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1巻
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しおりを挟むミッション① 祝福とマジックバッグ
ゆっくりと夢から覚める感覚に、彼はふうと息を吐きながら目を開く。見ていた夢は悪夢ではなかったんだと、落ち着いた心臓の鼓動で判断する。
「……目覚ましの音……ないのが変だ……」
この世界では上質な方のベッドから身を起こし、部屋を見回す。
テレビなどの家電もなく、本棚にある数冊の本は、一冊ずつが辞書のように分厚い革張り。そして、眠っていたベッドには天蓋がある。天蓋付きのベッドなど、テレビか雑誌の中でしか知らない。何より、この部屋は小さなアパートの一室以上に広かった。トイレや風呂、キッチンも別。その広い部屋を一人部屋として使っている。
しばらく、先程までの夢が現実なのか、今が現実で間違いないのかを考え、最終的に頬をつねって確認する。
「っ……今日も痛い……」
頬をつねって、夢か現実かを確認するなんてこと、考えて実行できる以上、現実である証拠だろうと、彼も今はもう分かっている。だが、間違いではないと頷くまでが、ここ数年の朝のルーティンだ。
夢で見るのは、恐らく前世の記憶。地球の日本人男子であった頃のもの。けれど、前世ということは、その時の人生は終わったはず。それなのに、その終わりを覚えていない。
「死んだ……からここにいる……はず」
夢でも記憶でも、自分の目線で見ている。そして、なぜか夢で見るのは小、中学生の頃のもの。自分の今の年齢がその年頃だからというのもあるかもしれない。どうしても大人になった後のことは夢で見ないのだ。
「なんでだ……」
彼はそう呟きながらも、陽の光の入り具合で時間を察し、ベッドから降りる。そして、部屋の隅にある小さな棚の上に置かれていた一リットルほどの水が入れられるホーローの水差しを手に取る。
取っ手の上の方にスイッチのような丸い赤色の石がはめ込まれている。魔石という、電池代わりのそれは、魔獣と呼ばれる魔法を使える生物から取れるものと、鉱山などから出てくるものがある。
この水差しは魔導具だ。魔力を込めると、空だった水差しの底から水が湧き出てくる。いっぱいになる頃にそこから手を離して止め、洗面用の器に注ぎ入れる。この世界には、このような不思議な、家電に似た魔導具が普及している。
長い髪を後ろで結い、しばらくして、揺らめきが消えた水面に映った顔を確認する。
髪は前世の夢で見た黒や茶色ではなく、深い藍色。黒に見えなくもない。目は切れ長で実年齢よりも上に見られる。
その顔立ちは、美女と評判である母によく似ていた。髪を伸ばしていることもあり、喋らなければ女に見られることが多い。確かに、自分でも美少女だなと思わないこともない。瞳は魔力の高い貴族に受け継がれるという、父と同じ翡翠色だ。
「……何度見ても妙だ……」
髪も瞳もこんな色合いの人など、奇妙で仕方がない。貴族は大抵、金髪か薄い茶色の髪に、緑か青の瞳だ。彼は髪がまだ暗い色だったことに少しほっとしている。
季節は春から夏へと移り変わる頃。日本のように急激な温度変化はないため、一年中過ごしやすく感じる。用意しておいた服に着替え終わると、タイミング良く部屋のドアがノックされた。
「フィルズ坊っちゃま。お目覚めでいらっしゃいますか」
フィルズというのが、彼の今の名だ。そして、ここは本館から少し離れた離れの屋敷。
「起きてる。おはよう、カナル」
カナルはこの屋敷の執事だ。使用人達のトップ。年齢は五十。王都ではなく地方の領地の屋敷とはいえ、屋敷の主人の爵位を考えたら、屋敷全てを取り仕切る執事としては恐らく若い方だろう。だが、能力は間違いなく高い。そのカナルが、静かに部屋のドアを開けて一歩中に入り、片手を胸に当てて頭を下げる。
フィルズは第二夫人の子だ。第二夫人とは表向きで、実態は平民。それも流浪の民のため、愛妾扱いだった。屋敷の端に住まわせている愛妾とその子ども。それでもこの執事は、きちんとフィルズやその母にも敬意を示してくれる。わざわざこの離れまで来て、メイドよりも先に挨拶をしに来るのだから、フィルズは彼の誠実さにいつも励まされていた。
「おはようございます。本日のご朝食はどちらで取られますか」
「母上の調子が良ければ母上と。良くなければここで良い」
フィルズは今年で十二。もう少し幼い頃までは、本館で兄妹達と食事を取っていた。だが、母と第一夫人との折り合いが悪く、必然的に兄妹とも関係が悪くなったため、今はもうほとんど本館への立ち入りを禁止されている。フィルズとしては、そこは気にしてはいない。
『母上の調子が良ければ』とは言ったが、もう半年は顔を合わせていないので、実質フィルズは一人暮らしに近い感覚だ。先程の言葉も、日々の確認作業のようなものだった。
「承知いたしました。確認して参ります。それと、本日のご予定ですが……申し訳ございません。セルジュ坊っちゃまとエルセリアお嬢様が、本日も授業を受けられますので……」
第一夫人の二人の子ども。セルジュは二つ上の兄。エルセリアは一つ下の妹だ。彼らが授業を受けない日は、雇っている教師をこの離れに呼んで、教えを受けることができることになっていた。本当ならば、今日はそれが受けられる日のはずだったのだ。
だが、どうやら予定を変更というか、第一夫人の嫌がらせが発動しているらしい。これはもう仕方ないと諦めるほかない。家賃もなく、タダでこんな屋敷に住まわせてもらっているのだから、これ以上を望むのはフィルズとて気が引ける。
「分かった。では、今日も町に出かける」
「……承知いたしました。護衛は……」
「必要ない」
毎回答えは変わらないのに、必ず聞いてくる。数年前までは、要らないと言っても護衛はこっそり離れて付いて来ていた。しかし、フィルズがその護衛の存在を何度か見破ってからは、本当に付かなくなったのだ。
フィルズが直接話をし、更には実力を知らしめたことで、諦めてくれた。護衛達も本音では、第二夫人の子とはいえ、流民出の母から生まれた子にまで気を遣いたくはないだろう。関われば、第一夫人からも目を付けられるのだから、避けたくなるのは当然だ。
何より、フィルズは名も生まれも偽って町に出ているのだ。下手な護衛が付いていれば、そこから正体がバレる可能性がある。その方が危険だろうと告げれば、彼らは何も言えなくなった。まだ子どものフィルズにやり込められたというのも悔しいはずだ。
それに、この世界には、スキルや魔力がある。感覚的に人の気配を読める者も多い。長く護衛などをしている者ほど、自分の実力の限界を知って、諦めが良くなるものだ。
「父上のお帰りはまだか」
「申し訳ございません……お手紙のお返事もございません……」
「そうか……気にするな。今日も父上への手紙を頼む」
「承知いたしました……では、失礼いたします」
「ああ」
最後までカナルは申し訳なさそうだった。彼が申し訳なく思っているのは、この屋敷のメイドや使用人達を自分がきちんと制御できていないことを知っているからだ。
カナルの目の届かない所で、使用人達は第一夫人からの命を受けて嫌がらせをしに来る。だからこそ、それ以外の者達まで愚かな行動を起こさないよう、朝は直接彼がやって来るのだ。
「ご苦労なことだ……それに引き換え……」
父の爵位は公爵。宰相位に就いているらしい。お陰で、フィルズ達のいる領地に王都から中々戻ってこない。
ギスギスした第一夫人とフィルズの母との関係を知っていながら、それに関わるのを嫌がって、仕事、仕事と仕事人間になっているようなのだ。これは、屋敷の者達からの情報ではなく、フィルズが町で集めた情報によるものだ。能力の高い密偵からの確度の高い情報だった。
「とんだ腑抜けだ……」
フィルズには、前世での父母の記憶はほとんどない。だが、感覚的な記憶によれば、今とそう変わらない気がするのだ。
家庭より仕事に生きた父。不倫だったかどうかは記憶が定かではないが、父と関係のあった他の女のことばかり気にしていた母。二人とも自分達のことで手一杯。子どものことなど二の次になるのは当然。
そもそも、自分のことで手一杯なら、子どもなど作るなと何度も思った記憶がある。その時は不満を持つことしかできない子どもでしかなかったのだろう。だが、今は違う。客観的に見えたことで、解決策も考えられなくもない。
朝食は、いつも通り母の調子が悪いということで、部屋で取る事になった。そのスープには、微量の薬物が入っているのが分かった。化学物質ではなく、この世界の毒は薬草を使った薬物が主流だ。手軽に手に入れることもできるため、耐性を付けるのも苦労がない。
因みに、母の体調不良はこうしたもののせいではなく、精神的なものが主なので、心配はないだろう。第一夫人は、母を害したいのではない。母のものを奪いたいだけなのだ。愛する夫を奪った腹いせである。フィルズからしたら、とんだとばっちりだ。迷惑極まりない。
フィルズは、硬いパンをそんなスープに浸しながら食べる。嫌がらせのため、毒性は強くはない。なら、耐性を付けることに利用させてもらう。寝込んだところで、特にやることはないのだから、自分のやりたいことをするスタンスだ。
そうとは知らない給仕を行うメイドは、落ち着きなく目を泳がせている。入れたのは彼女だ。ここひと月、ずっとこうして食事の度にビクビクされている。いい加減鬱陶しい。
「君は、スランだったか」
「っ、は、はいっ……」
「もう下げてくれ。あと……せっかくの食事が不味くなる。料理人に申し訳ないから、入れるならお茶にしろ」
「っ‼」
ひっと息を呑む彼女を見ることなく、フィルズは立ち上がると、机の引き出しから二通の手紙を出して戻る。
「ミリアリア様にこの手紙をお渡ししろ。それと、こちらは紹介状だ。好きにしろ」
ミリアリアは第一夫人の名。その手紙は、毎回ではあるが『そちらとは関わりを持つ気はない』と丁寧に、遠回しに嫌がらせをする必要もないと伝える内容になっている。
「っ、しょ、紹介……状っ……」
「お前が今、罪悪感を覚えているのなら、ここから出て他へ行け。今度はくだらんことを命じない主人のいる屋敷に行くことだ」
「っ……フィ、フィルズぼっ……」
「行け」
「っ、は、はいぃぃぃっ」
少し凄めば、彼女は真っ青な顔をしながら、急いでテーブルを片付けて部屋から出ていった。あれだけ動揺しても皿を割らず、ひっくり返すこともしなかった。それだけ能力は高いのだ。それも見越して紹介状は書いた。カナルのサイン付きである。
「はあ……そろそろ潮時だな。母上も……このまま壊れるだけなら、先にぶっ壊すことを考えるか」
一応薬物を薄めるため、多めに水を飲んでから、フィルズは一人、屋敷を脱け出した。
◆ ◆ ◆
町はそれなりに賑わっている。しかし、宰相である父の爵位が公爵だということを考えると、もの足りない気もする。
「おや、フィルじゃないか。二日ぶりかい? 昼はうちにおいでよ。この前、あんたの狩ったピックボルアの肉がいい具合に食べ頃なんだ」
店の前の掃き掃除をしていた食事処の女将が声をかけてくる。フィルズは町に出た時はフィルと名乗っているのだ。ピックボルアとは、大きな猪のような魔獣のこと。
「分かった」
「良かった。そんじゃあ、うちのに伝えとくよ。約束だからね」
「ああ。楽しみだ」
「期待しとくれっ」
手を振る女将に応えながら、フィルズは目的とする建物に迷いなく歩いていく。
フィルズは今、特徴的な髪と瞳を【暗色変換】という魔法の魔導具で、庶民にありがちな黒に変えている。
この魔導具は、本館の書庫から幼い頃に部屋へ持ち込んでいた『いにしえからの魔法と魔導具』という本を見てフィルズが作った。前世から工作や発明に興味があったようで、文字が読めるようになった幼い頃に、その本が煌めいて見えたのだ。これが求めていたものだと心から感じた。
それによると、この世界には魔力はあるが、いわゆる魔法としては使わないらしい。何事も魔導具によって魔力の属性を変換し、指向性を持たせて発動させる。攻撃系の魔法も、補助具としての魔導具ありきなのだという。
魔力が少なければ、魔石を使う。貴族のように潜在的に魔力の高い者は『魔石を使わないから凄いね』ということになるらしい。ただそれだけで威張っていたりするのだと知った時は、嫌な気分になったものだ。
髪と瞳と同じように、服装や衣装を一瞬で変える【衣装変換】という魔法を魔導具にして使っており、今は冒険者用のものに変えていた。
フィルズの母、クラルスは流浪の民。踊り子と語り部をやっていた。クラルスの母が踊り子で、父が吟遊詩人だったらしい。クラルスは両方の良いところを受け継いだようで、まだフィルズが幼い頃は、彼女は歌を歌い、踊りを見せてくれた。舞台役者のように歌い、語り、舞いを踊るのだ。それは一人でお芝居をするようなもの。
それならば衣装転換は早着替えだなと、フィルズはわけの分からない好奇心に突き動かされながら、思い描いていたものを完成させてしまったのだ。
ただ、幼い頃に勢いで作ったものゆえに、少しばかり恥ずかしくもあった。これがいわゆるヒーローの変身にも使えそうだと思ってしまったからだ。子どもっぽいと赤面し、完成してもしばらくはしまいこんでいたため、母も他の誰も知らない。
以前、付いて来ていた護衛達も、どこかで着替えているんだなと思っていたはずだ。髪の色は最初カツラを使っていたし、瞳の色は短時間しか保たないが、黒く変えられる目薬を使っていた。仮に護衛が今付いたとしても、おかしく思われることはないだろう。とはいえ、今ならフィルズは綺麗に彼らを撒くので、どのみち問題はない。
町を歩いていると、知り合いの冒険者の男に声を掛けられた。
「おっ。フィル坊じゃねえか。お前さん、この前のトレント狩りの時の報酬、受け取ってねえだろ。ギルドの奴ら、いつ来るかってソワソワしてるぜ?」
「……忘れてた」
「おいおい……」
フィルズが向かっていたのは冒険者ギルド。冒険者という役職に登録すれば、仕事の斡旋をしてくれる組織だ。登録料は大銀貨三枚。日本円に当てはめると三千円だろうか。日給で大銀貨一枚がやっとな世界では、かなり高い。だが、登録することで発行されるカードは、キャッシュカードのような機能もある立派な魔導具。高くなるのも仕方がない。
その登録料は後で払うことが可能だ。お金がない者達のための組織なのだから、それくらいの措置はあって然るべきである。
まずはお試し期間として、町中での簡単な雑事を格安で受け、それを登録料の支払いに充てるのだ。そして、これには監督が付く。それはその仕事先の人か、現役の冒険者だ。鬱陶しいが、仕方がない。
それに、フィルズはよく出来た仕組みだと思う。報酬が登録料として天引きされているため、安価ではあるが、仕事は仕事。きちんとやってもらわなくてはギルドとしても困るだろう。
フィルズもこれによって登録料を稼いだ。大体、草むしりや皿洗い、掃除、仕分け作業など五つか六つ受ければ、何とか登録料には足りるのだ。これらは、護衛が付いて来なくなってから行った。
それまでは、薬草などの知識を付けるためと、体力を付けるために町中や外門近くの町の外を歩き回っていた。そして、それと並行して、先程の食事処で皿洗いなどの仕事を手伝わせてもらったのだ。
これは、護衛達には町の暮らしを知りたいからと説明していた。店側は、お手伝いのお礼としてお小遣いをくれたり、食べ物をくれたりする。それをコツコツと続けていたのだ。よって、登録料のための仕事も嫌ではなかった。
冒険者になりたいとやって来た者の大半は、最初のこうした雑事を嫌がるらしい。カッコよく魔獣などを狩って、お金を得るというのを夢見ているのだろう。最初からそんな仕事をするのは無理だと理解できない者はいるものだ。
「普通は、報酬の受け取りを忘れたりしねえぞ」
男に言われながら、一緒に冒険者ギルドの中に入る。
「それは、その日の報酬を全部、夜の酒に注ぎ込むからだろ。おっさんもいい歳なんだから、貯金しろよ」
「おまっ、それは冒険者である俺らには禁句だぞっ」
話が聞こえたらしい周りの冒険者達がうんうんと同意を示す。それらを見ながら、フィルズは眉根を寄せる。
「どれだよ。まさか、宵越しの金は持たねえ人生がカッコいいとか思ってんのか? 人生設計できてねえダメな大人だって喧伝してどうするよ」
その日生きていく分の金が稼げれば安心だと思える世界だ。人々は今しか見ていない。それくらい余裕がないのは分かるが、それでは困るのは彼らだ。
「それっ、それ全部! 全部禁句だ! ってか、お前のその冷静なところ怖いわ……顔が良いから余計に刺さるし……」
少年とはいえ美人顔のフィルズに言われると、むさい男の冒険者達には、正論が胸に刺さるらしい。普通は十二の子どもに言われたくはないだろう。だが、フィルズはあえて言っておきたい。彼らは同業者だ。そして、この町の冒険者達は、いわば同じ店で働く先輩や後輩なのだから。
フィルズは立ち止まって告げた。
「心配してやってんだよ。今は良くても、動けなくなったらどうすんだ? 一人で死ぬの、想像してみろよ。戦って死ぬならまあ……諦めも付くだろうが……宿にも泊まれなくなって、道端とかで一人動けなくなるんだぞ? 夜の寒さに震えながら、あの時の酒を飲んだ金が少しでも残っていれば、薬が買えたかもしれないとか考えるんだ」
「「「…………」」」
ギルド内がシンと静まり返った。
「金をぱっと使える奴はモテるとか思うなよ? 女は結婚すると堅実で誠実なのを求めるようになる。金をきちんと持って帰らないと結局は捨てられるんだぞ?」
「「「…………」」」
冒険者達は常にいいかっこしいだ。女にも金払いが良いと思わせたがる。実際、その場ではそれだけのお金を使って見せるのだから、お金がないわけではない。その後すっからかんになるが、払う分はあるのだ。それなら嫁になる価値もあると判断される。
しかし、いざ結婚したら、ぱっと使っていいかっこしていた分を、全部家庭に入れないと不満がられるのだ。そうなると、それまでの彼らの生き方とはズレが出てくる。そして、関係が壊れるのだ。
「まあ、どちらにしても、貯金して金銭管理ができなけりゃ、結局困るのはあんたらだ。金がないとそもそもの人生設計も立てられないしな」
「「「………」」」
口を半開きにして動かなくなった冒険者達を放置し、フィルズは受付に向かった。
「トレント狩りの報酬をもらう。それと、良い依頼があれば出してくれ。今日一日は空いてる」
「はっ、はい‼」
トレントは木に擬態する魔物。普通の木よりも硬く、魔導具にも使えるため良い素材となる。他の魔獣や魔物と違い、内臓など捨てる場所がないのも良い。ただ、縄張り意識が強く、木だと思って近付いた者を容赦なく襲うのでとても危険な魔物だった。
報酬を冒険者の登録カードに入金してもらい、早急に解決して欲しいと言われたゴブリン退治を引き受ける。
今回のトレント狩りの報酬は金貨二枚。二万円だ。これにトレントの素材買取価格がプラスされる。買取価格は金貨五枚。よって、七万円の収入となった。中堅の冒険者で、ぎりぎり一日に金貨一枚の収入と考えれば、かなりの身入りだ。それだけの実力がフィルズにはある。
「行ってくる」
「あっ、はい! お気を付けて行ってらっしゃいませ!」
「ん」
「「「っっっ‼」」」
きちんと送り出す言葉をくれたギルド職員に少し振り返り、フィルズは微笑む。間違いなく見た目美人なフィルズに微笑まれ、それを見た職員と冒険者達は顔を真っ赤にしていた。
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