上 下
179 / 181
16th ステージ

179 可愛らしいよな

しおりを挟む
ユーアリアはかつて、偉そうにして周りからちやほやされることで、自分を保ってきた。しかし、そこに本当の気持ちはなく、相手も内心は真逆であることを理解した。

全ては王子という立場でしか見られていなかったのだと、それで満足していたのだと知ったユーアリアは、自分を見てもらいたくて、構ってほしくてわがままに振る舞ってもいた。

それが更に、周りの人たちから距離を取られることになったのだと、今は理解している。だから、一年生の子ども達の気持ちも分かっていた。

「ボクは、まだ好きにしていいって、言われてるのにっ」
「なんで、あんなこと、しなきゃいけないのよっ」

食事も食べ終わり、落ち着いて来たからか、そんなことをブツブツと言い始める一年生達。まだ教室に戻る気はないようだ。

リンディエールが、学園長に呼ばれて食堂を出て行ったからというのもある。

「ふんっ。今頃、学園長に怒られてるんだろうっ」
「それはないと思うけど……」
「「「「「え?」」」」」

ユーアリアは、勝手なことばかり言う一年生に、少しイラついていた。かつての、甘えていた自分を見るようで嫌なのだろう。不快そうに眉根を寄せていた。

「もう入学してから少し経つけど、一度もまともに授業してないって本当?」

近くで食事をしていた一年の担任達へ尋ねた。

「っ、え、あ、そうっ……だね。まさか、教室に入る度に威力が小さいとはいえ、火球とか飛ばしてくるとは思わなくてね……」
「最初は打ち消したりしていたんだが、ムキになってくるものだから、危なくて……」
「他の学年の教師達に相談しようにも、新学期始まってすぐは忙しいものだから……これは落ち着くのを待とうかということになったんだよ」

構うと、更に調子に乗る。そうすると、加減も分からない子ども達は無茶をして、思わぬ事故も起きかねない。ならば対策を考えつつ、しばらく様子を見ようということになったようだ。

「これでも、魔力の威力が半減する特殊な魔導具も教室に設置したり、遅れた分を取り戻すために、授業計画を練り直したりはしていたんだが……」
「さっさとデリエスタさんに連絡を取っていれば良かったな……」
「あと半月もあのままなら、それぞれの保護者に学園長から指導における許しを頼んでもらおうかと思っていたんだ」

免罪符のようなものをお願いするつもりだったらしい。少々、行き過ぎた指導になっても許してもらえるように、保護者に許可を取っておけば、教師達も少しは安心して対応できる。

「ちょっと頭を押さえ付けるくらいはしようかと思っていたからな」
「「「「「え……」」」」」
「そっ、そんなこと許されないわ!」
「教師として恥ずかしくないのか!」
「父上が許すはずがない!」

不敬だぞとまで言い出した子ども達に、担任達はうんざりした様子を見せる。もう取り繕う気もなさそうだ。

「明日には返事が来るさ」
「デリエスタさんが指導するんなら、否応なく『どうぞ』で終わりだよ。君たちの両親も頭が上がらないんだから」
「は?」

どうやらリンディエールがある意味で恐れられていることを知らないらしい。

「あ~、まあ、制服姿だし? 制服着てると、可愛らしいご令嬢だよな」
「だな。大人達を叱り飛ばしていた印象はないか」
「背も少しは伸びているしな。まだまだ小さくて可愛らしいが」
「「可愛らしいよな」」

うんうんと教師三人は頷き、お茶を飲む。教師達が知っているのは、リンディエールが貴族達にげきを飛ばしていた大会の様子。そして、学園の最高学年を連れての迷宮での演習の様子だ。それには、全学年の教師達が付き添うことになっているので、彼らも知っていたというわけだ。

そこに、食事を終えて、食器とトレーを返しに行く二人の事務員が通りかかった。

「あ、午前中にお送りしていた手紙の返事が来ていましたよ~」
「よかったら、後でお届けしますね。職員室じゃなくて、廊下ですよね?」
「はやっ。あ、お願いします。でも、二、三通なら職員室でも……」
「いえ。午前中に送った分が、ほぼ全部戻ってきてました」
「「「全部!?」」」

書き続けるのはさすがに疲れるので、息抜きのためにも、十枚ずつ書けた所で、事務員に配達を頼んだのだ。一つのクラスは三十人ほどなので、午前中に十人分ずつ終われば問題ない。

手紙は、賢者イクルスの魔導具によって、保護者の所に転送されるようになっている。学園とのやり取りのためのものと、王宮とのやり取りのためのものが支給されていた。

一度に手紙を任せるのではなく、少しずつにしたのも、一つずつ、個別に送るためだ。

「アレでしょう? デリエスタ嬢の指示ですもんね。それは早く来ますよ~」
「送った手紙に、そのまま返事を書いて送って来てるのもありましたよ? しっかりとサイン付きで。控えも要らないみたいです」
「「「……そうなんだ……」」」

普通は、手元にそれが残るように別の紙に新たに書き、可否を記すのだが、意見を後から変えることも、なかったことにもする気はないのだろう。『文句を言ったりしません!』ということだ。寧ろ『答えは了解しかないでしょう』ということになる。

「……届かなくていいです。次に持って行く時に受け取ります……」
「もうね。まあね。答えは決まってますよね」
「なんで、教えておいてくれなかったかなぁ~」
「「だよな……」」
「「「「「え?」」」」」

教師達は、残念なものを見るような目で生徒達を一瞥し、もう少ししたら新たな手紙を持って行きますと事務員さん達に告げて見送っていた。残念に思う相手は、生徒達の両親だ。リンディエールのことだけでも、言い聞かせておいて欲しかったと思うのは止められない。







**********
読んでくださりありがとうございます◎

しおりを挟む
感想 561

あなたにおすすめの小説

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?

時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。 どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、 その理由は今夜の夜会にて

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

処理中です...