エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

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2nd ステージ

015 誰や訳したやつ!

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一歩入ると、本の匂いがした。懐かしいと思うのは、前世の記憶だろう。家の書庫とはまた違う。

「ん~っ……図書館は受験の頃以来やな……」

そんな感想を漏らしながら入り口から正面に進むと、受け付けらしいカウンターがあった。

真っ直ぐこちらを見て立ち上がったお姉さんの様子から、受け付けが先のようだ。

「ようこそ、大図書館へ」
「こんにちは。初めてなので、利用の仕方を教えていただけますか?」

初対面の人に丁寧に話そうとすると、やはり口調は変わってしまう。こういう所があるから半端者なのだ。

「はい。身分証明書になるような物はお持ちでしょうか」
「あ、冒険者カードがあります。因みに、ない場合はどうなるのですか?」

出来立てホヤホヤのギルドカードを差し出して尋ねた。もしかして、今日祖母に提案されなければ、無駄足になったかもしれない。内心冷や汗をかいていた。

「その場合は、こちらでステータスを表示し、登録させていただくことになります」

ステータスを見られるというのは、その人のそれまでの人生を見られるということ。特にリンディエールの場合はマズイものが多い。危なかった。

「うわ~……ばあちゃん……ナイスや……」

そんな呟きをこぼしながらも、お姉さんの話を聞く。

「利用料も証明書をお持ちの方よりかなり高くなります。証明書をお持ちの方は小銀貨三枚。ない方は銀貨一枚です。ただし、登録を拒まれる方は、あちらの……軽書コーナーのみ、無料でご利用いただけます」
「軽書?」

小銀貨三枚は三百円。銀貨一枚が千円だ。違い過ぎる。

あちらと案内された方に目を向けると、右手側に区切られた場所がある。本の量は少ない。どうも大半が絵本のようだ。

「子ども向けの絵本や文字の見本表が書かれた物が置かれたコーナーです」
「なるほど」

身分証明書を持っている場合は、名前の確認だけだ。それも、冒険者の場合は登録した時の名前で良い。本名ももちろん冒険者ギルドの方には登録されている。ステータスが登録されるのだから構わない。

冒険者とは自由だ。国や家を捨てた者も多い。そのため、冒険者として活動するための名前を別で用意できるのだ。ただし、登録以降は変更が出来ない。再取得も不可だ。

「では、こちらに手を置いて、確認のためお名前をお願いいたします」
「リンです」
「はい。確認いたしました」

手を置いたのは、ギルドカードがきちんと起動するかを確認する魔導具。本人でなければ、情報が表示されないのだ。これは、魔力認証である。指紋のように魔力波動は人によって違う。それがカードに記録されているのだ。

こういった魔導具の場合、表示されるのは、名前と冒険者ランクだけだ。町に入る時に門でチェックされるのもこれだけ。ただし、リンディエールの場合、特例であるという表示が十二歳になるまでランクの隣に出るらしい。

「リン様は……特例でいらっしゃいますね……申し訳ございません。年齢の問題で、十二歳未満の場合は小銀貨二枚を保障金としていただくことになっております……ご説明せず、申し訳ありません」

冒険者カードを持っている時点で十二歳以上だと思い込んでいたのだろう。少し体の小さな十二歳の子どもだと思ったようだ。

「いえ、では合わせて小銀貨五枚でよろしいですか? これでお願いします」
「え、は、はい。お預かりいたしますっ」

リンディエールは本当に特例も特例で、ここ二百年、十二歳未満の子どもが冒険者になったことはないと、冒険者ギルドでも言われた。因みに、その二百年前の子どもは、追放されたどこぞの元王子だったらしい。生きるためにやむなく剣を取り、身の安全のために無理して通したものだったという。

ギルド規定を網羅していた祖母ぐらいしか、これに思い当たることはなかっただろう。

「すごいんですね……特例なんて、初めて見ました……あ、大変失礼をっ」
「ふふ。構いません。二百年振りだと言われましたし、通ったのはたまたまです」
「そ、そんなっ……冒険者ギルドはそういった規律に厳しいですから、たまたまということはないと思いますが……いえ、これ以上は、申し訳ありません」
「お気になさらず」

このお姉さん。見た目は真面目で取っ付きにくそうだが、中身はとっても可愛らしい。

「っ、ありがとうございます。では、軽書コーナーももちろんご利用いただけます。左手側の奥の禁書庫以外全てお好きにご覧ください。禁書庫は扉がありますので、間違って入ってしまうことはありません。ご安心を」
「禁書庫に入るには資格が?」
「はい。伯爵以上の貴族の方の紹介状が必要です。更に、保障金として小金貨一枚をお支払いいただくことになります」

小金貨一枚は十万円。さすがは禁書庫だ。少しだけ興味が湧いた。落ち着いたら、父親を脅してでも紹介状を書かせようかと思うくらいには。

「分かりました。ありがとうございます」
「いえ。あと、こちらがご利用規約になります。はじめてご利用される方にはお渡ししております。閉館時間は六の鐘が鳴り終わる頃になります。少し前に我々が見回り、お声がけさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「分かりました」

六時まで居る気はないので、問題ない。リンディエールは早速見て回ることにした。

利用規約によると、所々に水晶があり、パソコンのように触れて念じれば検索することが可能らしい。

そうして検索し、見つけた本を見て、半ば呆然とする。

「……なんやコレ……まるでデタラメやないか……誰や訳したやつ!」

声を落として愚痴る。現代の言葉に訳された昔の本を中心に読み漁った。ただ、全てヒストリアに原本となるものを借りて読んだことのある本だ。

リンディエールはそれを訳して言葉を覚えた。発音もみっちり教えられたのだ。

「それっぽい事書いてまとめてあんのがまた腹立つわ~……っ、はあ……あのお姉さんが良い人過ぎて怒りたないんやけどなあ……」

こんな物が自信満々に、立派な図書館の棚に並んでいるのは腹が立ってしかたがない。

「ん~……アレか? 原本の方が間違っとるっつうこともあるか……そんならしゃあないしな。よし、原本の方を確認するか」

調べた時に、古代語や別種族語で書かれた本も検索で出ていた。とりあえず特に無茶苦茶な内容になっていた医学書の一つを手に、原本を探す。

「……ないなあ……それにこれ二部に別れとるん? 検索では一つしか出んかったで? お姉さんに聞いてみるか……確か、貴族には貸し出ししとるって利用規約にあったしなあ」

貸し出し期間は五日。なので、今日確認できるかどうかがこれで分かるだろう。

「すみません。こちらの『ベナクト医学大全』の原本を探しているんですけど、貸し出しされていますか?」
「お調べいたします」
「お前みたいな子どもが、これを読める訳がないだろ」

その時、幼い声が後ろから響いた。振り向けばそれは、くすんだ金髪の十二頃の少年のものだった。

「背伸びせず、身の丈に合ったものを読めよ。あっちの絵本がお似合いだ」

これをリンディエールは自然に無視した。少年が持っている本の題名を目を細めて確認し、それが探していた本だと気付く。

「お姉さん。どこにあるか分かったからもうそれはいいよ。代わりに、これの第二集が存在するはずなんだけど、もしかして禁書庫かな? 調べてもらえます?」
「あ、はい……少々お待ち下さい」

これでまた待ちだなと思っていれば、後ろから突き飛ばされた。とはいえ、来るのが分かっていたので、威力はいなしている。ふらついただけだ。

「お前! 無礼だぞ!」

どっちがだとさすがにキレた。

「……それはこっちのセリフや。ここが外やったら問答無用で殴り飛ばしとるで? 冒険者ナメんなよ? どこのお坊っちゃんか知らんがな……冒険者は自由や。それなりのランカーなら、仮にこの国で手配されるようなことになっても構へんのやぞ。死ぬ気で手え出しいや」
「っ……っ、お前が冒険者なわけあるか!」

これだから癇癪持ちの子どもは困る。

「煩いなあ。ここがどこか分かっとらんのか?」
「バカにするな! 俺はこの国の、フレッツリー侯爵の三男だぞ! 卑しい冒険者風情が! 口答えするな!」
「あ~……宰相の子か。そりゃあ難儀な身の上やなあ。同情するわ。あと自分、ウチを冒険者や認めとるやん」

先ほど、気配を半ば消しながら入って来た人物を気にしながら、リンディエールは面倒くさそうに少年の相手をする。

「はっ。今更謝っても許さんからな!」
「誰が謝るかい。お前が謝れや。さっさとせんと……」
「なんだよ!」

そこで静かに、けれど力強い拳骨が少年の頭に落とされた。

「大バカ者が」
「ぐっ、いったぁぁぁっ」

ゴツンと音がした。頭を押さえて座り込む少年。それを冷めた目で見下ろすのは、金色の長い髪を後ろで束ねた美青年。

この国の宰相だった。

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読んでくださりありがとうございます◎
また明日!
よろしくお願いします◎
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