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ミッション9 学園と文具用品
318 二体だぞ!
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翌日、よく晴れたその日、ミルトーラにある鉱山ホルトーロ鉱山へとやって来た。
「フィル坊ちゃん。本当に私たちはここで待機でよろしいんですか?」
連れて来たのは、ジュエル達だけではなく、騎士団の一部隊もだった。
「おう。万が一、ゴーレムが外に出て来た場合の対処を頼む」
「ですが……」
騎士達は、フィルズが強いことは知っている。団長であるヴィランズも認める腕だ。しかし、それでも心配な顔を見せる一番の理由は、フィルズを息子のように思っているからだ。
「心配すんなって。無理はしねえからさっ」
「……無茶はしそうです……勢い余って、鉱山を崩したりしないでくださいよ?」
「え~……善処する」
「必ずと約束してください!」
「そうですよっ、坊ちゃん! 坊ちゃんが本気で暴れたら、あんな山でもクシャんと行きますからねっ」
「いや……坊ちゃんなら、斬るかも……」
「「「っ……やりそう……」」」
騎士達が、フィルズを囲んでうんうんと頷く。数名は、エン達を前にして、鉱山内での注意を言い聞かせていた。
「いいかい? あの中は穴がいっぱい空いてるんだ。だから、壁も脆かったりする」
「上を支えてる壁な無くなっちゃったら、天井が落ちてくるからね? そうしたらどうなるかわかる?」
《ワフっ!》
《クンっ》
《キュン?》
《クキュゥ》
「ああっ、ハナちゃんが分かってないっ」
《キュン?》
「「「かわいいっ~」」」
《キュン ♪ 》
こうなると言うのは分かっていたので、フィルズは目を逸らした。今は目の前に居る、過保護な騎士達を説得することが先決だ。
「ってか、信用ねえ……」
「心配なんだよ! けど、分かった。山崩しても良いから、怪我なく帰ってくること!」
「万が一の避難誘導は任せてくれ! だから、ゴーレムごと吹っ飛ばしても良いから、ちゃんと帰ってくるんだぞ?」
「山は崩れても掘れば良いんだ。うん。問題ない!」
「……崩すのは決定か……?」
全く信用がないのは確かなようだ。フィルズなら山ごと吹っ飛ばすと確信している所もありそうだ。
「ハナちゃ~ん! 山が崩れちゃったら、とりあえず皆んなを結界で守ってくれればいいからな?」
《キュン!》
任せろと澄まし顔をしたハナ。これに、騎士達はデレデレだった。
「「「「「カワイイ~っ!」」」」」
「……えっと……じゃあ、外は頼むからな? ビズ、こいつら見ててくれよ?」
《フシュ……》
大丈夫だろうかと少し不安に思いながら、フィルズはビズに騎士達のお守りを頼み、ジュエルとエン達を連れて鉱山へと入った。
◆ ◆ ◆
数歩入った所で、灰色の隠密ウサギが一体姿を現す。隠密五番隊の隊長フラットだ。
《お待ちしておりました》
「おう。状況は?」
《現在、この奥に八体のゴーレムを確認しております。それと、昨晩遅くに人の出入りを確認しました》
「どこだ?」
《それが……この山の反対側です》
「……ドラスリール側か?」
《はい。森と渓谷がありますが、その先はドラスリールです》
「人が行き来出来るような場所じゃなかっただろ……」
長い歴史の中で見ても、この鉱山と隣国のドラスリールを守るようにある山の間にある森と渓谷は、人が入り込めない未知の領域だった。
この鉱山があることで、その森に棲む魔獣や魔物から守られており、ドラスリールも同じだ。そして、その森を越えてどちらの国に侵入しようとも思えない天然の守りの地形だった。よって、この鉱山での注意点は、向こう側に貫通させないこと。これだけは守るべきことだった。
《ですが、あれは間違いなく人でした。映像を確認ください》
「ああ」
フィルズは、マジックバッグから黒いハガキサイズくらいの板を取り出す。厚さは一センチほどだ。これは、簡易の映像転送装置。傍に居る隠密ウサギの記録した映像を読み取り、テレビのように見ることができる。
隙間から入り込んで向こう側を撮ったのだろう。松明を掲げながら、数人が掘り出したものを袋に詰めているのが確認できた。
「……もしかして、この壁のこっち側にゴーレムが居るか?」
《はい。少々、高さが違いますが、壁一つ隔てた向こう側ですので》
「なるほど……外に出て来たゴーレムがここに戻るのは、向こう側のこの人間に反応してんだな」
《恐らくは》
ゴーレムは人に反応して向かってくる。こちらの人の出入りは止めていた。だから、こちら側に一度出て来たゴーレムは、反対側から感じた人の気配に反応して、奥に戻って行ったというわけだ。
《現在、抜け道を探させています。ゴーレムがもう少し小さいと上手く追ってくれるのですが……》
「大きいもんな……」
《はい……》
人に反応するゴーレム。その反応を利用して、抜け道を探せるかもしれない。
「う~ん……やっぱ、二体くらい欲しいな……」
そんなフィルズの呟きを拾ったフラットが呆れたような声音で告げた。
《……捕獲部隊を編成します……》
「頼んだ! 二体だぞ! 二体!」
《……分かりました……丁度、二体だけ別で孤立しているので、奥の八体は処分してしまっても問題ありません》
「よし! みんな、行くぞ~」
《ワフッ!》
《クンっ!》
《キュン!》
《クキュ!》
やる気満々の様子のエン達を連れて、フィルズは奥へと向かった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
「フィル坊ちゃん。本当に私たちはここで待機でよろしいんですか?」
連れて来たのは、ジュエル達だけではなく、騎士団の一部隊もだった。
「おう。万が一、ゴーレムが外に出て来た場合の対処を頼む」
「ですが……」
騎士達は、フィルズが強いことは知っている。団長であるヴィランズも認める腕だ。しかし、それでも心配な顔を見せる一番の理由は、フィルズを息子のように思っているからだ。
「心配すんなって。無理はしねえからさっ」
「……無茶はしそうです……勢い余って、鉱山を崩したりしないでくださいよ?」
「え~……善処する」
「必ずと約束してください!」
「そうですよっ、坊ちゃん! 坊ちゃんが本気で暴れたら、あんな山でもクシャんと行きますからねっ」
「いや……坊ちゃんなら、斬るかも……」
「「「っ……やりそう……」」」
騎士達が、フィルズを囲んでうんうんと頷く。数名は、エン達を前にして、鉱山内での注意を言い聞かせていた。
「いいかい? あの中は穴がいっぱい空いてるんだ。だから、壁も脆かったりする」
「上を支えてる壁な無くなっちゃったら、天井が落ちてくるからね? そうしたらどうなるかわかる?」
《ワフっ!》
《クンっ》
《キュン?》
《クキュゥ》
「ああっ、ハナちゃんが分かってないっ」
《キュン?》
「「「かわいいっ~」」」
《キュン ♪ 》
こうなると言うのは分かっていたので、フィルズは目を逸らした。今は目の前に居る、過保護な騎士達を説得することが先決だ。
「ってか、信用ねえ……」
「心配なんだよ! けど、分かった。山崩しても良いから、怪我なく帰ってくること!」
「万が一の避難誘導は任せてくれ! だから、ゴーレムごと吹っ飛ばしても良いから、ちゃんと帰ってくるんだぞ?」
「山は崩れても掘れば良いんだ。うん。問題ない!」
「……崩すのは決定か……?」
全く信用がないのは確かなようだ。フィルズなら山ごと吹っ飛ばすと確信している所もありそうだ。
「ハナちゃ~ん! 山が崩れちゃったら、とりあえず皆んなを結界で守ってくれればいいからな?」
《キュン!》
任せろと澄まし顔をしたハナ。これに、騎士達はデレデレだった。
「「「「「カワイイ~っ!」」」」」
「……えっと……じゃあ、外は頼むからな? ビズ、こいつら見ててくれよ?」
《フシュ……》
大丈夫だろうかと少し不安に思いながら、フィルズはビズに騎士達のお守りを頼み、ジュエルとエン達を連れて鉱山へと入った。
◆ ◆ ◆
数歩入った所で、灰色の隠密ウサギが一体姿を現す。隠密五番隊の隊長フラットだ。
《お待ちしておりました》
「おう。状況は?」
《現在、この奥に八体のゴーレムを確認しております。それと、昨晩遅くに人の出入りを確認しました》
「どこだ?」
《それが……この山の反対側です》
「……ドラスリール側か?」
《はい。森と渓谷がありますが、その先はドラスリールです》
「人が行き来出来るような場所じゃなかっただろ……」
長い歴史の中で見ても、この鉱山と隣国のドラスリールを守るようにある山の間にある森と渓谷は、人が入り込めない未知の領域だった。
この鉱山があることで、その森に棲む魔獣や魔物から守られており、ドラスリールも同じだ。そして、その森を越えてどちらの国に侵入しようとも思えない天然の守りの地形だった。よって、この鉱山での注意点は、向こう側に貫通させないこと。これだけは守るべきことだった。
《ですが、あれは間違いなく人でした。映像を確認ください》
「ああ」
フィルズは、マジックバッグから黒いハガキサイズくらいの板を取り出す。厚さは一センチほどだ。これは、簡易の映像転送装置。傍に居る隠密ウサギの記録した映像を読み取り、テレビのように見ることができる。
隙間から入り込んで向こう側を撮ったのだろう。松明を掲げながら、数人が掘り出したものを袋に詰めているのが確認できた。
「……もしかして、この壁のこっち側にゴーレムが居るか?」
《はい。少々、高さが違いますが、壁一つ隔てた向こう側ですので》
「なるほど……外に出て来たゴーレムがここに戻るのは、向こう側のこの人間に反応してんだな」
《恐らくは》
ゴーレムは人に反応して向かってくる。こちらの人の出入りは止めていた。だから、こちら側に一度出て来たゴーレムは、反対側から感じた人の気配に反応して、奥に戻って行ったというわけだ。
《現在、抜け道を探させています。ゴーレムがもう少し小さいと上手く追ってくれるのですが……》
「大きいもんな……」
《はい……》
人に反応するゴーレム。その反応を利用して、抜け道を探せるかもしれない。
「う~ん……やっぱ、二体くらい欲しいな……」
そんなフィルズの呟きを拾ったフラットが呆れたような声音で告げた。
《……捕獲部隊を編成します……》
「頼んだ! 二体だぞ! 二体!」
《……分かりました……丁度、二体だけ別で孤立しているので、奥の八体は処分してしまっても問題ありません》
「よし! みんな、行くぞ~」
《ワフッ!》
《クンっ!》
《キュン!》
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やる気満々の様子のエン達を連れて、フィルズは奥へと向かった。
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