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ミッション9 学園と文具用品
311 最終手段にしてください
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フィルズは大きくため息をつく。
「マグナの話だと、男爵も結構危ない所に手を出していそうだしな~」
「調べるんですか……?」
「そりゃあな」
「……」
マグナの両親は、国によって裁かれている。領地管理に問題ありと、教会からの警告が入ったため調査が入り、領民達への暴力や非道な搾取があったことが確かとなった。これにより、領主であった男爵とその夫人は身分を剥奪された上で、国の牢に収監され、賠償などの刑罰の決定を待っている状態だ。成人前のマグナの弟は教会の厳しい指導を受けている。
これ以上の罪が明らかになれば、元男爵夫妻は一生牢から出ることはできなくなるだろう。今はまだ、それほど酷い環境の牢ではないが、この国では死刑がない分、重罪人には手をかけなくなる。食事も酷いものになり、はっきり言ってしまえば見殺しという状態に置かれるようになるのだ。
誰もに見放され、希望が全て消えた後、知る者は少ないが、神からの制裁で魂が消滅する瞬間まで孤独と絶望感を抱き、自身の体が死んでいく様を感じながら消えていくことになる。
その悲惨な最期を迎えるという事実を、リュブランから聞いてコランも知っているのだろう。知り合いの、それも友人の親がそうなる可能性があると思えば、これ以上罪を暴くのを止めたくもなる。
それをコランの表情から察したフィルズは、チラリとコランの顔を見ただけで視線を報告書に戻して口を開く。
「どのみち、神には罪を誤魔化せねえよ」
「っ……あ……」
「寧ろ、まだ人の世界で裁ける内に罪を明らかにしてやれば、償う機会もできる。神は、きちんと罪を償えば許してくれる」
「……はい……そうですね」
フィルズの傍に居れば、幾度となく実際に会う事ができる神々。厳しいだけではないことも、コランは知っている。
「あ~、けど、面倒だ。物凄く面倒だ~」
「……会長……」
両手を上げ、椅子の背もたれに体重をかけて伸びをしながら、本当に面倒だという表情をするフィルズを見たコランは、苦笑を溢す。
フィルズも厳しいことを言ったり、やったりするが、優しいのだと分かっている。面倒だと言いながらも、最後には被害者も加害者も落ち着くところに落ち着かせてしまうのがフィルズだ。大変なこと、難しいことでも解決するように奔走する。それがフィルズなのだと知っている。
少し無茶もするんだろうなと思いながら、コランは自分も出来ることがあればやらなくてはと決意する。
「先ずは新たな鉱山、坑道を作る必要があるということでよろしいでしょうか」
「ああ。面倒だが、そっちからだな。ゴーレムがどこから出て来ているのかを調査する必要がある」
「冒険者ギルドに改めて依頼を出すよう、公爵様に打診いたしますか?」
「そうだな……」
迷っている理由は、ゴーレムの相手を出来る力量のある上級冒険者が何人も必要となるほどの、危険な依頼になるということ。そして、何よりも鉱山という限定された空間での戦闘自体に危険が伴うことが問題だ。
今回は特に、既にいくつもの坑道がある鉱山だ。脆くなっている場所もある。冒険者ギルドが中々調査に本腰を入れないのもその辺りに理由がある。ギルドは、所属する冒険者を無為に危険な場所に送り込むことはしない。可能な限り安全対策を取り、無謀な依頼などはさせないのだ。
「いや……冒険者は騎士とは違うからな……ゴーレムだけじゃなく、今回は廃坑認定も受けている。場所も危険が伴うところだ。ギルドも渋るだろう……」
「では、騎士達に?」
「それも止めたい。騎士達に狭い坑道でゴーレムの相手は難しいだろうからな」
「何故です? ヴィランズ様の率いる騎士団は、恐らく王国騎士団にも劣らない実力者揃いですよ?」
「騎士は、個での戦いに向かない。それも相手は人ではなくゴーレムだ。対人戦なら分があるが、魔獣を相手にする冒険者とは戦い方が違うのは分かるだろう」
「あ……」
コランもリュブラン達と共に冒険者として活動する時がある。感覚が鈍らないように、体を鍛えることも疎かにしてはいなかった。だから分かる。特に、コランはリュブランの率いていた騎士団のメンバーでもあったのだ。騎士としてのことも分かっていた。
「強い、弱いとかじゃなく、向かないんだ。それに、騎士は上からの命令なら、死ぬと分かっていても行くしかなくなる」
「っ……そうですね……それが騎士です」
「騎士は出したくない。出したとしても、周りの封鎖や警戒までだ」
「では……会長が行かれるおつもりですか」
答えが分かっていても、それを口にしたくはなかったのだろう。コランが顔を顰めていた。それにフィルズは苦笑を返す。
「ああ。けど、心配するな。隠密部隊に先ずは中を探らせる。あいつらなら、ゴーレムもやり過ごせるはずだ」
「そうなのですか?」
「ゴーレムは魔獣には反応しないらしい。敵として認識するのは人だけだ。何か……判断するものがあるんだろうな……気になる……」
ゴーレムの構造に興味を持ったのは、フィルズのその様子から明らかだった。コランは無駄かもしれないと思いながらも忠告を口にする。
「……調べても良いですが、全て終わってからにしてくださいね」
「そうだな! 二、三体、捕獲して研究しよう! そうしよう!」
「……鉱山の調査が終わってから研究は始めてください」
「分かった、分かった」
「……」
気になったらすぐに夢中になるのがフィルズだ。ここで釘を刺しておかないと、戦闘中にも始めそうだ。コランはかなりフィルズのことを理解している。
「隠密部隊の調査はすぐに始められますか?」
「ああ。この後すぐにな。それが終わったら、俺と……そうだな、エン達と行ってくる。あいつら、力の調整も大分できるようになったみたいだからな」
「坑道を崩して埋まらないでくださいよ?」
「その場合は山ごと吹っ飛ばして出てくることにするよ」
「……それは、最終手段にしてください」
「はいはい」
「……」
心配ではあるが、適当な返事をされてコランはため息を吐く。フィルズにとっては、これは冗談ではなく本気だろう。やると言ったらやる。
「無理はなさいませんように」
「分かってるって」
「王宮の方の調査はどうされますか?」
「怪しいもんなあ……そうだな。親父にそれとなく話を流しておいてくれ」
「そちらも隠密部隊を動かしますか?」
「いや。丁度良いから、王妃の調査の隠れ蓑になってもらおう。まあ……こっちも繋がってる可能性もあるけどな」
「……承知しました」
「よろしく」
「はい」
こうして、調査が開始された。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「マグナの話だと、男爵も結構危ない所に手を出していそうだしな~」
「調べるんですか……?」
「そりゃあな」
「……」
マグナの両親は、国によって裁かれている。領地管理に問題ありと、教会からの警告が入ったため調査が入り、領民達への暴力や非道な搾取があったことが確かとなった。これにより、領主であった男爵とその夫人は身分を剥奪された上で、国の牢に収監され、賠償などの刑罰の決定を待っている状態だ。成人前のマグナの弟は教会の厳しい指導を受けている。
これ以上の罪が明らかになれば、元男爵夫妻は一生牢から出ることはできなくなるだろう。今はまだ、それほど酷い環境の牢ではないが、この国では死刑がない分、重罪人には手をかけなくなる。食事も酷いものになり、はっきり言ってしまえば見殺しという状態に置かれるようになるのだ。
誰もに見放され、希望が全て消えた後、知る者は少ないが、神からの制裁で魂が消滅する瞬間まで孤独と絶望感を抱き、自身の体が死んでいく様を感じながら消えていくことになる。
その悲惨な最期を迎えるという事実を、リュブランから聞いてコランも知っているのだろう。知り合いの、それも友人の親がそうなる可能性があると思えば、これ以上罪を暴くのを止めたくもなる。
それをコランの表情から察したフィルズは、チラリとコランの顔を見ただけで視線を報告書に戻して口を開く。
「どのみち、神には罪を誤魔化せねえよ」
「っ……あ……」
「寧ろ、まだ人の世界で裁ける内に罪を明らかにしてやれば、償う機会もできる。神は、きちんと罪を償えば許してくれる」
「……はい……そうですね」
フィルズの傍に居れば、幾度となく実際に会う事ができる神々。厳しいだけではないことも、コランは知っている。
「あ~、けど、面倒だ。物凄く面倒だ~」
「……会長……」
両手を上げ、椅子の背もたれに体重をかけて伸びをしながら、本当に面倒だという表情をするフィルズを見たコランは、苦笑を溢す。
フィルズも厳しいことを言ったり、やったりするが、優しいのだと分かっている。面倒だと言いながらも、最後には被害者も加害者も落ち着くところに落ち着かせてしまうのがフィルズだ。大変なこと、難しいことでも解決するように奔走する。それがフィルズなのだと知っている。
少し無茶もするんだろうなと思いながら、コランは自分も出来ることがあればやらなくてはと決意する。
「先ずは新たな鉱山、坑道を作る必要があるということでよろしいでしょうか」
「ああ。面倒だが、そっちからだな。ゴーレムがどこから出て来ているのかを調査する必要がある」
「冒険者ギルドに改めて依頼を出すよう、公爵様に打診いたしますか?」
「そうだな……」
迷っている理由は、ゴーレムの相手を出来る力量のある上級冒険者が何人も必要となるほどの、危険な依頼になるということ。そして、何よりも鉱山という限定された空間での戦闘自体に危険が伴うことが問題だ。
今回は特に、既にいくつもの坑道がある鉱山だ。脆くなっている場所もある。冒険者ギルドが中々調査に本腰を入れないのもその辺りに理由がある。ギルドは、所属する冒険者を無為に危険な場所に送り込むことはしない。可能な限り安全対策を取り、無謀な依頼などはさせないのだ。
「いや……冒険者は騎士とは違うからな……ゴーレムだけじゃなく、今回は廃坑認定も受けている。場所も危険が伴うところだ。ギルドも渋るだろう……」
「では、騎士達に?」
「それも止めたい。騎士達に狭い坑道でゴーレムの相手は難しいだろうからな」
「何故です? ヴィランズ様の率いる騎士団は、恐らく王国騎士団にも劣らない実力者揃いですよ?」
「騎士は、個での戦いに向かない。それも相手は人ではなくゴーレムだ。対人戦なら分があるが、魔獣を相手にする冒険者とは戦い方が違うのは分かるだろう」
「あ……」
コランもリュブラン達と共に冒険者として活動する時がある。感覚が鈍らないように、体を鍛えることも疎かにしてはいなかった。だから分かる。特に、コランはリュブランの率いていた騎士団のメンバーでもあったのだ。騎士としてのことも分かっていた。
「強い、弱いとかじゃなく、向かないんだ。それに、騎士は上からの命令なら、死ぬと分かっていても行くしかなくなる」
「っ……そうですね……それが騎士です」
「騎士は出したくない。出したとしても、周りの封鎖や警戒までだ」
「では……会長が行かれるおつもりですか」
答えが分かっていても、それを口にしたくはなかったのだろう。コランが顔を顰めていた。それにフィルズは苦笑を返す。
「ああ。けど、心配するな。隠密部隊に先ずは中を探らせる。あいつらなら、ゴーレムもやり過ごせるはずだ」
「そうなのですか?」
「ゴーレムは魔獣には反応しないらしい。敵として認識するのは人だけだ。何か……判断するものがあるんだろうな……気になる……」
ゴーレムの構造に興味を持ったのは、フィルズのその様子から明らかだった。コランは無駄かもしれないと思いながらも忠告を口にする。
「……調べても良いですが、全て終わってからにしてくださいね」
「そうだな! 二、三体、捕獲して研究しよう! そうしよう!」
「……鉱山の調査が終わってから研究は始めてください」
「分かった、分かった」
「……」
気になったらすぐに夢中になるのがフィルズだ。ここで釘を刺しておかないと、戦闘中にも始めそうだ。コランはかなりフィルズのことを理解している。
「隠密部隊の調査はすぐに始められますか?」
「ああ。この後すぐにな。それが終わったら、俺と……そうだな、エン達と行ってくる。あいつら、力の調整も大分できるようになったみたいだからな」
「坑道を崩して埋まらないでくださいよ?」
「その場合は山ごと吹っ飛ばして出てくることにするよ」
「……それは、最終手段にしてください」
「はいはい」
「……」
心配ではあるが、適当な返事をされてコランはため息を吐く。フィルズにとっては、これは冗談ではなく本気だろう。やると言ったらやる。
「無理はなさいませんように」
「分かってるって」
「王宮の方の調査はどうされますか?」
「怪しいもんなあ……そうだな。親父にそれとなく話を流しておいてくれ」
「そちらも隠密部隊を動かしますか?」
「いや。丁度良いから、王妃の調査の隠れ蓑になってもらおう。まあ……こっちも繋がってる可能性もあるけどな」
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