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16th ステージ
179 可愛らしいよな
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ユーアリアはかつて、偉そうにして周りからちやほやされることで、自分を保ってきた。しかし、そこに本当の気持ちはなく、相手も内心は真逆であることを理解した。
全ては王子という立場でしか見られていなかったのだと、それで満足していたのだと知ったユーアリアは、自分を見てもらいたくて、構ってほしくてわがままに振る舞ってもいた。
それが更に、周りの人たちから距離を取られることになったのだと、今は理解している。だから、一年生の子ども達の気持ちも分かっていた。
「ボクは、まだ好きにしていいって、言われてるのにっ」
「なんで、あんなこと、しなきゃいけないのよっ」
食事も食べ終わり、落ち着いて来たからか、そんなことをブツブツと言い始める一年生達。まだ教室に戻る気はないようだ。
リンディエールが、学園長に呼ばれて食堂を出て行ったからというのもある。
「ふんっ。今頃、学園長に怒られてるんだろうっ」
「それはないと思うけど……」
「「「「「え?」」」」」
ユーアリアは、勝手なことばかり言う一年生に、少しイラついていた。かつての、甘えていた自分を見るようで嫌なのだろう。不快そうに眉根を寄せていた。
「もう入学してから少し経つけど、一度もまともに授業してないって本当?」
近くで食事をしていた一年の担任達へ尋ねた。
「っ、え、あ、そうっ……だね。まさか、教室に入る度に威力が小さいとはいえ、火球とか飛ばしてくるとは思わなくてね……」
「最初は打ち消したりしていたんだが、ムキになってくるものだから、危なくて……」
「他の学年の教師達に相談しようにも、新学期始まってすぐは忙しいものだから……これは落ち着くのを待とうかということになったんだよ」
構うと、更に調子に乗る。そうすると、加減も分からない子ども達は無茶をして、思わぬ事故も起きかねない。ならば対策を考えつつ、しばらく様子を見ようということになったようだ。
「これでも、魔力の威力が半減する特殊な魔導具も教室に設置したり、遅れた分を取り戻すために、授業計画を練り直したりはしていたんだが……」
「さっさとデリエスタさんに連絡を取っていれば良かったな……」
「あと半月もあのままなら、それぞれの保護者に学園長から指導における許しを頼んでもらおうかと思っていたんだ」
免罪符のようなものをお願いするつもりだったらしい。少々、行き過ぎた指導になっても許してもらえるように、保護者に許可を取っておけば、教師達も少しは安心して対応できる。
「ちょっと頭を押さえ付けるくらいはしようかと思っていたからな」
「「「「「え……」」」」」
「そっ、そんなこと許されないわ!」
「教師として恥ずかしくないのか!」
「父上が許すはずがない!」
不敬だぞとまで言い出した子ども達に、担任達はうんざりした様子を見せる。もう取り繕う気もなさそうだ。
「明日には返事が来るさ」
「デリエスタさんが指導するんなら、否応なく『どうぞ』で終わりだよ。君たちの両親も頭が上がらないんだから」
「は?」
どうやらリンディエールがある意味で恐れられていることを知らないらしい。
「あ~、まあ、制服姿だし? 制服着てると、可愛らしいご令嬢だよな」
「だな。大人達を叱り飛ばしていた印象はないか」
「背も少しは伸びているしな。まだまだ小さくて可愛らしいが」
「「可愛らしいよな」」
うんうんと教師三人は頷き、お茶を飲む。教師達が知っているのは、リンディエールが貴族達に檄を飛ばしていた大会の様子。そして、学園の最高学年を連れての迷宮での演習の様子だ。それには、全学年の教師達が付き添うことになっているので、彼らも知っていたというわけだ。
そこに、食事を終えて、食器とトレーを返しに行く二人の事務員が通りかかった。
「あ、午前中にお送りしていた手紙の返事が来ていましたよ~」
「よかったら、後でお届けしますね。職員室じゃなくて、廊下ですよね?」
「はやっ。あ、お願いします。でも、二、三通なら職員室でも……」
「いえ。午前中に送った分が、ほぼ全部戻ってきてました」
「「「全部!?」」」
書き続けるのはさすがに疲れるので、息抜きのためにも、十枚ずつ書けた所で、事務員に配達を頼んだのだ。一つのクラスは三十人ほどなので、午前中に十人分ずつ終われば問題ない。
手紙は、賢者イクルスの魔導具によって、保護者の所に転送されるようになっている。学園とのやり取りのためのものと、王宮とのやり取りのためのものが支給されていた。
一度に手紙を任せるのではなく、少しずつにしたのも、一つずつ、個別に送るためだ。
「アレでしょう? デリエスタ嬢の指示ですもんね。それは早く来ますよ~」
「送った手紙に、そのまま返事を書いて送って来てるのもありましたよ? しっかりとサイン付きで。控えも要らないみたいです」
「「「……そうなんだ……」」」
普通は、手元にそれが残るように別の紙に新たに書き、可否を記すのだが、意見を後から変えることも、なかったことにもする気はないのだろう。『文句を言ったりしません!』ということだ。寧ろ『答えは了解しかないでしょう』ということになる。
「……届かなくていいです。次に持って行く時に受け取ります……」
「もうね。まあね。答えは決まってますよね」
「なんで、教えておいてくれなかったかなぁ~」
「「だよな……」」
「「「「「え?」」」」」
教師達は、残念なものを見るような目で生徒達を一瞥し、もう少ししたら新たな手紙を持って行きますと事務員さん達に告げて見送っていた。残念に思う相手は、生徒達の両親だ。リンディエールのことだけでも、言い聞かせておいて欲しかったと思うのは止められない。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
全ては王子という立場でしか見られていなかったのだと、それで満足していたのだと知ったユーアリアは、自分を見てもらいたくて、構ってほしくてわがままに振る舞ってもいた。
それが更に、周りの人たちから距離を取られることになったのだと、今は理解している。だから、一年生の子ども達の気持ちも分かっていた。
「ボクは、まだ好きにしていいって、言われてるのにっ」
「なんで、あんなこと、しなきゃいけないのよっ」
食事も食べ終わり、落ち着いて来たからか、そんなことをブツブツと言い始める一年生達。まだ教室に戻る気はないようだ。
リンディエールが、学園長に呼ばれて食堂を出て行ったからというのもある。
「ふんっ。今頃、学園長に怒られてるんだろうっ」
「それはないと思うけど……」
「「「「「え?」」」」」
ユーアリアは、勝手なことばかり言う一年生に、少しイラついていた。かつての、甘えていた自分を見るようで嫌なのだろう。不快そうに眉根を寄せていた。
「もう入学してから少し経つけど、一度もまともに授業してないって本当?」
近くで食事をしていた一年の担任達へ尋ねた。
「っ、え、あ、そうっ……だね。まさか、教室に入る度に威力が小さいとはいえ、火球とか飛ばしてくるとは思わなくてね……」
「最初は打ち消したりしていたんだが、ムキになってくるものだから、危なくて……」
「他の学年の教師達に相談しようにも、新学期始まってすぐは忙しいものだから……これは落ち着くのを待とうかということになったんだよ」
構うと、更に調子に乗る。そうすると、加減も分からない子ども達は無茶をして、思わぬ事故も起きかねない。ならば対策を考えつつ、しばらく様子を見ようということになったようだ。
「これでも、魔力の威力が半減する特殊な魔導具も教室に設置したり、遅れた分を取り戻すために、授業計画を練り直したりはしていたんだが……」
「さっさとデリエスタさんに連絡を取っていれば良かったな……」
「あと半月もあのままなら、それぞれの保護者に学園長から指導における許しを頼んでもらおうかと思っていたんだ」
免罪符のようなものをお願いするつもりだったらしい。少々、行き過ぎた指導になっても許してもらえるように、保護者に許可を取っておけば、教師達も少しは安心して対応できる。
「ちょっと頭を押さえ付けるくらいはしようかと思っていたからな」
「「「「「え……」」」」」
「そっ、そんなこと許されないわ!」
「教師として恥ずかしくないのか!」
「父上が許すはずがない!」
不敬だぞとまで言い出した子ども達に、担任達はうんざりした様子を見せる。もう取り繕う気もなさそうだ。
「明日には返事が来るさ」
「デリエスタさんが指導するんなら、否応なく『どうぞ』で終わりだよ。君たちの両親も頭が上がらないんだから」
「は?」
どうやらリンディエールがある意味で恐れられていることを知らないらしい。
「あ~、まあ、制服姿だし? 制服着てると、可愛らしいご令嬢だよな」
「だな。大人達を叱り飛ばしていた印象はないか」
「背も少しは伸びているしな。まだまだ小さくて可愛らしいが」
「「可愛らしいよな」」
うんうんと教師三人は頷き、お茶を飲む。教師達が知っているのは、リンディエールが貴族達に檄を飛ばしていた大会の様子。そして、学園の最高学年を連れての迷宮での演習の様子だ。それには、全学年の教師達が付き添うことになっているので、彼らも知っていたというわけだ。
そこに、食事を終えて、食器とトレーを返しに行く二人の事務員が通りかかった。
「あ、午前中にお送りしていた手紙の返事が来ていましたよ~」
「よかったら、後でお届けしますね。職員室じゃなくて、廊下ですよね?」
「はやっ。あ、お願いします。でも、二、三通なら職員室でも……」
「いえ。午前中に送った分が、ほぼ全部戻ってきてました」
「「「全部!?」」」
書き続けるのはさすがに疲れるので、息抜きのためにも、十枚ずつ書けた所で、事務員に配達を頼んだのだ。一つのクラスは三十人ほどなので、午前中に十人分ずつ終われば問題ない。
手紙は、賢者イクルスの魔導具によって、保護者の所に転送されるようになっている。学園とのやり取りのためのものと、王宮とのやり取りのためのものが支給されていた。
一度に手紙を任せるのではなく、少しずつにしたのも、一つずつ、個別に送るためだ。
「アレでしょう? デリエスタ嬢の指示ですもんね。それは早く来ますよ~」
「送った手紙に、そのまま返事を書いて送って来てるのもありましたよ? しっかりとサイン付きで。控えも要らないみたいです」
「「「……そうなんだ……」」」
普通は、手元にそれが残るように別の紙に新たに書き、可否を記すのだが、意見を後から変えることも、なかったことにもする気はないのだろう。『文句を言ったりしません!』ということだ。寧ろ『答えは了解しかないでしょう』ということになる。
「……届かなくていいです。次に持って行く時に受け取ります……」
「もうね。まあね。答えは決まってますよね」
「なんで、教えておいてくれなかったかなぁ~」
「「だよな……」」
「「「「「え?」」」」」
教師達は、残念なものを見るような目で生徒達を一瞥し、もう少ししたら新たな手紙を持って行きますと事務員さん達に告げて見送っていた。残念に思う相手は、生徒達の両親だ。リンディエールのことだけでも、言い聞かせておいて欲しかったと思うのは止められない。
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