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12th ステージ
129 狙い目やで
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楽しい催し物が終わり、翌日。
先日の反省会も兼ねて、貴族達は学園の子ども達も含めて王宮に集められた。
きちんとした正装ではあるが、どこか女性達の着飾り方は控えめだ。それを見て、リンディエールは、ほおと感心する。
「なんや。一応は不甲斐ない思ったようやなあ」
「あ、そういうこと? 確かに、嫌味を言いそうな女性陣が固まってないね」
リンディエールと並んで入室した兄のフィリクスも意外そうに周りを見回した。
いつもならば、食事も並び、楽しく歓談する場で、女性達は自分たちの自慢話をし合い、装いに自信がない者たちを貶してクスクス笑う所。
しかし、自信満々で、私が一番と胸を張る女性達は、一様に背を丸め、誰とも目を合わせない作戦に出ていた。
「あのおばはんら、ようやく、自分の程度を理解したか」
「そういえば、香水も今日は控えめだ」
女性達は、自分達の存在を主張するため、これでもかというほどこうした場では香水を振りかけてくる。
自己顕示欲の高い高位の女性ほどそれは強く、彼女たちの鼻は絶対におかしいだろうと思えるほどだ。
フィリクスはお披露目の日から、香水の匂いに辟易していたのだ。
「おっ、確かにそうやなあ。料理も美味しく食べられそうや」
「え? リンは空気弄って、いつでも美味しそうに食べてたよね?」
リンディエールも香水の匂いが混ざるのが嫌で、自身の周りに風の魔法を展開させていた。香水の甘ったるい臭いの中で料理を食べたくなかったのだ。
本来、こうした貴族が集まる場所では、魔法は使えなくなっている。だが、リンディエールは、その制限に引っかからないほどの小さな魔力操作で展開していたのだ。
ケンレスティンが知って、頭を抱えたほどだった。
「なんや。バレとったん?」
「ううん……レングに聞いた」
「なんで不満そうやねん」
「別に……」
「ふ~ん?」
フィリクスとしては、自分で気付けなかったことが悔しいのだ。
リンディエールのことは、自分が一番に何でも気付きたいというのが、フィリクスだった。
「おっ、あの辺の令嬢達は楽しそうやな」
背を丸める者達が居る一方で、逆に学園の女子やこのような席では目立たないようにしていた女性達が、きちんと前を向いて食事を楽しんでいるのが確認できる。
男性達は、そんな女達に目が惹きつけられていた。彼女たちは自信に満ち、輝いていたのだ。
「どうや? 兄い。あの辺の令嬢、狙い目やで」
「興味ない」
「なんでや」
「だって、リン以上に側に居たいって思えそうにないもん」
「……さよか……」
「うん」
この兄は本当に重症だ。
そこに、レングとスレインが声をかけてくる。この会話が聞こえたらしい。
「フィルは相変わらずだねえ」
「スレイン。遅かったんじゃない?」
二人は親友と呼べる間柄。気軽に話す。
「ちょっとね。女主人が居ないというのも色々と面倒事が多いんだよ。あんなクズでも、居る意味あったんだと知ったよ」
「あ~、女の横の繋がりはバカにできんでなあ。侯爵家なんて特に」
特に高位の家の女主人は、その繋がりも広く、深いものもある。
「リン嬢。本気で私達の母上になる気はないかい?」
「っ、ちょっ、兄上!?」
「……スレイン……」
レングは動揺。フィリクスは殺気立った。
「冗談はやめい……」
「いやあ、それくらい面倒だったんだよ」
「はあ……メイドでええなら、メイド長クラスの信頼できるのを紹介すんで」
「本当かい? 助かるよ。古くから居たメイド長が、あのクズのシンパだったものだから、今は経験の浅いメイド長でね。困っていたんだ」
「せやったんか。プリエラの弟子みたいな人やで、信頼できるで。ええよな?」
プリエラに確認すれば、頷かれた。
「はい。王侯貴族の令息やご令嬢の教育係も経験した者を紹介いたしましょう。ただ……見た目の年齢が宰相様に近いのですが、よろしいですか?」
「ん? ああ、父上との仲を誤解されるかもってことだね。心配ないよ。リン嬢を口説いているのは、既に周知の事実。周りも混乱させられて面白そうだ」
「……ほんま、よお似とるわ……」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ」
そんな話をしていると、ようやく王族が出て来た。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
先日の反省会も兼ねて、貴族達は学園の子ども達も含めて王宮に集められた。
きちんとした正装ではあるが、どこか女性達の着飾り方は控えめだ。それを見て、リンディエールは、ほおと感心する。
「なんや。一応は不甲斐ない思ったようやなあ」
「あ、そういうこと? 確かに、嫌味を言いそうな女性陣が固まってないね」
リンディエールと並んで入室した兄のフィリクスも意外そうに周りを見回した。
いつもならば、食事も並び、楽しく歓談する場で、女性達は自分たちの自慢話をし合い、装いに自信がない者たちを貶してクスクス笑う所。
しかし、自信満々で、私が一番と胸を張る女性達は、一様に背を丸め、誰とも目を合わせない作戦に出ていた。
「あのおばはんら、ようやく、自分の程度を理解したか」
「そういえば、香水も今日は控えめだ」
女性達は、自分達の存在を主張するため、これでもかというほどこうした場では香水を振りかけてくる。
自己顕示欲の高い高位の女性ほどそれは強く、彼女たちの鼻は絶対におかしいだろうと思えるほどだ。
フィリクスはお披露目の日から、香水の匂いに辟易していたのだ。
「おっ、確かにそうやなあ。料理も美味しく食べられそうや」
「え? リンは空気弄って、いつでも美味しそうに食べてたよね?」
リンディエールも香水の匂いが混ざるのが嫌で、自身の周りに風の魔法を展開させていた。香水の甘ったるい臭いの中で料理を食べたくなかったのだ。
本来、こうした貴族が集まる場所では、魔法は使えなくなっている。だが、リンディエールは、その制限に引っかからないほどの小さな魔力操作で展開していたのだ。
ケンレスティンが知って、頭を抱えたほどだった。
「なんや。バレとったん?」
「ううん……レングに聞いた」
「なんで不満そうやねん」
「別に……」
「ふ~ん?」
フィリクスとしては、自分で気付けなかったことが悔しいのだ。
リンディエールのことは、自分が一番に何でも気付きたいというのが、フィリクスだった。
「おっ、あの辺の令嬢達は楽しそうやな」
背を丸める者達が居る一方で、逆に学園の女子やこのような席では目立たないようにしていた女性達が、きちんと前を向いて食事を楽しんでいるのが確認できる。
男性達は、そんな女達に目が惹きつけられていた。彼女たちは自信に満ち、輝いていたのだ。
「どうや? 兄い。あの辺の令嬢、狙い目やで」
「興味ない」
「なんでや」
「だって、リン以上に側に居たいって思えそうにないもん」
「……さよか……」
「うん」
この兄は本当に重症だ。
そこに、レングとスレインが声をかけてくる。この会話が聞こえたらしい。
「フィルは相変わらずだねえ」
「スレイン。遅かったんじゃない?」
二人は親友と呼べる間柄。気軽に話す。
「ちょっとね。女主人が居ないというのも色々と面倒事が多いんだよ。あんなクズでも、居る意味あったんだと知ったよ」
「あ~、女の横の繋がりはバカにできんでなあ。侯爵家なんて特に」
特に高位の家の女主人は、その繋がりも広く、深いものもある。
「リン嬢。本気で私達の母上になる気はないかい?」
「っ、ちょっ、兄上!?」
「……スレイン……」
レングは動揺。フィリクスは殺気立った。
「冗談はやめい……」
「いやあ、それくらい面倒だったんだよ」
「はあ……メイドでええなら、メイド長クラスの信頼できるのを紹介すんで」
「本当かい? 助かるよ。古くから居たメイド長が、あのクズのシンパだったものだから、今は経験の浅いメイド長でね。困っていたんだ」
「せやったんか。プリエラの弟子みたいな人やで、信頼できるで。ええよな?」
プリエラに確認すれば、頷かれた。
「はい。王侯貴族の令息やご令嬢の教育係も経験した者を紹介いたしましょう。ただ……見た目の年齢が宰相様に近いのですが、よろしいですか?」
「ん? ああ、父上との仲を誤解されるかもってことだね。心配ないよ。リン嬢を口説いているのは、既に周知の事実。周りも混乱させられて面白そうだ」
「……ほんま、よお似とるわ……」
「お褒めの言葉と受け取っておくよ」
そんな話をしていると、ようやく王族が出て来た。
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