エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

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3rd ステージ

024 感服いたしました!

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あんぐりと口を開ける王達の目の前には、洞窟の中に佇む大きなドラゴン。繋がれた鎖の結界が作用しており、洞窟の入り口は蓋をされているように不可視の膜がある。

《このような場所からすまんな。今、テーブルと椅子を出そう》

ヒストリアは寝転ぶようにして視線を下げる。そして、ヒョイっと指を動かすと、緩いカーブのかかった長いテーブルと椅子が土から作られた。

魔法でしっかり固められたそれは、石のように頑丈だ。だが、不思議と椅子は硬すぎない。細かいところまで気の利くドラゴンだ。

《座ってくれ。その場所ならば、そちらの部屋からも、こちらからも見えるだろう》
「っ、お、お気遣い感謝いたします……」

王は恐縮しながら中央に腰掛けた。クイント達も静かに腰を下ろしていく。

その時、ヒストリアがリンディエールへ声をかけた。

《そうだリン。リンの魚料理が食べてみたいんだが》
「っ、ヒーちゃんがリクエストやと!? 喜んで!」

一気にテンションが上がった。あまりの反応の速さに、ヒストリアは引き気味だ。

《あ、ああ……西の地底湖のグレイトフィッシュが美味いと……》
「グレイトフィッシュやね! あの怪魚か! 確かに美味いと聞いとるわ! よっしゃ! いっちょ、大物釣り上げたんで!!」
《できれば早く……》
「今すぐ行くよって! ばあちゃん! ここは任せたで!!」
「え……」

そして、リンディエールは消えた。

任された祖母ヘルナもびっくりだ。

《さて……お前たち、リンはまだ子どもだ。あまり厄介な事に巻き込んでくれるなよ?》

苦言を呈するヒストリアに、クイントは感心していた。

「まさか……その為にリンを?」
《当然だろう。とはいえ、グレイトフィッシュくらい、すぐに釣ってきそうだからな。さっさと話を進めよう》
「はい……」

クイント達は、暴虐竜というイメージがガラガラと崩れていくのを感じていた。

《確か、刻印術についてだったか。研究書があったとか》
「あ、こ、こちらです!」

魔法師長が立ち上がり、それを掲げる。すると、その本がフワリと浮き上がり、一瞬消えると結界を通り越したヒストリアの前に現れた。

パラパラとめくりながら、隣にいくつもの白い紙と光るペンが同じ高さの空中で動き始める。

不思議そうにする一同の視線に気付き、ヒストリアは答えた。

《これは写本の魔法だ。少しアレンジしてある。自動で現代語に訳しているんだ。読み上げるより良いだろう》
「はっ、そ、そのような魔法が!? ありがとうございます!」
《気にするな。さすがにこの時代のはリンにやらせると時間がかかる》
「リン様もできると……?」
《ああ……あいつは基本、おかしいぞ……教えたものは全部出来るようになるからな……俺も少し調子に乗ったのがいかんが……》

ヒストリアとしても、ここまで滅茶苦茶になるとは思っていなかったのだ。教えるのが楽しかったというのもある。

「それは、教え甲斐のある生徒ですなあ」
《まあな。子どもにはこちらで制限をかけ、能力に歯止めをかけるのは良くないと思ったのだが……リンに関しては考えものだ……》
「なんとっ。教育者としての心得もお待ちとは! 感服いたしました!」
《ははっ。そうか。いや、大したことではないさ》
「そんなことはございません!」

魔法師長にはもはや警戒心はない。久方ぶりに出会った尊敬できる年長者として接していた。そんな話をしてから、本の内容の話になった。

《目を通したところ、私が知っているものよりもそれなりに進歩していたようだ》
「……と言いますと? 申し訳ございません。ほとんど私も知らぬのです」
《そうか……では、分かりやすく説明しよう》

そうして、ヒストリアは説明を始めた。

《元々の起こりは、使い捨てになってしまう魔法陣をどうにかそのまま使い回せないかと試行錯誤し始めたことからだ》

魔法陣は描く才能もいる。正確さ、技術力も求められるもの。

《技術というものは、価値をつけ難いものだ。使い捨てだというのに高価な値段で取り引きされる。そう思えば、不満が出るのも分かるだろう》
「確かに……技術で売るというのは、難しいものです……」

これは商業ギルド長の言葉。

《そうだ。生産者を立てれば買う者が不満を持つ。どれほど難しいことか理解できない素質のいるものだと特にだ。そして、逆も起きる》

納得するまでに落ち着くには、それが常識だという認識になるまでの時間がかかる。

《これにより、消えない魔法陣の研究が始まった。上位種の魔石を砕き、魔力を練り込みながらインクを作ることで、数回の使用に耐えるものが出来上がったらしい》

だが、魔力というのは、少しずつインクから抜けていってしまう。耐久度は低かったのだ。

《本来の魔法陣も劣化する。だから、使い捨てという形を取ることで、ある程度時期が来たら廃棄し、新しい物をという流れが出来ている。実際、使い捨ては理に適ったものであると実証されただけで終わったのだが……この研究書には続きがあった》
「続き……」

ヒストリアも知らなかったものだ。

《魔法陣は、込められる魔力に限度がある。これにより、例えば攻撃魔法を魔法陣化するということが出来ない。だが、この刻印術ならばそれが可能となるのではないかと考えたようだ》
「っ……そ、そんなことが!?」

魔法陣で出来るのは、覗きや盗聴だけでなく、火種を作るもの。遠見という千里眼よりも劣るが数キロ先を見られる術や、集音という小さな音を聞き取るものなど、魔力消費は少ないが難しい術が使えるようになる。

魔法自体が素質の必要なものだ。それが苦手な者でもほんの少しの魔力で使えるため、今でも冒険者達に重宝されている。火種の魔法陣は特に無くてはならないものだ。

《ああ……戦場にこれを施せば、魔法師の数が揃わなくても有効的な戦略の一つになる。籠城した際に施せば、迎撃も可能かもしれない。魔力も残り少なくなった魔法師達が最後まで戦えるかもしれない……どうだ? この考えが出ても不思議ではないだろう》

これに、王達は絶句した。

ヘルナも戦術として利用できると確信する。だからこそ、恐ろしいとも思った。

「っ、まさか……それを実現しようと……?」
《今回のは実験かもしれんというのは、ただの推測だ。これを正しく読み解き、それを可能とするまで研究を進めたのならば……》
「っ……戦争……」

ヒストリアはゆっくりと首を横に振る。

《分からん。研究者など狂人と紙一重の存在だ。それを世に出したいと願うか、このように、研究書として残して満足するか……》
「そうね……確かにそうだわ……」

どこまでやれば満足するのか。それは研究者によっても、その協力者によっても変わってくる。

《ただ……今回のことで、少なからず魔法陣技師達に不信の目が向くことになるだろう。お前たちも、有用だと思うよりも、危機を感じたはずだ。誰が、なんの目的でやったのかが分からない状態のままでは、彼らの立場は危うくなる》
「そうですね……今回のことで、魔法陣技師達には監視を付けるつもりでした。彼らの周辺も、調べなくてはならないでしょう。我々が魔法陣技師達を警戒していることは、数日もすれば民達にも知られます」

たった一人のしでかしたことであっても、良くも悪くも技術が必要なものということで、全ての魔法陣技師が疑われることになる。それは、全く関わりのない魔法陣技師達の印象も悪くする。

《そうなれば、最終的に一番割を食うのは冒険者達だ》
「っ、そうよ! 技師達が仕事を出来なくなれば、冒険者達が困るわ! それだけは避けなくちゃ」

冒険者には死活問題だ。信用を第一に考える商人達が技師達との取り引きを渋るようになれば、もうそれだけで冒険者達に回らなくなる。

《要は、これはダメでこれは良いという線引きが明確になればいいのだ。どんなものでも、使い方次第。この刻印術もそうだと広く知らしめればいい。そこからダメなものはダメだと規制をかければ問題は減るだろう》

誰もが考え込む。潰してはならない技術。それを保ちながら、犯人も探さなくてはならない。

「しかし……それはどうやれば……」

そこに、リンディエールが戻ってきた。

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読んでくださりありがとうございます◎
一日空きます。
よろしくお願いします◎
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