上 下
113 / 203
ミッション9 学園と文具用品

320 これも実験ですか

しおりを挟む
フィルズはギンとハナに声を掛ける。屈み込んで地面から二十センチくらいの所を示した。

「ハナ。これくらいの高さで、ここで一直線に壁を作れるか? 強度は強めに」
《キュン? キュン!》

できるとのことで、ハナは目の前に、横一直線に区切るような壁を作った。

「いいぞ。次は、あの柱の所で横に区切ってくれ」
《キュンっ》

そうして、約三メートルくらいの幅を区切った。

「それじゃあ、ギン。ハナの結界で囲った所のものを、凍らせてくれ。あっ、踏むとシャリっとするくらいのやつな」
《クゥン!》

いい具合に固まったのを確認し、フィルズはマジックバッグから直径三十センチほどの円盤状の物を取り出した。

「よっと。そんじゃあ、レベル五で」

それを囲いの中に置いて起動する。

「【起動】」

その言葉に反応して、クルクル回転する。そして、まるでホッケーの球のように勢いよく囲いをジグザグ走行しだした。その通った場所は、ゴミがなくなり、地面が見えている。スピードは速いが、これはロボット掃除機だ。

「良さそうだな」

立ち上がって満足げに頷くと、ハナが足に縋り付いて来て見上げてくる。

《キュンっ、キュンっ》
「え……アレに乗るのか……?」
《キュン!》
《クゥゥン!》
「ギンも? いや、流石に狭いだろ……」
《クン?》

もう一つないのかと問いかけてきた。

「……あるけど……」
《キュン!》
《クゥゥン!》
「……分かった……」

フィルズは、小さなリモコンを取り出して、ボタンを押す。すると、リモコンの前方の所から円形の青い光が照射される。それを囲いの中の手前に合わせて指令を出す。

「【帰還】」

ピタリと一度止まった掃除機は、最短距離で掃除をしながらもその青く照らしている場所へと戻ってきて停止した。

「ほら。ハナ乗っていいぞ」
《キュン!》
「もう一つ出すから、ギンは待て」
《クゥゥン》

もう一つ掃除機を出して、ハナの乗る掃除機から少しだけ離して置く。

「まあ、こうなると思ってたから、柵も出るんだよな~」
《……無駄に用意が良いと言われませんか?》
「よく言われる」

隠密ウサギがどこか胡乱げな目で見ている気がするが、気のせいということにして目を合わせなかった。

リモコンを二つ、それぞれ左右の手で持ち、操作する。上部に柵を出し、ハナ達が落ちないようにガードを確認し、レベルを三まで下げる。遊園地のコーヒーカップの速度くらいという、この世界では分からない速さの感覚に設定する。

「この速さなら、落ちないだろう。コーヒーカップのやつは、意外と速いんだよな~」

回転は緩めにした。

「それじゃあ【起動】
《キュンっ、キュンっ》
《クン、クゥンっ》

楽しそうなので良しとしよう。そして、ハナとギンは賢かった。

「おっ、俺の意図をちゃんと理解したかっ」

掃除が粗方済むと、囲いの部分を移動して進んでいったのだ。

「というか……ハナのやつ、順応し過ぎだろ……」
《見事な操作ですね》
「だな……」

ハナは、ぶつかると向きが変わることが分かったのか、小さな結界の壁を反射板の要領で角度を付けて出現させ、移動していた。きちんと掃除も出来ている。

その間も、エンとジュエルはコウモリの魔物の退治に精を出しており、フィルズは快適に歩を進めていった。

《これも実験ですか》
「よく分かったな。けど、やっぱハナの結界がねえと、お前らも使えないよな」
《……屋根裏も掃除させるおつもりですか……》
「良くね? それに、暗部系の連中って、綺麗な屋根裏とか警戒して入りづらいだろ」
《まあ、そうですね。わかりました。掃除機能も付けてください》
「いや、お前らに付けるの? 可愛くなくなるじゃん」
《……可愛さは求めなくとも結構ですが……》
「いやいや! 可愛さは重要だ! 可愛さと愛想が良いだけで危機的な状況も何%かは回避できる! じいちゃん見て思った!」
《なるほど》

隠密ウサギも納得するリーリルの可愛さ。色んな理屈も全部吹っ飛ばすのだから、最早最強だろう。

「で? 後どれくらいのでゴーレムは反応すると思う?」
《主様……気配を消し過ぎです》
「え~」
《え~、じゃありません。今度は何の実験ですか》

緊張感がないように思えるが、フィルズは気配だけは極限まで消していた。

「いやあ。ゴーレムは音には反応しねえって魔物の資料にあったから、気配ならどれだけ断てば反応しねえのかなと……ほら、お前らにも反応しなかっただろ? 人の生体反応を感知するなら、軽く気配を消したくらいじゃ意味なく反応するはずだ」
《熱源や呼吸では、魔獣や魔物にも反応するはずですからね……》
「だろ? で、人の気配って、どこまでどうしたらそれだと分かるか……ってことで、ゆっくり解放していってんだけど。どうだと思う?」
《……反応したらお教えします》
「おう。頼んだ!」

その後しばらくして反応があり、ゴーレムがこちらに向かって歩き出した。








**********
読んでくださりありがとうございます◎
5巻! 好評発売中です!

しおりを挟む
感想 2,153

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜

紫南
ファンタジー
◇◇◇異世界冒険、ギルド職員から人生相談までなんでもござれ!◇◇◇ 『ふぁんたじーってやつか?』 定年し、仕事を退職してから十年と少し。 宗徳(むねのり)は妻、寿子(ひさこ)の提案でシルバー派遣の仕事をすると決めた。 しかし、その内容は怪しいものだった。 『かつての経験を生かし、異世界を救う仕事です!』 そんな胡散臭いチラシを見せられ、半信半疑で面接に向かう。 ファンタジーも知らない熟年夫婦が異世界で活躍!? ーー勇者じゃないけど、もしかして最強!? シルバー舐めんなよ!! 元気な老夫婦の異世界お仕事ファンタジー開幕!!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。