趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション9 学園と文具用品

322 ……嫌な予感……

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フィルズがこの三日滞在したのは、ほぼ完成した大公園内に作った宿泊場だ。そこにあるもののイメージとしては、リゾート系のグランピング。

この世界では野営なんてものを普通に体験できる。それは貴族であっても、移動時の休憩は取るし、一日で町に辿り着けないこともある。

なので、ドーム型のおしゃれなものを作ってみた。リーリルが使っても問題ないしっかりとした施設を目指した結果でもあった。

他にももちろん、個人で野営ができる広場も作ってある。安全な町の中、それも拓けた場所ということで、とてもリラックスして過ごせると、今回の鉱山の中の掃除を請け負ってくれた者達が喜んで滞在していた。

そうして三日が経ち、そろそろ撤収時かと思っていた所で、隠密ウサギ達が捕らえてきた反対側からの不法採掘者達が面倒な事を起こしてくれた。尋問して得たその情報を持って、帰り支度を初めていた冒険者達の下へとフィルズが駆け付けた。

「悪い。追加の仕事があるんだが」
「いいぜ? どんな仕事だ?」
「ここまで来たらなんでも手伝うぜ!」
「またエンくん達と行動できるなら、いくらでもやるわよ!」

普段ならば、内容が分からない状態で、依頼を受けると判断したりはしない。しかし、最近は特にフィルズに頼られる機会などほぼないため、年長の冒険者達は、日頃の恩を返すチャンスだと喜んで名乗りを上げた。逆にフィルズの方が不安になる。

「おいおい……内容くらい聞けよ……」

呆れ半分でそう告げれば、冒険者達はニヤニヤと笑う。

「あん? フィルは俺らに勝ち目がない仕事を任せたりしねえじゃん」
「そうそう。そういう見極め、お前がしねえはずがねえもんよ」
「そうよお。フィルってば過保護なところあるものねえ」
「……うるせえよ」

不貞腐れながら、顔を背けるフィルズに向けられる目は、まるで可愛がっている弟や息子を見るようだった。

気を取り直し、フィルズは告げた。

「あ~、どうやら、山の反対側に坑道の一つが貫通したらしい」
「ふ~ぅん? それで? 掘っていれば、貫通することもあるんじゃないの?」
「そりゃあ、真っ直ぐ掘ればトンネルができるよなあ」

事情を知らない者達からすれば、不思議なことなどどこにもない。しかし、この鉱山は特別だ。

「あの山の裏側に、何があるか知ってるか?」
「「「いや?」」」

多くの冒険者達は、ドラスリールに行こうとは思わなかった。国内地図も大まかなものしかないこの世界では、自分たちで歩いて、現地で聞いて、ようやく隣国を知る。世界地図が頭の中で描ける者はそう多くはなかった。だから、分からなくても仕方がない。

フィルズはマジックバッグから、拳大の丸い卵型のものを掴み出す。それを持ちながら、冒険者達を手招いて近くの木陰に呼び寄せる。

「ちょいこっち。そんで丸く集まってくれ」
「おう……」
「なあに?」
「何するんだ?」

そうして、木陰の下で円形に集まる。フィルズは卵型のものにあるボタンを押してから、持ったまま手を前に出す。すると、暗くなった中心の地面に、映像が映し出された。

「うおっ! これっ、モニターと一緒か!?」

セイスフィア商会ではお馴染みの、巨大モニター。そこまで鮮明ではないが、映像が映るのは驚いたようだ。

「似たようなもんだけどな。で、これが山の反対側だ」

その映像は、隠密ウサギが撮った向こう側の様子。

「……森……?」
「辺境の森より嫌な感じがするな……」
「えっと……その向こうって……山……国境の壁……あっ! ドラスリールね?」
「そうだ。けど、問題なのは、この森だ」
「「「……嫌な予感……」」」

見た目だけで、冒険者達は察していた。

「やっぱ、分かるか?」

大型の魔獣や魔物は、自分達のある程度の生息範囲から出ることはない。山や川を境界としてきちんと棲み分けをしてくれる。そこから逸脱する時は、氾濫や人がその境界を越えてそいつらのルールを無視した時だ。

「大型のが居そうだが、普通ならまあ、貫通したのが、ちょい上でもあるし、まず出て来ねえ」
「そうね」
「出てくるとしたらアレだ。魔寄せ……おい。まさか……」

そのまさかだと、眉を寄せて答えた。

「捕まえたヤツが持ってた。それは使われてはいねえけど……」
「捕まえたってことは、捕まってねえのもいるってことか」
「そんで、その捕まってねえのが持ってる可能性が高いってことだな?」
「そういうこと」

すぐに察してくれるので説明がしやすいなとフィルズは感心していた。

「ん? 待てよ? フィルが頼みたい事って……」
「おう。多分、今夜かな。氾濫……までは行かないと思うが……」
「やべえな……」
「来るじゃん……」
「ちょっ、フィル! 何を余裕ぶっこいてんの!?」

ちょっと責められた。フィルズには全く慌てた様子がないのだ。

「だってさあ、一本道じゃん? どっから来るか分からないのより楽だろ」
「「「確かに……」」」
「なら問題ないよな?」
「「「……問題は大アリだからな!!」」」
「え~」

この後、もう少し緊張感を待てとか、今から対策すべきだろうとか、色々言われた。とはいえ、対処は出来そうだった。







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読んでくださりありがとうございます◎

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