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ミッション9 学園と文具用品
320 これも実験ですか
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フィルズはギンとハナに声を掛ける。屈み込んで地面から二十センチくらいの所を示した。
「ハナ。これくらいの高さで、ここで一直線に壁を作れるか? 強度は強めに」
《キュン? キュン!》
できるとのことで、ハナは目の前に、横一直線に区切るような壁を作った。
「いいぞ。次は、あの柱の所で横に区切ってくれ」
《キュンっ》
そうして、約三メートルくらいの幅を区切った。
「それじゃあ、ギン。ハナの結界で囲った所のものを、凍らせてくれ。あっ、踏むとシャリっとするくらいのやつな」
《クゥン!》
いい具合に固まったのを確認し、フィルズはマジックバッグから直径三十センチほどの円盤状の物を取り出した。
「よっと。そんじゃあ、レベル五で」
それを囲いの中に置いて起動する。
「【起動】」
その言葉に反応して、クルクル回転する。そして、まるでホッケーの球のように勢いよく囲いをジグザグ走行しだした。その通った場所は、ゴミがなくなり、地面が見えている。スピードは速いが、これはロボット掃除機だ。
「良さそうだな」
立ち上がって満足げに頷くと、ハナが足に縋り付いて来て見上げてくる。
《キュンっ、キュンっ》
「え……アレに乗るのか……?」
《キュン!》
《クゥゥン!》
「ギンも? いや、流石に狭いだろ……」
《クン?》
もう一つないのかと問いかけてきた。
「……あるけど……」
《キュン!》
《クゥゥン!》
「……分かった……」
フィルズは、小さなリモコンを取り出して、ボタンを押す。すると、リモコンの前方の所から円形の青い光が照射される。それを囲いの中の手前に合わせて指令を出す。
「【帰還】」
ピタリと一度止まった掃除機は、最短距離で掃除をしながらもその青く照らしている場所へと戻ってきて停止した。
「ほら。ハナ乗っていいぞ」
《キュン!》
「もう一つ出すから、ギンは待て」
《クゥゥン》
もう一つ掃除機を出して、ハナの乗る掃除機から少しだけ離して置く。
「まあ、こうなると思ってたから、柵も出るんだよな~」
《……無駄に用意が良いと言われませんか?》
「よく言われる」
隠密ウサギがどこか胡乱げな目で見ている気がするが、気のせいということにして目を合わせなかった。
リモコンを二つ、それぞれ左右の手で持ち、操作する。上部に柵を出し、ハナ達が落ちないようにガードを確認し、レベルを三まで下げる。遊園地のコーヒーカップの速度くらいという、この世界では分からない速さの感覚に設定する。
「この速さなら、落ちないだろう。コーヒーカップのやつは、意外と速いんだよな~」
回転は緩めにした。
「それじゃあ【起動】
《キュンっ、キュンっ》
《クン、クゥンっ》
楽しそうなので良しとしよう。そして、ハナとギンは賢かった。
「おっ、俺の意図をちゃんと理解したかっ」
掃除が粗方済むと、囲いの部分を移動して進んでいったのだ。
「というか……ハナのやつ、順応し過ぎだろ……」
《見事な操作ですね》
「だな……」
ハナは、ぶつかると向きが変わることが分かったのか、小さな結界の壁を反射板の要領で角度を付けて出現させ、移動していた。きちんと掃除も出来ている。
その間も、エンとジュエルはコウモリの魔物の退治に精を出しており、フィルズは快適に歩を進めていった。
《これも実験ですか》
「よく分かったな。けど、やっぱハナの結界がねえと、お前らも使えないよな」
《……屋根裏も掃除させるおつもりですか……》
「良くね? それに、暗部系の連中って、綺麗な屋根裏とか警戒して入りづらいだろ」
《まあ、そうですね。わかりました。掃除機能も付けてください》
「いや、お前らに付けるの? 可愛くなくなるじゃん」
《……可愛さは求めなくとも結構ですが……》
「いやいや! 可愛さは重要だ! 可愛さと愛想が良いだけで危機的な状況も何%かは回避できる! じいちゃん見て思った!」
《なるほど》
隠密ウサギも納得するリーリルの可愛さ。色んな理屈も全部吹っ飛ばすのだから、最早最強だろう。
「で? 後どれくらいのでゴーレムは反応すると思う?」
《主様……気配を消し過ぎです》
「え~」
《え~、じゃありません。今度は何の実験ですか》
緊張感がないように思えるが、フィルズは気配だけは極限まで消していた。
「いやあ。ゴーレムは音には反応しねえって魔物の資料にあったから、気配ならどれだけ断てば反応しねえのかなと……ほら、お前らにも反応しなかっただろ? 人の生体反応を感知するなら、軽く気配を消したくらいじゃ意味なく反応するはずだ」
《熱源や呼吸では、魔獣や魔物にも反応するはずですからね……》
「だろ? で、人の気配って、どこまでどうしたらそれだと分かるか……ってことで、ゆっくり解放していってんだけど。どうだと思う?」
《……反応したらお教えします》
「おう。頼んだ!」
その後しばらくして反応があり、ゴーレムがこちらに向かって歩き出した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
5巻! 好評発売中です!
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《キュン? キュン!》
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《キュンっ》
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《クゥン!》
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「え……アレに乗るのか……?」
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《これも実験ですか》
「よく分かったな。けど、やっぱハナの結界がねえと、お前らも使えないよな」
《……屋根裏も掃除させるおつもりですか……》
「良くね? それに、暗部系の連中って、綺麗な屋根裏とか警戒して入りづらいだろ」
《まあ、そうですね。わかりました。掃除機能も付けてください》
「いや、お前らに付けるの? 可愛くなくなるじゃん」
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《なるほど》
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「で? 後どれくらいのでゴーレムは反応すると思う?」
《主様……気配を消し過ぎです》
「え~」
《え~、じゃありません。今度は何の実験ですか》
緊張感がないように思えるが、フィルズは気配だけは極限まで消していた。
「いやあ。ゴーレムは音には反応しねえって魔物の資料にあったから、気配ならどれだけ断てば反応しねえのかなと……ほら、お前らにも反応しなかっただろ? 人の生体反応を感知するなら、軽く気配を消したくらいじゃ意味なく反応するはずだ」
《熱源や呼吸では、魔獣や魔物にも反応するはずですからね……》
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