エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

文字の大きさ
上 下
11 / 185
1st ステージ

011 心配は必要ありません

しおりを挟む
それは、リンディエールが倒れた後に起きたこと。

朝日が昇る頃。領主館に報告が届いた。

「報告いたします! ゴブリンの掃討が完了いたしました!」
「っ、そうかっ……っ、被害は」
「詳しい報告は俺から」

部屋に入ってきたギリアンは、疲れた顔をしながらも、見て来たことの報告を始めた。

「森の中に戦場を作ったことで、魔法師達も実力を発揮できました。提供されたらしい武器により、誰もが本来の実力以上の力を出せていたようです」
「……一体誰が……」

思考を始めようとすれば、すぐにギリアンが続ける。

「被害ですが、死者はゼロです」
「っ、ゴブリンキングが居たのだろう? 災害クラスだぞっ」

多大な被害が予想される事態には、五段階で表される。


【暴走クラス】町や村が幾つか消える脅威度。
【災害クラス】一つの領が消える脅威度。
【大災害クラス】領がいくつか消える脅威度。
【厄災クラス】国が一つ消える脅威度。
【大厄災クラス】国が幾つか消える脅威度。


今回はゴブリンが三千以上。その中にBランク以上が約五百。ゴブリンキングは単体で町や村を潰していける脅威度Sクラス。取り巻きのゴブリン達が後千も居れば【大災害クラス】だった。

国で自慢の騎士を出したとしても、半数は死傷者を出すだろう。それがゼロ。あり得ないと思うのも無理はない。

「言ったでしょう……冒険者達は武器のお陰で実力以上の力が出せていました。俺が見た感じでは、ランク一つ底上げしていましたね」
「武器でか? そんなことが……っ」

現在、この領に居る冒険者の大半はDランク。それが一つ底上げされてCランク相当の働きが出来た。Cランクも数人居たので、それらはファルビーラ達と同じBランク相当になる。一人で数百のゴブリンを葬れる実力だ。

「そんな反則的な武器を使った上で、湯水のように回復薬を使い、動けなくなった者を即座に復活させていました。あれが訓練だったら……地獄ですよ……」
「っ……」

戦線離脱が許されない。精神的に追い詰められようとも、動けるようになれば目の前の相手を倒すしかない。そこには狂気があった。

「最後の一匹を倒し終わった後、立っている者はおりませんでした。半日以上、戦いっぱなしでしたからね。今は兵達に介抱させています。怪我もほとんど治されていたので、目立った怪我人もおりません」

回復魔法の使い手達は、気絶する直前まで魔法を行使しており、やり切った表情で眠ったらしい。

「……父上達は……」
「ファルビーラ様達も同じです。今は眠っておられます。お嬢を……ゴブリンキングを一人で倒し切ったお嬢を両側から抱きしめて、仲良く気絶しておられましたよ。その周りに他の『大鳥の翼』の面々が居て、少し笑いました。お嬢も含め、とても満足そうな笑みを浮かべていましたから」
「……え……? ま、待ってほしい……ゴブリンキングを一人で倒したと……聞こえたのだが……」

これにギリアンは嫌そうに顔をしかめた。同じことを何度も言うのは好きではないのだ。ここでもう、配下の者ではなく一人の友人として忠告する。

「はあ……そう言っただろう……いいか、ディース。これは友人としての忠告だ。お嬢を敵に回したら死ぬぞ。俺、助けねえから。本当に気を付けた方が良いぞ。俺だけじゃなく、使用人達も今回のことで、守るなら当主であるお前じゃなく、お嬢が一番に来る。そろそろ本気でお嬢との関係を考えないと、当主であっても叩き出されるぞ。ファルビーラ様も居るしな」
「……」

ギリアンの心からの警告だった。因みにリンディエールに蹴り飛ばされた護衛を含め、この場でリンディエールを見た者は、全員が青い顔でカタカタと震えていた。

今日この時から、今後リンディエール・デリエスタと関わる可能性のあるこの場に居る者たちは、遺書を用意し、部屋をよく片付けることを誓った。

部屋の片付けなど一生出来ないと思っていたギリアンでさえ、その後時間を作っては断捨離に努めたという。これをリンディエールが知るのは数年後のことだ。

そして領主、ディースリム・デリエスタが諸々の処理を寝ずにやり終えたのが三日後。帰宅し、真っ先に確認したのは父母と娘のリンディエールの様子だった。

ファルビーラ達も、昼間はギルドに詰めてこちらも事後処理に追われていた。だが、日が暮れる前には帰宅し、リンディエールの部屋に入り浸っている。目覚めるのを待っているのだ。使用人達も部屋の前を通る度に覗き込んでいた。

だが、そんな中でディースリムが見に行こうとすれば、使用人達に半ば止められる。


『坊っちゃまのお部屋はあちらですよ?(笑)』
『迷われたんですか?(嘲笑)』
『こちらに何かご用がお有りでしたか?(不信)』


白々しい嫌がらせだが、そう言われると、正直に娘に会いに来たなんて言えない。今まで存在さえ忘れかけていたのに、図々しいことだと分かっているのだ。

その上、今回のことでリンディエールはこの領を救った英雄だ。英雄になったから気になり出したなんて思われるのは嫌だ。これは、ディースリムの最後に残った意地のようなものだった。

そうして、何とかリンディエールと関わりを持つ方法を考え続けた。

当然だが、そんな様子に妻や息子も気付く。早く帰って来たため、息子の部屋で夕食を一緒にということになったのだ。

「父上っ。お仕事お疲れ様です」
「あ、ああ……」

息子は、最近は調子が良いようで、部屋からは出られなくても、ベッドから降りてテーブルにつくことができていた。彼は今年で十二歳。リンディエールとは二歳半違う。貴族家では、長男は総じて弱くなるため、次男、三男が必ず必要になる。早い段階で、次の子をもうける必要があるのだ。

デリエスタ家も例に漏れず、リンディエールの下には更に二歳下の次男がいる。その次男は、母方の祖父母に預けられていた。母親は長男の事に掛り切り。だが、娘のリンディエールと違い、もし長男がダメになれば、その代わりにこのデリエスタ辺境伯家を継がなくてはならない。

継がないことになっても、兄の補佐はしなくてはならないのが次男だ。教育は必要だった。その教育を任せたのだ。

貴族家の長男は、十四歳頃までに普通の生活が出来るようになれば、不思議とそこからは回復していくと言われている。十五歳に王都の学園に行くことができれば確実だ。

長男は本を読むのが好きで頭も良く、察しも良いらしい。ディースリムが何があったのかを説明すると、彼は何かを考え込む。

「どうした?」
「いえ……私も妹に会いたいなと思いまして」
「……そう……だな……」
「そもそも、私はお尋ねしておりましたよね? 母上にも、妹を放っておいていいのかと」

確かに言われていた。聡い彼は、会えないことを気にしていたのだ。寂しい思いをさせているのではないかと。食事も、母親と一緒にこの部屋でと言ったことがあった。

「そ、それは……」
「だって、あの子は元気で……幼い子どもというのは、部屋でじっとしていられないわ。ここで暴れられたら……」

小さい子は場所を弁えない。大きな声を出したり、泣いたり、走り回ったりするだろう。母親は、長男の体を慮り、リンディエールとの関わりを避けていたのだ。

「お話を聞く所によると、そのような場を弁えない子ではないようですが?」
「で、でも……」
「セリンはお前の為を思ってだな……」
「それです」
「ん?」

真っ直ぐに射抜くような瞳があった。

「私を理由にするのをやめてください。確かに私はこの家の後を継ぐ者です。貴族家に生まれた長男としての役割りは理解しております。ですが、これに妹は関係ない。私が努力すればいいだけのこと。父上や母上の心配は必要ありません」
「な、何を言っている!」
「何てことっ……」

怒りを露わにしても、彼は頑として瞳をそらさなかった。

「世話をしてくれるのはメイド達です。食事を用意してくれるのは料理人です。書庫から本を持って来てくれるのも、勉強を教えてくれるのも父上や母上ではありません。あなた方は、ただ見ているだけだ」
「っ……」
「あ……」

はっとした。心配だと顔に出して、部屋を訪れるだけ。こうして食事をしているだけだ。

「もちろん、養っていただいているのは確かです。ですが、そういう事が言いたいのではありません」
「……ああ……そうだな。言いたいことは分かる……私は……私たちはあの子を蔑ろにし過ぎた……」
「そう……そうね……わたくし……っ、あの子の顔も思い出せない……抱きしめた記憶もないのよ……っ、なんて……なんて母親かしら……っ」

泣き出す妻、セリンの背を撫でながら、ディースリムは真っ直ぐに息子を見つめた。

「あの子が目覚めたら、きちんと謝るよ。そして……領を救ってくれたお礼も」
「それだけではダメですよ」
「いや、他には……」

思い当らなかった。息子はクスリと笑う。

「去年あたりから、食事が変わったと思いませんか?」
「……そういえば……とても美味しくなったが……」

去年まで疲れて味も分からなかった食事が、唐突に美味しいと感じられるようになった。起きるのも辛い日があったのに、それらがなくなったのはその頃だ。

「これらの食事は、体を動かす力の元になる物を、効率的に取り入れることができるよう、考えられているんです。私の食事が少し違っているでしょう。私の体調に合わせたものになっているのですよ」
「……そんな事が可能なのか?」
「はい。これは、古代の『食事療法』や『栄養学』というそうです」

そう言って、彼はベッドサイドに置かれていた本を二冊持ってきた。その内の一冊を差し出してくる。

「どうぞ?」
「ああ……そんな本があったとは……父上のだろうか」

手に取って目を通していく。そんな様子を息子はニコニコと微笑んで見つめていた。

「それはリンが……妹が料理長に持ち込んだそうです」
「は……?」

所々図解があり、分かりやすいなと思って読んでいたので変な声が出た。顔を上げると、ニコニコ顔の息子。

「読みやすいでしょう? 原本を訳したものがこちらです。料理長は、最初こちらの原本を受け取ったようですが、読んでいられないと断ったそうです。すると、二日後にそちらの図解の入った本が渡されたそうです。それも『これでも理解できないなら自分が作ることを許可しろ!』と言ったとか」
「……あの子が……」

リンディエールの姿を思い出してみると、確かにそんなことも言いそうだった。

「それで奮起した料理長が少しずつ読み進め、これらの料理に辿り着きました。いかがですか? 私の妹はとても賢く、強く、情に篤い子だと思いませんか? 誠心誠意、頭を下げるのに問題はありませんよね」
「……そのようだ」
「そうねっ。わたくしも、今までの事を謝るわっ」
「うむ。一緒に謝ろう」

そうして手を取り合う両親を見る息子は、苦笑していた。

「まあ……使用人達がそれを許せば……だけどね。今は特に、お祖父様達も居るし……」

彼は誰よりも今の両親の立場を理解していた。

「……いつ会えるのかな……」

そんな呟きは、両親の耳には届かない。だが、この時、この部屋の様子を窺っている者がいた。ヒストリアだ。

リンディエールが心配で、使い魔を放っていたのだ。

《ったく……息子に諭されんとダメだったとは……リンの奴が興味を持たないはずだ》

リンディエールが時折こぼす『両親どうでもいい発言』本当にどうでも良さそうだったので、どんな親かとヒストリアは逆に気になっていたのだ。

《だが……この兄はリンと気が合いそうだな。この年でこれだけ親にはっきり言えるとは……ふふ。リンと会うのが楽しみだ》

そうして、ヒストリアは未だ眠っているリンディエールを確認して、使い魔を回収した。

************
読んでくださりありがとうございます◎
また明日!
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 571

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...