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ミッション9 学園と文具用品
310 矛盾していますよね?
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フィルズはこの日、セイスフィア商会の本店のあるエントラール公爵領都に戻って来ていた。クラルスやリュブラン達にも戻るかと尋ねたが、まだしばらく王都にいると断られた。
クラルスはリーリルやファリマスと親子で、商業ギルドの問題に楽しそうに向き合っており、リュブランとマグナは、店の従業員達がもう少し慣れるのを見守ってくれるようだ。
フィルズは単身でビズに乗って帰って来たので、朝方出ても日が暮れる前には到着していた。ビズは固有の能力で翼を生やし、空を駆けることができるためだ。魔導車でも王都まで行くのに二日ほどかかることを考えれば、かなりの速さと言えるだろう。
屋敷に入るや否や、留守を任せているコランが静かに駆け寄って来た。
「会長、お帰りなさいませ」
「おう。変わりはないか?」
コランは、リュブランと共にフィルズが預かることになった元貴族の子息だ。家や家族に未練はなく、今ではこのセイスフィア商会の従業員達こそが家族だとして、与えられた仕事に向き合いながらも楽しく日々を過ごしている。
家では、言われた通り、言われた事を身に付けるだけだったコランや他の元子息達は、ここでやってみたいと気軽に思ったことをやってみて、身に付ける事が出来ることに楽しさや喜びを感じていた。そうしてやり甲斐も見出したことで、新たな趣味や才能を知り、二度と家には戻らないと決意を固くしたようだ。
その中でも、コランはいち早く自身のやりたい事を見つけた。リュブランの側近としてあった彼だが、リュブランの行動を制限する事にもなると理解した。そこで、現在ではこの本店の会計管理、契約などを任せており、クマのホワイトやゴルドと同様、商会長であるフィルズの秘書的な立場に収まっている。
「店の方は特に問題ありません。クレームを付けてくる貴族が居たようですが、いつも通り問題なく対処済みです」
言い掛かりを付けてくる貴族や、マナーの悪い商人には、衆人環視の前でいかに自分達がやっている事が恥ずかしく迷惑なことかを知らしめてやることになっている。これにより、彼らは陳腐な捨て台詞を吐きながらも退散していくのだ。こちらが間違っていないなら、押し負けてはならないと職員達を教育していた。
「変わった事といえば、しつこく店員への勧誘や会長に会わせろと騒いでいた商人達が、姿を見せなくなったことですね」
「あ~、アレだ。王都の騒動がここまで届いたんだろう」
「加護の件ですか?」
「ああ。それと、闇ギルドに繋がりがあったのかもな。商業ギルドに本部から通達が出て、秘密裏に関係があった奴らを指名手配しているらしい」
「それは……」
商人達は、必ず商業ギルドに寄る。手配などされているとは思わず出向いた所で捕えられるという寸法だ。商業ギルドの中で行われるため、外に漏れる事もなく、静かに対処されていた。
「王都じゃ、それが知れ渡って問題になっているからな。慎重にもなるさ」
「なるほど……商人……商業ギルドは信用が命ですからね……」
「そういうこと」
コランは、もうしっかりと商人の考え方も受け入れていた。
執務室まで来ると、ついて来たコランが持っていた書類を手渡す。
「こちらは、ご依頼されていた、過去にホルトーロ鉱山から出た鉱石の一覧と現在のこの国で取引がある裏市場も含めた鉱石の量と種類の調査結果です」
ホルトーロ鉱山とは、元男爵領、現在エントラール公爵領となった領地にある鉱山のことだ。
「ん……やっぱ、死んでねえよな……」
「はい。この国に鉱山は全部で八つ。その中で、クロス鉱石と呼ばれる特殊な鉱石が出るのが、唯一、ホルトーロ鉱山だけでした。隣国で出たという話も聞きません。ですが、取引は継続されています。それも一定量」
「どこか抜け道があるか……ゴーレムの目撃情報だけで、それも複数ってのが気になったんだよな……討伐されたって話がないとおかしい」
ゴーレムの活動範囲は制限されるが、それでも、一度出て来たゴーレムは、その範囲のギリギリまでやって来て居座るものだ。人に反応して出てくるため、目撃されたなら、その場所に討伐されるまで居座っている。しかし、目撃情報はいくつも出て、場所も様々にあったが、その場所に居座って居るはずのゴーレムが確認できないことが多々あったようなのだ。
「調べたところ、ホルトーロ鉱山の鉱夫が、十年前に半数以上が解雇されていました。国の廃山認定書も確認しました」
「……けど、それを親父もファシーも知らなかった……」
ホルトーロ鉱山が、廃坑であると最近までリゼンフィアもファスター王も知らなかった。領地を安定させることに必死になっており、鉱山はやがては使えなくなるものという考えの元、他の特産などで立て直しを図ろうとしていたのだ。鉱夫が少ない事は気付いていた。だからこそ、余計にそちらから目を逸らしていたのだが、実は既に廃坑となっているとこの頃知った。
「ええ……マグナにもそれとなく聞きましたが、暮らしぶりにはかなり余裕がありました。確かに、細々とですが、まだ鉱山から出たものの取引はされていましたから、不思議ではないのかもしれませんが……」
コランもこの資料を見て、少し違和感は持っているようだ。納得できていない顔をしていた。
フィルズは、椅子に座り、背もたれに身を預ける。少し宙を見ながら考えを口にした。ここで気になっているのは、廃坑ではないかもしれないということ。
「ゴーレムの目撃情報は間違いないらしい。鉱山が生きている証拠だ。それも、かなりの埋蔵量があるってことになる……」
「鉱石が内包する魔力が共鳴し合うことで魔石が生まれ、そこから発生するのでしたか……大地からの……神からの贈り物だとの話も聞いたことがありますが」
「ああ。鉱山の場所を教えてくれるものだ」
ゴーレムが出るのは、悪いことではない。そこに、鉱石が眠っているということを教えてくれているものだ。実際、ゴーレムには、眷属神からの加護が与えられており、そのお陰で自律して動けるようになるらしい。
「気になるのは、なんで廃坑だと国に届け出たのかということ。それと……」
「その届出が、国に把握されていなかったことですね……」
「ああ」
「矛盾していますよね?」
「だよなあ。廃坑だと届け出を出しながらも、取引を続けた男爵家……それと、国に廃坑だと知られたくなかった中枢の人間がいる?」
物凄く面倒だとフィルズは顔を顰めた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
クラルスはリーリルやファリマスと親子で、商業ギルドの問題に楽しそうに向き合っており、リュブランとマグナは、店の従業員達がもう少し慣れるのを見守ってくれるようだ。
フィルズは単身でビズに乗って帰って来たので、朝方出ても日が暮れる前には到着していた。ビズは固有の能力で翼を生やし、空を駆けることができるためだ。魔導車でも王都まで行くのに二日ほどかかることを考えれば、かなりの速さと言えるだろう。
屋敷に入るや否や、留守を任せているコランが静かに駆け寄って来た。
「会長、お帰りなさいませ」
「おう。変わりはないか?」
コランは、リュブランと共にフィルズが預かることになった元貴族の子息だ。家や家族に未練はなく、今ではこのセイスフィア商会の従業員達こそが家族だとして、与えられた仕事に向き合いながらも楽しく日々を過ごしている。
家では、言われた通り、言われた事を身に付けるだけだったコランや他の元子息達は、ここでやってみたいと気軽に思ったことをやってみて、身に付ける事が出来ることに楽しさや喜びを感じていた。そうしてやり甲斐も見出したことで、新たな趣味や才能を知り、二度と家には戻らないと決意を固くしたようだ。
その中でも、コランはいち早く自身のやりたい事を見つけた。リュブランの側近としてあった彼だが、リュブランの行動を制限する事にもなると理解した。そこで、現在ではこの本店の会計管理、契約などを任せており、クマのホワイトやゴルドと同様、商会長であるフィルズの秘書的な立場に収まっている。
「店の方は特に問題ありません。クレームを付けてくる貴族が居たようですが、いつも通り問題なく対処済みです」
言い掛かりを付けてくる貴族や、マナーの悪い商人には、衆人環視の前でいかに自分達がやっている事が恥ずかしく迷惑なことかを知らしめてやることになっている。これにより、彼らは陳腐な捨て台詞を吐きながらも退散していくのだ。こちらが間違っていないなら、押し負けてはならないと職員達を教育していた。
「変わった事といえば、しつこく店員への勧誘や会長に会わせろと騒いでいた商人達が、姿を見せなくなったことですね」
「あ~、アレだ。王都の騒動がここまで届いたんだろう」
「加護の件ですか?」
「ああ。それと、闇ギルドに繋がりがあったのかもな。商業ギルドに本部から通達が出て、秘密裏に関係があった奴らを指名手配しているらしい」
「それは……」
商人達は、必ず商業ギルドに寄る。手配などされているとは思わず出向いた所で捕えられるという寸法だ。商業ギルドの中で行われるため、外に漏れる事もなく、静かに対処されていた。
「王都じゃ、それが知れ渡って問題になっているからな。慎重にもなるさ」
「なるほど……商人……商業ギルドは信用が命ですからね……」
「そういうこと」
コランは、もうしっかりと商人の考え方も受け入れていた。
執務室まで来ると、ついて来たコランが持っていた書類を手渡す。
「こちらは、ご依頼されていた、過去にホルトーロ鉱山から出た鉱石の一覧と現在のこの国で取引がある裏市場も含めた鉱石の量と種類の調査結果です」
ホルトーロ鉱山とは、元男爵領、現在エントラール公爵領となった領地にある鉱山のことだ。
「ん……やっぱ、死んでねえよな……」
「はい。この国に鉱山は全部で八つ。その中で、クロス鉱石と呼ばれる特殊な鉱石が出るのが、唯一、ホルトーロ鉱山だけでした。隣国で出たという話も聞きません。ですが、取引は継続されています。それも一定量」
「どこか抜け道があるか……ゴーレムの目撃情報だけで、それも複数ってのが気になったんだよな……討伐されたって話がないとおかしい」
ゴーレムの活動範囲は制限されるが、それでも、一度出て来たゴーレムは、その範囲のギリギリまでやって来て居座るものだ。人に反応して出てくるため、目撃されたなら、その場所に討伐されるまで居座っている。しかし、目撃情報はいくつも出て、場所も様々にあったが、その場所に居座って居るはずのゴーレムが確認できないことが多々あったようなのだ。
「調べたところ、ホルトーロ鉱山の鉱夫が、十年前に半数以上が解雇されていました。国の廃山認定書も確認しました」
「……けど、それを親父もファシーも知らなかった……」
ホルトーロ鉱山が、廃坑であると最近までリゼンフィアもファスター王も知らなかった。領地を安定させることに必死になっており、鉱山はやがては使えなくなるものという考えの元、他の特産などで立て直しを図ろうとしていたのだ。鉱夫が少ない事は気付いていた。だからこそ、余計にそちらから目を逸らしていたのだが、実は既に廃坑となっているとこの頃知った。
「ええ……マグナにもそれとなく聞きましたが、暮らしぶりにはかなり余裕がありました。確かに、細々とですが、まだ鉱山から出たものの取引はされていましたから、不思議ではないのかもしれませんが……」
コランもこの資料を見て、少し違和感は持っているようだ。納得できていない顔をしていた。
フィルズは、椅子に座り、背もたれに身を預ける。少し宙を見ながら考えを口にした。ここで気になっているのは、廃坑ではないかもしれないということ。
「ゴーレムの目撃情報は間違いないらしい。鉱山が生きている証拠だ。それも、かなりの埋蔵量があるってことになる……」
「鉱石が内包する魔力が共鳴し合うことで魔石が生まれ、そこから発生するのでしたか……大地からの……神からの贈り物だとの話も聞いたことがありますが」
「ああ。鉱山の場所を教えてくれるものだ」
ゴーレムが出るのは、悪いことではない。そこに、鉱石が眠っているということを教えてくれているものだ。実際、ゴーレムには、眷属神からの加護が与えられており、そのお陰で自律して動けるようになるらしい。
「気になるのは、なんで廃坑だと国に届け出たのかということ。それと……」
「その届出が、国に把握されていなかったことですね……」
「ああ」
「矛盾していますよね?」
「だよなあ。廃坑だと届け出を出しながらも、取引を続けた男爵家……それと、国に廃坑だと知られたくなかった中枢の人間がいる?」
物凄く面倒だとフィルズは顔を顰めた。
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