趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

文字の大きさ
上 下
111 / 221
ミッション9 学園と文具用品

318 二体だぞ!

しおりを挟む
翌日、よく晴れたその日、ミルトーラにある鉱山ホルトーロ鉱山へとやって来た。

「フィル坊ちゃん。本当に私たちはここで待機でよろしいんですか?」

連れて来たのは、ジュエル達だけではなく、騎士団の一部隊もだった。

「おう。万が一、ゴーレムが外に出て来た場合の対処を頼む」
「ですが……」

騎士達は、フィルズが強いことは知っている。団長であるヴィランズも認める腕だ。しかし、それでも心配な顔を見せる一番の理由は、フィルズを息子のように思っているからだ。

「心配すんなって。無理はしねえからさっ」
「……無茶はしそうです……勢い余って、鉱山を崩したりしないでくださいよ?」
「え~……善処する」
「必ずと約束してください!」
「そうですよっ、坊ちゃん! 坊ちゃんが本気で暴れたら、あんな山でもクシャんと行きますからねっ」
「いや……坊ちゃんなら、斬るかも……」
「「「っ……やりそう……」」」

騎士達が、フィルズを囲んでうんうんと頷く。数名は、エン達を前にして、鉱山内での注意を言い聞かせていた。

「いいかい? あの中は穴がいっぱい空いてるんだ。だから、壁も脆かったりする」
「上を支えてる壁な無くなっちゃったら、天井が落ちてくるからね? そうしたらどうなるかわかる?」
《ワフっ!》
《クンっ》
《キュン?》
《クキュゥ》
「ああっ、ハナちゃんが分かってないっ」
《キュン?》
「「「かわいいっ~」」」
《キュン ♪ 》

こうなると言うのは分かっていたので、フィルズは目を逸らした。今は目の前に居る、過保護な騎士達を説得することが先決だ。

「ってか、信用ねえ……」
「心配なんだよ! けど、分かった。山崩しても良いから、怪我なく帰ってくること!」
「万が一の避難誘導は任せてくれ! だから、ゴーレムごと吹っ飛ばしても良いから、ちゃんと帰ってくるんだぞ?」
「山は崩れても掘れば良いんだ。うん。問題ない!」
「……崩すのは決定か……?」

全く信用がないのは確かなようだ。フィルズなら山ごと吹っ飛ばすと確信している所もありそうだ。

「ハナちゃ~ん! 山が崩れちゃったら、とりあえず皆んなを結界で守ってくれればいいからな?」
《キュン!》

任せろと澄まし顔をしたハナ。これに、騎士達はデレデレだった。

「「「「「カワイイ~っ!」」」」」
「……えっと……じゃあ、外は頼むからな? ビズ、こいつら見ててくれよ?」
《フシュ……》

大丈夫だろうかと少し不安に思いながら、フィルズはビズに騎士達のお守りを頼み、ジュエルとエン達を連れて鉱山へと入った。

◆   ◆   ◆

数歩入った所で、灰色の隠密ウサギが一体姿を現す。隠密五番隊の隊長フラットだ。

《お待ちしておりました》
「おう。状況は?」
《現在、この奥に八体のゴーレムを確認しております。それと、昨晩遅くに人の出入りを確認しました》
「どこだ?」
《それが……この山の反対側です》
「……ドラスリール側か?」
《はい。森と渓谷がありますが、その先はドラスリールです》
「人が行き来出来るような場所じゃなかっただろ……」

長い歴史の中で見ても、この鉱山と隣国のドラスリールを守るようにある山の間にある森と渓谷は、人が入り込めない未知の領域だった。

この鉱山があることで、その森に棲む魔獣や魔物から守られており、ドラスリールも同じだ。そして、その森を越えてどちらの国に侵入しようとも思えない天然の守りの地形だった。よって、この鉱山での注意点は、向こう側に貫通させないこと。これだけは守るべきことだった。

《ですが、あれは間違いなく人でした。映像を確認ください》
「ああ」

フィルズは、マジックバッグから黒いハガキサイズくらいの板を取り出す。厚さは一センチほどだ。これは、簡易の映像転送装置。傍に居る隠密ウサギの記録した映像を読み取り、テレビのように見ることができる。

隙間から入り込んで向こう側を撮ったのだろう。松明を掲げながら、数人が掘り出したものを袋に詰めているのが確認できた。

「……もしかして、この壁のこっち側にゴーレムが居るか?」
《はい。少々、高さが違いますが、壁一つ隔てた向こう側ですので》
「なるほど……外に出て来たゴーレムがここに戻るのは、向こう側のこの人間に反応してんだな」
《恐らくは》

ゴーレムは人に反応して向かってくる。こちらの人の出入りは止めていた。だから、こちら側に一度出て来たゴーレムは、反対側から感じた人の気配に反応して、奥に戻って行ったというわけだ。

《現在、抜け道を探させています。ゴーレムがもう少し小さいと上手く追ってくれるのですが……》
「大きいもんな……」
《はい……》

人に反応するゴーレム。その反応を利用して、抜け道を探せるかもしれない。

「う~ん……やっぱ、二体くらい欲しいな……」

そんなフィルズの呟きを拾ったフラットが呆れたような声音で告げた。

《……捕獲部隊を編成します……》
「頼んだ! 二体だぞ! 二体!」
《……分かりました……丁度、二体だけ別で孤立しているので、奥の八体は処分してしまっても問題ありません》
「よし! みんな、行くぞ~」
《ワフッ!》
《クンっ!》
《キュン!》
《クキュ!》

やる気満々の様子のエン達を連れて、フィルズは奥へと向かった。








***********
読んでくださりありがとうございます◎


しおりを挟む
感想 2,257

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?

藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」 愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう? 私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。 離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。 そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。 愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。