上 下
104 / 181
10th ステージ

104 史上最年少の剣聖

しおりを挟む
王宮の一室では、リンディエールと第一王女のレイシャ、第二王子のユーアリアとその側近候補であるレングが勉強をしながら会議が終わるのを待っていた。

控えているのはグランギリアとプリエラだけだ。二人だけで警護も全て問題ない。

「やった! レングっ。今度は満点だ!」
「よくこの短時間で。苦手な計算も、これで問題なさそうですね」
「ユーア、えらい」
「っ、ありがとうございます、姉上っ」

ユーアリアは、最近とても明るくなった。卑屈に兄と比べていた頃とは雲泥の差だ。レイシャだけでなく、第一王子であるマルクレースとも良い関係を築いている。そんな姉や兄にも褒められることで、しっかりと達成感と認められたという満足感を得ているのが良いようだ。

「これ、本当におもしろいっ」
「ん……いくらやっても飽きない……勉強してて誰かに止められるなんて、多分普通じゃない」
「そうなんですよね……次の課題が楽しみになって、次へ次へとやっていってやめられないんですよね。自分でも驚きます」

彼らには、当然のように『リンちゃん子ども塾セット』を渡してある。これは、レングに出会った時に渡したゲーム感覚で勉強できる魔導具だ。当然、フィリクスや弟のジェルラス、マルクレースやレングの兄であるスレインも愛用していた。

「せやろ、せやろ。楽しんでやるのが一番や。きちんと集中力が付くのもええやろ」
「うん。集中するってこういうことなんだって、これを使うようになってようやく分かったよ」

レングの言葉に、ユーアリアとレイシャが同時に頷く。

「集中しなさいって言われても、よくわからなかったけど、分かったって感じがした」
「集中って状態を教えてくれないのに集中しろって怒られた……理不尽」
「あ~、なあ。典型的な『察しろ』ってやつやでなあ……けど、無事習得できて良かったやんっ」
「「「うん……」」」

そうだねとなんとか納得する三人だ。今まで、理不尽に怒られていたのを覚えているので、素直には喜べないらしい。

ただ、本当に三人は集中していた。もちろんリンディエールもだ。いつの間にか結構な時間が経っていた。

「もうじき終わる頃やなあ」

これに答えたのはグランギリアだ。

「はい。そろそろでしょう。恐らく、ブラムレース王やクイント宰相が先に……いらっしゃいました」
「……終わってこっちに直行かいな……」

退出してすぐにこちらに来たのが丸わかりだ。

「リンっ。終わったぞ~。はあ、辛気臭くなっていかんなあ」
「まったく、一々ざわざわと騒ぎ立てて、鬱陶しかったですよ」

ブラムレースとクイントは、大きくため息を吐きながら部屋に入ってきた。その後に、ケンレスティンが続く。

「かなり皆さん、不安そうにしておりましたなあ」
「はっきりと逃げる所はないと伝えましたからね。今頃、大慌てで冒険者への伝をと考えているでしょう。デリエスタ卿やリフス卿に視線が集まってましたよ」

笑って報告され、リンディエールも笑った。

「それは、逃げてくるやろうなあ。最近はおとん・・・も、じいちゃんに鍛えられとるで、体力がついとる上、ばあちゃんに頭も鍛えられて判断力もついた。ぐずぐずせんと、真っ先に出てくるやろう」

その予想通り、クイント達が席に座る頃には父ディースリムやフィリクス達がやってきた。

「お疲れやったな。よお捕まらんと出て来られたわ」
「……目を合わせないようにしたよ……」
「ええ判断や」

ディースリムは余裕そうに見えて、内心はかなり動揺していたのだ。彼は小心者なのだ。

全員が落ち着いた頃、フィリクスは期待しながらリンディエールへ声をかける。

「この後の交流会は、リンも参加できるんだよね?」

今回は代表者として来た者に成人前の子どもも居る。彼らも参加だ。よって、早い時間からとなっている。そして、交流会にはそれぞれパートナーを連れてきても良いことになっていた。よって、フィリクスのパートナーとしてリンディエールを連れて行きたいと思ったらしい。

リンディエールももちろんそのつもりではいた。

「お披露目の済んだのは参加してええ、ゆうてあるよな?」

後半はクイントとブラムレース王に目を向けて確認する。

「ああ。代表として来た者の中にも、何人か小さいのが居たはずだしな」
「今回の交流会の意図を正しく理解できていれば、文句は出ないはずです」

きっぱり断言するクイントだが、表情は何かを含んだ笑みだ。これはお約束があるなと、リンディエールはニヤつく。

「それは、分かっとらん奴も居りそうやなあ。おもろいやんっ」
「ですね。楽しくなりそうです」
「ええなあ。ばあちゃんらも出るし? せや、剣聖のエリーちゃんも出席やって」

これには、大人たちが跳び上がるほど驚いたようだ。ブラムレース王が身を乗り出した。

「っ、え、エリー? ま、まさかあの『孤高の剣聖』のエリクイールか!?」
「せや。そのエリーちゃんや。Aランクでこの国に住んでるやつゆう話やったろ?」

四年後の大氾濫の時、この国の防衛を共にしてくれるAランクの冒険者と渡りをつけて欲しいと、リンディエールはブラムレースに頼まれていたのだ。

「こ、この国に居たのか!?」
「居ったで? それも、この王都に近い村に」

現在、この大陸にAランク認定を受けた冒険者は十名ほど。その中でソロでAランクになったのが『孤高の剣聖』と呼ばれるエリクイールだ。

「……村……」
「村や。農業の盛んなルドフ村や。そこで、村一番の農夫やっとる。親の仇みたいに、畑荒らしに来よったゴブリンとかを駆逐しとって笑ったわ。あの辺、平和やで」
「「「「「……農夫……」」」」」

剣聖が農夫という言葉が、彼らの頭には入っていかないらしい。剣聖と聞いて興味津々な様子を見せていたベンディの息子ケルディアも目を瞬かせる。

「元々、エリーちゃんは、農夫やってん。親父さんが、若いうちは体力作りや効率のええ農法を考えるためにも、色々見て来い言うて、旅に出とった時に、先代の剣聖に見込まれたらしいわ」
「……本当に農夫……」
「農夫や。アレや、職業農夫、趣味が剣で冒険者。まだ四十前やけど、半分引退し始めとるわ」
「つ、次の剣聖は……っ、まさか!」

察したブラムレースから、リンディエールは目を逸らす。今は多分、誰とも目を合わせてはいけない。だが、弁明は必要だった。

「ま、まあ、なんや……ウチはそんなつもりあらへんのよ? 師匠呼びもしとらんしな~。ただ、ちょい遊んでもろただけなんやけど……」

ついこの間、野菜を買いに行って挨拶代わりに手合わせをした時に『もう教えることはない……今日から剣聖を名乗るといい』なんて言われたが『それは保留で!』とお願いして逃げ帰ったのだ。

「……史上最年少の剣聖……っ」
「大丈夫や! あくまでウチはエリーちゃんにとって保険的なやつや! きっと、今後もっと剣聖らしい青年が目の前に現れれば、そのままスライドするはずや!  エリーちゃんが口にせな分からんしなっ」
「いや、絶対に今日、口にするだろ……」
「っ、しまった! エリーちゃんは正直者なんやった! 『次代は……』なんて聞かれたら喋ってまう!!」

嘘や誤魔化しなんて、エリクイールは使わない。真っ直ぐで真面目。これぞ剣聖と思える誠実な男だ。口止めも難しいかもしれない。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、また来週です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 561

あなたにおすすめの小説

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?

時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。 どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、 その理由は今夜の夜会にて

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

処理中です...