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023 あの騎士はどこだ!
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泡を吹いて気絶する者も一部居る中、そんな崩れ落ちた魔法師達など、フラン達の目に入っていないらしい。騎士達は必死で耐えているようだが、足は見るからに震えていた。そして、王子達は壁や鉄格子にもたれかかって、なんとか立っている状態だった。フラン達も、さすがに王子達へは配慮しているらしい。
「フラン、ビスラ。殺気を抑えろ。殺す気か?」
このままでは正気を保てなくなる。それだけ、シルフィスカの鍛えた弟子達は強者なのだから。
「私もたまに加減を間違えるが、気をつけろ」
「……すみません。つい」
「悪い。ついな」
謝ってはいるし、殺気を弱めたが不満そうだ。しかし、それよりも確認をとフランが一歩踏み出す。
「それで。質問の答えをいただけますか?」
「っ……き、騎士だ……っ、魔封じの牢にっ……」
なんとか答えたのは第一王子。カタカタと歯が鳴っていた。それで思い出したというように、ビスラが見下ろしてきた。
「そういや、師匠のつけてる枷って……」
「っ、弱いですが、魔封じです。早く外しましょう。気が利かず申し訳ありません、師匠」
「いや……自分で外せないこともないんだが……」
そう言う間に、フランが外すための術を展開していた。カチャリと腹の辺りに外れて落ちる。
「私達がいるのです。頼ってください」
フランは優しく目を和らげて告げるが、手にした枷を床に放り投げた所を見ると、やはり、先程の怒りはまだ消えていないようだ。
「そう……だな。なら、ここは任せてもいいか?」
このタイミングで頼れと言われるのは有り難い。
「はい。もちろんですが……師匠? 何か他にやることがあるのですか?」
フランは目を細める。シルフィスカと自分たちの中で『頼る』ということについて、少々差異があると気付いたのだ。
頼るとは、他事もせずにただ守られるということでフランは言っている。だが、シルフィスカは違う。
「ん? ああ。すぐにヘスライルに向かわねばならん。不在時の対策はしてきたが、やはり現場に行かんとな」
「……まさか、師匠。またヘスライル王家からの依頼ですか?」
「ヘスライルっていやあ、集団暴走の兆候があるとか噂が……まさかそれか!? この状態で行こうってぇのか!?」
状態と言ってシルフィスカの足へ視線を投げるビスラ。当のシルフィスカ本人は、既にそれを気にしていなかった。
「止血は出来ているんだろう? なら、問題ない」
「っ、んなわけあるか!」
「そんなわけないでしょう!」
「……」
かなりの至近距離で二人に怒鳴られた。だが、すぐにフランは考え込む。
「っ、ですが、王家からの依頼ですしね……師匠が行かないのは問題でしょう……そうですね……決めました。すぐに辞表を出してきますので、それまで待っていてください」
「あ、俺も。いい加減頭にきた。こんな国はもうどうでもいいや。あのクソ親父の鼻も明かせたからな」
「お前たち?」
とてもスッキリとした表情に見えた。
そして、王子達に背を向けて歩き出す。入り口で固まっていたレイルを見てビスラが歩み寄った。
「おい、レイル。ちょい師匠を預かっとけ。どっか行かせんなよ? 俺らが戻って来るまで控え室にでも居ろ」
「は? いや、分かった……」
ひょいとシルフィスカを受け渡され、レイルは動揺しながらもしっかりと抱きとめた。
「ビスラ、フラン、私は急いで行っ……」
「すぐなんで。この勲章と剣を叩きつけるだけなんで」
「私も勲章とローブを捨ててくるだけなので、すぐですよ」
そう言って、一気にトップスピードで駆け出していった。魔法師であるフランも、全く負けていない。勲章の扱いが雑だ。それでいいのだろうかと二人の消えた方を見ていれば、レイルが顔をしかめた。
「シルフィ……っ、怪我をっ……すぐに何処か部屋に入りますね」
「あ、いや、私は……」
そこに、侯爵とジルナリス駆けてきた。
「シルフィ! ちょっ、その顔何!? あ、足もっ! おのれっ、どいつがやりやがった!!」
「ジ、ジーナっ? ん? はっ、ほ、本当にその怪我はどうしたのだ!? あの騎士はどこだ! 即刻斬り捨ててやるわ!!」
「……」
ジルナリスの豹変具合に驚きながらも、シルフィスカの状態を見た侯爵も激昂した。初めて見る。
それに目を丸くしていれば、騎士が横をすり抜けて牢の方へ入って行く。
「報告いたします。王女様が目覚められました。つきましては、拘束した犯人を連れて来るようにと」
「父上か……あ、いや、だが、犯人は……」
「冤罪ならば、謝罪もすべきだと仰っておられます。王女様に確認もさせたいと」
「し、承知した。その……すまないが、彼女を……」
第一王子がまだ逸る鼓動を感じながらも、レイルへ目を向ける。だが、シルフィスカを隠すようにジルナリスと侯爵が立ちはだかった。
「謝罪ね。謝罪してもらいましょうか。私の大事な義娘に怪我をさせたことへの謝罪を」
「私も同行させてもらう。例え誰であろうと、義娘に手を出した事、許せることではないからな」
「っ……」
二人の剣幕に、第一王子は少し震えているようだ。そして、レイルが口を開く。
「当然ですが、夫である私もご一緒します。構いませんね?」
「……あ、ああ……」
そうして、一同は王の待つ部屋へ向かった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、13日の予定です。
よろしくお願いします◎
「フラン、ビスラ。殺気を抑えろ。殺す気か?」
このままでは正気を保てなくなる。それだけ、シルフィスカの鍛えた弟子達は強者なのだから。
「私もたまに加減を間違えるが、気をつけろ」
「……すみません。つい」
「悪い。ついな」
謝ってはいるし、殺気を弱めたが不満そうだ。しかし、それよりも確認をとフランが一歩踏み出す。
「それで。質問の答えをいただけますか?」
「っ……き、騎士だ……っ、魔封じの牢にっ……」
なんとか答えたのは第一王子。カタカタと歯が鳴っていた。それで思い出したというように、ビスラが見下ろしてきた。
「そういや、師匠のつけてる枷って……」
「っ、弱いですが、魔封じです。早く外しましょう。気が利かず申し訳ありません、師匠」
「いや……自分で外せないこともないんだが……」
そう言う間に、フランが外すための術を展開していた。カチャリと腹の辺りに外れて落ちる。
「私達がいるのです。頼ってください」
フランは優しく目を和らげて告げるが、手にした枷を床に放り投げた所を見ると、やはり、先程の怒りはまだ消えていないようだ。
「そう……だな。なら、ここは任せてもいいか?」
このタイミングで頼れと言われるのは有り難い。
「はい。もちろんですが……師匠? 何か他にやることがあるのですか?」
フランは目を細める。シルフィスカと自分たちの中で『頼る』ということについて、少々差異があると気付いたのだ。
頼るとは、他事もせずにただ守られるということでフランは言っている。だが、シルフィスカは違う。
「ん? ああ。すぐにヘスライルに向かわねばならん。不在時の対策はしてきたが、やはり現場に行かんとな」
「……まさか、師匠。またヘスライル王家からの依頼ですか?」
「ヘスライルっていやあ、集団暴走の兆候があるとか噂が……まさかそれか!? この状態で行こうってぇのか!?」
状態と言ってシルフィスカの足へ視線を投げるビスラ。当のシルフィスカ本人は、既にそれを気にしていなかった。
「止血は出来ているんだろう? なら、問題ない」
「っ、んなわけあるか!」
「そんなわけないでしょう!」
「……」
かなりの至近距離で二人に怒鳴られた。だが、すぐにフランは考え込む。
「っ、ですが、王家からの依頼ですしね……師匠が行かないのは問題でしょう……そうですね……決めました。すぐに辞表を出してきますので、それまで待っていてください」
「あ、俺も。いい加減頭にきた。こんな国はもうどうでもいいや。あのクソ親父の鼻も明かせたからな」
「お前たち?」
とてもスッキリとした表情に見えた。
そして、王子達に背を向けて歩き出す。入り口で固まっていたレイルを見てビスラが歩み寄った。
「おい、レイル。ちょい師匠を預かっとけ。どっか行かせんなよ? 俺らが戻って来るまで控え室にでも居ろ」
「は? いや、分かった……」
ひょいとシルフィスカを受け渡され、レイルは動揺しながらもしっかりと抱きとめた。
「ビスラ、フラン、私は急いで行っ……」
「すぐなんで。この勲章と剣を叩きつけるだけなんで」
「私も勲章とローブを捨ててくるだけなので、すぐですよ」
そう言って、一気にトップスピードで駆け出していった。魔法師であるフランも、全く負けていない。勲章の扱いが雑だ。それでいいのだろうかと二人の消えた方を見ていれば、レイルが顔をしかめた。
「シルフィ……っ、怪我をっ……すぐに何処か部屋に入りますね」
「あ、いや、私は……」
そこに、侯爵とジルナリス駆けてきた。
「シルフィ! ちょっ、その顔何!? あ、足もっ! おのれっ、どいつがやりやがった!!」
「ジ、ジーナっ? ん? はっ、ほ、本当にその怪我はどうしたのだ!? あの騎士はどこだ! 即刻斬り捨ててやるわ!!」
「……」
ジルナリスの豹変具合に驚きながらも、シルフィスカの状態を見た侯爵も激昂した。初めて見る。
それに目を丸くしていれば、騎士が横をすり抜けて牢の方へ入って行く。
「報告いたします。王女様が目覚められました。つきましては、拘束した犯人を連れて来るようにと」
「父上か……あ、いや、だが、犯人は……」
「冤罪ならば、謝罪もすべきだと仰っておられます。王女様に確認もさせたいと」
「し、承知した。その……すまないが、彼女を……」
第一王子がまだ逸る鼓動を感じながらも、レイルへ目を向ける。だが、シルフィスカを隠すようにジルナリスと侯爵が立ちはだかった。
「謝罪ね。謝罪してもらいましょうか。私の大事な義娘に怪我をさせたことへの謝罪を」
「私も同行させてもらう。例え誰であろうと、義娘に手を出した事、許せることではないからな」
「っ……」
二人の剣幕に、第一王子は少し震えているようだ。そして、レイルが口を開く。
「当然ですが、夫である私もご一緒します。構いませんね?」
「……あ、ああ……」
そうして、一同は王の待つ部屋へ向かった。
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