードル種が嫌う波動を出しているわ》
「魔石に共鳴する……」
《今の技術で精製してしまうとその波動も消えてしまうから、精製前の石を研究しない限り分からない》
「なるほど……」
《それともう一つ。未熟になった精製技術によってクロス鉱石を精製すると、土地を疲弊させ、涸らす水が出来る》
「っ、それって……っ」
その時、一回り大きな個体が現れた。一回りだけなのだ。見た目としてはよく育ったものかと思うくらい。だが、冒険者達はそれが特別な個体だと感じていた。いち早くそれに気付いたのはフィルズだ。
「ちっ。そいつの相手は俺がする!」
「そいつ……っ、あれか! 頼んだ!」
「フィルなら任せられる。多分、アレはキツい。嫌な予感がする……」
「大事な感覚だな。俺らは無理だ。気を付けろよ!」
「任せろ!」
自分たちの力量を理解している冒険者達は、フィルズにこれを任せる事にした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
フィルズは隠密ウサギのフラットへ確認する。
「ウルフ系が来るんじゃなかったのか?」
《全部デクサルに持っていかれました》
「……は? 全部?」
先に出てくるはずだったウルフ系の魔獣は、デクサルヒードルにより倒され、巣にお持ち帰りされたようだ。
《はい。あの森……ほぼデクサルの巣です。他の魔獣や魔物は、生かされているのだと思います》
「……」
山に囲まれたその森の頂点に居るのが、このデクサルヒードルだったようだ。
フィルズは、エン達が叩き落としたり、吹き飛ばしたりしたデクサルヒードルに剣を向けながらも、過去に調べた時の情報を引き出す。
「そういや、何かの本で読んだな……ヒードル種は、群れの数の調整もして、縄張り内での生活の安定を図る傾向があるって……」
《共食いをするということですね》
「普通にするらしい」
《とぼけた顔をして、やりますね》
「顔については同意するが、感心すんな」
とはいえ、増え過ぎないように、種として存続し続けるために、数を自分たちで調整するというのはすごいとフィルズも思ったものだ。
「簡単に死なねえからな……それも、奴らの繁殖期は年に二回。放っておけば、増え過ぎる」
《外敵も少ない上に、冒険者達にも倒しにくい生態……心臓が三つというのは厄介です》
「ああ。奴らで数を調整しなかったら、その辺の森は全部ヒードル種の巣になっちまうからな。よく出来てる」
神の采配とも言えそうな、バランスの取り方だ。
「待てよ? まさか、ウルフとか他の魔獣達は、魔寄せの効果じゃなく、デクサルから逃げて来た?」
《あり得ますね。ウルフ系のものもバカではありません。デクサルに半ば飼われているという認識があった可能性は高いです》
森が全部巣になるというのは、そういう意味だ。森にいる魔獣や魔物は、ヒードルにとっては家畜のようなものと言っても過言ではない。だから、ヒードル種のボスがその森のボスになる。
ヒードル種はとにかく頭が良い。他の魔獣達がきちんと成長できるよう、わざと人を森に入れたり、餌になりそうな小動物をきちんと育てたりすると言われていた。
そんな中で、ウルフ系の魔獣は、それなりに知能が高いため、自分たちが飼われているのだと認識している場合があった。今回もそうだろう。餌として保護されているのだと察していた可能性が高い。
「けど、なんでこいつら、自分たちで山を越えて来なかったんだろうなあ」
《そうですね……ですが、坑道内を掘ろうとする様子は全くありません》
「どうなってんだ? 充分掘れる技も持ってそうだし、何より、山を登れるはず……」
そこで、通信のベルが鳴る。小さなコール音だ。
「悪い。他の通信だ。お前達は、引き続き坑道内の監視と、向こう側にいた人の追跡を頼むぞ」
《承知しました》
イヤフィスに付いている魔石に触れて、魔力を切り替える。自身の魔力を操作して、相手の魔力波動に繋ぎ直す必要があるので、少々コツが必要だ。それを難なくやり、繋げると予想外の者からの通信だった。カードサイズの端末を見れば相手が誰か分かるが、今回はそれを出している余裕はないので、その声を聞くまで分からなかった。とはいえ、端末を見ていても、今回は分からなかっただろう。どうやら屋敷の、それも執務室の固定通信機からのものだった。
「キュラス?」
《ええ。そちらはハナちゃんが忙しそうだから》
ハナが結界を張っているが、今回のは強度を重視したもののはずなので、神気を漏らさないようにする作用は込めていないはずだ。この乱戦の最中にキュラスが直接来ていては話などまともに聞けなかっただろう。
「こいつらのことで何かあるのか?」
知恵の女神であるキュラスが、今この時に無駄話をするはずがない。フィルズはデクサルヒードルを倒しながらも、耳を澄ませた。
《デクサルヒードルよね。その子達が山を越えなかった理由が知りたいでしょう?》
「知りたい」
今でなくても良いかもしれない。だが、キュラスがわざわざこのタイミングで教えて来たのには意味があるはずだ。
《原因はクロス鉱石よ。鉱石の中には、特定の魔石と共鳴するものがあるの。クロス鉱石は、ヒードル種が嫌う波動を出しているわ》
「魔石に共鳴する……」
《今の技術で精製してしまうとその波動も消えてしまうから、精製前の石を研究しない限り分からない》
「なるほど……」
《それともう一つ。未熟になった精製技術によってクロス鉱石を精製すると、土地を疲弊させ、涸らす水が出来る》
「っ、それって……っ」
その時、一回り大きな個体が現れた。一回りだけなのだ。見た目としてはよく育ったものかと思うくらい。だが、冒険者達はそれが特別な個体だと感じていた。いち早くそれに気付いたのはフィルズだ。
「ちっ。そいつの相手は俺がする!」
「そいつ……っ、あれか! 頼んだ!」
「フィルなら任せられる。多分、アレはキツい。嫌な予感がする……」
「大事な感覚だな。俺らは無理だ。気を付けろよ!」
「任せろ!」
自分たちの力量を理解している冒険者達は、フィルズにこれを任せる事にした。
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