上 下
139 / 181
13th ステージ

139 先ずは連絡やな

しおりを挟む
少しばかり『ヒーちゃん』と呼ばれる存在に、無意識にでも彼らは何かを感じているのだろう。

王宮にあるべき原書も持っているなど、とんでもない人だというのが感じられるはずだ。

だから、心を落ち着けるためにもと、彼らは冷静になるための準備をする。少しばかり話をずらしながら。

先ず、多くの貴重な原書を持っている人と聞いてどのようなイメージを持つだろうか。

「うむ。リンならば、どんな頑固ジジイでも丸め込んで友人にしてしまいそうだなあ」

と言うのがアーネスト女王。

「確かに、ジジイでもババアでも、リンは気に入られとるしなあ。原書を持つような偏屈そうな者でも上手く付き合うだろうさ」

腕を組み、頷きながら目尻を下げて、まるで孫自慢のように言うのがバーグナー王だ。

二人の言葉を聞いて、その通りだと重く頷いたのがブラムレース王。

「現に、うちの頑固な大臣達や気難しい商会長に密かに孫認定され、魔法師長と研究仲間として認識されているからな……」
「人生経験豊富な人生の大先輩と友達やなんてっ。そんな厚かましいこと考えとらんで? うちなりに敬っとるんや。まあ、人は選んどるけどなあ」

頑固ということは、凝り固まった考えを持っているということ。年配の者は、もちろん周りに最後まで助けられて中身のない、ただ年を取っただけの者もいるかもしれないが、五十年以上も何も考えずに生きてくる人の方が稀だ。

だから、その年月にとりあえずは敬意を示すことにしている。

「その辺の若者と違おて、そうそう話題にも困らへんし。まあ、年代に合わせてお喋りするんは慣れとるけどなっ」
「リンは誰とでもお話できますからねえ……」
「宰相はん……その目、やめえ……」

こんな時でも嫉妬心がチラついていた。クイントはいつでも本気だ。

「誰とでも仲良おするんと、親しくするんとは違うやん? 一応、うちも人を区別しとるで?」
「普段、そんな感じは受けんがなあ」

ブラムレース王が意外そうな顔をしていた。

「いや、あからさまに態度には出えへんで? それやったら、そもそもの話もでけへんやん。相手が嫌そうでも、こっちは知らん顔で笑顔。人付き合いの基本やん」
「「「「それができればなあ……」」」」
「……ダメな大人やなあ……」

リンディエールは大人気ない困った大人達に呆れた顔をした。

アーネスト女王が綺麗な顔を顰める。

「だがなあ。明らかに気に入らんという顔をされては、こちらも相応の態度にならざるを得んだろう」

うんうんとバーグナー王とブラムレース王、クイントが同意だと頷く。

「まあ、分からんでもないで? 会いたい言うから会っても、不満気な顔されたら嫌やもんなあ。こっちが譲歩するんも、なんや損な感じもするし」
「そうなのだ。嫌々了承させられて来ましたという態度の相手など、相手にする必要などないだろう」

リンディエールは、これにはしっかりと二度と頷いた。

「分かるっ。分かるで……けど、尚更早く終わらせるためにも、それには気付いとらへんよと笑顔で相手するのが一番や。子どもやないんやから、腹ん中見せんなやって笑んだったらええ。こっちは大人な態度を見せ付けるんや!」
「だが、王が笑顔というのもなあ」

これが王妃ならば、それだけで充分だろうが、王と言う立場は難しい。

シーシェのアーネスト女王も、今の様子からは想像出来ないが、あまり笑顔で人と話すことはないらしい。リンディエールは本当に特別なのだ。もちろん、身内や本性を知っている親しい者達には笑顔でふざけたこともする。

だが、王としての顔は、どんな時でも厳格にとしているようだ。女だということで、隣国の王達に軽んじられたことがあるのだろう。

バーグナーもブラムレース王も、王としての顔はそれだ。笑顔で歓迎するというのは、本当に歓迎している時に取ってあるらしい。

「まあ、そこは人を選ばんとなあ。けど、逆に笑顔で威圧するんも楽しいで?」
「それはありそうだな……今度やってみよう」
「嫌味な大臣が逆にビビりそうだっ」

そう思うと、面倒な相手と対面するのも少しばかり楽しみになったようだ。

「あ~、そんで何の話やったっけ?」

リンディエールは、話が変わっていることに気付く。脱線しすぎた。

クロウが小さく手を上げて教えてくれた。

「はい。原書を持っておられる『ひーちゃん』と言う知り合いが居られるということと、王宮の書を全部入れ替えるとの話でした!」
「「……」」

ブラムレース王とクイントが目を逸らす。どうも二人としては『ヒーちゃん』の話から本気で離そうとしていたようだ。

だが、隠していても仕方がない。何より、アーネスト女王もバーグナーもリンディエールにとっては良い友人だ。

ならば、ヒーちゃんという友人も紹介したいと思う。

「せやった! ほんなら、ヒーちゃんと会ってみよかっ。あっ、グラン。料理長にここのメンバーの昼食は要らん伝えて来てや。その分、他の侍女さんや騎士の人らに昼ご飯豪華にしたるように言うて!」
「承知しました」

グランギリアは静かに部屋を出ていく。そこですぐに転移するため、距離と時間に問題はない。

「先ずは連絡やな」

そうしてリンディエールはヒストリアへ客を連れて行っても良いかと確認する。すると、どうも他の人もその場に来ているようだった。

「ケンじいちゃんやじいちゃんとばあちゃんも居るらしいでっ。問題あらへんよなあ」

ブラムレース王に確認すると、頷かれる。少しホッとしてもいるようだ。

「そうだな。そのメンバーならば問題ないだろう」
「ほんなら繋げるわ」

そう言って、リンディエールは椅子から飛び降り、部屋の隅の方へ向かう。そして、唐突に転移門が部屋に現れた。

「「「「「っ!!」」」」」

初見の者は当然驚く。

「ここ潜ってや。行くで~」

目を丸くする一同を手招くが、中々動かない。そもそも、これが何か分からなかったようだ。クロウが恐る恐るまた手を上げた。

「あの……それは何ですか……?」
「ん? 見てわからん? 『転移門』や!」
「「「っ、普通わかりません!」」」
「「分かるかっ!」」

怒られた。








**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 561

あなたにおすすめの小説

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?

時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。 どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、 その理由は今夜の夜会にて

私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一
恋愛
「遺言書を読み上げます」  宰相リチャードがラファエル王の遺言書を手に持つと、12人の兄姉がピリついた。  遺言書の内容を聞くと、  ある兄姉は周りに優越を見せつけるように大声で喜んだり、鼻で笑ったり・・・  ある兄姉ははしたなく爪を噛んだり、ハンカチを噛んだり・・・・・・ ―――でも、みなさん・・・・・・いいじゃないですか。お父様から贈り物があって。  私には何もありませんよ?

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...