エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

文字の大きさ
上 下
72 / 185
7th ステージ

072 最大のライバル

しおりを挟む
さて、どう説明しようかとリンディエールとヒストリアが目を見合わせていると、王宮に繋いだままになっている転移門の方から弟のジェルラスが駆け出てきた。

「失礼します! 遅くなりました」

テシルが静かにその後から出てくる。

「ああ、ジェルラス、お帰り。今日もお疲れさんやったなあ。これから食べるところやで、丁度ええで」
「本当ですか? 良かった。あ……もしかして、そちらが……」

ジェルラスはこの時、ようやくリンディエールの前に居るヒストリアに気付いたらしい。動揺する様子もなく、素直に受け止めようとする様子に、リンディエールは満足げに頷く。

「せや。ヒーちゃん。弟のジェルラスや」
《話は聞いている。今日も、保護した子ども達の相談相手になっていたのだろう? その歳でよくやるものだ》
「せやろ? よく出来た子やで。可愛いのもポイント高いで」
「ね、姉さま……っ」

照れる所も可愛らしい。

ブランシェレルを摘発する中で、ジェルラスのように組織に取り込まれようとしていた子どもは意外にも多かった。

商家のようなそれなりにお金を持っている家も、貴族の子どもと同じ状況であったらしく、途中でそれらも知ったリンディエールは、急遽王都の商業ギルド長とレンザー商会長のエルスに事情を説明しに行った。

彼らの手によって、国内の商家の方もなんとかなった。しかし、利用されようとしていた子どもたちは、それを知って深く傷付いた。現在、商業ギルドと王城で、それぞれ被害に遭っていた子どもたちを集めて、色々と相談に乗っている所だ。こうなってしまうのは、子どもたちが親を信じられなくなっているからだった。

その王城にいる貴族の子どもたちの中で、ジェルラスは同じ被害に合った者という立場で接し、相談相手になっていた。

ジェルラスにとっても、同じ立場の者が居たと知るのは良かったらしい。ただ、付き従っているテシルは最初、とても居心地が悪そうだった。

本来ならば、組織の者として捕らえられているはずの者だ。けれど、反省していることと、ある意味間違いなく被害者であることから、条件付きで、捕らえられずにジェルラスの従者として認められていた。

条件とは、彼の知る組織の情報を全て打ち明けること。そして、決してジェルラスを裏切らないことだ。これは『誓約魔法』によって縛っている。細かい誓約内容も取り決め、これに反した場合、苦痛を伴い昏倒する。

この『誓約魔法』は、特殊な魔導具を使って神の前で誓うことでかけられる。

胡散臭い聖皇国も、この魔導具をどうこうすることはできない。なんせこれは、神を祀る神殿を築いた時点で、神によって設置されるのだ。教会関係者でもどうすることもできないため、何よりも公正で安心だった。

「せや。宰相はん達は、ギルド長から連絡あったか? あの魔法陣についての」

昼ごろ、商業ギルド長から連絡を受けたのだ。多くの貴族家や商業ギルドに仕掛けられていた盗聴の魔法陣について。それを仕掛けた者たちが明らかになったのだ。

それは、商家の子どもたちが中心になっていた。能力のある者に、練習も兼ねて仕掛け回らせていたらしい。

「いや。こちらには来ていないぞ?」
「私の方にも来ておりません」

王もクイントも顔を見合わせてないと頭を横に振った。

「あ~、まあ、まだ確実やないからかもしれんわ。犯人は特定できたようやが、大元がな……それも明日、明後日には直で報告に来るやろ。それよか、食事や!」

ヒストリアを見て動きを止めていたテシルもジェルラスが引っ張ってきて、食事が始まった。

「リン嬢ちゃんは、本当に美味いもんを作るなあ」

ブラムレース王が、美味い、美味いと大満足の笑みで次から次へと料理に手を伸ばす。

「どうしましょう……王宮の料理が味気なく感じてしまいそうだわ」

リュリエール王妃が、ため息をつく。それでも食べるのはやめなかった。

「だなあ。リン嬢ちゃん。レシピくれ」
「言い方……王様はそうゆうとこあるなあ……予想通りかい」
「ん? なんだ。予想してたのか」
「ヒーちゃんがな~。今日辺り言うやろから、レシピを商業ギルドで登録しておいた方がええ言うてな」
「さすがリア殿だ!」

自分をわかってくれていたと、ブラムレースは嬉しそうにヒストリアへ目を向けた。

ヒストリアは器用に爪を使って食べながら目元を緩める。

《ブラムスは、連絡してきた時に二回に一回は、リンが差し入れしてくれないかだとか、今日は何を作って食べたかと聞いてきたからな。わかりやすい》

「そ、それは、リア殿が食べても食べなくても問題ないと言っていたのが気になって……」
《心配してくれているのも分かるが、明らかにリンの料理に興味津々だったぞ?》
「うぅっ、でも、これを食べたら、毎日食べたいと思うでしょうっ」

ブラムレースは、少し恥ずかしそうにしながらも本心を吐露する。やけくそ気味だった。

だが、これに反応したのはクイントだ。許せないキーワードがあったらしい。

「毎日ですって……まさかあなたもリンを狙って……」
「っ、おいおいっ。クイント、その殺気っ、マジもんか!?」
「リンは私のです」
「間違いなく違うやろ。どさくさに紛れて私物化発言すなや」
「私だって、リンの手料理を毎日食べたいです!」
「レシピだけで我慢しい」

相変わらず、アピールがすごい。

だが、今回は牽制してくれる者が多かった。

「父上……見苦しいです」
「レングに言われる程とは、父上にしては珍しく正面から行きますよね。分からなくもないですが、さすがに彼女が母になるのは受け入れ難いです。娘にしませんか? 私の妻でもいいのですが、妹というのもいいですね」
「リンは私の妹です! それと、いい加減諦めてください!」

レングは呆れ気味に。スレインは身内にするのはやぶさかではないが、冷静に妥協点を探りながら提案する。抜け目がないのは、やはり父親似だろう。

フィリクスは、リンディエールのこととなると、途端に余裕がなくなるのはいつものことだ。

これに第一王子マルクレースが驚きながらも呟く。

「確かに……彼女、魅力的ではあるものね……」
「マルク兄様も参戦したらいい。宰相の所でリンちゃんの独占は許さない。お父様も頑張るべき」
「お、おう。年齢的にはユーアリアをと思うが……」
「ユーアには無理」
「ユーアには無理だね」
「ユーアには無理だわ」
「だよなあ」
「……」

王家一同全員にダメ出しされたユーアリアは泣きそうだった。

「何より、最大のライバルがあの方」

レイシャが視線で示したのはヒストリアだ。全員がうんと頷く。

《ん? どうした?》

何でもないと首を振りながら、レイシャはそういえばと思い出す。

「……気になることを忘れていた。その鎖……」

目がヒストリアの足についたその枷に向く。これに、ヒストリアは思い出したかと苦笑する。

《そうだったな。コレがある限り、俺はここから出ることはできない。人化もできない。ここ百年で、ようやく外に干渉できるようになった所だ》
「……それまでは、それも出来なかった?」
《ああ。少し意地になって頑張ったんだが……やはりこれは外れなくてな。だが、出来るようになっていて良かった。これで、リンを助けられたからな》

ヒストリアは良かったと笑うが、納得はできない。

「どうしても……ダメなの?」

レイシャは閉じこもること、閉じこもることしか出来ないことが、どれだけ辛いか今はよく分かっている。だから、我が事のように心を痛めていたのだ。

これに、リンディエールが明るくこたえる。

「ウチがその内何とかするで大丈夫やて」
「……リンちゃんが?」
「せや。あの枷はなあ……レベル五百以上の人族が破壊することで無効にできる。やから、今はせっせとレベル上げしとるんよ」
「……五……百? 聞き間違い?」

レイシャだけでなく、ヘルナやファルビーラも驚いていた。二人にも話していなかったのだ。

「五百や。間違いあらへん。幸い、レベル上げに都合のええことに、大繁殖期に入っとる。この機会を逃す手はないで!」

レベル上げは燃えるとリンディエールが拳を握る。だが、大人でも一般平均レベルが三十の世界だ。冒険者で百までいけば英雄なのだから、五百など聞いたこともないだろう。

「……五百って、あり得るのか?」

ブラムレースの問いかけは、当然だが、驚愕と共に静かにこの場に響いた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
来週です!
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 571

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...