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11th ステージ
112 理解してください
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リンディエールは、学園長と副学長の表情を確認してから口を開いた。
「今回、国王様より私に依頼がありましたのは、学生達への実戦的な戦闘の指導や魔法の講義です」
「は、はい……」
「……」
学園長は、そう聞いていますと言うように、頷いた。とはいえ、黙っている副学長と同じ困惑した表情を見せている。
「私はまだ学園に通う歳ではありませんので、困惑されるのは分かっております。見た目でも生徒達はそう判断するでしょう。それは仕方ありません。年齢を誤魔化すつもりもありませんし、教育の現場で偽れば、それは生徒達との信頼関係を築くのに邪魔になりますものね?」
「ええ……例え成人前の子どもであろうと、誠意を見せるべきだと、私も思っております」
「私もですっ」
学園長と副学長の二人は、果たして本当にこの目の前の少女が生徒達に指導できるのか。その実力があるのかと、疑うような目が向けられる。
これに、リンディエールは穏やかに微笑んで返した。
「ふふっ。私は偽りなくお伝えするつもりです。ですので……生徒達にも徹底していただきたい」
「っ、何を……」
少し目を細めれば、学園長達はぐっと緊張感を強めた。威圧はしていないが、リンディエールの所作から、声音から、確実に主導権を握られている感覚を受けているのだ。それを、リンディエールも理解しながら対応している。
「教えを受けようとする姿勢です。それは、この学園の示す、貴賤による偏見なくという所が重要になってくるでしょう。そうではありませんか? 教師を色眼鏡で見て、態度を変えられては困ります」
「もちろんですっ。我が校の生徒はっ……」
そこで、リンディエールが首を傾げ、微笑んで見せる。すると、学園長は自然と口を閉じた。目で『本当に?』と伝えて見せたのだ。
「ここへ来るまでに、少々この学園にあるべきではない言葉が聴こえてきまして……先に教室を覗かせていただきました」
はっと目線を上げ、副学長はリンディエールの後ろに並ぶ四人の生徒会役員へ鋭い視線を一度投げた。だが、すぐに誤魔化すようにリンディエールへ視線を戻しながら大きな声を上げる。
「っ、か、勝手をされては、生徒達が戸惑い、授業の妨げになりますっ」
これに、リンディエールは口角を上げ、いっそ艶やかに笑んで見せる。
「ご心配には及びません。こうして……」
「「っ!!」」
リンディエールは魔法で姿を消して見せる。陽炎のようにゆらりとその姿が歪み、ふっとそれが消え失せたように見えたはずだ。
そして、姿を再び現して、ニヤリと笑う。
「姿を見せず、声も聞こえないようにしておりました。お疑いなら、今すぐに教師達にでも聞いて来てくださって構いませんよ? 『教室に誰か来なかったか』と」
「「……っ」」
口をポカンと開けたままだが、二人は言葉を発せなくなっていた。構わず続ける。
「これにより、確認しました所……どうかしら……殿下の口からお話しした方がよろしいかしら」
「そうですね。私がお答えしましょう」
後ろに控えていたマルクレースがリンディエールのすぐ後ろに立つ。それはまるで、従者が立つ位置ではあるが、マルクレースはあえてというように、そこで告げた。
「私の見聞きした所、学園生としてあるべき態度で辛うじて臨んでいるのは、各学年のAクラスのみです。他は明らかに貴族家出身ではない者たちを蔑み、授業中であろうと暴言を吐いていました。これは由々しき事態です」
「っ……」
副学長が顔を青ざめさせて震えていた。彼は間違いなく知っていたのだ。
それをリンディエールもマルクレースとスレインも確信した。そして、マルクレースが続ける。
「教師達でさえ、それを止めることなく、仕方のないこととして受け入れてしまっている。このようなことが、許されていいはずはありません」
「そ、そんなっ……そんなことが……っ」
「そうですわねえ。実際に見てもらいましょうか。これを……」
そうして、認め難くて動揺していた学園長を見て、リンディエールは記憶玉を取り出した。それは、校内を見て回る間に密かに記録していたものだ。
因みにこれは、ヒストリアに校内見学を見せてやろうと思って始めたのだ。役に立ってしまった。
壁に映し出すように魔法で操作する。もちろん音声もバッチリだ。長年これを利用していない。
「っ、ほ、本当に……っ」
「っ……ああ……っ」
副学長も観念したらしい。頭を抱えていた。学園長が、現状を副学長は知っていたのだと察するのに時間はかからなかった。
「知っていたのか……っ」
「も、申し訳ありませんっ!」
「っ、こ、こんなことっ!」
このままでは副学長を責め立てる時間になってしまう。それは困る。
「学園長。勘違いしてはいけませんわ。これは……あなたの責任でもありますわよね? まさか、知らなかったからと言い訳されるなんてこと……」
「っ、そ、そんなことはっ……わ、私の責任です!」
「そう、理解してください……逃げることは許されませんわ」
「っ、はい!!」
逃してたまるかよと、リンディエールは内心ほくそ笑む。
弱みは握った。ならば、もうこの学園にリンディエールを止められる者はいない。やり方に文句も言わせない。
頭は押さえた。
後は、生徒達に現実を見せるだけ。
「殿下」
「ええ。問題がはっきりした以上、これより、全生徒達を集めます。リン嬢に、全部掌握してもらいましょう」
はっきり言われたことで、リンディエールは思わず後ろを振り返る。
「思っとったけど、そないにはっきり……」
ちょっとばかり戸惑う。すると、マルクレースは、胸に手を当て、王子の微笑みを放った。
「受け取ってください。私の心からの誠意です。こんなプレゼントで恐縮ですが」
「……うん……えらいもんプレゼントされて、ドキドキやわ……」
「喜んでもらえて嬉しいですっ」
「あ、はい……」
リンディエールは、調子に乗り過ぎたかなと少しだけ反省する。キラキラ王子様の微笑みに負けた。
「……ひーちゃん……うち……学園のドンになります……」
覚悟しようと決めた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また来週です。
よろしくお願いします!
「今回、国王様より私に依頼がありましたのは、学生達への実戦的な戦闘の指導や魔法の講義です」
「は、はい……」
「……」
学園長は、そう聞いていますと言うように、頷いた。とはいえ、黙っている副学長と同じ困惑した表情を見せている。
「私はまだ学園に通う歳ではありませんので、困惑されるのは分かっております。見た目でも生徒達はそう判断するでしょう。それは仕方ありません。年齢を誤魔化すつもりもありませんし、教育の現場で偽れば、それは生徒達との信頼関係を築くのに邪魔になりますものね?」
「ええ……例え成人前の子どもであろうと、誠意を見せるべきだと、私も思っております」
「私もですっ」
学園長と副学長の二人は、果たして本当にこの目の前の少女が生徒達に指導できるのか。その実力があるのかと、疑うような目が向けられる。
これに、リンディエールは穏やかに微笑んで返した。
「ふふっ。私は偽りなくお伝えするつもりです。ですので……生徒達にも徹底していただきたい」
「っ、何を……」
少し目を細めれば、学園長達はぐっと緊張感を強めた。威圧はしていないが、リンディエールの所作から、声音から、確実に主導権を握られている感覚を受けているのだ。それを、リンディエールも理解しながら対応している。
「教えを受けようとする姿勢です。それは、この学園の示す、貴賤による偏見なくという所が重要になってくるでしょう。そうではありませんか? 教師を色眼鏡で見て、態度を変えられては困ります」
「もちろんですっ。我が校の生徒はっ……」
そこで、リンディエールが首を傾げ、微笑んで見せる。すると、学園長は自然と口を閉じた。目で『本当に?』と伝えて見せたのだ。
「ここへ来るまでに、少々この学園にあるべきではない言葉が聴こえてきまして……先に教室を覗かせていただきました」
はっと目線を上げ、副学長はリンディエールの後ろに並ぶ四人の生徒会役員へ鋭い視線を一度投げた。だが、すぐに誤魔化すようにリンディエールへ視線を戻しながら大きな声を上げる。
「っ、か、勝手をされては、生徒達が戸惑い、授業の妨げになりますっ」
これに、リンディエールは口角を上げ、いっそ艶やかに笑んで見せる。
「ご心配には及びません。こうして……」
「「っ!!」」
リンディエールは魔法で姿を消して見せる。陽炎のようにゆらりとその姿が歪み、ふっとそれが消え失せたように見えたはずだ。
そして、姿を再び現して、ニヤリと笑う。
「姿を見せず、声も聞こえないようにしておりました。お疑いなら、今すぐに教師達にでも聞いて来てくださって構いませんよ? 『教室に誰か来なかったか』と」
「「……っ」」
口をポカンと開けたままだが、二人は言葉を発せなくなっていた。構わず続ける。
「これにより、確認しました所……どうかしら……殿下の口からお話しした方がよろしいかしら」
「そうですね。私がお答えしましょう」
後ろに控えていたマルクレースがリンディエールのすぐ後ろに立つ。それはまるで、従者が立つ位置ではあるが、マルクレースはあえてというように、そこで告げた。
「私の見聞きした所、学園生としてあるべき態度で辛うじて臨んでいるのは、各学年のAクラスのみです。他は明らかに貴族家出身ではない者たちを蔑み、授業中であろうと暴言を吐いていました。これは由々しき事態です」
「っ……」
副学長が顔を青ざめさせて震えていた。彼は間違いなく知っていたのだ。
それをリンディエールもマルクレースとスレインも確信した。そして、マルクレースが続ける。
「教師達でさえ、それを止めることなく、仕方のないこととして受け入れてしまっている。このようなことが、許されていいはずはありません」
「そ、そんなっ……そんなことが……っ」
「そうですわねえ。実際に見てもらいましょうか。これを……」
そうして、認め難くて動揺していた学園長を見て、リンディエールは記憶玉を取り出した。それは、校内を見て回る間に密かに記録していたものだ。
因みにこれは、ヒストリアに校内見学を見せてやろうと思って始めたのだ。役に立ってしまった。
壁に映し出すように魔法で操作する。もちろん音声もバッチリだ。長年これを利用していない。
「っ、ほ、本当に……っ」
「っ……ああ……っ」
副学長も観念したらしい。頭を抱えていた。学園長が、現状を副学長は知っていたのだと察するのに時間はかからなかった。
「知っていたのか……っ」
「も、申し訳ありませんっ!」
「っ、こ、こんなことっ!」
このままでは副学長を責め立てる時間になってしまう。それは困る。
「学園長。勘違いしてはいけませんわ。これは……あなたの責任でもありますわよね? まさか、知らなかったからと言い訳されるなんてこと……」
「っ、そ、そんなことはっ……わ、私の責任です!」
「そう、理解してください……逃げることは許されませんわ」
「っ、はい!!」
逃してたまるかよと、リンディエールは内心ほくそ笑む。
弱みは握った。ならば、もうこの学園にリンディエールを止められる者はいない。やり方に文句も言わせない。
頭は押さえた。
後は、生徒達に現実を見せるだけ。
「殿下」
「ええ。問題がはっきりした以上、これより、全生徒達を集めます。リン嬢に、全部掌握してもらいましょう」
はっきり言われたことで、リンディエールは思わず後ろを振り返る。
「思っとったけど、そないにはっきり……」
ちょっとばかり戸惑う。すると、マルクレースは、胸に手を当て、王子の微笑みを放った。
「受け取ってください。私の心からの誠意です。こんなプレゼントで恐縮ですが」
「……うん……えらいもんプレゼントされて、ドキドキやわ……」
「喜んでもらえて嬉しいですっ」
「あ、はい……」
リンディエールは、調子に乗り過ぎたかなと少しだけ反省する。キラキラ王子様の微笑みに負けた。
「……ひーちゃん……うち……学園のドンになります……」
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